青空DAYS   作:Ziz555

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 それは。俺の見た、俺の信じる。俺の『物語(せかい)』。





最終章:ひとつの奇跡の終着点
Blue(sky)+{『Archive』>『DAYS』}?


 

────目を開ける。

 

 視界に広がるのは……白い天井。見慣れた景色。

 ここは────

 

「…………ミレニアムの、宿直室?」

 

 記憶が正しければ、俺がミレニアムで寝泊まりしている時に使っていた部屋のはずだ。

 鉛のように重い身体に気合いをいれて、上体を持ち上げて……その左手に添えられた暖かさに気づく。

 

 ユウカが。俺の手を握ったまま、眠っていた。

 

「帰って、来れたんだな」

 

 さっきまで見ていた夢のような浮遊感は、もう存在しない。確かに、はっきりと、彼女の暖かさを感じていた。

 

「また、お前に助けられた」

 

 初めて『Phase6』に到達した、あの時のように。また、俺はユウカに繋ぎ止められた。俺の手を、しっかりと掴んで、離さないでいてくれた。

 

 部屋を見回せば、俺が去った時から、何一つ変わっていない。

 それどころか、しっかりと手入れが成されていることが、部屋の至るところから見て取れた。

 

「……あんなことがあったのに。お前は、俺の帰るべき場所で、あり続けようとしてくれたのか」

 

 あんなに、情けなく。格好悪く、わがままに甘えた。俺を。それでも。

 

「──ありがとうな。ユウカ」

 

 左手を握ったまま、静かに寝息を立てるユウカの頭を、俺はそっと撫でる。

 さらさらと、柔なか感触と暖かさがあった。

 

「ん……。んぅ……なに…………?」

 

 俺が頭を撫でたからか、ユウカは身じろぎをひとつすると、眠そうな声をあげて、身体を起こす。

 そうして、握る手は離さずに、もう片方の手で半開きの眼を擦り……俺の顔を見た。

 

「────せん、じょう?」

「おはよう、ユウカ」

「本当に……センジョウ、なの?」

「他に何に見えるんだよ」

 

 ユウカは、目を丸く、大きく見開いて。信じられないものを見るような目で、俺を見て。

 そして。

 大粒の涙を。じわりと、瞳に浮かべた。

 

「センジョウ──!!」

 

 ガバッと、ユウカは俺に飛びかかる。

 俺は、そんな彼女を、両手でしっかりと受け止めるが……、上半身だけでは支えきれずに、再びベッドへと押し戻された。

 

「センジョウ……センジョウ!センジョウ……ッ!」

「なんだよ、どうしたんだよ」

 

 涙をこぼしながら、ユウカはぐりぐりと俺の胸に額を押し付ける。

 そして、ひとしきりそうやって泣いたあとに、涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、俺を見上げて────

 

 

「────お帰りなさい。センジョウ」

 

 

 太陽のような笑顔を浮かべて、俺にそう言った。

 俺は、それが。どうしようもなく嬉しくて。緩む頬を、押さえられないままに、自分が笑顔になるのを感じながら────

 

 

 

「────ただいま。ユウカ」

 

 

 

 彼女へ、そう返した。

 

 

 


 

 

 

 『アトラ・ハシース』を破壊したあの日から、俺は3日間ほど眠り続けていたらしい。

 

 起きた時にやたらと身体が重いと感じていたのは、寝たきりだったことが原因らしい。……といっても、ナルの支援もあったことで、鈍っているだけで、筋肉量の低下等に関してはある程度なんとかなっているだそうだ。

 リハビリもそこまで苦労せずに済みそうで、一安心だった。

 

 俺の目が醒めたことは、翌日中にはシャーレを経由して多くの生徒に伝えられたらしく、様々な生徒たちが見舞いに訪れた。

 

 彼女たちの話を聞くと、現在、キヴォトスでは総力をあげての復興作業が進んでいる……とかなんとか。

 

 戦いの傷跡は深い……が。それでも、世界は確かに、『より良い明日(ハッピーエンド)』へ向けて、確かに歩みを進めていた。

 

 

 ちなみに。オヤジには死ぬほどこってり絞られた。

 『期待を裏切るな』だとか、『守るってのは放り出すことではない』だとか、『責任を持ったなら果たせ』だとか。……耳がとてつもなく痛かったが。

 いや、それにしたって、状況を加味して多少は許してくれてもいいのではないだろうか。というか、オヤジが同じポジションなら自己犠牲してただろ。と、切り返したところ、説教はそこまでとなった。

