お久しぶりです。
少しばかり書きたいことが出来ましたので、懲りずにまたここに帰ってきました。
良ければまた是非、お付き合いください。
“2号機”
「2号機?」
エンジニア部のウタハの呼び出しにより、ミレニアムへと出向いたセンジョウを迎えたのは、彼女と、その後に鎮座するパワードスーツだった。
ウタハは、怪訝そうに視線を向けるセンジョウに対し、自慢気に胸を張りながら彼の問いに答えを返した。
「そう。私が開発中の新型さ」
「新型なのに2号機ってのはおかしくないか?」
「そうは言っても……コレの基礎設計とパーツはとある物から殆ど流用しているからね。完全新規製造と言うよりは、余剰パーツから作られた2号機という方が正しいのさ」
「というか、そもそも“何の”2号機なんだよ……」
そう言われて“2号機”へと視線を向けたセンジョウは、その造形をじっくりと眺めていると、それになんとなくの既視感を覚える。
アビ・エシュフの様な装着型のパワードスーツではあるが、背部ユニットを基軸に四肢がより増強されているため、それらより2回りほど大柄に見えるその機体を、センジョウは知らない……筈だった。
――鈍く光る装甲と、無骨な鉄の箱のようにも見える外観。
“ソレ”を、たしかにセンジョウは知っていた。
「――“Nuill-Vana”?」
「おや、言われずとも気づくとは。さすがは初号機のパイロットだね」
センジョウの言葉に、ウタハは少し目を丸くしてから静かに頷いた。
「君の推理通り、コレは“Nuill-Vana”の予備パーツをベースに再設計、量産に向けてマイナーチェンジを試みたものさ」
「“Nuill-Vana”を量産……?」
ウタハの放ったその言葉の意味を咀嚼しきれなかったセンジョウは、自分でその言葉を口にすることでようやく、改めてその言葉の意味するところを理解した。
「はぁッ!?Nuillを、量産!?!?おまっ、正気か!?」
――“Nuill-Vana”。それは、蒼井センジョウが駆るマシーン、“Naill-VanaDis”の前身となる機体であり、そして同時に、彼とユウカにとって大切な一人娘である“ナル”を産み出した、超常的なパワードスーツだ。
その技術は、キヴォトスが現在の姿になるより以前に存在していた超高度な文明が残した遺産でもあり、現在のキヴォトスの科学力では完全な解析を行うことが出来ない。と、ミレニアム最高の頭脳をもつ生徒の1人でもある明星ヒマリが評しているほど。
そして何より――、“Nuill-Vana”には、人智を超えた力が秘められている。
「“Nuill-Vana”だぞ!?お前、その意味解ってんのか!?」
――“奇跡へ至る技術”。それが、Nuill-Vanaの本質であり、それがどの様な末路を辿るか。センジョウはそのパイロットであったからこそ、痛いほどに理解できていた。
驚愕に染まるセンジョウの表情に対して、ウタハは静かに首を横に振る。
「まさか。そんな事は私だって理解しているし……だからこその、“マイナーチェンジ”と言ったんだよ」
「いや、でも――」
「安心してくれ。この2号機に、“Nuill-Vana”のコアシステムは搭載されていない。……もっと厳密に言えば、再現できなかった。という方が正しいけれどね」
『再現できなかった』と言う言葉を言う瞬間のウタハの表情が、非常に悔しげに見えた事に、センジョウは白い目を彼女へ向ける。その様子は、『完全再現できるものならやりたかった』と言わんばかりの態度だったからだ。
そんなセンジョウの視線に気づいたウタハは、誤魔化すように一度、大きく咳払いをして、“2号機”を指し示す。
「“Nuill-Vana”の装備メンテナンスを行っていたのが誰か。センジョウくんは覚えているかい?」
「“Nuill”のメンテナンス?そりゃ、他の誰でもないお前――あっ」
「気づいたみたいだね」
“Nuill-Vana”のメンテナンスや新装備の開発を請け負っていたのは、ミレニアムのエンジニア部――つまり、今センジョウの眼の前で薄い胸を張る少女だ。
