センジョウがミレニアムに来てから数日が過ぎた。
頻繁と言う程ではないが、先生とは定期連絡を取り合っており、互いの様子は、なんとなく把握している。
あちらはあちらで、意外と早く終わりそうらしい。
そんなある日に、センジョウはミレニアムの『全知』……ヒマリに、ミレニアムの性能試験場へと呼び出されていた。
「やあ、元気そうだね」
「ウタハ?なんで君がいるんだ?」
試験場にたどり着いたセンジョウを待っていたのは、呼び出した本人……ではなく、エンジニア部の部長のウタハ一人だった。
『私はこちらにいますよ』
試験場に鳴り響くスピーカーの音から、ヒマリの声が聞こえ、どこかと辺りを見回すと、試験場に備えられた……監視室?とでも言うのだろうか。大きくガラス張りとなり隔たれた部屋に彼女がいるのが確認できた。
「なんだってまたこんなところに俺を呼び出したんだ、一応これでもそれなりにやることは有るんだが?」
『その点はご心配無く。間違いなく、今のあなたに必要な事ですから』
「まあ、そう言うことだ。取り敢えず、このデバイスを受け取ってくれ」
疑問符を浮かべるセンジョウに、ウタハが小さいモニターのついた腕時計のようなものを差し出す。
ひとまずそれを受け取ったセンジョウは、促されるままにそのデバイスを左手首へと装着する。
「それは、みての通りの多機能デバイスだ。君のバイタルを記録したり、通信したり、支払いに使えたり、Bluetoothで音楽も聴ける」
「……それはなんか便利そうだけど、別にこんなもの無くても仕事はできてるぞ……?」
これを渡すためにわざわざ性能試験場なんていう大袈裟な場所を指定したとは、センジョウにも考えにくい。
怪訝そうな顔をするセンジョウに、ヒマリとウタハは満足そうな笑みを浮かべる。
『では、そろそろ本題へ入りましょう』
勿体ぶるように言葉を区切るヒマリ。明らかにこの状況を楽しんでいるようにしか見えんぞ。
『センジョウさん、貴方は私達と同じ『生徒』です。先生とは異なり、身を守る術を持ちません。法的にも、物理的にもです』
それは、まあ。センジョウ自身も痛感している事実だった。
実際、先日のゲヘナでの一件では、便利屋68の助けがなければどうなっていたかわかったものではないし、力があれば、先生を護衛しつつ離脱することもできただろう。
『私達に有って、貴方にはないもの。それは、神秘と呼ばれる力です』
『神秘』。ヘイローと呼んでも良いだろう。それが具体的にどんな機能を内包しており、どのような理屈で成立し、どんな存在なのか。今だ不明なモノ。……しかし、それが彼女達に力を与えており、センジョウを非力な存在としているものだった。
『そこで!この超天才病弱美少女ハッカーである私は、ミレニアムが誇るエンジニア部の力をお借りし、このようなものをご用意しました!』
「まさか、『全知』直々に依頼されるとは思わなくてね。私達も普段以上に力をいれたよ」
ポチッ。とヒマリが手元のスイッチを押すと、センジョウの目の前の床が警告音と共に開いて行き、下からなにかがせり上がってきていた。
「……な、なんだこれ」
鈍く光る、灰色のソレは、武骨な鉄の箱のようにも見える。
だが、所々に見えるコネクターとケーブルが、その物体が何らかのマシーンであることを主張していた。
『……ミレニアムの廃墟より発見され、長らくその情報が不明であった、『
「システムを『全知』である彼女が、ハードウェアを我々エンジニア部のチューンとリペアによって完成した……」
『「
