青空DAYS   作:Ziz555

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──これは、俺の……いや。
 俺達の見た、俺達の信じる。俺達の──『物語(せかい)』。




青空DAYS(俺達の物語)

 

 

 『ブルーアーカイブ』を知った時。俺は。自分がずっと、一人だったことを知った。

 

 俺が歩んできた道は、いつも誰かの後追いで。

 俺のやってきたことは、誰かを真似た偽物で。

 

 きっと、今の俺がやろうとしてることだって。もう、誰かのだした答えと同じで。

 

 でも。それでもいいと思えた。

 

 自分の選んだその道に、俺は納得してた。

 

 そう思えるだけのものを。みんなに、父さんに、母さんに、ナルに────ユウカに、もう。貰っていたから。

 

 だから。俺は、俺の独り善がりな『青空DAYS(この物語)』は、俺(ひと)りのものでいいと。そう、思っていた。

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 いつだって、そうだった。

 

 

 俺は、俺が、独りになりそうな時に。やっぱり、いつの間にか、お前が俺のそばにいて。俺を独りにしてくれない。

 

 

 

 でも。それが、どうしても。

 

 

 

 どうしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しくて。

 

 

 

 

 

 

「ユウカ!?どうして────」

「センジョウ!歯を食いしばりなさい!!」

「は?」

 

 バギィッッッッ!!!

 

 舞い降りてきた勢いのまま、ユウカは右手のひらを大きく振りかぶり、マニピュレーターをそのまま操って、『Nuill-Vana』ごとセンジョウをぶん殴った。

 

 当然、防御もなにもしていなかったセンジョウは、最低限のパルスフィールドで肉体への直撃は避けたものの、凄まじい衝撃を受けると共に吹き飛ばされて、張り倒された。

 

「いっっっっってぇ!?!?いきなりなにすんだ!!」

「それはこっちの台詞よ!!このクソボケ朴念人!!」

 

 抗議の声を上げたは良いものの、ユウカの気迫と鬼の形相に思わず後ずさる。

 

「いきなりなにも言わずに何処かに行って!みんなに迷惑かけて!ここに来るまで何があったと思ってるの!!」

「……えっ、とぉ……そのぉ……」

「言い訳無用!!」

「ぐぬぅ……」

 

 なにを言おうとしても、全てを捩じ伏せられる気しかせず、センジョウはその迫力に腰が引けていた。

 

「センジョウ」

「はい」

 

 センジョウはユウカに名を呼ばれて、背筋が自然と伸びる。

 

「私は、信用できない?」

「そんなわけ」

「じゃあどうしてこんなことしたの」

 

 『こんなこと』。というのは、センジョウの施した記憶改編のことだと、センジョウも気づいていた。……しかし、センジョウはユウカの問いに答えるより先に、『どうして改変が解けたのか』を考え──

 

「セ、ン、ジョ、ウ?」

「はい!これは、俺のやらかした問題なので!俺が一人でケリをつけるべきだと思ったからです!!」

 

 ユウカの声に、思考を引き戻された。

 

「だから、私には関係がないと?」

「はい!俺が好き勝手にやることに、ユウカを巻き込む必要はないと思っ────」

 

 

「正座」

 

 

「はいッッッ!!!」

 

 勝手に体が動いていた。

 

「…………いい。一度しか言わないから。よく聞きなさい」

 

 顔を伏せるユウカの表情は、センジョウからはよく見えない。

 だが、小さく振るえていることをみるに、かなり怒っていることはみてとれた。

 

「あなたの選んだ道を、あなたが進むことはあなたの自由だと、私も思う。……けどね、それと同じように、私がどんな道を選んで、どんな道を進むかだって、私の自由なの」

「……ユウカ?」

 

 すこし震えた声で。ユウカは下を向いたまま続ける。

 

「貴方の描いた『世界』の『私』は、確かに幸せだったかもしれない。貴方が私に、『もしもの自分』を聞いた時、あなたの思い描いた『幸せな私』の姿は、確かに、間違いなく『幸せ』だった」

