ここから先はぜーんぶ、おまけ。
蒼井センジョウの過ごす、物語にも満たない日常をつらつらと語ります。
『蒼井ナル』
「忘れ物はないか?生徒証は?スマホは?電車とバスの使い方はわかってるな?」
「はい、大丈夫です。しっかり予習、確認ずみですよ!」
「ああ、それから、迷ったり困ったりしたらちゃんと先輩達を頼るんだぞ。んで、本当に一番困ったときはノアに────」
「もう、心配しすぎ。私も一緒なんだから大丈夫」
「…………それもそう、か」
────その日、シャーレの玄関で、センジョウは、ミレニアムサイエンススクールへと向かうユウカとナルを見送ろうとしていた。
『蒼井センジョウ』が全てを乗り越え、彼の『日常』へと帰ってから数日。彼の引き起こした改変の全てが清算され、元通りに戻ったキヴォトスに、一つだけ、それまでとは明らかに違う変化が残されていた。
それは、青瀬ナル、もとい『蒼井ナル』の存在だ。
『
そんな彼女が『肉体』と呼べるものがあるとすれば、それは『Nuill-Vana』──もとい、『Naill-VanaDis』の機体か、もしくはそこから派生したドローン等に意識を宿らせる程度の物でしかなかった。
しかし、センジョウの改変により『青瀬ナル』としての肉体を獲得したナルは、彼の改変が修正された今の世界であっても、その肉体を保持し続けていた。
これには諸々と小難しい理屈はあるのだが────
「学、校♪学、校♪お母さんと学、校♪」
「楽しみにしてたものね、ナル」
「こんなに喜んでるのがみられるなら、オヤジとあわせて走り回って手続き通した甲斐があったよ、本当」
────ひとえに、『愛』の成せる技。ということにしておこう。
「それじゃ!行ってきますね!お父さん!」
「おう、楽しんで勉強してきなさい」
「はーい!」
元気よく返事を返すナルをみて二人は微笑み、ユウカはセンジョウの方を見た。
「それじゃ、私も行くから」
「あ、ユウカはちょっとこっち」
「…………?」
ナルと共に出発しようとしていたユウカを、センジョウは軽く手招きする。なにか耳打ちしたい事情でもあるのか、とユウカが近づくと────
────センジョウは、ユウカの頬にそっと口付けをした。
「!?!?!?」
「いってらっしゃいのなんとやらだ。ナルをよろしく頼むぞ、ユウカ」
「な、な……!」
突然何をするんだこの男は!と顔を真っ赤にしてわなわなと震えるユウカに対し、センジョウはイタズラが成功した子供のようにニヤニヤと笑う。
「なんだよ。今さらだろ?」
「ーーッ!~~!」
「ズルいです!お父さん!私も私も!」
「はいはい、ナルもこっちおいで」
そんな二人のやり取りが羨ましくなったのか、ナルはパタパタとセンジョウへ走りより、センジョウはそんなナルの額へキスをした。
そしておまけに、ぎゅっと我が子を抱きしめる。
「……はい、おしまい。あんまりやってると遅刻するぞ」
「はーい。ありがとうございます、お父さん!」
「どういたしまして」
そんな、娘と父のやり取りをみて、ユウカはいつの間にか自分の胸に沸いていた羞恥が消え去っていることに気づいた。
「───センジョウ」
「ん?」
そうして、彼女は彼をみて。
「行ってきます」
優しく笑って、そう伝え。
「ああ、いってらっしゃい」
温かい笑顔と言葉を、受け取った。
「さ、て」
二人を見送ったセンジョウは、ゴキゴキと首を鳴らしながら思考を回す。
一度全てを手放してしまったセンジョウが、再びシャーレの職員として働くとなった時、彼は即座に『シャーレの先生』の立場に戻ることは……出来なかった。
連邦生徒会からの信用や、その当の連邦生徒会も未だ『プレナパテス』の傷跡が残り、その体制は万全とは言いがたい。故に、比較的差し置いても問題のない『蒼井センジョウの処遇』に関しては後回し後回しとなっていた。
最も、センジョウ自身も今の自分が本当の意味で『センジョウ先生』と呼ばれるににふさわしい自信もなかったし、もし、『先生』になるのであれば。相応の『答え』を、自分のなかに見つけてからにしたいと、そう考えていた。
結果、諸々の都合が合致したことにより、今のセンジョウの立場は、言うなれば『シャーレのアルバイト』だった。
嫁と子を持つ、夢を追いかけるフリーターの図である。
さて。そんなクソボケ朴念人の個人的な事情はともかくとして。ともかく、今のセンジョウは、先生直属のシャーレの外部協力者であり、書類の手伝いなどにおける制約がキヴォトスに来た直後よりもいくらか勝手が効かない。
そんな彼が今やるべき仕事があるとすれば────
「…………どー説明すっかな、ほんと」
ポリポリと頭を掻きながら、センジョウは自分のスマホの画面に映る、『RABBIT小隊』のメッセージ通知を眺める。
まあ、要するに。
────過去の自分の尻拭いと。悩める生徒の、問題解決のお手伝いである。
