青空DAYS   作:Ziz555

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 なんかひょっこり書き上がったので投稿です。

 時系列が大幅に異なるのでご注意下さい。
 具体的に言うと、本編完結から約1年後、本編中3年生たちが卒業したりした後の話になります。

 手慰みで書いただけなので、いつもの半分ぐらいの文量ですので、ご了承下さい。


センジョウとシュウコ

 

「お疲れ様です。センジョウ先生」

「おう、お疲れ」

 

 ある日のトリニティの一室に、教師と生徒が居た。

 

 その日の仕事を終えたらしい二人は、ソファーに並んで腰を下ろし、生徒の淹れた紅茶を味わいながら、その日の仕事の疲れを癒す。

 当然、その程度で肉体の疲労が万全になるわけではないが――心のコリは、一気にほどけて行った。

 

「最近はどうだ?ティーパーティーのホストとしての仕事は」

「まあ、なんとか……。ナギサ様から直々の指名があった時には、どうなることかと思いましたが……」

「ま、シュウコの手腕と人望を見て。だろうな、ナギサは“見る目”があるし」

「とはいえ、フィリウス分派を取りまとめる程の家柄では……」

「“初代当主”は何にだってある。って事だろ」

 

 簡単に言う。と、私は呆れの混じった視線を目の前の男へ向けた。それは、私なりの抗議でもある。

 

「よく頑張ってるよ。シュウコは、本当に」

「そう思うなら、ご褒美を頂きたいです」

「ご褒美?俺から?」

「はい。頑張った生徒を労うのも、先生の仕事だと思います」

 

 我ながら図々しく物言いだ。なんて、そんな思いを欠片も表情には映さず、私は強かに彼に求める。

 生徒に求められた男は、困ったように眉をハの字にして、後頭部を軽く掻いた。

 

「……今度茶菓子でも持ってくるよ」

「物で釣るなんて。手慣れてますね?」

「じゃあ、百鬼夜行の旅行券」

「そんな時間、取れると思いますか?」

「…………しばらくの当番休暇?」

「ゼロ点です」

「ゼロぉ!?」

 

 厳しい評価に、教師である男は頭を抱えてうめき声を上げる。

 こういう事に鈍いのは、昔から変わらない。

 

 ――いや、違う。

 

 分かっている。分かっているのだ、彼にとっての“一番”を。よく知っているから。

 私の心がわかるはずなどない。わかる必要はないし、分かるべきでは、無いのだから。

 

 ――けれど

 

「――ん」

 

 座ったまま、彼に向けて両手を伸ばして、体を開く。

 

 まるで幼子みたいだ。なんて、恥ずかしさを覚えてしまう。

 

「……ん?」

 

 察しの悪い彼は、私の行動に訝しげな表情を浮かべて、首を傾げた。

 

「わからないんですか?」

 

 答えは知っていても、聞かずには居られない。それは、誰の為でもなく――私の為に。

 

「ぎゅって。してください」

「……えぇ?」

 

 甘えている。私は、彼に甘えている。

 断られる事が分かっていて、これが、許されない事だと分かっていて。

 

 私が“子供”で、彼が“大人”だから。

 

 察しの悪い彼は、答えを探して、私の顔を見て。

 少しだけ、頬が熱くなるのを感じた。

 

「――冗談です」

 

 限界だな、そう思って私は両手を下ろして座り直した。

 

 答えが無いのは、分かっていた。

 

 身なりを正して、目の前の紅茶に手を伸ばす。なんだかじっとは、していられなかったから。

 

 不意に、私の頭の上に何かが、むずっと覆いかぶさった。それは、暖かくて、強引な柔らかさがあった。

 ゆっくりと、ソレが私の頭を撫でる。絹糸を梳くようにして、優しく、穏やかに。

 

 妙に手慣れていたその手つきは、愛おしいものに触れるというよりは、大切な物を傷つけんとするような、そんな大らかさがあった。

 

「……先生」

「なんだ」

「急に女の子の頭を撫でるのは、セクハラですよ」

「ンがッ!?お前なァ!!」

 