 

 

 

「けどね」

 

 

 

「私は…………私は!今ここにいる私は!これまでずっと、あなたと一緒に歩んできた、あなたとずっと一緒にいた、『青空DAYS(貴方の世界)』の『早瀬ユウカ』なのよ!」

 

 涙を湛え、想いを溢れさせながら、ユウカは叫んていた。

 

「もし、とか。たら、とか。れば、とか!そんな思いは、そんな私は関係ない!!」

 

 

「ここにいる私が、貴方の世界の私が!私の世界の私なの!!」

 

 

 

「私が、私がほしいのは────」

 

 

 

 

 

「『蒼井センジョウ(大好きなあなた)』と過ごす、『青空DAYS(私達の物語)』なの!!」

 

 

 

 

──そうして、ユウカはそっと。俺の事を、抱き締める。

 

「────あの日の、告白の答え。まだ、ちゃんと伝えてなかったから」

 

 そっと、優しい声で。

 

「私も──貴方の事、愛してる。大好きよ……センジョウ」

 

 その言葉が。その想いが。その、温もりが。

 

 

 どうしようもなく。嬉しくて。

 

 

「────ありがとう、ユウカ」

 

 そっと、ユウカの事を抱き締めた。

 

 

 

 

 瞬間、ユウカの背後から一撃が迫る。

 

 

「ッと!!空気読まねぇなお前!!」

 

 こちらの様子を伺っていたらしい『色彩』の攻撃を回避したセンジョウは、抱き締めていたユウカを放す。

 

「センジョウ。あれが?」

「そうだ、あれが『色彩』だ。……つっても、俺があの形に押し止めてるだけだけどな」

 

 かろうじて人の形を象っているだけの、曖昧で、不気味で、あやふやな存在を前に、センジョウとユウカは意識を前に向ける。

 

「ナル」

『…………』

「おい、ナル。いるなら返事してくれ」

『つーーーーん』

 

 センジョウの呼び掛けに対し、ナルは「私、不機嫌です!」といわんばかりの態度を示した。

 

『わたし、おこってます』

「そりゃ見てわかるが、今はそんな場合じゃ……」

「ナルちゃん、今は」

『嫌でーーす。私、お父さんのこと許してませーん』

 

 ブー垂れるナルにセンジョウは頭をガシガシと掻きむしる。

 

「あーーーーもう!わかった!帰ったら遊園地につれてってやる!一日中遊び放題つきだ!」

「そ、そんなので……」

 

『遊!園!地!』

 

 センジョウの提案に、ナルは目を輝かせて大興奮する。

 

『本当、本当ですね!?嘘ついたら本当に今度こそ許しませんよ!?』

「ああ、約束するよ。ユウカも一緒だ!」

「え、ちょっ。勝手に──」

『やったーーーー!!!!』

「ナルちゃん……!!」

 

 勝手に話を進める二人に、ユウカは頭を抱える。

 そんな二人を見て、センジョウは不敵に笑い、そして。

 

「だから────とっとと終わらせて、帰るぞ」

 

 『帰る』と。彼は、その意思を示した。

 

「……そうね、帰りましょう」

『はい、帰るんです』

 

 

 

────私達の、日常に。

 

 

 

「行くぞユウカ、ナル!俺に合わせろよ!最初ッから全開で行く!」

「守りは任せなさい、攻撃に集中して!」

『お母さんは私が守ります、お父さんは前に!』

「応ッ!!」

 

 そうして。3人は、己の心に火を灯す。

 

 

「俺の『決意(こえ)』に応えろ──『Nuill-Vana Period 』!!」

「私の『祈り(こえ)』に答えて──『Naill-VanaDis』!!」

『私が『意思(こえ)』を返します──!お父さん!お母さん!!』

 

 

 『決意』を、『祈り』を、『意思』を。

 

 

──そのマシーンは、『力』に変える。

 

 

