────これは。『青空DAYS』の、『
────エデン条約、調停式の日。『先生』は、凶弾に倒れた。
それでも。姉であり、母親代わりだったそんな彼女の遺志を継ぎ、『蒼井センジョウ』は生徒たちの未来のために戦い、そして、その果てに『
だが、事件の裏に潜んだ悪意は、今だ潰えることはなく。満身創痍のセンジョウは、その悪意にさらされた生徒たちを救うため、アリウススクワッドの面々に力を貸すことに決めた。リーダーであるサオリの案内に従って、ヒヨリとミサキに合流し。アツコを救うためにアリウス自治区を目指さんとしていた。
そんな最中。早瀬ユウカは、センジョウから届いた『今日は遅くなる』という連絡に、彼の無謀を感じ取り、彼を一人で死地へと送らぬために追いかけて、追いついた。
自分を頼ってくれず、何とか誤魔化して遠ざけようとするセンジョウに、ユウカは声を震わせた。
「…………私は、貴方の力に成れる。一緒に戦える。……そう、伝えたのに」
溢れる思いを止めることもできず、少女はただ、締め付けられる胸の痛みに素直に言葉に乗せる。
「私はまだ……貴方に、信じて貰えてなかった……」
涙で顔を濡らしながら、けれど、センジョウを睨んでいた。
信用がない、とは思っていない。けれど、彼が自分を頼ってくれない事実が、どうしようもなく寂しくて、悲しくて。ユウカの瞳からは、止めどなく涙が溢れていた。
「ユウカ……俺は」
そんな彼女の涙を見て。センジョウは言葉を失う。傷つけたくなんて、涙なんて流してほしくなかった。
だって、ユウカはセンジョウにとって、かけがえのない『日常』で。そんな彼女と、母と慕う姉と共に過ごした、あの日々が。どうしようもなく、愛おしいから。だから、そんな彼女を、自分が傷つけたという事実に、胸を押しつぶされるような痛みを感じて。
だから──
「────お前とは、いっしょに行けない」
────彼女を。突き放した。
「俺は。……俺は、お前を失いたくない、もう。二度と……『大切なもの』を失う痛みを、味わいたくは、ないから」
「それ、は……」
今にも泣きだしそうな、歪んだ笑顔を浮かべるセンジョウを見て、ユウカは胸の前で小さく握りしめていた拳をゆっくりと下ろす。
目の前の少年は、『父』を失い。『母』を失った。
その痛みは、悲しみは、絶望は。……ユウカには、想像もできない。けれど、自分が、彼に大切にされているのは、なんとなく気づいていた。
センジョウが『先生』と喧嘩して、ユウカが傷ついた彼を迎えたあの日。『先生』と、『センジョウ』を確かにつなぎとめたのはユウカで。そんなユウカに、センジョウは確かに惹かれていたし、そんな彼の背中を『先生』は押していたようにも見えた。
まるで、家族の様に、親しく、温かい日常が確かにそこにはあって。それは、ユウカにとっても『大切な時間』だった。
だから、ユウカは。
「────────」
なにも。いえなかった。
「……母さんの、傍にいてやってくれないか。ユウカ」
怯えているのだろうか。そんな、震えた声で、弱気なことを言うセンジョウに。けれど、ユウカは何も言えない。
「たのむ」
静かに、そう言われて。
ユウカは。
「ッ……!」
彼に背を向けて、その場から走り出した。
だって。
────何も、言えるわけ……ないじゃない……!!
