青空DAYS   作:Ziz555

102 / 124
Welcome school

 

──システムダウン。搭乗者の保護を優先。強制解除。

 

「『Nuill-Vana』……?センジョウ!!」

 

 ジェネレーターを破壊された『Period』が、その輝きを失っていく中、短く告げられたアナウンスと共に『早瀬ユウカ』が排出される。

 

 そして。

 

 

 『Nuill-Vana Period』のジェネレーターは、爆発した。

 

 

「センジョーーーーーーウ!」

 

 『早瀬ユウカ』は、落ちて行きながら、『Nuill-Vana()』の名前を叫ぶ。

 

 しかし、破壊され、機能を停止したソレは──何も、応えない。

 

 

 ガシャン!と音を立て、『ソレ』は床へと崩れ落ち、『早瀬ユウカ』も床へと叩きつけられた。

 

 

「ユウカ!頼む!」

「世話が焼けるわね、本当に!」

 

 一方で、センジョウはユウカへと受け止められ、スマートに着地を成功させた。

 

「センジョウ!……センジョウ!!ダメ!」

 

 地面へ落とされた『早瀬ユウカ』は、損壊し、崩れ落ちた『Nuill-Vana』へとすがり付く。

 

「お願い……いかないで……、私を、残さないで……!一人に、しないで…………!!」

 

 少女は、一人。冷たく、物言わぬ鎧に額を当てて、嗚咽を漏らす。

 

「ずっと一緒に……ずっと、ずっと一緒だって……そう、決めたのに…………!」

 

 その慟哭が、部屋に響く。

 

「もう、二度と……貴方を、一人にしないって……決めたのに……!!!!」

 

 

────それは。『終焉』の記憶。

 

 

「あんなに、あんなに、探して。ようやく見つけて、でも、もう手遅れで。脱け殻の貴方をみて、形を失った貴方に触れて……!私は、それでも私は、貴方といることを選んだのに……!キヴォトスも、ミレニアムも、友達も、……みんな、みんな、捨てて、壊して、切り捨てて、逃げ出して、それでも貴方を選んだのに……!」

 

 全てが『終わった』世界で。全てが歪みきった物語のなかで。

 

 それでも、たった一つの小さな救いを。後悔を。彼女は、ただ。

 

「────『Nuill-Vana(ソレ)』が。そっちの世界の、俺なんだな」

 

 そんな彼女に、センジョウは歩みよった。

 

「…………」

 

 近づいたセンジョウを、気にも止めず、『早瀬ユウカ』はただ、泣いていた。

 愛しい彼を、その腕に抱いて。

 

 その身に纏う、『シャーレのコート』に。センジョウは見覚えがあった。

 

──父が撃たれたあの日。

──シャーレを受け継ぐことを選んだあの日。

──自分達の、意志が。想いが。沢山の願いが、込められた、血濡れた、コート。

 

 

「…………お前は、沢山のものを、背負っていたんだな」

 

 沢山の人の想いが、願いが、希望が。

 その、小さな背中に。覆い被さって、のし掛かって。

 

 彼女を、歪めたんだ。

 

「……どうして?どうして、こんなことになるのかな……」

 

 だって、きっと。

 

「──始まりは、みんな、優しい祈りだった筈なのに」

 

 

 

──あの日。アリウススクワッド共に戦いへ赴くセンジョウを、『早瀬ユウカ』は、止められなかった。

 

 それは、傷つかないため。『大事なものを遠ざける』センジョウの、想いを、意思を、尊重したから。

 だからせめて、帰ってきた彼を、温かく迎えようと。

 そう。考えていた。

 

 

 けれど。『彼』は、帰ってこなかった。

 

 

 世界を書き換えるほどの、世界を、思い通りにする力の代償に。彼は──その存在を、『Nuill-Vana』へ、捧げてしまった。

 

 そうして彼は、人の理から外れ、輪廻から解き放たれ。『キヴォトス』に収まらぬ存在となり。

 

 

 

 『色彩』に、触れた。

 

 

 

 きっと、きっと。『早瀬ユウカ』の見つけた脱け殻は、『Nuill-Vana Period(蒼井センジョウだったもの)』は。彼なりの『色彩』への抵抗の証だったのだろう。

 

 『色彩』に歪められ、『物語を切り開く(しゅじんこう)』だった筈の彼は、『物語を歪め、変質させ、崩壊させる』、ただの『不必要な存在』へと成り果てていた。

 

