青空DAYS   作:Ziz555

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ドント・フォーゲット・ユー<Boy Meets Girl>:後編

「────チッ。余計な手間だけ残しやがって。だから『鍵』になるようなものは全部壊せって言ったんだ」

 

 声が、聞こえた。

 

 

「誰っ!?」

 

 聞きなれぬ声に、ユウカはナルを庇うように自分の背中に回し、声が聞こえた方を向く。

 

 そこには、いつの間にか、全身に包帯を巻いた、不気味な立ち姿の少女が一人。

 

「誰か。と言われたところで……お生憎様。『ブルーアーカイブ(この世界)』で名乗れる程の名前は持ち合わせていないんでね」

 

 異質で、異様な空気を纏った少女は、『ブルーアーカイブ(この世界)』に相応しくない武器を──『刀』を、抜き放つ。

 

「オレの国盗りが終わる前に、『色彩』とやらに世界を横取りされるのも不本意なんでな。────『青瀬ナル』には、ここで死んで貰う」

「死──っ!?」

 

 その言葉は、子供の喧嘩で飛び出るような、そんな軽い敵意ではなく。どす黒く、煮えたぎるように熱い、明確な『悪意』が籠っている。

 

「そんなこと……させない!」

 

 ユウカは、ロジック&リーズンを構え、包帯の少女の前に立ちはだかる。

 

「ゆ、ユウカ……!」

「逃げなさい!ナル!とにかく、ここから離れるの!!」

「娘を庇う母親か?涙ぐましい努力だな。感動的なシーンだぜ」

 

 刀を担いだ少女は、悪辣な笑みを浮かべて二人を眺める。

 

「だが。お前らを助ける『蒼井センジョウ』は……この世界には存在しねぇ」

「また、その名前……!なんなのよ、『アオイセンジョウ』って!」

「なに。と問われりゃ……そうだな」

 

 少女は、ユウカの問いに顎に手を当ててすこし考えてから、ニヤリと笑って答えを返す。

 

 

「『二次創作の主人公(不必要な紛い物)』だよ」

 

 

 言葉と共に、少女は強く地面を蹴って、ナルへと刀を振りかぶる。

 

「させない!!」

 

 それに対するように、ユウカはロジック&リーズンを盾代わりに割り込んで、その刀を受け止める。

 

「ナル!早く逃げて!」

「で、でも……!ユウカが……!!」

「お願い……!貴方は、あなただけでも……生きて!!」

 

 

 ギリギリと刃に押されながら。それでもユウカはナルの身を案じ、逃げるように促した。

 

 

「お願い……お願い、だから…………ナルちゃん……!!」

 

 

 その言葉に。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 ナルは。溢れる涙を必死にこらえ、踵を返して、その場から走り去る。

 

 

「テメェを殺すのは危険だと。そう言われてる、今すぐ退くなら見逃してやってもいいが?」

「笑わせないで……!私が、ナルちゃんの事を、諦めるわけ……無いでしょう!!」

 

 つばぜり合いの中、ユウカはその言葉と共に少女の頭目がけて、頭を振り下ろした。

 

 ガツン!と言う音共に、大きく少女は仰け反り、体制を崩す。

 

「うぅんッ!!」

 

 続けて、体制を崩した彼女の腹へ向けて、ユウカは蹴りを放ち、その体を蹴り飛ばした。

 

 少女は反撃を受けて、距離を放されるが……痛みを感じていないのか。怯む様子一つ無く、悠然と体勢を立て直す。

 

「邪魔するなら仕方ねぇ。……腕や足の一本は、覚悟して貰うぜ」

 

 向けられる、本物の『殺意』に、ユウカはぶるりと身震いする。だが、それでも。

 

「それでも────ナルちゃんは。私が護る」

 

 残された物。失いたくないものを。────託されたから。

 

 

 決意に満ちた、その瞳は。まるで。

 

 

「…………チッ。またその目かよ」

 

 

 少女は、そんな視線にうんざりとしたように舌打ちをした。

 

 

 


 

 

 

「これからどうするの?」

「まずは……『先生』に話してみましょう。信じて貰えなくても、彼だって思うところはある筈」

「まあ、そうなるよねぇ。……記憶がなかった頃の感覚がまだちょーっと残ってて、『先生』に会うの、なんだかすこしむず痒いんだよね」

「自分ではない自分の記憶。……センジョウがいったい、どうしてこんなに鮮明な私達の『記憶』を持っているのか、それもすこし引っ掛かるところね」

「なんかこう。確かに私自身なんだろうけど、ここにいる私はその『選択』はしてない。みたいなね?」

 

 ナル達と別れ、今後の計画を検討しながら歩く、ヒナとミカのもとへ。一人の少女が駆け寄る。

 

 タッタッタッタッ、と。全力で走り寄るその足音に気づいた二人が振り返えると────

 

 

「追い付き……まし、た……!!」

 

 

 青瀬ナルが、汗を長し、息を切らせて、必死な様子で現れた。

 

「ナルちゃん、どうしたの?」

「……けて、下さい」

 

