青空DAYS   作:Ziz555

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100%趣味の自己満足。それはやっぱり変わらない。


新たな日常<again, again, again>

 シャーレの先生の朝は早い。

 

 眠気の勝る思考に、カフェインという喝を入れ、朝食という燃料を口から流し込めば、後は仕事を始めるだけだ。

 

 教員はブラックとは言うが、いくらなんでも仕事の量が一人で抱えるには多すぎる。

 それが、シャーレの問題で、現実だ。

 

 キヴォトス中から集まる、苦情、嘆願、陳述、その他諸々。

 

 連邦生徒会長がいたとか居なくなったとか、もはやそういうレベルの事情ではなく、なにかもっと根本的におかしなところがあるのではないかと考えられるが、そんなことを考えたところで仕事が終るわけでもない。

 

『おはようございます!先生!』

『お待ちしておりました。先生』

"おはよう、アロナ、プラナ"

 

 『シッテムの箱』と呼ばれるタブレット端末から響く合成音声に先生はにこやかに挨拶を返す。

 

 アロナ、そしてプラナと呼ばれるOS……というか、彼女達は『シッテムの箱』に宿る、有能な先生の秘書である。

 その有能さ足るやまさに筆舌に尽くしがたく、話してると時間が足りなくなるので割愛しよう。

 

『今日も沢山お仕事がんばりましょう!』

"なんか、最近は仕事が楽だった気がするんだけど……また少しずつ仕事増えてない?"

『……記録を確認しましたが、業務量が増減している形跡はありません』

『先生……疲れてきてるのかもしれませんね。どこかで一度、お休みをとった方がいいかもしれません』

"うーん……。まあ、考えておくよ"

 

 確かに、先生の感じていた違和感は、文字通りただの『感覚』の話に過ぎない。

 確かに、プレナパテスが襲来し、諸々と都合はあったかもしれないが……、少なくとも、先生自身が記憶を探ったとしても、違和感の原因は見当たらなかった。

 

"タスクの整理……は、終わってる?いつやったんだっけ?"

『あれ?ずいぶん前に終わらせていたと思いますが……覚えていないんですか?』

"ん、んー…………。い、忙しすぎて記憶がどうも曖昧な気がする……"

『短い間に色々ありましたからね……』

 

 アビドスでのカイザーグループとのいざこざ。ミレニアムでの、アリスを取り巻く危機の話。トリニティとゲヘナと、アリウスのエデン条約。SRT廃校による、RABBIT小隊のひと悶着。

 

 そして、『色彩』がもたらした、世界の危機。

 

 そのどれもを、生徒達と力を合わせ。みんなで乗り越えてきた。

 

 

 乗り越えて、きた。筈だ。

 

 

 先生は、けれど。何かピースが足りないような。そんな、漠然とした喪失感に違和を覚えながら。けれど、目の前の仕事へと取り組むことにした。

 

 しばらくして、シャーレのオフィスに一人の少女が訪れる。

 

「おはようございます、先生」

"おはよう、ユウカ"

 

 早瀬ユウカ。ミレニアムの誇る冷酷な算術使い…もとい、セミナーの会計担当の少女である。

 シャーレの先生に、非常に協力的で献身的な生徒の一人であり、先生が頼りにしている生徒でもある。

 

"それじゃ、今日もよろしく"

 

 先生はユウカをシャーレへ迎え入れ、今日も今日とてシャーレのなんでもない日常は過ぎていくのだった。

 

 軽い雑談を交えつつ、計算の必要な仕事をユウカに。確認と検討が必要な仕事を先生が分担して進めていく。

 手慣れたもので、そこそこのペースで仕事は進んでいき、仕事は順調。計算通り、かんぺき~な様子で業務をこなしつつ、軽い雑談を交える二人。

 

「そう言えば、先生。シャーレは大丈夫だったんですか?」

"大丈夫って……なにが?"

「ほら、アレですよ。アレ。最近話題だった」

"……ええっと、どれだっけ?"

