まあ同時に「良い性格してる(意訳)」みたいなことも言われましたが
あ、今まで表現に少し誤りがあったので、修正しました。
一部の『奇跡』が『神秘』という表現に修正されてます。私の誤認ですね。
ヌィル・ヴァーナ関係でここの表現大事なので直しました。
一次試験を見事に不合格となった補習授業部のメンバーは、先生共に勉強のための強化合宿を行っていた。
表向きと、本人の意識としては、引率として。そして、ナギサの意図としては裏切り者探しの監視員として彼女達の姿を見守る先生は、彼女達との親睦を深めつつ、ナギサの真意を思案していた。
エデン条約。
トリニティとゲヘナという、古くから続く因縁を終わらせるための宣言。
それが事の発端であると、彼女は語っていた。
先生個人の思いとしては、その願いは歓迎するところだし、それを妨げようとする勢力があるという事実は、悲しいものだった。
しかし、だからといって、彼女達のなかに裏切り者……悪意ある存在がいるとは。先生には考えられなかった。
そして、それはナギサに対しても同じ思いがある。
ナギサと阿慈谷ヒフミは、互いの事を慕っている。仲の良い姉妹のようにも見える関係だ。
そんな彼女達の間にヒビが入る事も恐れぬような真似を……一人の子供が、『あんな顔』のままできるのだろうか。
そのどれもが、ぼんやりとした憶測にすぎない。確証はない、事実もない。
……ヒフミに対するナギサの疑念の正体は知っているが。いやまあ、そこは……話せたものではない。ウン。
だが、それでも。生徒達の未来を、生徒達自身を信じることが。先生の『先生』たりうる根拠でもあった。
例え、浦和ハナコにどんな過去があろうとも。例え、白州アズサが何かを隠していても。例え、下江コハルに任務が課せられていても。
それはきっと、誰かを悲しませたいから。何て言う動機ではない筈だから。
だから今は、正直に、真っ向から、彼女達の危機に立ち向かえるように、支えて上げる事が必要だった。
そんな、ある日の事だ。
────ティーパーティーの一人、聖園ミカから呼び出された。
呼び出しに応じた先生は、指定された場所……合宿場の校舎に備えられたプールへと訪れる。
「あ、先生、来てくれたんだ!よかったぁ……。突然の呼び出しだったし、来てくれないかと思っちゃった」
"お待たせ"
「ううん。そんなに待ってないよ。……あは、ここだけ聞くとまるで恋人みたいなやり取りだね」
"ミカはどうしてここに来たの?"
「あれ、スルーされちゃう?」
先生はミカの冗談を軽く流し、ミカは問いに対して「ちゃんとやれてるかなーってね」と軽く返す。
「ほら、ここって使われなくなってからそれなりに経つでしょ?だから、設備とか食べ物とか大丈夫なのかなー?って。あ、そうだ!折角だし今度、美味しいお菓子とかケーキの差し入れを持ってこさせようか?」
"心配してくれてありがとう。
言外に、本当の目的を話すように促すと、ミカは困ったような顔をする。
「……まあ、先生がそういうなら、いっか」
パッと表情が明るくなると、今度は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「忙しいのに、ナギちゃんが変な頼み事してごめんね。『裏切り者探し』だなんて」
"……ミカは知ってたの?"
「勿論、私だって、一応はティーパーティーなんだよ?」
それに、先生を顧問にするようにしたのは私なんだ。と、付け加えるミカに、先生は目を丸くする。
"ミカが?"
「どうして?って顔だね。……今回の件に、どうしても第三者の介入が欲しくって、先生が忙しいのもわかってたし、ナギちゃんと借りの使い方としては考えものだーって煩かったんだよ?」
先生は、ミカの話し方に疑問を覚える。……おそらく、何らかの意図がある。でなければ、わざわざ自分をこの場に呼んだ理由がつかない。
"ミカは私にどんなお願いをしたいの?"
「……わーお。大胆だね。そんなにストレートに来られるなんて、少し予想外、かな」
面食らった様子のミカは、クスリとわらう。
「ねえ先生。先生は、誰の味方なのかな?」
"私は、生徒みんなの味方だよ"
"勿論、ミカも"
先生の言葉を聞いたミカは、苦笑いをする。
「お世辞でも嬉しいな。ありがとう」
"お世辞じゃないよ?"
「そうかも。……でも、きっと先生は私達の味方であるよりも前に、自分の子供の味方なんじゃない?」
"…………"
「ごめんね、別に困らせたいわけじゃないよ?……それに、だからって先生を責めたりはしない。だって、赤の他人の生徒なんかより、家族とか、友達とかの方が大事なのって、普通じゃんね?」
"それは……"
──センジョウも、生徒の一人──
そんな言葉が、頭をよぎる。上手く、言葉を口にできない。
そんな彼をみたミカの目が一瞬。冷たくなったようにも見えた。
「先生の事を疑ってるって訳じゃないの。だから、取引をしに来たんだ」
──トリニティの裏切り者を、教えてあげる。
それから、先生は、ミカの口から今回の事件のあらましを聞かされる。
過去にあった、トリニティの抗争。
平和への第一回公会議。
襲撃された、百合園セイアの死。
被害を受け、排斥された学校、アリウス。
そして、和解の象徴としての『白州アズサ』。
エデン条約機構の表と裏。
公会議の再演と、意味。
「……だから、先生には、アズサちゃんの味方になって貰いたいの」
"……ミカは、みんなと仲良くできる事を願ってるんだね"
「うーん……そうなのかな?そうなのかも」
難しいことはあんまりよくわかんない!と、返すミカに、先生は苦笑いする。
「じゃあ、そういうことだから。後はよろしくね!」
息子さんにもよろしく!という言葉を残し、ミカは足早にその場を去っていく。
エデン条約、裏切り者、そして、アリウス分校……。
複雑に絡み合う、不穏な影は、静かに、だが確実に、生徒達へ迫っている。
"久しぶりに、頑張らないとかな?"