 息も絶え絶えになりながら、ナルは。泣きそうになりながら。二人へ助けを求める。

 

 

 

「────お母さんを、助けて下さい!!」

 

 

 

 その言葉に。二人は武器を握りしめると。事情も聞かずに、ナルが来た方向へと、駆け出した。

 

 

 


 

 

 

「はあっ……はあっ……はあっ……!」

「他愛ねぇ。他愛ねぇな。早瀬ユウカ」

 

 二人の実力差は、歴然としていた。

 

 初撃の肉弾戦以降、1撃たりとも攻撃を受けてない少女に対し、ユウカは全身の17箇所に大きな切り傷を作っており。すでに、左腕は銃を握る力も入らず、ダラリと下がるだけの重石と化していた。

 

 だらだらと全身から流れる鮮血は、白いユウカの上着を赤黒く染め上げ、さらに、溢れた雫は、彼女の足元へと小さく赤い水溜まりを作り始めていた。

 

 

────血を、流しすぎた。

 

 

「ここらでやめとけ。本当にヘイローが砕けるぞ」

 

 少女は、欠片も本気を出してはいない。いや、出してはいないからこそ、17箇所も切られていながら、ユウカはその一つも致命傷となるほどの一撃は貰っておらず、身をよじり、なんとか戦い続けられる程のダメージに抑えていた。

 

 だが。それももう限界だ。

 

────ああ、駄目ね。考えもうまく、まとまらない。

 

 どれだけ呼吸をしても、苦しさがなくならない。視界は揺らぎ、立っているのが精一杯になりながら。

 それでも、ユウカは。

 

 

「……わた、しは……ナル、ちゃん……を…………!」

 

 

 ただ。決意と気迫だけで。限界を超えた肉体を動かし、武器を構える。

 

 

「それ……でもぉ!!」

 

 

 血反吐をはいて。それでもと。

 

 

「…………せめて、楽にしてやるよ」

 

 少女は、見苦しい抵抗を続けるユウカに対し、刀を鞘に押し当て、一気に振り抜いた。

 

 刀身が、バチバチと火花を立てて────一際大きな『焔の嵐』を纏う。

 

 

 その焔を見て。ユウカは自らの『終わり』を悟る。

 

────ああ。ごめんね。

 

 その心には。恐怖ではなく。後悔が。

 

────結局。また……守れなかった。

 

 大切なものを。また失う、喪失感。

 

────ごめんね。ナルちゃん。

 

 

「ごめんね。せん────」

 

 

 

 

 

「────ここから先は進ませないよ」

 

 

 

 弾丸が飛来し。少女の刀身に纏う焔の嵐を吹き飛ばす。

 

 

「────逃れることはできない」

 

 

 それと同時に、暴力の嵐が。少女へと殺到する。

 

 

「チッ!!」

 

 

 危険を察知した少女は、強く刀を振り下ろし、残った焔の嵐を爆散させて、降り注ぐ弾丸の嵐を打ち落とす。

 

 

「ごめん、お待たせ」

「後は任せて、ユウカは休んでて」

 

 

 二人の少女が。ユウカの前に立っていた。

 

 

「ミカ、さん……、ヒナ、さん…………」

 

 

 二人の『最強』の姿に、少女は、苛立ちと────興奮を、隠さない。

 

「オイオイオイ。なにが、なにも残さない。だ。…………いるじゃねえか。そこに、『蒼井センジョウ(テメェ)』が」

 

 好戦的な笑みを浮かべる少女に対して、ヒナは一つ溜め息をついて、デストロイヤーとガーディアンを構える。

 

「ゲヘナの学籍が消えていたから。なにか貴方も絡んでいるとは思っていたけれど。やはり、なにか知っているのね──宍戸オウカ」

「久しぶりだな。先輩」

 

 少女──オウカは、ヒナにそんな挨拶を返しながら、懐から一丁の拳銃を取り出す。

 そして、それとは別に。オウカの姿をみたミカは。

 

「あはっ。そうかな。とは思ってたんだけどね。…………やっぱり貴方が、『宍戸オウカ』なんだね」

「ああ。そうだったな。……その節はお世話になったな。『世間知らずのお姫様(聖園ミカ)』」

 

────ミカに、アリウスへの道を教え。エデン条約が崩壊する遠因を作った、張本人。それが。『宍戸オウカ』。

 

 

「うん。うん。私のやったことの全部があなたのせいだ。なんて、都合のいいことは言うつもり無いけどさ────」

 

 ミカは、暴力的に笑う。

 

「ちょーーーーっとぐらい。仕返ししたって誰も怒らないよね……!」

「ハッ。化けの皮が剥がれてるぜ。裏切り者の『魔女』さんよ」

「別に『魔女』でもいいよ。センジョウくんなら、何度でも私を引き戻してくれるから」

「笑わせる。『センジョウセンセイ』は、もういねぇだろ」

 

 

 『二次創作の主人公(蒼井センジョウ)』の『選択』の果て。捩れて、歪んだ運命が。

 『青空DAYS(この物語)』が、積み重ねてきた『経験』が。今、ここに集っていた。

 