 ソレでも彼は。世界を守りたくて、誰も傷つけたくなくて。一人でそれを押さえ込んで、抱え込んで。

 

 そして、一人、眠りについた。

 

 けれど。そんな彼を、ユウカは起こしてしまった。

 

 ただ、彼に会いたかった。それだけの、小さな望み。

 

 そんな小さな願いすら。歪んでしまった。

 

 

 全部。全部。始まりは、小さな、小さな。

 

 

 ただ、ほんの少しだけの『より良い明日(ハッピーエンド)』を、求めただけの。そんな小さな、優しい、祈りだった。

 

 

 

 

 

────だから。

 

 

 

 

『……!』

 

 

 

 『彼女』は。まだ、終わらない。

 

 

 

『おじいちゃん!プレナパテスが……再び動き出しました!!』

 

 アトラ・ハシースの全エネルギーが、『プレナパテス』へと集中していた。

 

「先生!センジョウ!ユウカ!助けに来たよ!」

「モモイ!……それに、ゲーム開発部のみんな!?」

 

 先生達を救うため、管制室へと向かっていた生徒達が、彼らに合流する。

 

「……センジョウ!みんなの指揮を頼む!」

「オヤジはどうするんだ!?」

「時間がない!アトラ・ハシースの自爆シークエンスを作動させるとリンちゃんから連絡が入った!俺は、『脱出シークエンス』の管理に入る!」

「ソレでみんな助かるんだな!?」

「信じろ!」

「……わかったよ!」

 

 父の言葉に、センジョウは生徒達の元へ駆け寄る。

 そして、同時に。アトラ・ハシースの自爆が……始まる。

 

「全員!射撃姿勢、少しでもプレナパテスの邪魔をしてやれ!!ただし動くなよ!」

 

 センジョウの指示に従い、生徒達はその場へ足を止めて、少しでも時間を稼ぐために、プレナパテスへと攻撃を開始する。

 

 

 着々と、プレナパテスの右腕にエネルギーが集積されて行くのが、肉眼でも確認できた。

 

 

 空間を歪める程の力が、そこへ集まっている。

 

 

 止まらない。

 

 

 どれだけの弾丸を浴びせても、プレナパテスは身じろぎ一つしない。

 

「クソッ……!」

 

 崩壊が始まる『アトラ・ハシース』の中で、センジョウは悪態をつく。指揮、等と言われても、これではやれることは殆ど無かった。

 

 しかし、そんな中。

 

 

「"ターゲット、固定。座標、確定……。リンちゃん!今!!"」

 

 

 

 キョウヤの声が響き。ウトナピシュティムが、光を放った。

 

 

 

 

 主砲による砲撃は、的確にプレナパテスを直撃し。彼女は膝をついた。

 そして、集められていたアトラ・ハシースのエネルギーも霧散し──『脅威』は、完全に沈黙する。

 

「"脱出シークエンスを起動させる!"」

 

 キョウヤの声と共に、生徒達の転送が始まった。

 

 光に包まれ、一人、また一人と方舟の中から去って行く。

 

 

 自然と、ユウカとセンジョウと先生の3人が。いつの間にか残っていた。

 

 

 

────新しい居場所。見つけたんだね。

 

 

 

 優しい。声がした。

 

 

 

 その声に、その場にいた全員が、『蒼井キョウカ』の方をみる。

 

 

 彼女は、優しく。『早瀬ユウカ』へ語りかける。

 

────ごめんね、ユウカ。こんなことに、付き合わせて。……弟が、迷惑をかけたね。

「先、生……」

────ずっと、ずっとセンジョウの傍に居てくれて。ありがとうね。……私には、出来なかったことを。貴方に背負わせてしまった。……私は、『先生』失格だよ。

「そんなの……そんなこと。……そんなこと、ありません……!私は、だって、私が」

────ううん。ユウカは、優しいから。私と、センジョウのわがままに付き合ってくれた、優しい子だから。……本当に、ありがとう。

「先生………………」

 

 

 

 

────センジョウ。もっと、貴方の顔を、よく見せて欲しいな。

 

 

 

 

 その言葉に、センジョウはゆっくりと『蒼井キョウカ』に近づいていく。

 

 

 

 

────ああ、うん……いいね。随分、男前になったね。立派だよ。

「…………俺、俺は」

────うん、うん。……一杯、頑張ってきたんだね。

「そうだよ。母さん……俺。おれ、一杯、がんばったんだ」

────わかるよ。良くできました。偉い、偉い。

「…………うん」

 

 懐かしい、母の言葉。その温もりに、センジョウは涙をこぼす。

 触れ合えずとも。言葉だけで──十分だった。

 

────これからも。まだ、沢山色んな事があると思う。

「うん」

────辛いことも、悲しいことも。きっと、沢山あるよ。

「……うん」

────それでも。……頑張れる?