ド☆ン!……と言う効果音でも付きそうな勢いで宣言する二人の熱量に、センジョウは苦笑いするしかなかった。
「……要は、これが俺の自衛手段……ってことか?」
『ええ、そうなります』
「百聞は一見に如かず。まずは装着して、実際に動かして貰おう」
ぐいぐい、とセンジョウの背中を押して、ヌィル・ヴァーナへ近づけようとするウタハを、身体を捻ることであしらいながら、センジョウは言葉を返す。
「装着つったって、一体どうやって……」
『ふふ……その点の抜かりもありません……トキ』
「お呼びでしょうか」
「うぉぉ!?どこから!?」
ヒマリの呼び出しに、いつの間にかセンジョウの背後に立っていたトキが応じ、その存在にセンジョウが驚く。
『彼女がお手本となります、では、よろしくお願いしますね』
「お任せください。センジョウ様に、手取り足取り、万全の指導をご覧にいれましょう」
優雅に一礼したトキは…………その場で服を脱ぎ始める。
「ちょぉぉぉぉぉ!?」
変な声を上げながら、目をふさいで、トキに背を向け、しゃがみこむセンジョウ。
「お前バカか!バカなんだろ!なんでいきなり脱ぐんだよ!」
「……?そう申されましても、これから行う指導のためにはこの姿が……」
「だからといっていきなり目の前で着替え始めるのは不自然だろぉ!?」
あわてふためくセンジョウを見て、クスクスと笑みを溢すヒマリと、呆れたように笑うウタハ。そして、いつもの無表情のまま、不思議そうにするトキ。
「大丈夫だ、センジョウ。トキは普段から即座に装備できるよう、アンダースーツを着用しているだけだ」
「……ホントだな」
「ええ、自慢の一張羅でございます」
ふんす。という様子で胸を張るトキ。そんな、間の抜けた気配を察知し、センジョウはため息をついて、「それならば……」と目を開いて立ち上がる。
するとそこには、全身のラインがきっちりピッチリ出る、競泳水着とほぼ大差のない姿のトキが。
「あんまり変わらねぇ!!」
顔を赤くしながら、ぶぅん!!と勢いよく顔をそらすセンジョウ。
やっぱりそんな姿をみて、ヒマリとウタハは爆笑を押さえられなかった。
ようやくトキのパイロットスーツに慣れたセンジョウが、なんとかトキの顔だけをみることで諸々の事情を回避し。
トキのパワードスーツ……『アビ・エシュフ』が天井をぶち抜いて試験場に着陸してきたり。
装着シーンを見るために、結局全身をくまなくみることを要求されてたり。
トキがいたずらに、(全く恥ずかしくもないのに)恥ずかしがる素振りを見せてセンジョウを弄ったり。
なんやかんやと色々有ったが、トキの装着シークエンスを参考に、センジョウも同じように『ヌィル・ヴァーナ』を装着することが出来た。
ちなみに、センジョウは普段着のまま装着することができている。
「お似合いでございます、センジョウ様」
「そりゃどうも……」
既にいくらか疲れきった様子のセンジョウは、バイザー越しに自身の身体を確認する。
……手足の稼働には、思ったより支障がない。
視界の端には、装着されている武装の弾薬状況や、自身のバイタル。装甲の損傷状況なんかが表示されていた。
「なんか、ゲームみたいだな」
『先生から、センジョウさんはゲームがお得意と聴きましたので、それに合わせて調整をしております』
「バイタルも安定、稼働状況も良好……うん。起動実験は大成功だ」
「実験?今実験って言った????」
まさかこいつら、ぶっつけ本番でこれの起動をやらせたのだろうか?と、いやまさかそんな。
「爆発はしないだろうと思っていたが、無事に起動できてよかったよ」
「安全確認は???」
血も涙もねぇ!!
