青空DAYS   作:Ziz555

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あなたに会いに

 壊れかけた『白いNuill-Vana』を駆るセンジョウは、アトラ・ハシースの通路を、そのコアを目指して突き進んでいた。

 

 

 

──ジェネレーターが破損し、システムが完全にダウンしていた筈の『Nuill-Vana Period』は、センジョウの存在を認識した瞬間、再起動を果たした。

 

 原理や、理屈など、センジョウにはこれっぽっちも解らなかったが。それでも、センジョウには『動く』確信があった。

 

 なぜなら。

 

 アトラ・ハシースのコアと同調し、互いにその実在性を補完し合い、多次元解釈からその存在を補強し合っているのが──この、『Nuill-Vana Period(色彩に歪められたセンジョウ)』なのだから。

 

 最初は、仮説だった。

 

 けれど、どうにもその仮説が真実であると、センジョウは感じていたし、『Nuill-Vana Period』に触れた瞬間。彼は、確信した。

 理由などない。だが、解るのだから仕方ない。

 

 だから、もう。この状況で『アトラ・ハシース』を完全に破壊する方法は。一つしか、思い浮かばなかった。

 

 

 『Nuill-Vana Period』と、『アトラ・ハシース』のコアが互いに存在を補強し合うのであれば。それらを同時に破壊すればいい。

 つまり。

 

 

────『Nuill-Vana Period』を、『アトラ・ハシース』のコアの前で自爆させる。

 

 

 

 それが、残された手段だった。

 

 

 

 

 ジェネレーターの破損箇所から、蒼い粒子が、血飛沫のように吹き出し続ける。

 当然、漏れ行くエネルギーを補うために、センジョウはこれまで以上に、『炉』に心をくべていた。

 そして、それはつまり。極限まで、『Nuill-Vana』と同化することを、意味している。

 

 

 背筋の凍るようなプレッシャーと、心臓を直接捕まれるような、そんな息苦しさに、センジョウは『色彩』の影響力を知る。

 

 一瞬でも気を抜けば、その『狂気』に呑まれてしまうだろう。

 

 一体、『蒼井センジョウ』は、どんな気持ちで、このおぞましい感覚を押さえ込み、蝕まれる自我を保ち、それで世界の為に抗っていたのだろう。

 

「ったく……こんなもんと戦ってたのかよ、『俺』は……!!」

 

 センジョウは、歯をむき出しにして、狂気的に笑う。

 自分が今、正気なのかどうかすら解らない。

 

 いや。

 

「死地に赴く兵士が、正気なわけねェか……!」

 

 『Nuill-Vana』の自爆のためには、『炉』をオーバーロードし、暴走させる必要がある。当然、炉にくべる魂が必要な以上、遠隔操作など出来るわけがない。

 

 つまり、センジョウは────

 

「自分の不始末の責任を、自分でつける……、最後の最期に、『大人』らしいことが、ようやくできるなァ!『俺達』は!!」

 

────世界のために。皆のために。愛する、ユウカの為に。その命を。捧げるのだ。

 

 仕方ないから。ではない。

 それをすべきだと。それをやるのは、自分だと。そう、思ったから。

 

「もっと……もっとだ!行くぞ!『Nuill-Vana(俺ェ)』!!!!」

──同調率上昇。145%。ジェネレーターの出力を上昇させます。

 

 『Nuill-Vana』が、蒼い輝きを放つ。

 

 アトラ・ハシースを破壊しようとしている都合。当然、容赦なく残存兵がセンジョウへと集結する。

 そうしてセンジョウは、立ちはだかる雑兵へ、右腕のライフルを構えた。

 

「ぶっ飛べ!!」

 

 バギュィィィン!!

 

 放たれた光条は、進路上の敵を薙ぎ払い、貫き、粉砕する。

 

 しかし、同時に、その反動に耐えきれなくなった『Nuill-Vana』の右腕部が、接続部から千切れ飛んだ。

 

「チッ……!」

 

 遠距離攻撃手段を失ったセンジョウは、大きく舌打ちを一つ。

 そして、左腕のパルスブレードへと、稼働以外のすべてのエネルギーを集約していく。

 

「止められるなら、止めてみろよ……!」

 

 通路の脇道から、ぞろぞろと兵力が集結してくる。当然、敵性反応を知らせるアラートは、前方だけではなく、後方にも反応を示す。

 だが、立ち止まることも、振り返ることも、ない。

 

「俺は────」

 

 

 

「ここに!!居るぞォォォォォ!!」

 

 

 その叫びに、『魂』に。

 

 『Nuill-Vana』は。呼応する。

 

──『魂』の完全同調を確認。シンクロ率──

 

 

 

 

──200%

 

 

 

 

 

 蒼い輝きに、緑色の輝きが混じり合って行く。

 

 

 

 

 