 そして、同時に。彼らの体を通して溢れる力に呼応するように────『色彩』が、吼える。

 

 

「────────!!!!」

 

 

 

 それと同時に放たれた、無数の悪意が、センジョウ達へと降り注ぐ。

 

「邪魔だ邪魔だ邪魔だァ!!」

 

 センジョウはそれらをくぐり抜け、切り飛ばし、弾き返し、蹴り飛ばし、潜り込むようにして『色彩』へと突き進む。

 

 しかし当然、四肢のみで、文字通りの無数の手数の全てを振り払う事は出来はしない。

 

「ヴァナディースユニット展開……演算開始!」

 

 そんなセンジョウの手数を補うために、ユウカは『Naill-VanaDis』の盾をセンジョウへと追従させ、迫り来る驚異からセンジョウを守り抜く。

 当然、その妨害に気づいた『色彩』は、センジョウへの攻撃だけでなく、ユウカめがけて攻撃を開始する。

 

『させま……せんっ!!パルスフィールド、全ッ開!!』

 

 演算と、ヴァナディースユニットの操作に集中するユウカを守るため、ナルが『Naill-VanaDis』を操り、ユウカへと降り注ぐ『色彩』の悪意を振り払って行く。

 

 そうして、手数が分散したことで、薄くなった攻めの中を──センジョウは、突き抜ける。

 

 

「パルスブレード、最大出力ッ!」

 

 

 全身に溢れるエネルギーが、『Nuill-Vana Period』の左腕パルスブレードに集中し、身の丈ほどの大きな刀身を形成する。

 

「切、り、裂、けぇぇぇぇッ!!」

 

 出力の全てを終結させたその刀身に、『色彩』を滅ぼすための、できる限りの『力』を込めて。振り下ろす。

 

 そして。

 

 

 『色彩』を、切り裂いた。

 

 

 

 

 

───だが。まだ、終わらない。

 

 

 切り裂かれた筈の『色彩』は、瞬きの後に、いつの間にか、元の姿へ戻っていた。

 

「クソッ……やっぱ正攻法じゃ無理か──ッ!」

 

 防御も、再生も捨てた、センジョウの『神の領域』の全てを込めた一撃でさえ、『色彩』の存在を書き換えるには──まだ、足りない。

 

「センジョウ!離れて!」

 

 ユウカの声が聞こえた次の瞬間、視線を上げたセンジョウの前には、『色彩』が立っていた。

 

「まっず……ッ!?」

 

 そうして、その拳が、センジョウへと振り抜かれる。

 

 とっさに防御を固めるが、その防御すら容易く貫き、『色彩』の一撃はセンジョウへと直撃した。

 

「センジョウ!」

『お父さん!!』

「が……はっ……!」

 

 凄まじい衝撃と、存在その物へ干渉する『負荷』に、センジョウは苦痛の声を上げる。

 

「…………ッソッタレぇ!」

 

 しかし、意識が刈り取られるより前に、『Nuill-Vana』に意識を向けて、再び自己を取り戻し、即座に肉体を万全の状態へと書き替えた。

 衝撃と共に吹き飛ばされたセンジョウは、再び体勢を立て直す。

 

「クソッ、そう簡単に倒されちゃくれねぇか……!」

 

 これまでの戦いが拮抗していたのは、センジョウに『勝つ』つもりがなかったからだ。

 終わることの無い永遠の時間稼ぎのために、肉体の修復へと意識を傾けていたからこそ、『色彩』の回復速度に劣ること無く、永遠に戦い続けることが出来ていた。

 

 しかし、それでは──『より良い明日(ハッピーエンド)』は、掴めない。

 

『不味いです……このまま戦い続けても、こちらが少しずつ消耗します……その前に、なんとか。何とか突破口を……!』

「センジョウ!戦い続けてたんでしょ!何か良い案はないの!?」

「有ったらもうやってる!……くそったれ!」

 

 考えど考えど、出てくるのは悪態ばかり。

 

 心は、魂は折れていなくても。これでは、いずれ────

 