 

 その問いに。センジョウは。

 

「─────俺、頑張るよ。もう、諦めないから、だから……」

 

 泣きながら、けれど。精一杯の笑顔で。答える。

 

────うん。良い子だ。

 

 そこにいるのが。例え、『本当の息子()』でなくとも。

 

────センジョウ。君はね…………。

 

 それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『蒼井キョウカ(わたし)』の、一番の宝物だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 構わなかった。

 

「母さん…………ッ、姉さん!!!!俺、……俺は!!!!」

 

 

 センジョウは、胸の中に溢れる想いを。喉元へとつまる、『行かないで』の言葉を。

 

 けれど。飲み込んだ。

 

「…………貴方に……会えて…………ッ…………よかっ………………た………………!!!!」

 

 死人は。蘇らないのだから。

 

 

────キョウヤ。

「…………」

 

 そして、キョウカは、最期に。その男の顔をみる。

 

────本当に、夢みたいだなぁ。……最期に、もう一度。貴方に逢えるなんて。

「…………俺もだよ、キョウカ」

 

 男と、女は。静かに言葉を交わす。

 

────ごめんね、キョウヤ。私、貴方に『さよなら』を言えなかったから。

「お互い様だ。……俺だって、何度それを後悔したか」

────ふふふっ……。そっか。そうなんだ。……私たちらしいね。

 

 世界で一番、愛した人との、最後の会瀬に。二人は喜びを分かち合う。

 本来なら、あり得ない……奇跡を。

 

────ずっと、ずっと話していたいな。ずっと。ずっと貴方と一緒に。

「…………ああ。俺だってそうさ。ずっと、お前に逢いたかった。ずっと、一緒にいたい」

────でも。私達、もう。大人だもんね。

「そうだな。子供の頃みたいには、いられない」

 

 だから。二人は。

 

 精一杯に、『格好』をつける。

 

 

 

────"生徒達の事。よろしくお願いします"

「"まかせて"」

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

────「""さよなら、愛しい貴方(ひと)""」

 

 

 

 

 

 

 キョウカは、別れの言葉を一つ残して。

 静かに。ここから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして『先生』は……『早瀬ユウカ』を救うために、彼女を地上へと送る。

 

 

 残されたのは。3人。

 

 

「先生」

 

 ユウカが口を開く。

 

「残りの転送回数を。教えてください」

「"…………"」

 

 その問いに、先生は口を閉ざす。

 

「考えていること、当ててあげましょうか?」

「"……いや、いいよ。解ってる"」

 

────転送シークエンスは、残り1回。

 

 

「……俺はナルの力で単独降下できるとしても、後送れるのは、一人だけか」

「"だから、ユウカを送って。私はセンジョウと────"」

 

 

 

「断ります」

 

 

 

 ユウカの明確な拒絶に、先生は顔をしかめる。

 

「"私には生徒を守る義務がある"」

「そんなこと知ったことありません。私は、決めたんです」

 

 ユウカは、先生に一歩も引く事無く言葉を続ける。

 

 

「私は、センジョウの傍にいます」

 

 

 

────もう二度と。離れるつもりはないと。そう、告げていた。

 

 

 

 

「オヤジ」

 

 そんなユウカの隣に、センジョウが並ぶ。

 

「俺がユウカを、必ず守る。だから、オヤジは先に帰って、待っててくれないか」

「"……センジョウ"」

 

 よく知っている筈の、我が子の瞳が。まるで、別人の様に見えた。

 蒼井センジョウは、蒼井キョウヤの息子である。けれど、同時に。そこに立っているのは。

 

 一人の、男だ。

 

「────センジョウ」

 

 誰かを守りたいと言う、その意思を。

 他の誰でもない、『自分自身』を信じる、彼を。

 

「男と見込んだ。……必ず守れよ」

 

 鼓舞するように、言葉を残し。キョウヤは、脱出シークエンスを自分へと使用した。

 

 

 

 

 崩れ行く、天空の要塞で。少女と、少年が。二人、残された。

 