 

 オヤジ……。

 

 もう一人の『早瀬ユウカ』、……パラレル世界のユウカってことで、『ユウカパラレル』でいいか。

 ユウカパラレルは、見つかってないらしい。

 居場所も、拠り所もないこの世界で、いったい彼女がどこにいるのか、何をしているのか、皆目検討もつかない。

 ただ一つ言えることは、彼女が大切にしていた『Nuill-Vana Period(もう一人の俺)』は、失われてしまった。と言うことだ。

 

 ……自棄になってなければいいのだが。かといって、今の俺になにかができるわけでもない。

 できることと言えば、精々幸せを祈ることぐらいだ。

 

 

 そして、……その。起きてきて一番衝撃的だったのは、何よりも。

 

『お母さん、こっちの資料纏め終わりました』

「いつもありがとう、ナルちゃん」

『えへへへ……はい!お母さんの力になれて私も嬉しいです!』

 

 ナルが、ユウカの事を『お母さん』と呼んでいたことだ。

 

「…………なあ。ずっと気になってたんだが」

「どうしたの?」

 

 生徒達の見舞いも落ち着き、宿直室に、俺とユウカとナルの3人……いや、2人と1機……?いやでもナルは娘だしな……、3人でいいか。

 とにかく、3人が残っていた頃、タブレットで作業をしつつ、右腕に、俺の左腕につけているデバイスと良く似た代物を付け、加えてインカムのようなものを頭部に取り付けているユウカに、俺は声をかけた。

 

「お母さん?」

 

 俺はユウカを指を指し示し、ナルとユウカへ問いかける。

 

「お母さんね」

『お母さんです』

 

 まるでオウム返しのような答えが二人から帰ってきた。

 

「……お父さん?」

 

 そして、そのまま恐る恐る自分を指し示し、再度二人へ問いかける。

 

 その様子に、ユウカは一つ。大きくため息をついてから、呆れたように首を横に振り。

 

「お父さんね」

『お父さんです』

 

 また同じように、そう返した。

 

「…………何があったらそうなるんだよ!?」

「だって、ナルちゃんを育てるのが貴方一人でできるとは思えないでしょ。そもそもナルちゃんは女の子なのよ?年頃の女の子の気持ちをサポートできるの、貴方?」

「うぐっ……それは、そうかも、だが……!」

 

 目が覚めたら、娘に母ができていた。……と言うかなんなら、その『娘』すら自分の知り得ないところで産まれていたのを認知したような状況だったのだが、その翌日に母……というか、その。……あー…………。

 

「お、お前はいいのかよ。だって、その…………俺がナルの父親で、お前が、母親って言うことは……ほら、その」

 

 頭に血が昇るのがわかる。顔が熱い。

 

 おかしい。だって、アトラ・ハシースのなかではあんなに、すらすらといえたじゃないか。

 

 なのになんで今はこんなに言葉が詰まる???バグだろバグ。人間の致命的な欠陥だこんなの!

 

 しどろもどろになる自分を見て、ユウカは再び大きくため息をついた。

 

「そうね。……貴方が夫で、私が妻。って見えるんじゃない?……周りからは」

「お、おおぅ…………ふ………………」

 

 そっぽを向きながら、ぼそりとこぼした言葉に、なんとも言えない声が漏れる。

 どうしようもなく恥ずかしいのに、こいつはなんでこんなあっさりと────

 

 そう思いかけて、ユウカの耳が真っ赤になっているのが見えた。

 

「…………その、すまん」

「わかってるなら言わせないでよ。バカ」

 

 そんな俺たちのやり取りを聞いて。

 

『ふふふふ……』

 

 ナルは、静かに笑い。

 

『お父さん、お母さん』

「「ん?」」

 

 二人へ、その気持ちを言葉にする。

 

『私、今…………とっても幸せですよ』

 

 そんなナルの言葉に、センジョウとユウカは互いの顔を見合わせて、へらりと。頬を緩めるのだった。

 

 

 

 その日は、それからあとはずっと3人で過ごしていた。

 

 俺とナルの、ユウカを迎えにいくまでの話とか。俺がアトラ・ハシースに一人残って奮闘している間のユウカとナルの頑張りとか。

 そういう真剣な話だけじゃなくて、これからやりたいことだとか。3人で生きた居場所だとか。そんな話もした。

 3人で話して、3人で飯を食べて。

 

 そして、その日は、ナルのわがままで。

 

 3人揃って。寝ることになった。

 