「もう!しっかりしてください!『正体不明の白いパワードスーツ』の話です!」

 

 ユウカが話をしていたのは、数日前にキヴォトス中を騒がせていた、謎の不審者の事だった。

 

「身元不明、目的不明。挙げ句の果てに、存在の有無すらハッキリしない、まるで幽霊みたいな噂話の侵入者ですよ」

 

 神出鬼没の言葉通りに、数日間の間にキヴォトスの様々な場所で、断続的に、瞬間的に観測されたその『不審者』は、確かに多くの生徒達がその姿を目にしていた。

 

 だが、そんな彼女達は口を揃えて、『いたと思った次の瞬間には消えていた』と言うのだ。

 

 その光景は、確かに監視カメラの記録にも残っており、その証言を裏付けるように、一定のラインを越えた瞬間、その『影』は跡形もなく、痕跡の一つも残さず、消え去っていた。

 

「噂だと、連邦生徒会のデータベースにも出没したらしくて……」

"うーん……。でも、リンちゃんの話だと、データが抜き取られたりとか、改竄された形跡はないらしいんだよね"

「そうなんですか……。って、それ。私に話してよかったんですか」

"あっ"

 

 ユウカの指摘に、先生は、しまった。と目を丸くする。

 

"…………ど、どう?演技うまかったと思わない?"

「…………はぁ。そうですね。すっかり騙されました」

"そうでしょ!?"

 

 苦し紛れのごまかしに、ユウカはほほを緩めて、一つ大きなため息をついた。

 

────本当に。この人は私がいないとダメなんだから。

 

 なんて。そんなことを思いながら。

 

「そんなのでよく結婚できましたね」

"まあ、うん。……私にもよく解らないんだよね"

「ダメじゃないですか」

"……い、一生懸命だったのは事実だし!本気だからね!"

 

 だから。と、言葉を続ける。

 

"せめて、最後にキョウカが、私に残してくれた言葉を守りたいんだ"

 

 プレナパテスとなった彼女ではなく。共に過ごした、彼女のことを思い出し。先生は、優しく微笑んだ。

 

"それが、その言葉『だけ』が。この世界に彼女がいた、証だから"

 

 その言葉に。ユウカは思わず、「そんなことはない」と、否定しようとして──自分の思考に、疑念を覚えた。

 

 なんで、そんなことを思ったのだろう。と。

 

 だって。先生とキョウカさんの間に残されたものは、それだけだと言う話は。ずっと、ずっと前に。聞いていた筈なのに。

 

 

 考えても、その疑念に答えはでなかった。

 

 

 きっと、ちょっとした勘違い。

 それだけだ。

 

"そう言えば、ナルちゃんの様子はどう?"

 

 青瀬(あおぜ)ナル。ミレニアムサイエンススクールに所属する、記憶喪失の少女の名前だ。

 とある雨の日に、ユウカが彼女を見つけ、看病と介抱の後、ユウカになついた彼女は、ミレニアムサイエンススクールの生徒として、今はセミナーで庶務として働いていた。

 

「ナルちゃんですか?相変わらず元気にがんばってくれてますよ。同じセミナーの1年生として、コユキにも見習ってほしいぐらいです」

"そっか。……またこんど、顔を見に行かないとなぁ"

「はい。ナルちゃんも喜ぶと思いますから、ミレニアムに来た時にはセミナーにも顔を出してくださいね」

 

 

 

 これは。そんな、何てこと無い。穏やかで。幸せな日常。

 

 

 先生と、生徒の送る。なんてことの無い日常で。ほんの少しの奇跡を見つける。そんな毎日。

 

 重く。苦しく。辛く。泥のように歪んだ。そんな、曇天のような日々を欠片も感じさせない。青く。青く、どこまでも澄みきった────

 

 

 

 

 

 ピンポーン。

 

 

 

 

 

 チャイムが。鳴った。

 

 

「……来客ですね。私が行きます」

"うん。ありがとう、ユウカ"

 

 別に、来客は珍しいものでもない。予定にはないが、シャーレの先生に急な用事で訪ねてくる生徒はそう少なくはない。

 

 だから、ユウカは何時ものように来客の元へと向かい───その先に広がる光景に、己の目を疑った。

 

 

「やっほ、ユウカちゃん。元気してたー?なんか久しぶりな気がしちゃうね☆」

「突然ごめんなさい、ユウカ。調べたら、今日はあなたが当番だったから。直接話した方が早いと思って」

 