 

 

 そんな時だった。

 

 

 

 

『────相変わらず情けねぇ男だな。蒼井センジョウ』

 

 

 

 

 声が。聞こえた。

 

 

 

 

『ここは────』

 

 

 

 その声は。センジョウの意識に直接語りかける────

 

 

 

『────任せて貰おうか!!』

 

 

 

────もう一人の『自分自身(蒼井センジョウ)』。

 

 

 

「まさか、お前────」

『受け止めろよ…………強制排出!』

「へ?は?おあぁぁぁぁっ!?」

 

 センジョウが状況を飲み込むより早く、『Nuill-Vana Period』は、センジョウとのリンクを強制的に切断し、彼をユウカめかげて吐き出した。

 

「センジョウ!?」

 

 飛んできた生身のセンジョウを、ユウカは身体で受け止める。

 

「な、ナイスキャッチ……」

「い、一体何が────」

 

 そうして、『Nuill-Vana Period(蒼井センジョウ)』は、己の意志で、その名を呼んだ。

 

 

 

『────俺の『要求(こえ)』に応えろ、ユウカァァァァァッ!』

 

 

 

 その『要求(こえ)』に呼応するように──世界に、『孔』が開く。

 

 そして、そこには────。

 

 

「全く……、あんたは。いつもいつもいきなりで、自分勝手なんだから!」

 

 

────『早瀬ユウカ』が、現れる。

 

 

『行くぞ、ユウカ!』

「任せなさい……!」

 

 

 

 二人は呼吸を合わせ。再び、一つになる。

 

 

 

 『色彩』に染まっていた、ひび割れた円環は、それを中から打ち砕き。

 

 全身に走る、蒼と紫の輝きは、世界を虹に塗り替える。

 

 純白の装甲が、輝きを取り戻し。

 

 

────ここに、『神話』が、蘇る。

 

 

「『神化到達────』」

 

 

 

「『───Nuill-Vana Perfect!!!!』」

 

 

 

 これが、『Nuill-Vana』の、『真の到達点(Perfect)』。

 

 

「これが……!」

「本当の、『Nuill-Vana』!?」

 

 その姿に驚く二人に対し、『Nuill-Vana Perfect(蒼井センジョウ)』が語りかける。

 

『感謝するぜ、もう一人の俺。お前の魂と共鳴し続けたお陰で、お前が色彩に打ち勝ったように。俺も色彩に打ち勝てた』

「私も感謝するわ。……仮初めの肉体でも。もう一度、『センジョウ』に逢えたのだから」

 

 神々しい輝きをその身に纏いながら、『早瀬ユウカ』と『Nuill-Vana Perfect』は感謝を述べて、『色彩』へと向き直る。

 

 

「行くわよ。……『色彩』の再生は、私達が食い止める」

『決めるのはお前らだ。外すんじゃねぇぞ』

 

 言葉と共に、二人は『色彩』へと突撃して行く。

 

 当然、『色彩』はそんな彼らへ攻撃を試みる。

 しかし、完全な姿となった二人にとって、数が多い程度の攻撃は……足止めにすらなりはしない。

 

「センジョウ!」

『あいよ!』

 

 

 すべての攻撃をくぐり抜け、『Nuill-Vana Perfect』は、『早瀬ユウカ』の求めに応じ、『マグナム』を産み出した。

 

「終わらないわよ!」

 

 両手で構えた『マグナム』から放たれた、赤紫の光条は、色彩の防御を容易く撃ち抜き、その存在を突き動かす。

 

『お父さん、お母さん……私達も!』

「私達も、って……ナルは一人しか──」

『大丈夫です!』

 

 そんな彼らの頑張りに感化されたのか、ナルが声を上げ。

 

『ふんぬぬぬぬ…………ぅん!!』

 

 力を込めて、輝きを放ち、ユウカとセンジョウを包み込んだ。

 

 