 とはいっても、ナルには身体があるわけではなく、ナルの声は、俺達の腕に取り付けられたデバイスから聞こえるだけで、実際ベッドの上にいるのは俺とユウカの二人だけだった。

 そんな俺達はベッドの上で、少し離れて、互いに背を向けていた。

 

『…………折角3人なのにこれじゃ意味ないじゃないですか!!』

「いや……だってよ……」

「それは……ねぇ……?」

 

 ナルの憤慨は最もだが、俺とユウカの意見は一致していた。

 

 いくらなんでも、年頃の男女が一つのベッドで寝るというのは。その。不健全というか、なんというか。

 

『なーーにが年頃の男女ですか!!お父さんもお母さんもコブ付きの自覚してください!私!!娘です!!!!』

「心を読むな心を!」

『夫婦と娘が同じ布団で眠って何がダメなんですか!何が恥ずかしいんですか!いーやーでーーすぅーー!』

 

 身体があれば、ほぼ間違いなく、全身の手足を使ってじたばたと駄々を捏ねているであろう様子のナルに、俺は、仕方なくユウカの様子を探ろうとして────。

 

 

 目が、合った。

 

 

「…………」

「…………」

 

 そして、俺達は互いの目から、視線がはずせないまま、幾ばくかの静寂を過ごす。

 

『あぁぁぁぁぁぁ!!もぉぉぉぉぉぉ!!距離が遠いと思ったら今度は勝手に二人だけの世界に入らないでくぅーだぁーさぁーいぃ~~!!』

 

 イヤイヤとごねるナルに、いつの間に俺とユウカは、呆れたような笑みを浮かべていた。

 

「……センジョウ」

「ああ。わかったよ」

 

 そうして、お互いに仰向けのまま。そっと、俺の左手と、ユウカの右手を握り合う。

 

 布団のせいか。少しだけ互いにじっとりとした汗をかいていて。

 でも、それが不快には、思えなかった。

 

「これでいいか?ナル」

『…………むふー』

「満足したのね」

 

 とたんに静かになったナルに、俺達は苦笑を浮かべて、互いの顔を見た。

 

「じゃあ、そろそろ寝るか」

「そうね、……お休み、センジョウ、ナルちゃん」

「ああ、お休み。ユウカ、ナル」

『はい、お休みなさいです!お父さん、お母さん!』

 

 

 川の字で寝る。とは、こう言うことなのだろうか。

 

 

 俺は確かに。俺と、ユウカの間に。ナルの息吹を、感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────だけど。

 

 

 

 

 

 

 二人が寝静まった深夜。俺はそっと、その手をほどき、一人、布団を抜け出した。

 

 

 火照る体に、夜の冷たい空気が心地よく感じた。

 

 

 いくらか寒すぎる気もしたので、上着を一つ、適当に掴んで羽織ると、そのまま部屋をでる。

 

 

 そのままふらふらと、夜のミレニアムの校舎を後にして、町外れへと歩いていく。

 

 

 

「…………『ブルーアーカイブ』、ね」

 

 

 

 この世界の、本当の姿。あるべき形。

 

 

 俺の愛する、ナルも、ユウカもいない。けれど、完成された世界。

 

 

 

「──やっぱり、そういう話なら。お前に聞くべきだよな」

 

 

 

 そして。漆黒の中に、俺は声をかける。

 

 

 暗がりの中から、一人の男が歩きよってくる。

 

 影と闇に紛れ、その姿ははっきりとは見えないが。それでも、靴の地面を叩く、コツコツと言う音だけはハッキリとこちらへ向かっていた。

 

 そうして彼は、俺の立つ、白色の街頭に照らされたステージへと。足を踏み入れた。

 

 

「お久しぶりですね。センジョウくん」

「馴れ馴れしいぞ、黒服」

 

 

 

 

 さあ。『俺の物語(青空DAYS)』を始めよう。








 と言うわけで、いよいよ始まりました、『青空DAYS 最終章』。

 これまで積み上げてきた全てを使って。この物語の完結を描いて行きます。

 したがって、相応にテンポを守りたい為、とあるラインに達した段階で、『完結まで』かききってから投稿するスタイルをとらせていただく予定です。

 定期的な更新を魅力に感じていた人にとっては申し訳ありませんが、なっとくのいく出来にするためにも、ご協力お願いします。



 勿論、感想もお待ちしております!是非是非、拙作を読んで皆様の感じたことがあれば、お聞かせください!励みにもなります!

 それでは、『蒼井センジョウ』の物語を、是非お楽しみください!
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