 

 

 

「急ごう。ユウカ」

「ええ。……落としたりしたら、承知しないから」

「それはお前の体重次d──いってぇ!?」

 

 デリカシーのない言葉を言いかけたセンジョウの背中を、ユウカは思い切り平手で打った。

 

「格好つけるなら最後まで格好つけなさい!!」

「はい……」

「まったく……」

 

 どうにもしまらない、そんなやり取りをしている二人の表情は、明るく。落ち着いていた。

 

 あとは。帰るだけ。

 

 

────の、筈だった。

 

 

『…………おか、しいです』

 

 沈黙を貫いていたナルが、突然口を開く。

 

『アトラ・ハシースの崩壊が……想定より明らかに遅く……いえ!加速度的に崩壊までの予測時間が増え続けています!!』

 

 その言葉に、センジョウとユウカに緊張が走った。

 

「ナル。状況を解析しろ、できるか!」

「情報をモニターに出せる?私も計算するから」

『わ、解りました』

 

 二人の指示通りに、ナルはホログラムモニターを展開し、アトラ・ハシースの崩壊のデータと速度を画面へ投影しつつ、自身はセンサーのスキャンを用いて、原因の究明に努めた。

 

「ナルの言う通りね、確かに。自爆直後よりも崩壊の速度が遅くなってる。爆発の感覚が遅くなっている。……というよりは、爆発しているのに破壊が正常にされていない、と言うべきね」

「自爆シークエンスの動作不良か?……なら、離脱前に一仕事必要そうだな」

「結論を急ぐのはよくないわ。ナルの解析を──」

『解析、出ました!』

 

 ナルの言葉と共に、モニターに新たな情報が追加される。

 

『結論から言うと……、アトラ・ハシースは自爆シークエンスを実行しつつも、その機能を修復しつつあります』

「機能の修復……?この状況で、一体どうやって」

『解りません。……ただ、どうやらそれには、多次元解釈演算を活用している様子が見受けられます。……完全な状態のアトラ・ハシースへの同期を、不完全ながらに繰り返すことで、コアの修復が行われ、結果として自爆シークエンスが不完全のまま、このアトラ・ハシースは────』

 

 

 

『キヴォトスへ……墜落します』

 

 

 

 それは。つまり。

 

 

「そんなの……!こんな質量の物体が地表にぶつかったら、一環の終わりよ!世界は滅ばなくても、キヴォトスが滅ぶには十分すぎる……!!」

『はい、ですから。何とかして、アトラ・ハシースのコアを修復している存在を突き止め、それと共にコアを破壊する必要が───』

 

 

 

 センジョウは、一人静かに、二人の会話を聞いて。考え込んでいた。

 

 

 

 『早瀬ユウカ』は、色彩に歪められていた存在ではない。

 そして、色彩に歪められ、最後まで世界の破壊を試みた『プレナパテス』は、もう存在しない。

 

 だとすれば。なにが、誰が。

 

 どうして、こうまでも、『終焉』を求めるのか。

 

 

 

 ふと。『早瀬ユウカ』の言葉が──甦る。

 

 

 

 

────……これが、私達(・・)の本質。

 

 

 

 

 …………『早瀬ユウカ』は、この世界を終わらせる『役割』、『使命』を語る時。必ず、『私達』と、告げていた。

 

 そして。『早瀬ユウカ』は、色彩に触れていないのであるとすれば。いまここにいるユウカが、終焉へ抗う事と矛盾している。

 

 だと、すれば────

 

 

 

 

 

 そうして。『蒼井センジョウ』は。

 

 答えへ、たどり着く。

 

 

 

 

 

──ナル。

──……?お父さん、どうしたんですか?急に直接心でお話なんて……。

──頼みが。ある。

──頼み、ですか?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「多次元解釈を用いた修復であれば、実行できる端末も限られてくる筈。まずは、アトラ・ハシースのデータベースにアクセスして、バックアップへつながる場所を絞り込めば──」

「ユウカ」

「どうかしたの、センジョ────」

 

 

 そっと。俺はユウカの事を抱き締める。

 

 

「……え?」

 

 

 俺から一方的に、こんなことをしたのは、初めてだっただろうか。

 自分より、小さくて、柔らかくて、脆くて、暖かい感触がした。

 

 

「……いきなりどうしたの、センジョウ?今は、こんなことしてる場合じゃ」

 