 私は頭の上にある彼の手を退かすこともせず、少しだけ、意地悪をした。

 

 だって私は、貴方の娘じゃないのだから。

 

 私の言葉に、彼の手が離れていく。柔らかな温かさが離れて行くことに、寂しさと、ほんの少しの後悔を感じた。

 浅ましいけれど、彼から触れてもらえたことが――嬉しかったから。

 

「ありがとうございます。センジョウ先生。……でも、あんまり他の子にしたらいけませんからね?」

「分かってるよ」

 

 本当にわかっているのだろうか?この人は。

 

「……本当に、変なところで気が回らない人ですね」

「悪かったな」

 

 すねたような言葉を言うのは、子供のようにも見える。

 けれど、彼は子供ではない。私と同じ、生徒ではない。

 

「……ねぇ、センジョウ先生」

 

 ふと、心のなかにしまっていた、1つの言葉が顔を出す。

 

「もし。もしも。ですよ」

 

 軽い弾みに、口を通して、形を成した。

 

「センジョウ先生がキヴォトスに来て――」

 

 それは、何度も考えては否定した。私の中の、小さな小さなわだかまり。

 

「一番最初に出会ったのが――」

 

 ――“あの人”ではなく。

 

「私、だったら――」

 

 ――私と貴方は、どうなっていたんでしょうか?

 

 

 

 いつの間にか、私はじっと、彼の瞳を覗き込んでいた。

 そして彼は、私のそんな言葉に――

 

「……ホシノと言い、お前と言い、何でそんな事を聞きたがるんだ」

「ホシノさんが?」

 

 予想外の人物の名前に、私は思わず思考が止まる。

 小鳥遊ホシノさん。現在、シャーレで教員の勉強をしている方だというのは、私も知っている。けれど、いったいどんな経緯で――。

 

「まあ。答えは同じだな、多少意味は違うが」

「……それは」

「“わからない”だ。……少なくとも、それは、その世界の俺は、“俺”じゃない」

 

 小さく首を横に振って、センジョウ先生は背もたれに大きく寄り掛かる。

 

「知ってるだろ。昔の俺が、どんな奴だったか」

「…………」

 

 ――勿論。よく、知っている。

 

「バカで、子供で、無鉄砲で。自分のことも分からないような、そんな世間知らずのクソガキだよ。ここに来たばかりの俺はな」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべながら、彼は語る。

 

 どこまでも真っすぐで、一生懸命で。迷いながら、傷付きながら、それでも歩みを止めなかった。

 

 それが――“蒼井センジョウ”。

 

「でも、そんな俺が今の俺になった理由なんて、1つしかない」

 

 そんな彼が、どうしてこんな“大人”になれたのか。なんて、そんな事。私もよく知っている。

 

 彼は優しく微笑みながら、愛おしそうにその名を呼んだ。

 

「ユウカが隣にいてくれたからだ」

 

 …………ああ。そうだ。そんな事、言われる前から――知っている。

 

「だから、今の俺は、ユウカと出会った俺だから。“俺が一番最初のユウカ以外と出会う”なんてことは、有り得ない」

 

 1人の若い少年が、1人の優しい少女に出会い。

 共に歩んで、恋をして、2人で大人になっただけ。

 

 これは、そんな単純な話だと、私は最初から――知っていた。

 

「……そう、ですね」

 

 けれど、それでも。そんな分かりきった言葉があると知っていても。私が言葉にしたのは。

 

「センジョウ先生」

 

 私は、精一杯の笑顔を浮かべて、彼に言う。

 

「ありがとう、ございます」

 

 ――これできっと、私も大人になれるから。

 

 

 

 今日の紅茶は、なんだかちょっぴり、苦い味がした。





 別タイトル案:シュウコのメモロビ

 ちなみに、ホシノがセンジョウに「もしも」を聞いたのは、原作のアビドス3章に当たるストーリーの話です。
 それは、現在ちまちまプロット作成中の“アビドス大火編”の話になるのですが……、それはまた別のお話。

 また次の機会にお会いしましょう。それでは。
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