 

 トリニティ、元ティーパーティー所属。『聖園ミカ』。

 ゲヘナ、風紀委員会委員長。『空崎ヒナ』。

 

 

 エデン事変以降、相変わらず仲が良いとは言い難い……いや、犬猿の仲である筈の『トリニティ』と『ゲヘナ』の、それも、一握りの上層部である二人が、揃ってユウカを出迎えた。

 

 

「えっ……あの。その、先生に御用、ですか?」

「いつもなら、そうだよー。……って答えるところだけど。今回は違うんだ」

「ええ。聖園ミカの言う通り。私達は、あなたに用があってここに来たのよ?」

「わ、私!?」

 

 直々の指名に、ユウカはどきりと心臓が跳ねるのを自覚した。トリニティとゲヘナの代表か、もしくはそれに近しい存在である彼女達に何かを問われる様なことは、身に覚えがない。

 まさか、コユキがなにか、他校に損害を与えたのではないか。なんて、そんなことを疑い始めた辺りで、ヒナの言葉が、ユウカの耳へと入り込んだ。

 

「センジョウが居なくなった事。貴女ならなにか知ってるんじゃない?」

「……せん、じょう?」

「そ。『蒼井センジョウ』くん」

 

 くん。と言うことは、男の子の名前なのだろうか。なんて、そんなことを考えて、ユウカは首を捻る。

 

「……………それ、どなたですか?」

 

 少なくとも、『アオイセンジョウ』等と言う名前に、聞き覚えはない。

 

「…………わーお。これは重症だ」

「と言うよりは、念入りに先手を打たれたと考えるべきね。……全く、どうしてこんなに手の込んだことをしてくれたのか……」

 

 ユウカの反応に、ミカとヒナは呆れたような反応を示す。

 そんな反応をされた、当のユウカは、怪訝そうに二人の顔をうかがった。

 

「……その。失礼ですけど、誰かと勘違いしていませんか?私はその、お二人の話が全く見えてこないのですが……」

「というか、ユウカちゃん。もしかして私達の事も忘れちゃってる?」

「え?……その。間違いでなければ……トリニティの、聖園ミカさん、ですよね……?」

「私は?」

「えっ。えーっと……ゲヘナ風紀委員会の、風紀委員長の、空崎ヒナさん…………」

 

 ユウカの返答に、ミカは額に手を当てて、空を仰ぐ。

 

「そこからかぁ~……。センジョウくん、本当にユウカちゃんだけ特別扱いするなぁ………ちょっと妬けるかも」

「それだけセンジョウにとって未練足り得る。と言うことの証拠でもあるでしょ」

「それは少し楽観的すぎなーい?私達だって思い出せたの偶然なんだよ?」

「あら。貴女は、『早瀬ユウカ』の想いが、私達より劣っていると思うのかしら?」

「…………その言い方。私嫌い」

 

 べー。と舌をだして、ヒナへの嫌悪を示すミカと、そんな仕草に苦笑を漏らす二人の姿に、ユウカは更に困惑を深めた。

 

 どうして、目の前の二人は、自分の名前をこんなに親しげに呼ぶのだろうか。と。疑念を深めていた。

 そして、その疑念は、なにも状況その目のにたいして、だけではない。

 

 親しくもない筈の二人が自分の名前を呼ぶ姿に、普通なら恐怖や、違和や、嫌悪を覚える筈なのに。

 なぜか──それを、すんなりと受け入れている自分がいた。

 

「とにかく。まずは私達の時と同じ手順でいくわ」

「ま、センジョウくんがナルちゃんまで消しちゃうとは思えないからね」

「ナルちゃんの事、なにか知ってるの!?」

 

 『ナル』の名前を聞き、ユウカは逆にミカへと掴みかかった。

 それまでとは異なる、大きな反応に二人は驚き。そして、顔を見合わせる。

 

 

「…………私。今すっごーーーーく。嫌な予感がするんだけど」

「あら。気が合うわね。────私もよ」

 

 

 







 はい!と言うわけで、最終章クライマックススタートです!

 一気に何本か投稿してるので、皆さんお好きなペースで楽しんでくださいね!
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