────光が晴れると、そこには、両腕にだけ装甲と、武器だけを持つセンジョウと、両足にだけ装甲と、『ヴァナディースユニット』を纏うユウカの、二人に『Naill-VanaDis』が分離していた。

 

 

『名付けて!『Naillユニット』と『Vanadisユニット』です!!』

「凄い……凄いぞナル!」

「ええ……!これなら、私達も!」

『はい!一緒に……みんなで、一緒に!戦いましょう!』

 

 攻撃に特化した『Naillユニット』を纏うセンジョウが前に立ち、防御に特化した『Vanadisユニット』を装備したユウカが支援にはいる。

 

 そして。そのどちらをも『ナル』が支援する。

 

 三位一体を体現するような、そんな新たな力を手に、センジョウは、ユウカは、ナルは。

 

 再び、『色彩』へ挑む。

 

 

 

「────……」

 

 

 一つ一つの力は、『色彩』には程遠い。

 

 

「────…………」

 

 

 しかし、そんな彼らの姿が。

 

 

「──────………………」

 

 

 『色彩』を。震えさせた。

 

 

「────────!!!!!!!!」

 

 

 

 音にも、声にもならない咆哮を上げ。『色彩』は唸りを上げる。

 

 

『不味いです……!このエネルギー反応、宇宙が生まれるより、もっと、もっと大きな──!』

「チッ!撃たせるか────」

 

 

 

「それを────」

 

『────待ってたぜ!!』

 

 

 

 エネルギーが集中して行く『色彩』の前に、『早瀬ユウカ』と『Nuill-Vana Perfect』が飛び出し──

 

 

「『計算通り、完璧!!』」

 

 

 

────全身から、虹色の光を放ち、『色彩』を縛り上げる。

 

 

 

「センジョォォォォォォォッ!」

『ユウカァァァァァァァァッ!』

 

 その声に。センジョウは、ユウカは、ナルは。

 

『今です!『色彩』のエネルギーが、あれ程までに攻撃に回されている今なら──!』

「奴の再生を──」

「──突破できる!」

 

 

 そうして。三人の意志が、想いが、願いが。

 

 

 全てを貫く、一つの大きな──『槍』となる。

 

 

 

『Naill-VanaDis────モード:グングヌィル!!』

 

 

 

 

 神をも貫く『槍』へと変化したナルを、センジョウとユウカは、つかみ、構える。

 

 

 

「「『いっ、けぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!』」」

 

 

 

 そうして、それは────

 

 

 

「──……──…………」

 

 

 

 

────『色彩』を、貫いた。

 

 

 

「──────────」

 

 

 

 『それ』は、己の形を止めていた『力』を喪い。その輪郭が、まるで世界に溶けて行く様に──消滅していく。

 

 

「…………終わった、のよね」

「いや、終わってない」

 

 消え行く『色彩』を見つめながら、センジョウは答える。

 

「『色彩』はそもそも、形のあるものじゃない。なにか固有の、個別の物をさして示す言葉じゃないんだ」

「ええ、彼の言う通りよ」

 

 『色彩』を失い。なにもない世界が、彼らが立っている世界が崩壊していく最中、『早瀬ユウカ』は語る。

 

「『色彩』が滅びることはない。私達がしたのは、言ってしまえば、一度集まっていた池の水を全てを蒸発させただけに過ぎないわ」

『時間が経てば、その池の水は、雨や露、雪となって次第に集まり。又池になる』

「そんな……、それじゃあ。私達がしたことって、ただの時間稼ぎで──」

 

 

「それでもいいのさ」

 

 

 センジョウは、不安そうに崩れ行く世界を見つめるユウカの肩を抱き寄せて、力強く語る。

 

「これから先、また『色彩』が襲ってきたとしても。きっと、その時に生きる人達が、懸命に戦って……又、乗り越えるさ。……俺達がそうだったように」

「……センジョウ」

 

 センジョウは、晴れやかな笑顔で。ユウカを見る。

 