アビドスでのカイザーPMCや、ミレニアムでのリオとの戦いを思いだし。先生は覚悟を決める。
──その時とは、大きく違う要素を。見逃したまま。
~~~~~~~~
時間が経ち、その日の夕方。場所は代わり、ミレニアム近郊。
そこに、またもや二人の影があった。
片割れは、聖園ミカ。そして、もう片方は……蒼井センジョウ。
「初めまして。私はトリニティのティーパーティー、聖園ミカ!よろしくね♪」
「こちらこそ初めまして。俺は、シャーレ所属、教育実習生の蒼井センジョウです」
互いに手をさしだし、握手を交わす。
握手を交わしつつ、ミカは「敬語は無くて良いよ、歳もそんなに変わらないんだし」と伝える。
「突然ごめんね。実は、今朝先生と話す機会があってねー?」
「オヤジと?」
センジョウの問いに、素直に首を縦に振るミカ。
「そう。君のお義父さんと。トリニティに急に来て貰っちゃってたし、私もしっかり話すのは初めてだったから、お礼とかもかねて」
「補習授業部の臨時顧問……だっけか?」
「……そうそう、急に決まったことだから、そっちも大変だったんじゃない?」
「あー…すぐ終わるって言ってた割に長引いてるみたいだが……補習授業の担当ってまあ、先生の仕事としては偉く普通だし」
センジョウの言葉に、ミカは納得したような表情を浮かべる。
「そっかそっか、それならよかった。……今日はね、今朝の話のなかで、先生と少し君の話をしたから、実際に会ってみたくなったの!」
「ティーパーティーって結構大事なポジションだろ……?そんなフットワーク軽くて良いのか?」
「あはは!心配してくれてありがとう!でも、私はこう見えても結構強いんだよ?」
そんなもんなのか……?、そうなの!。といったやり取りを行う二人。……パッと見は、大したこともない、なんの変哲もない世間話に聞こえるやり取りだが、ミカにとって、確認したかった内容は確認がすんでいた。
「センジョウくんはさ、どうしてキヴォトスに来たの?教育実習が目的ならわざわざキヴォトスにこだわる必要ないし」
一瞬だけ、真実を話すべきか、はぐらかすべきか思い悩んだセンジョウだが、別に隠す必要もない。
「オヤジの助けになりたくてな。今のところ、書類仕事ぐらいしか助けになれてないけど」
今回の件もサポートじゃなく、邪魔にならないようにミレニアムに預けられてるしな。と自嘲気味に笑う。
「ふぅん……じゃあ、センジョウくんは先生の味方なんだね!」
「味方……まあ、そうっちゃそうだな」
「さすが先生だなぁ……息子さんにも信頼されてるなんて。やっぱりすごくしっかりした教育とかされたんでしょ?」
「あー……まあな」
……別にここでオヤジの評価を下げる必要もない。なんて思いながら、センジョウはミカの言葉を流す。どうせ、ミカ自身も今の会話には重きは置いていなかった。目的は果たした上で、引き際が不自然にならない程度に会話をしていただけだ。
「ごめんね、センジョウくん」
「ん?」
唐突な謝罪に、センジョウは目を丸くする。
「急に会いに来たの、迷惑だったでしょ?」
「ああ。……いや、全然。仕事は普通に回してたし、少し話すぐらい大したこともない」
どちらも本音だ。ミカは時間を取らせたことを謝罪し、センジョウも気にすることはないと答える。
ごく普通の、自然な会話だ。
「……それじゃ、私はこの辺で失礼しようかな」
「もう行くのか?」
「うん。聞けたいことは聞けたし、私だってそれなりに忙しいんだよ?」
「見送りは?」
「大丈夫。気遣いありがとう」
また話そうね!何て言うお世辞を言いながら去っていくミカの背中を見送るセンジョウ。
なんて事無い、生徒同士のやり取り。……だが、ミカは一つ、計算違いをしていた。
「…………なぁーんか、変なんだよなぁ」
センジョウは、今の状況に違和感を覚えていた。
今の今まで、自分を目的に誰か生徒が訪ねてくることなど無かった。
加えてオヤジが連絡も寄越さず、こちらの様子を確認することもないタイミングなんて……センジョウの記憶の中には、1度しかない。
背筋に、ぞわぞわとするような居心地の悪さと、なんとも言えない違和感を感じたまま、それを言葉にすることも出来なければ、確信もない。
だが、それでも。
「……トリニティ。か」
彼が考えるのをやめる理由にはならない。
────クックックッ。先生……やはり、貴方は私に素晴らしい贈り物をくれる存在のようですね。
そうして、少しずつ。
────『神秘』を持たぬ『奇跡』。その体現。それはまるで。
世界は、軋み始める。
────『蒼井センジョウ』。ええ、その名前を覚えましょう。
「貴方はいずれ、私を求める」
望むと、望まざるとに関わらず。確かに、世界の歯車が、ズレ始めていた。
神秘を持たぬものに奇跡を与えるマシーンを書く上で、彼はそりゃ欠かせんでしょうよ。