そして、ソレと同時に、センジョウは“Nuill-Vana”の特徴を思い出す。
「“Nuill-Vana”の特異性は、殆どそのコアブロックとジェネレーターにある。裏を返せば、ジェネレーターからエネルギーを供給される事で稼働する各パーツに関しては、私達でも解析や開発が可能な領域の技術なんだよ」
「ヴァナディースユニットも、結局最初はお前とナルの共同開発だったもんな」
「物質的な所は、ね。今の君が装着している物は、もはやそういう次元を超えてしまっている訳だが」
“ヴァナディースユニット”。それは、現在のセンジョウが駆る、“Naill-VanaDis”の片割れのユニットの事だ。
脚部に装着する、レッグアーマーの様な外見の武装。そして、それと共に展開される、一対の大きな盾のようなバインダーユニットが“ヴァナディースユニット”の形状であり。それは“Naill-VanaDis”の防御機能を司る装備だ。
特殊な力場を操る事で単独浮遊を行うバインダーには、パルスフィールドの発生装置が仕込まれており、強力な障壁を自在に展開することができる。
それらは、ナルの手助けがあったとは言え、“Nuill-Vana”のこれまでの武装を開発してきたウタハが、自らの技術で作成したユニットであることに間違いはない。
最も、“Nuill-Vana”が“Naill-VanaDis”に進化するにあたり、それらは現実世界から一時的に質量を消失させ、センジョウやナルの意思に応じて任意に展開――もとい、“召喚”されるような事象を引き起こす事態となっている為、もはや“技術”の領域を逸脱してしまったのだが。
「だが、“Nuill-Vana”が発掘され、君の手で起動されたことによる、大きな技術的な進歩はたしかにあったのさ」
「進歩?」
「わかりやすい所だと、“パルスフィールド”だとかね。あれは物理的な防護障壁ではないから、防御性能と視認性を両立させつつ、稼働も阻害しない。その使用上、パイロットが剥き出しになってしまう“ゴリアテ”なんかよりよほど安全だ」
「あー……。何気なく使ってたから気づいてなかったけど、言われてみりゃ確かに普通の盾や装甲に比べたらそういう利点があるわな」
「だが、もちろん欠点もある」
そう言って、ウタハは2号機の背後を指し示す。その示された先をセンジョウが見ると、そこには太いケーブルがあり、2号機とその背後にある大型の機材を繋いでいた。
「固定用……にしては長いよな?」
「送電用ケーブルさ」
「送電用かぁ……。…………送電用?」
ある程度の長さが担保されていたその“送電用ケーブル”を見たセンジョウは、ウタハの表情を伺う。
視線を向けられた彼女は、少し苦笑いを浮かべたまま首を横に振った。
「送電用だよ。……“2号機”はね、単独での稼働が不可能なんだ」
「……なんとかならなかったのか?」
「無理だね。……“Nuill-Vana”の機能を再現するのにも出力不足で、各パーツに小型のジェネレーターを搭載して無理やり稼働するところまでは漕ぎ着けたんだけれどね。その結果、ジェネレーターを守る為に各パーツの装甲は厚くしないといけないし、ジェネレーターを動かす為のエネルギー源をコアブロックに取り付けるにしても、携行可能な範囲の物じゃ全然稼働には到らない」
“2号機”の外観は、“Nuill-Vana”と比べて非常に大柄である。その分、装甲の厚さや重厚感から来る、“見た目の威圧感”は本家のそれと比べて圧倒的であったが――。その実、それは再現不能の技術のしっぺ返しを受けた肥大化でしか無かった。
「挙げ句、肥大化した装甲を動かす為の推力もギリギリで、飛行はおろか、跳躍も不可能だ。むしろ、脚部のキャタピラと全身のスラスターで無理やり姿勢制御をしてる程でね。とてもじゃないが、単独運用なんて出来たものじゃない」
「……つまり?」
ウタハは、肩をすくめながら両手を小さく上げて、静かに首を振る。
「悔しいが……欠陥機だね。完成に到ることの無い、失敗作になってしまった」
その言葉を聞き、センジョウは安堵と、何処か腑に落ちる物を感じた。