強く、強く、歯を食いしばって。流れ涙をふくこともできず。ただ、1人。夜の街へと、消えていった。
そうして。少年は。戦いの果て、暗闇の中で。大人の悪意に抗いながら。
己のすべてと、生徒たちの未来を秤にかけて。
「一度だけで良い────」
迷うことなく。
「────俺に!!『奇跡』を、寄越せ!!!」
────『すべて』を。捨てた。
『虹』に包まれた少年は、思うがままに『
不要な『
たとえそれで、自分のすべてが失われてしまっても。それでも、自分の大切なものが守れるならば。それでいいと思っていた。そこに自分がいなくても構わないのだと、思っていた。
『みんなの中へは帰れない』
そんなことは、自分が一番よくわかっていた。『世界を思うがままにする力』なんて、あってはいけない。あるはずがない。そんなものが、誰か一人の意志に応じて、思うがままにふるわれるなんてことがあってはならない。
そんな『
だから、自分は消えなくてはならないと。そう感じていた。思っていた。だから、すべてを救った少年は、何も言わずにそこから消えて。
『色彩』に。見つかった。
逃れる一瞬の隙も無く、『ソレ』は彼の中へと入りこむ。……いや、既に『条件』は、満たされていた。それも、他の誰でもない、少年自身の手によって。
『ブルーアーカイブ』の破壊、破綻。物語の、破局。
それを、少年は、確かに成してしまったのだ。……『
『
気づいたときには、もう遅かった。
彼の意識は、だんだんと『破壊』と『破滅』。『
けれど、それでも。彼は最後まで抗うことを諦めなかった。
守った世界を、それが、どんなに歪んだ物語でも。必死に、守り抜こうと抗った。
蝕まれる意識を抑え込み、薄れゆく自己をつなぎ止め。世界の続きを守ろうと、彼は……彼自身を、閉じ込めることに決めた。
────『Nuill-Vana』の、その奥に。自らの『魂』を、組み込んで。『身体』を捨てて、眠りについた。
決して二度と目覚めぬ、『永久の眠り』と引き換えに。世界の破滅を、防ぐために。
そうして。『蒼井センジョウ』は────還らぬ人となった。
……けれど、それでも。ただ、大切な人に『幸せであってほしい』と願った、その優しい祈りは。歪んで、捻じれて。呪いへと変貌していく。
『蒼井センジョウ』を失ったユウカは。彼を必死に捜索した。
『先生』も、眠ったまま目覚めることはなく、すべてが歪んだ世界の中で。せめて自分の愛する人に、もう一度だけ会いたいと願ったユウカは、誰の制止を聞くこともなく、ただひたすらにキヴォトス中を探し回った。
『母の傍にいてほしい』という、センジョウの最後の望みも、裏切って。
『先生』を失い、だんだんと秩序が崩壊していくキヴォトスの中で、ユウカはミレニアムの生徒たちを守ることよりも、シャーレを守ることよりも、ただ、『センジョウ』に会うことだけを求め、狂ったように探し回り。
そうして、その探索の果てに。ユウカは彼の『
そこは、ミレニアム自治区における未探索地域、『廃墟』の一角だった。どこかの研究所にも思えるその建物の中を、ユウカは1人、静かに進む。
静かな、夜の帳が下ろされ、太陽の暖かさが失われ。物静かで無機質な空間は、空気がどこかひんやりと冷たくなっていた。
返事を求めて彼の名を呼び、見つけるたびに扉を開けて、ユウカはセンジョウを探す。どこにいるともわからない、そんな彼の気配をただ。
そうして、1つの扉を開けたとき。視線の先に『ソレ』を見た
────崩れた天井から降り注ぐ、月明かりに照らされて。彼は1人、Nuillを纏って項垂れていた。
「────センジョウ?」
扉が開く音は聞こえていた筈だ。しかし、彼は身動ぎひとつしない。
疲れて寝ている、というよりも、ユウカにはその姿が。
物言わぬ死人のように、見えてしまった。
「セン……ジョウ?」
恐る恐る、ユウカはセンジョウに歩み寄る。
そうして、近づいて、ようやく気づく。
彼の頬に、その手を触れて。ようやく、理解する。
「あ……あぁ……!!」
冷たく。硬く。まるで、時間が止まってしまったかのような。その感触は。
「せん……じょう……!!」
────もう。それは、『蒼井センジョウ』ではなかった。
「あああぁぁぁぁぁぁ…………!!!!」
『蒼井センジョウ』だったものに触れ、縋りつき、ユウカは慟哭する。
涙を流して、声を上げて、ただ、ただ。
『彼』の、名前を呼び続ける。
「センジョウ……!センジョウ!!ねぇ……センジョウ!!返事を、してよ、しなさいよ……!また、あの時みたいに、笑って、いつもみたいに……ねぇ、ねぇ……!!なんで、なん、で……何も言わないのよ……!!」