「俺達は、託して、託されて。そうして、未来へ、ゆっくりと進んでいくんだ。……一日一日の、日々を懸命に、必死に、生きながら。少しずつ、ゆっくりとだけど、前へ進んでいく」

 

 センジョウは、ナルの頭を優しく撫でて、笑っていた。

 

「はい。……きっと、きっと大丈夫です。お父さんと、お母さんの願いは……きっと、託されて、繋がっていきます」

「……ナルちゃん」

 

 だから。

 

「だから、今は帰ろう。……俺の、俺達の日常に」

 

 そんな、センジョウの言葉に。

 

「……そうね。帰りましょう」

 

 ユウカは、静かに頷いた。

 

 

 

 

 気がつけば、センジョウとユウカは。どこかの大地の上に立っていた。

 

 

「おーい!センジョウー、無事かー!」

 

 

 声のした方を向けば、こちらを見つけたらしいキョウヤが、大きく手を振っている。

 

 

「────行こう」

 

 

 センジョウは、ユウカとナルの手をとって。

 

 

 

 みんなのいる、『明日』へと。走り出した。

 

 

 

 

 

『…………もう、大丈夫そうだな』

「ええ、そうね」

 

 

 そんな彼らを、青空の上で、彼と彼女は見守っていた。

 

「帰りましょう。センジョウ。……私達も」

『ああ、そうだな。────『先生』が待ってる』

 

 

 

 そうして、彼らは何処かへと、飛び去っていった。

 

 

 そんな、雲一つ無い青空には────

 

 

 

────綺麗な虹が。輝いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 事件から、数週間後。

 

 センジョウは、いつものようにシャーレで過ごしていた。

 

 

 別に、事件が終わったからといって、日々が劇的に変わるわけもなく。彼がキヴォトスに来て、何度も何度も経験した、そんな日常と大差の無い、そんな日。

 

 

 ピンポーン。と、チャイムが鳴った。

 

 

 『先生』は今日は出張でいないし、センジョウも今日は一日休みの予定をいれていたので、誰かが訪ねてくるのは想定外で。しかし、シャーレが居留守をする訳にも行かないので、彼は仕方なく、来客を出迎えた。

 

 

 

 

────するとそこには。ニコニコ笑顔でこちらを見つめるミカと、般若も裸足で逃げ出さんばかりの様子でこちらを見つめるユウカが立っていた。

 

 

「…………」

 

 

 見なかった事にしようと、そっと扉を閉めようとして────ドアの合間に、ユウカの足が差し込まれた。

 

「セ~ン~ジョ~ウ~????今日はデートの約束だったわよねぇ?」

「アッ」

 

 完全に忘れていた様子のセンジョウに、ユウカは眉をピクピクと動かした。

 

「あの、いや、その……ちょっと──昨日の仕事が忙しくて、失念していたと言いますか──」

「昨日はトリニティの文化祭準備で、たーーーーっくさん働いてたもんね。本当に助かっちゃった」

「あっ、はい。それはまあ、私の仕事なので──」

 

 なぜかかしこまった口調のセンジョウをみて、笑顔をより際立たせながら、ミカはそっと彼の耳元へ口を寄せる。

 

 

「────その後の買い物付き合ってくれたのも、お仕事?」

「ッスー……」

「ふぅぅぅぅぅん…………へぇぇぇぇぇ…………」

 

 ミカの言葉が聞こえたらしいユウカは、腹のそこから唸るような声をだし、ミカを睨み付ける。

 

「ミカさん」

「なーに?ユウカちゃん」

「センジョウがそう言う頼み断らないの、知ってて声をかけたんでしょう」

「さぁて?……どう思う?」

「どう思うもなにも、ひとの彼氏にちょっかいかけるのは倫理観としてよくないでしょ!?」

「えー。でもさでもさ。センジョウ君って、『トリニティの英雄』じゃん?」

 

 にやり。と、ミカは口を歪めて、ユウカを見る。

 

「────『英雄色を好む』。って言わない?」

「…………………」

 