「おはよーございます!」
「はい、おはようございます。ナルちゃん、ユウカちゃん」
「ええ。おはよう、ノア」
ミレニアムへとたどり着いたユウカとナルは、ノアの待つセミナーの執務室へと足を運んでいた。
「ごめんね、ノア。先に準備お願いしちゃって」
「いえいえ。ユウカちゃんの子育てのお手伝いと考えれば、これくらいなんてことはありません」
「子育てって……」
ユウカは、ノアの『子育て』という言葉に微妙な表情を浮かべる。
確かに、ナルはユウカにとって間違いなく『我が子』ではあるのだが、それでもまだユウカは年頃の女の子である。
『母親になった』と、改めて言われても、その実感は彼女にはなかった。
「学生結婚は大変だと思いますが……、先生も経験したと言いますし、色々お話を聞いておきますね」
「ちょっとまって!?私はまだセンジョウと結婚した訳じゃ──」
「ええ。『まだ』ですよね」
「うっ…………」
ユウカは、ノアの言葉に言葉をつまらせる。実際、すでに『ナル』という娘もいるし、センジョウとの関係は良好で、彼の家──もとい、シャーレの居住区──で寝る日数と、自分の家で寝る日数を比べると、おおよそ半々程度まで増えていることを考えると、『いずれは』という期待は、ユウカにもあった。
とはいえ、世間的にまだまだ子供といわざるを得ない彼女達での結婚は、あまりにも非常識だし、その結果もし、『ナル』に何らかの不利益があるとしたら……。そう考えると、センジョウもユウカも、すぐに『結婚』に踏み切る事など、できるわけもなかった。
だが、それは裏を返せば。
「センジョウくん。二人のために頑張ってるって、先生からよく聞いてますよ?……幸せそうですね?」
「うぅ~~~~ッ!」
ノアの指摘になにも言い返せず、ユウカは顔を羞恥で真っ赤に染めて唸り声を上げる。
幸せと羞恥と反抗心が入り交じるそんなユウカの『可愛い表情』を記録に残しながら、ノアがニコニコと笑っていると。
「おはよーございま……ゲッ!ナル!!」
「あっ!コユキ!おはよーございます!」
『セミナー』最後の一人、黒崎コユキが執務室の扉を開いて現れた。
「コユキ!今日も一緒にお仕事頑張りましょう!」
「わ、私は別に、程々でいいかなーなんて……」
「頼りにしてます!先輩!」
「ううっ……!」
コユキは、ハツラツとしたナルの視線に晒され、苦悶の表情で呻き声を上げる。
コユキはどうにもこの『セミナーの新入り』が、苦手だった。
自分より仕事ができる──と、勝手にコユキが思っているだけ──のに、自分の事を『先輩』と慕い、あれやこれやを聞いてきて、いちいち大袈裟に喜ぶせいで、コユキ自身も必要以上に仕事を張り切ってしまい、結局最後にはいつも以上に疲れる羽目になる。そんな、『ナル』の存在は、これまでのコユキの交友関係にはないもので、振り回されるばかりの関係がどうにも肌に合わなかった。
『セミナーの後輩』であるはずの自分が。いつの間にか『先輩』になっているのだ。慣れるわけがない。
「ユウカ先輩!ナルちゃんってユウカ先輩の娘さんなんですよね!?」
「そうね」
「じゃあじゃあ!やっぱりやっぱり、ナルちゃんの面倒は先輩がみるべきじゃないかと思うんですよ!」
「……別にいいけど、じゃあ。私のやるべき仕事、コユキが変わってくれるのよね?」
「うっ……それは……」
『早瀬ユウカの代わり』と聞いて、コユキはとたんに顔を苦くする。
センジョウの手伝いのために、ユウカがしばらくセミナーを離れていた頃。人手の足りないセミナーを回すために反省部屋から駆り出されたことがあるコユキにとって、その記憶は正に地獄の沙汰であった。
それに比べれば、確かにナルがいる今の仕事の方が、業務内容その物は楽なもので。つまり。
「じゃ、ナルの事よろしくね、コユキ」
「今日もよろしくお願いします!先輩!」
「うわぁぁぁぁ!なんでぇぇぇぇぇ!!!!」
黒崎コユキの嘆きが、今日もミレニアムに響くのだった。
ナルちゃん……!ナルちゃん可愛いねぇ……!よかったねぇ!お父さんとお母さんと仲良くてねぇ……!(号泣)
それはそれとして。
なんと!この度、チキ・ヨンハさん(https://x.com/TyongeTyon_nise?t=-C6Qn_AgwAxaMJIE6AmeMA&s=09)から、ファンアートを頂きました!
なんと!ふたつも!!
【挿絵表示】
【挿絵表示】
センジョウくん顔良すぎる……死……。
それぞれ、『エピローグ<Who's prolog>』と『キャラ紹介:第4部終了時点(ネタバレ注意)』の後書きにも掲載しています!是非みてくれよな!
おまけ外伝、次はどんな話が読みたいですか?
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