『……本来であれば、安全を確認してから望みたかったのですが。《私達では起動できなかった》のです』
「……なんで?」
すこしばかり、申し訳なさそうにこぼしたヒマリに、センジョウはいつになく子供じみた、素直な疑問を問いかける。
『理由はわかりません。個々のシステムや機能の動作は確認できていましたが……それらを組み込み、統括システムを経由して起動をかけた場合、私達の誰がテストを行っても、起動できなかったのです』
「不明でも、推測はできている。……ヌィル・ヴァーナは搭乗者の脳波を敏感に読み取り、それを操作のサポートとして自動変換するシステムが組み込まれているんだ。アビ・エシュフと異なる、複雑で頑丈な頭部のバイザーがそれを可能にしているんだろう」
確かに、ヌィル・ヴァーナはアビ・エシュフより、どこを取っても一回りほど大きく、パーツの組み合わせ方によっては、ヌィル・ヴァーナのみで人の形を成す事もできるほどの積載をしている。
「そうなると、私達にあって、君にはない、脳波の感知に邪魔になりそうなもの。あるだろう?」
「……ヘイロー」
燦然と輝く、彼女達の頭の上に浮かぶソレをみる。……破壊されれば、『死ぬ』。そんな話を聞いたことがあるそれは、確かに彼女達に力を与えている。それが干渉することは、確かにあり得るのだろう。
『一人の生徒に、一人の神秘。その法則を歪めるもの……『人工奇跡:ヌィル・ヴァーナ』……それが、今の貴方が纏っているモノです』
ヒマリの口調は、それが如何に危険なものか、それを如実に語っていた。
「ヌィル・ヴァーナの性能を引き出せれば、君は間違いなく我々と同じ……いや、我々の中でも一握りの、超常的な武力を持つ彼女達に匹敵するだろう。……だが、そんな変化はあり得ない。それはもはや、成長でも適応でもなく、昆虫の変態のようなものか、もしくは」
進化。
つまりソレは、人の輪から外れてしまうと言うことでもある。
「……それでも、君は力を求めるかい?」
「ああ」
迷う瞬間すらなく、センジョウは言葉を返す。覚悟など、とうにできている。
『……でしたら、私達はせめて、貴方が安全に力を使えるようにサポートしましょう』
「元々は廃墟産とはいえ、今やヌィル・ヴァーナは、そのほとんどがエンジニア部の作ったものだ。最後まで責任をもとう」
『それに、この天才清楚系病弱美少女ハッカーのサポートまであるのですよ。安全は保証されたも同然です』
「パワードスーツの先輩として、助力は惜しみません。お気軽に申し付けください」
三者三様のどや顔をセンジョウに向け、センジョウはその表情をみて、また苦笑する。
「ああ、よろしくお願いしますね」
先生のためにも、俺は死ねない。なんて、そんなことを考えながら。
『さて、そうと決まれば早速やるべき事をやろうか』
「ウタハさん?いつの間にそっちにいたんですか?」
『決まっているじゃありませんか。起動確認が取れた次は、稼働試験ですよ』
「そうですね?そうですよね?なんでトキは武装の確認をしているんですか?」
「御安心下さい。ダンスのリードもメイドの心得です」
「なにも安心する要素無くない???」
『ヌィル・ヴァーナは戦闘用の武装だ。荷物を運んだり、移動速度を計測したりなんてそんなつまらな……んっんんっ!的はずれなテストに意味はないだろう』
「今つまらないって言いかけたよね。そうだよね?」
『大丈夫ですよセンジョウさん。何度女の子にボロボロに負けても、それらが監視カメラの映像に残ったりはしませんから』
「プライドの問題じゃぁねぇよ!?!?」
『……もう。意気地のないひとですねぇ。トキ』
「かしこまりました」
ガシャン。という音が鳴り、砲身がセンジョウへと向けられる。
──警告。ロックオンされています。
バイザーの音声が、脳内に響き、注意を促す。
──マスターの保護を優先。システム、戦闘モード起動。
ジェネレータの火が入り、全身の武装へエネルギーが回されるのが、肌身に感じられた。
「ああもう!」
どうして俺はいつもこう!振り回される側なんだ!
センジョウの悲鳴は、銃撃とブースターの加速音にかき消され、誰にも届かなかった。
その夜。トリニティのティーパーティーの一人。桐藤ナギサに呼び出されていた先生は、事の真意を告げられる。
──トリニティの裏切り者を探せ。
その言葉を聞いた時。先生は様々なことを考える。
補習授業部の事、シャーレの事、ナギサ自身の事。
──そして、センジョウの事。
ああ、悪い予感ばかり当たる。なんて、思いながら。先生は、センジョウを連れてこなかった事に安堵していた。
生徒、『センジョウ(ヌィル・ヴァーナ)』が編成可能になりました。
多分ストライカーで、貫通/重装甲/フロントとかなんじゃないですかね(?)
EXは軽コスト自身のHP削って全弾掃射しつつ突っ込みます。
使いにくそう~~