 その言葉を聞いたユウカが、ジト目でセンジョウを見つめ。センジョウは即座にブンブンと首を横に振った。

 

 断じて、ミカの誘惑に手を出したことはない。

 

 万が一、いや、億が一にも、『どきり』とすることはあっても。それは年齢的に仕方ないものであって、決して手を出すことはしていなかった。

 

 いや、本当に。

 

「えー。私は二番目でいいんだけどなぁ」

「私が!ダメなの!」

「もー、ユウカちゃんのケチんぼさん☆やっぱり会計さんだから厳しくなっちゃうのかな?」

「からかわないでください……!」

「あははは!」

 

 あれから、ユウカとミカは、仲が悪い、と言うことはないのだが、どうにも時おり、こうしてセンジョウ絡みでひと悶着を起こすことが多く、その度にセンジョウは二人の間で形見を狭くし、とにかく、嵐が過ぎるのを待っていた。

 

 

────だが、その日は幸運にも。彼に救いの手が差し伸べられる。

 

 

 センジョウのモモトークに、1件の通知がはいる。

 

 言い合いを続けるユウカとミカに気づかれないよう、さりげなくその画面を確認すれば──そこには、『ヒナ』の文字。

 

 

『ごめんなさいセンジョウ。休みなのは聞いていたのだけれど……少し厄介な仕事が舞い込んだの。用事がなければ、手伝って貰えないかしら?』

 

 

 そんな文章に、センジョウは思わず『ナイスタイミング!』と返信を打って、送信した。

 

 

「じゃ!俺仕事入ったんで!!!」

 

 

 そうして、建前を手に入れたセンジョウは、脱兎のごとく修羅場から逃げ出した。

 

 

「あ、コラ!センジョウ!デートの約束!!」

「今晩は夕飯奢るよ!後埋め合わせもするから!また今度な!!」

 

 

 引き留めるユウカに、そんな言葉を残して。センジョウはキヴォトスの街を走る。

 

 

「行くぞ──『Vanadis(ヴァナディース)』!」

 

 その声と共に展開されたユニットを脚に纏い、センジョウは空へと飛び上がる。

 

 

 

 

 こうして。ほんの少しの変化を重ねて、少しずつだけ、前に進みながら。

 

 

 

 

 今日も、明日も、これからも。

 

 

 

 彼は、この世界で────生きて行く。

 

 

 

 

 

 

 

─────『青空DAYS 』

 

 

 

 

 完










 はい!!!と言うわけで『青空DAYS』これにて完結です!!!

 足掛け約半年、話数にして100話オーバー、本当についてきてくださった皆様には感謝しかありません!!


 どこまで言っても自己満足でしかない『二次創作』を、自分なりに見つめて、考えて、やりたいこととやるべき事と向き合いながら、自分なりに出した答えの全部をぶつけた作品となりました。

 正直、諸々不満なところはありますが、それでもまずは、書ききれたことを誇りに思うこととします。

 やりたい放題やりまくったこの作品を、それでも好きだと言っていたくれた皆様に、本当に、心から感謝申し上げます。



 そして。これにて『青空DAYS』は本編完結も相成りますが。


 諸君。─────私は、後日談が大好きだ。


 と言うことで、外伝も予て、これからいくらか、この作品の後日談や、ifの話なんかも書いていく予定ですので、また気が向いたときに、ふらっと立ち寄って読んでくれたら嬉しい限りです。


 『蒼井センジョウ』の人生に、物語に、付き合っていただき、本当にありがとうございました。

 本当に。……本当に、楽しかったよ。センジョウ。

 作者としても、主人公である彼に、そして、彼の父であるキョウヤに、母であるキョウカに。
 そして、いつの間にかヒロインとして大きく成長したユウカに。

 そして何より、読んでくれた、読者の皆様に。本当に感謝しています。


 お付き合いいただき、ありがとうございました!


 もし、また縁があれば、次の作品でお会いしましょう。


 それでは、またいつか!




────2024/05/02 作者誕生日にて、結。
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