──『奇跡』を

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

──実行する。

 

 

 

 

 

 彼は再び。虹の先へ、飛び立った。

 

 

 


 

 

 

「ナル!ナル!!お願い!離して!!言うことを聞いて!お願い!!!!」

 

 蒼と朱の混じり合う、明け方の空の上で、ユウカは一人。『Naill-Vana』に拘束されたまま、身を捩っていた。

 

「私は戻らなきゃ行けないの!センジョウを一人には出来ない!!私は、私は!!あの人と一緒に居るって、決めたんだから!」

『…………できません』

「ナル!!!!」

『できません!!』

 

 ユウカの訴えを。ナルは、それでも否定する。

 

『今ユウカを開放しても、ユウカにはお父さんの場所までたどり着く翼も無ければ、たどり着いたとしても、できることはなにもありません!!ただ死にに行くだけです!!』

「じゃあセンジョウを見殺しにしろって言うの!?」

『そうです!!お父さんは、それでもユウカに生きてほしいと……!そう、望んだんです!!』

「どうしてそう、あなた達親子はワガママなの……!」

 

 ユウカは、もどかしさと苛立ちを隠そうともせず、自分の体を拘束するナルを見る。

 

「あの人が私に生きて欲しい様に、私だってあの人に生きていて欲しいの、ナル!」

『そんなの!私も一緒です!!』

 

 ナルの叫びに、ユウカは目を見開く。

 

『私だって……私だって!お父さんに生きていて欲しいです!でも、それと同じぐらい、ユウカにも生きていて欲しいんです!……私は、私は!そのどちらもを失う事は……耐えられないんです……!!!!だから、お父さんに託されました。お父さんから、任されたんです、ユウカの事を……!!』

「…………ナル」

 

 ナルは……泣いていた。

 機械の体で。電子の心で。

 誰にも気づかれず。一人で。

 

『仕方ないじゃないですか……!アトラ・ハシースのコアと、それと共鳴した『Nuill-Vana』を同時に破壊するには、もう、これしか……方法はないんです』

「────バカ…………ッ!!」

 

 ナルの言葉に、ユウカは、センジョウの意図を理解する。

 

「折角、折角。仲直りできたのに……!ようやく、二人で、一緒に一歩、踏み出せたって言うのに……!!」

 

 そうして、だからこそ。

 

「自分だけ言いたいこと言って!私にはなにも言わせないで!一人で、先に行こうとするなんて──納得、出来るわけ無いでしょ!!」

 

 怒りで、『心』に、火が灯る。

 

「────ナルちゃん」

 

 そうして。ユウカは、ナルに問いかける。

 

「ナルちゃんは、私とセンジョウ。どっちが大切?」

『え?……ゆ、ユウカ……?』

「答えて」

 

 突然の問いに、ナルは困惑するが、ユウカは答えを促した。

 

『……ど、どっちもです』

「そうよね。……私もね、同じ」

『……ユウカ?』

 

 そうして、ユウカは。

 

 ナルと、向き合う。

 

「いつの日か。話したわね。……二人で、センジョウを支えていこう。って」

『……はい。覚えています。』

 

 センジョウが、ゲヘナで無茶をした。あの時の話。

 

「私一人じゃ、あの人を守れない。……あなた一人じゃ、あの人を止められない」

『はい』

「でもね」

 

 あの時の約束を。

 

「──私達、二人が『心』を重ねれば。きっと、そのどっちもが出来る。あの人を連れ戻して、あの人を守れる」

『心を、重ねる……』

「ええ。……ナルちゃん。私は、センジョウを守りたい。助けたい。……だから……お願いがあるの」

 

 

 今、果たす時だ。

 

 

「貴方の『翼』を。私に貸して欲しい」

 

 

 一人でダメでも。二人なら。きっと。

 

 

「…………私が、ナルちゃんの『お母さん』になるの。嫌?」

 

 

 

 

『────そんなこと、あるわけないじゃないですか!!』

 

 

 

 

 ナルは、明るい声で。

 

 

『解りました。私が……私が、ユウカの、いえ』

 

 はっきりと告げる。

 

『お母さんの、翼になります!!』

 

 その声に。その姿に。

 ユウカは、心から感謝し、喜びの笑顔を浮かべる。

 

「──ありがとう。ナルちゃん」

 

 

 そして。

 

 

「私の────」

 

 

 

 

 

「私の『想い(こえ)』に応えて!『Naill-Vana』!!」

 

 

 

 

 

 二つの心が。『奇跡』を起こす。

 

 

 


 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

────アトラ・ハシース。心臓部、コアの前で。満身創痍のセンジョウは、立ち尽くしていた。

 

「うっ……ぐぅ……ッ!」

 