 ユウカが、困惑した声で、そう語りかけてくる。

 当然だ。俺は今から……。

 

 

「ユウカ」

 

 

 もう一度。彼女の名前を呼んだ。

 

 

 戸惑いを隠せないユウカとは対照的に。俺の心は、自然と、落ち着いていた。

 

「セン……ジョウ?」

 

 彼女は、愛しい声で。俺の名を呼ぶ。

 それだけで、心の中が満たされる感覚がした。

 

 けれど。今は、そんなことより。伝えなくちゃならない、言葉がある。

 

「ユウカ。……俺は、キヴォトスに来て。君に出会えて。……君に、他の誰でもない、ユウカに。一番最初に出会えて、よかった」

 

 沢山、沢山の言葉が浮かんでは消えていく。

 言葉では言い表せないほどの気持ちが、想いが。俺の中に生きている。

 

 けれど、だから。

 

 その中でも。この言葉だけは、伝えなくちゃいけない、

 

「なに、言ってるのよ。なんで、そんな」

 

 ユウカは、震える声で、俺に訴えかける。

 

 どうして。と。

 

 けれど、俺は。言葉をやめない。

 

「俺にとって、君との毎日は、そのどれもが大切で、愛おしくて、かけがえのない、大切な思い出なんだ」

 

 大切なんだ。愛しているんだ。感謝しているんだ。

 ずっとずっとずっとずっと。思っていた。俺が、俺自身の気持ちに気づいていない、そんな頃から。ずっと。

 

「やめて、……やめてよ。まだ、時間なんてたくさん有るじゃない……そんな、まるで……」

 

 ユウカは、いつの間にか涙を流していた。

 俺の服が、彼女の暖かい涙で濡れて、その冷たさと温もりが、伝わってくる。

 

 今。確かに。俺たちは……生きている。

 

「おれも、ずっとユウカと一緒にいたい。……けど、そうはいかないんだ」

「聞きたくない……聞きたくない!!」

「ユウカ……俺の、最後のわがままを。聞いてくれないか?」

 

 ユウカは、俺の体をつかみ、力強く突き放す。

 

 触れ合っていた肌が離れ。寂しさが沸き上がる。

 

「いやよ!絶対にいや!!そんなの、だって、そんなこと……!!」

 

 ユウカは、ぼろぼろと涙をこぼし、怒ったように、俺を見ていた。

 

 

 大切な人を。愛している人を。こんなにも傷つけて。

 

 ……最低な男だ。俺は。

 

 

 

 

「ユウカ…お願いだ」

 

 

 

 

 けれど。

 

 

 それでも。

 

 

 

「俺は、この世界が大好きなんだ」

 

 

 俺は。

 

 

「みんなが、兄さんが。……ユウカと、ナルが」

 

 

 決めたから。

 

 

「大好きで、大切で。生きていて欲しいんだ」

 

 

 

 

 

「だから、ユウカ」

 

 

 

 

 震える彼女の涙を、そっと指で拭う。

 

 

 

 

「…………俺は、君に託すよ」

 

 俺は、上手く笑えているだろうか?

 

「やめて……やめてよ……そんなの……そんなこと……私には……」

 

 ごめんな。ユウカ。……本当に、ごめん。

 

「……やっぱり、俺には先生は無理だったな。俺。結局、中途半端で、なんにもできずに、こうやって君にすがる事しかでない」

「……そうよ。だって、貴方は────」

 

 

 

 

 俺はその言葉を閉じ込めるように────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ユウカの唇へ、そっと。口付けをした。

 

 

 

 

 

 本当に、卑怯で。最低なやり方で。

 

 優しく、その心に蓋をする。

 

 

 

 一瞬の、その時間が。永遠にも感じられて。

 

 

 そして、そっと。

 

 

 ユウカの体を、突き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

「…………さよなら。ユウカ。大好きだった」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして。ユウカは、『Naill-Vana』に包まれて。空から墜ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

「センジョーーーーーーーーーーーウ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 きっと。ユウカは怒るだろう。

 

 でも。それでも。

 

 これは、俺のワガママで。

 

 

 

 

 

「……『俺達』の、取るべき『責任』だから」

 

 

 

 

 そうして、俺は。決意と共に、『白いNuill-Vana(もう一人の俺)』の前に、歩み寄る。

 

 

 

「さあ、行こうぜ。『Nuill-Vana』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────これが、世界を救う、ラストミッションだ」






 君が迎えてくれたから。俺は、此処にいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。