理由など、分かっている。知っている、理解、している。
でも。なっとくなんて。できるわけがない。
「ごめんなさい…………!ごめんなさい……、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
感情のままに、力の限り、抱きしめる。
「私があの時、逃げなければ。私があの時、貴方を1人にしなければ。私が、私が、ずっと、貴方と一緒にいたのなら────!!」
懺悔の様に、後悔を吐き、赦しを乞う。それに、何の意味もない事は。明白だった
「センジョウ……センジョウ────!!」
嘆きの声が、廃墟に木霊する。虚しく響くその声に、返す声などない
筈だった。
──反応を確認。
「……何?」
感情のない、機械的な音声が響く。
──情報照会。……完了。対象、生徒名『早瀬ユウカ』。
「……わた、し?」
その声は、ユウカの傍から発されていた。
「『Nuill-Vana』……?」
──肯定。当機体の名称は『Nuill-Vana』です。
直後、マシーンは唸りを上げて、その機体に収容していた『センジョウだったもの』を解放した。
「センジョウ……!」
ずしり、と無機質な重みがユウカへとのしかかる。よろけながらもそれを受け止めたユウカの様子を知ってか知らずか、『Nuill-Vana』はユウカへ告げる。
──勧告。……貴方には、搭乗者としての資格があります。
「私、が?」
──肯定。手を。
戸惑いのまま、ユウカは、センジョウが残したものである『Nuill-Vana』へと手を触れて────
「────ッ!」
────『ソレ』に、気づく。
ゆっくりと、抱えていた物をそこに置き。少女は静かに立ち上がる。
「──ああ」
虚ろな瞳のまま。少女は静かに『Nuill-Vana』へ歩み寄る。
「──そこに、居たのね」
そうして。
「──センジョウ」
『Nuill-Vana』を、身にまとう。
──バイタル確認。『魂』の接続状況……良好。
「ええ、そうね。……約束するわ」
全身を包み込むぬくもりに、ユウカは静かに、笑みを浮かべる。
「貴方を1人には、もう。しないから」
────『Nuill-Vana Period』。再起動します。
そうして、彼女は。パンドラの箱を開けた。
捻じれて歪んだ物語に、悲しい苦しみをこれ以上続けないために、『世界』の終止符を打つために、静かに、けれど確かに行動を始める。
────そして。道を違えた『子供』の為に、彼女は最後の力を振り絞る。
『先生』は少女の前に立ちはだかり、彼女を殺さんと『Nuill-Vana』の刃を振り上げるが。
「────私には……!センジョウに、貴方を、殺させることは……できない」
最後に残った、祈りのかけらが。
『先生』の、力になった。
そうして、『先生』は『色彩』を利用し……『もう一つ』の『
そうして。
『────俺の『
『
「全く……、あんたは。いつもいつもいきなりで、自分勝手なんだから!」
────『蒼』を。取り戻す。
「『計算通り、完璧!!』」
そうして。その果てに、1つの世界は、『
「帰りましょう。センジョウ。……私達も」
『ああ、そうだな。────『先生』が待ってる』
『彼ら』も、あるべき場所へと、帰っていった。
────世界に、『孔』が空いた。
旧ミレニアム自治区、『廃墟』の一角。……ユウカが、『Nuill-Vana』に触れた、崩れた研究所のその場所に。二人は再び降り立った。
「……帰って、来たわね」
『ああ。そうだな』
二人は周囲を見渡して、壊れた天井から、淀んだ空が覗いていた。
「それじゃ、行きましょうか」
けれど、少女は口元に小さく笑みを浮かべて空を見る。
『俺達も、やるべきことをやらないとな』
少年はそんな少女の言葉にうなずき、機械の体に力を入れる。
「『"
────これは。これは。『青空DAYS』の、『
『
青空DAYS外伝:『Phantom Period/AD』
その先にある青空を。取り戻せ。
と、いう訳で。青空DAYSの追加コンテンツ、もしくはファンディスク、ともいえる作品。
『青空DAYS外伝:『Phantom Period/AD』』
の執筆をのんびり開始します。
これは、語った通り、原作で言うところの『プレナパテス世界線』のお話です。
青空DAYSを経て、パラレルユウカとパラレルセンジョウが、彼らの世界へ戻り、『先生』を失った『キヴォトス』で、もう一度『
そこそこの長さになるので、部分けではなく、完全に別作品として投稿予定ですので、投稿されたときはぜひ一度読んでいただければ幸いです。
それでは、またいつかお会いしましょう。