 既に、『Nuill-Vana』の両腕部は破損し、どこかへ千切れて残された。

 蒼と緑色に美しく輝いていた筈の光は、その半分ほどが紫色に塗りつぶされ、センジョウが纏う輝きも、美しさよりは、禍々しさの方が勝っていた。

 

 彼の瞳には、『色彩』が移っていた。

 

「ざっけんじゃねェ……ぞ……。ここまで、来たんだ……」

 

 だが。

 

「意地が……意地があるんだよ……こっちには!!!!」

 

 それでも。彼は──諦めない。

 

 心を、存在を、自分を蝕む『色彩』を振り払い。残された『自分』の全てを、『Nuill-Vana』の炉へとくべる。

 

 

──警告。これ以上のジェネレーター活性は、暴発の危険が。

 

「わかッてんだろ……わざとだよ、『相棒()』」

 

──…………。

 

「へっ……。死ぬのが怖い、なんて。今更思うなんてな…………」

 

 センジョウの右手は、震えていた。

 

「別れも済ませて、想いも伝えて。もう、思い残すことなんて無いと思ってたのにな」

 

 『死ぬ』のは。どうしようもなく、怖かった。

 

「…………死にたくねぇなぁ」

 

 けれど。それ以上に。

 

「死なせたくないから…………」

 

 だから。

 

「……じゃあな、皆」

 

 

──……『蒼井センジョウ』の意思を確認。

 

 

 

 

 

 

────────自爆します。

 

 

 

 

 

 

 光が。『Nuill-Vana』から、溢れ出した。

 

 

 

 


 

 

 

 

────まったく。相変わらず『蒼井センジョウ()』は情けないな。

 

────何が『必ず守る』だ。結局最後に放り出しやがって。

 

────『蒼井センジョウ(お前)』には……、まだ。帰るべき所があるだろうが。

 

────意地を見せたなら、最後まで貫き通せ。

 

────この『責任』は。『俺』が一人で持っていってやるよ。

 

────『俺』には、出来なかったが……。

 

────必ず守れよ。

 

 

 


 

 

 

『お母さんの……『心』を、『意思』を、『想い』を、受け取りました!……ユーザー登録……完了!』

 

 『Naill-Vana』が、ナルの喜びを表すように、全身から山吹色の輝きを放つ。

 

『行けます、お母さん!!』

「ええ、行きましょう……ナル!!」

 

 ユウカを押さえ込んでいた筈の鎧は。彼女を、『想い』の先へ連れ行く『翼』に生まれ変わる。

 

 ユウカは、『Naill-Vana』の翼をはためかせ、墜ち行く『アトラ・ハシース』へと急ぐ。

 

「ナル!時間はどのぐらい!?」

『予測作戦時間……残り1分で──』

 

 瞬間。

 

 アトラ・ハシースが、一際大きな爆発を起こした。

 

 

『────ッ!?そんな!!だって、まだ!!』

「まだよ、ナル!!まだ、諦めないで!!」

 

 

 完全に崩壊し、ぼろぼろと崩れ落ちるアトラ・ハシースの破片へと、ユウカは加速して行く。

 

 

「生きてる、センジョウは必ず生きている!」

『お母さん……』

「信じるのよ、ナル。……そんな簡単に、死ぬ筈がないって!」

『……解りました!!』

 

 

 それは、強がりか。確信か。

 

 

 だが、確かに。それは計算した答えでは、ない。

 

 

 

 それでも。

 

 

 

 

『────いました!!!!』

 

 

 

 

 

 『奇跡』は。起きた。

 

 

 

 

 

『お父さんです!!』

「センジョウ──!!」

 

 崩壊するアトラ・ハシースの中、ぼろぼろな姿で、頭から落下していくセンジョウの姿を、ナルのセンサーが捉えていた。

 

「ナル!」

『加速します!!』

 

 ユウカの意思を受け取り、『Naill-Vana』の翼が山吹色に輝きを放つ。

 そうして、光のような速度で、墜ち行くアトラ・ハシースの破片をくぐり抜け、『彼』の元へとたどり着く。

 

「センジョーーーーウッ!!」

 

 ユウカは、その手を伸ばし。

 

 そして。

 

 

「つか……まえたっ!!」

 

 

 彼の体を。受け止めた。

 

 

 

 

 

 

「……本当に、本当に!いつもいつも、無茶ばかりして」

 

 

 

 

 

 

「────お帰りなさい」

 

 

 

 

 ユウカは、そっと。

 

 意識の無いセンジョウに、口付けをした。

 

 

 


 

 

 

 ガタンゴトン。ガタンゴトン。

 

 

 

 センジョウは。いつの間にか、夕日か、朝日かで照らされたような。神秘的な雰囲気の電車の中に。一人、立っていた。

 

 

 

 

 

「────ここは、どこだ?」






──次回、最終編『あまねく奇跡の始発点』、最終回。


────『ブルーアーカイブ-Blue Archive-』

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