“Nuill-Vana”を量産する。なんてことは――あってはならないのだから。
そんな安心とともに、センジョウは腰に手を当ててから溜息を1つ。
「で。じゃあなんで俺をここに呼んだんだ?」
「コレのテストパイロットを頼みたい」
前言を撤回する羽目になった。
「テストパイロット!?おまっ、失敗作なんだろ!?」
「なに。発明と開発に失敗はつきものさ。大事なのは、そこから何を学ぶか……。つまり、データの収集は大事だと、そうは思わないかい?」
「いやそうかも知れないけど!」
先程までの雰囲気とは打って変わって、あっけらかんとした様子で話すウタハに対し、センジョウは目を白黒とさせた。
そんな慌てぶりのセンジョウをみて、高らかな笑い声をあげたウタハは、呼び寄せた雷ちゃん――ウタハの従える自動操縦ロボットだ――に腰を下ろす。
「まあ、そう急ぎの話と言うわけでもない。キミの都合のいい時に、適当に力を貸してくれればそれでいいのさ。どのみち、私の一存で動かす事はできないのだからね」
「…………」
「気は進まないかい?でも、まだ君の目の届く範囲で事が進んている方が安心できると思っているのだけど」
「とりやめてくれるのが一番安心できるけどな」
「あっはっはっはっ」
わざとらしい笑い声をあげるウタハ。……どうやら、言葉にする必要すらないらしい。
センジョウは大きく1つため息をつくと、腰に手を当てて背筋を伸ばした。
生徒の“お願い”を聞くのも――“先生”の役割だ。
「しゃーない。付き合ってやるよ。ただし、無謀な事はさせねぇからな?」
「勿論だとも。“監督の先生”がいるのに、わざわざ怒られるような真似はしないよ」
「部活の顧問は出来ないからな」
「見習いからやりなおしと言うのは、大変そうだね」
――“蒼井センジョウ”は、“先生”ではない。
だが、それは彼が先生になれない。という話ではない。
キヴォトスを襲った未曾有の大災害。空が紅く染まったあの事件の際、センジョウは持っていた立場や権力のすべてを一度手放してしまった。
“
そう感じて、一度すべてを手放した。そして、手放したからこそ手に入れた。今の“蒼井センジョウ”という自分の中で、それでも彼は――やはり“
「大変だけど、やるしかないさ」
「それは、使命感かい?」
「まさか」
ウタハの言葉に、センジョウは肩を竦める。
「やりたい事をやる為に、必死になるのに……大人も子供も関係ないだろ?」
子供じみた憧れでもなく。大人のしみったれた妥協でもなく。
“彼”の瞳に、迷いはない。
「……羨ましいな」
「なら、ウタハもやればいいさ。……やりすぎない限りは、見ていてやるよ」
「ふふっ。そうか、そうだね。……そうさせてもらうよ」
ふと、センジョウの携帯が鳴る。
彼はウタハを一瞥し、察したウタハは静かに頷く。
軽く一礼をして、センジョウは電話を取ると、いくらかのやりとりをして、通話が終わった。
「悪い、やることがあるから、テストパイロットは又今度な」
「構わないよ。忙しい身を引き留めて悪かったね」
「こっちこそ構わねぇよ。それが俺の“やること”だ」
その言葉を最後に、別れを軽く告げたセンジョウは、部屋をあとにするべく踵を返す。
「センジョウ」
そんな彼の背中に、ウタハが彼の名を呼んだ。
彼は、立ちどまり、首だけを振り返る。
何となく、ウタハは彼にこう告げた。
「変わったね。キミ」
そんな言葉に、センジョウはニッと笑みを作った。
「だろ?」
という訳で。青空DAYS2、第一部『月兎抜駆』の開幕となります。
とはいえ、今の自分は青空DAYSを書き始めた頃と違い、他にもろもろ書くもの書きたい物がある身の上になっておりますので……。
これからの話しは“完全不定期更新”とさせていただきます。
そもそもが“青空DAYS”という完結した話のダラダラやる延長戦みたいな話なので、全然無くてもいい話ばかりとなっています。
余計な蛇足を、それでも楽しんでくれる方がいたのなら、それはとても幸せなことだと考えております。
良ければ、またセンジョウ君とみんなの“この物語”にお付き合いください。