 

「丁度いい。オレも、『鍵』はどのみち壊すつもりだった。────この場でまとめて『蒼井センジョウの痕跡(紛い物の残りカス)』を消し炭にしてやるよ」

「させると思う?」

「できるかな?」

 

 

 『蒼井センジョウ』を否定する意思と。『蒼井センジョウ』を肯定する意志が。ぶつかり合う。

 

 

そんな彼女達をみて。ユウカは、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。

 

「…………アオイ、センジョウ」

 

 もう。立っていることもできない。

 

 彼女達の言う、その、『アオイセンジョウ』がいたら。……自分を、助けてくれたのだろうか。

 なんて、そんな取り止めない考えが頭を過り。

 

「───お母さん!!」

 

 

 倒れ行く、血だらけのユウカを。ナルが抱き止める。

 

「ナル、ちゃん……」

「だめです。駄目なんです……!しっかりしてください、お母さん!」

 

 何故か、自分を母と呼ぶナルに、ユウカは愛しさを覚えた。

 

「ごめん、ね……」

「謝らないで……謝らないで下さい!まだ、まだ終わってません!私の……私達の日々は!未来は!まだこれから、ずっと、ずっと、ずっと!続いていくんです!続けていくんです!」

 

 ぽたり。と。暖かい雫が、冷たくなっていくユウカの肌にこぼれ落ちた。

 

「嫌です……嫌なんです!私が欲しかった幸せは!未来は!世界は!『物語』は!これじゃないから!!」

 

 だって。ここには。

 

 『お父さん(センジョウ)』がいないから。

 

 

 

「私達の過ごしてきた日々には、毎日には!ずっと、ずっと!『蒼井センジョウ(お父さん)』がいました!私が産まれるより前から、ずっと!!私が産まれてから、ずっと!!」

 

「私達の『世界(物語)』に、『蒼井センジョウ(お父さん)』がいるように!『蒼井センジョウ(お父さん)』の『世界(物語)』にだって、私達がいる筈なんです!……私達と、『蒼井センジョウ(お父さん)』の物語は、もう!ずっと、ずっと前から!誰か一人の『物語』ではなくなっているんです!!」

 

 

 『物語』は。ただ、書かれるだけのものではない。

 

 綴る人がいて。読む人がいて。知る人がいて。語る人がいて。考える人がいて。

 

 例え。それを紡いでいるのが。記しているのが。一人でも。

 

 

 産み落とされた時点でもう、それは。その積み重ねを、共に歩んできたのは。

 

 

 

 最初から────一人では。無いのだから。

 

 

 

 

 『青空DAYS(この物語)』の始まりは、きっと。もっと、ずっと前から────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『蒼井センジョウ』と、『早瀬ユウカ』の。出会った。あの日から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから!!!!まだ終われません!まだ終わらせません!!この『物語(世界)』に!お父さんが戻ってくるまでは────」

 

 

「────お父さんと、お母さんと!3人で、笑って過ごす!『青空DAYS(私達の物語)』を、諦めません!!!!」

 

 

「だから!お母さん!!!!」

 

 

「迎えに、行きましょう!────『蒼井センジョウ(お父さん)』を!!!!」

 

 

 

 その言葉に。

 

 

 

 ユウカは。

 

 

 

 

「────本当に」

 

 

 あの、懐かしい日々が。

 

 

「本当に。いつもいつも。無茶ばっかりで」

 

 

 あの、尊い日々が。

 

 

「男の子って。どうしてこう。バカなのかしら」

 

 

 熱く。熱く。蘇る。

 

 

「そうね、そうよ。私もね────」

 

 

 

 脳裏に焼き付いて。離れない。あの言葉が。

 

 

 

「────私も、貴方が欲しいから」

 

 

 

 だから。

 

 

 

「────センジョウ」

 

 

 

 私は。私達は。何度でも。立ち上がろう。

 

 

 

「お母…………さん!」

「ナルちゃん」

 

 

────もう一度。私に力を貸して。

 

 

 

 ナルは。

 

 

 

「────勿論です!!」

 

 

 

 力強く。その手を握った。

 

 

 ナルの姿が。光に包まれ。その光は、ユウカを優しく、温かく包み込む。

 

 

 

 

 

「出会いと絆を重ねて紡ぎ!」

 

 

 透き通る空の『蒼』に、赤く燃える命の『赤』があしらわれ。

 

 

『歩んだ先の未来を掴む!』

 

 

 燦然と輝く山吹色の輝きは、希望を照らし。

 

 

「『道無き闇が阻もうと!一つ掲げた答えを信じ!束ねた思いを道と成す!!』」

 

 

 両肩の先に浮かぶ、堅牢なる盾は堅い意志を思わせる。

 

 

 

 

「『────神姫覚聖(しんきかくせい) 『Naill-VanaDis(ナイル・ヴァナディース)』!!!!』」

 

 

 

 

 まるで、女神の様な神々しさを纏うユウカが、そこに降臨した。

 

 

 

 

 

「私は……」

 

 

 

 

 

「必ずあなたを、取り戻す!!」

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