実はまだエタって無いんですよ(小声)
キヴォトスD.C.地区、子ウサギ公園。そこは都心にある緑豊かな公園であり、市民たちの憩いの場として愛されている施設。
そして同時に、現在は
センジョウは1人、とある目的の為にそんな場所を訪れていた。
「よっ」
「……誰かと思えばセンジョウか、よく来たな」
ビニール袋片手に野営地を訪れたセンジョウを迎えたのは、SRT特殊学園の1年生。RABBIT小隊のコールサイン“RABBIT2”、空井サキだった。
SRT特殊学園。それは、連邦生徒会直属の特殊部隊の育成と所属を目的とした特別な学校
連邦生徒会長の失踪とともにその組織としての価値を問われ、現在は閉鎖されている。
それに伴い、殆どの生徒は他校への転校を行ったのだが、RABBIT小隊の面々はコレに反抗。STR特殊学園の閉鎖取り消しを訴えてデモ活動を行うこととしたのだ。
そして、子ウサギ公園はそんな彼女たちのデモ活動の拠点となっていた。
“公園の不法滞在”という、あまり褒められない事をしている生徒達がRABBIT小隊となる訳だが。そんな彼女達とセンジョウにはとある縁があった。
それは、RABBIT小隊が子ウサギ公園に野営地を築いてすぐの頃の話であり、まだ“蒼井センジョウ”という少年が己の価値を見失っていた頃の話だ。
迷える生徒達であるRABBIT小隊の面々を救う為、“先生”の立ち居振る舞いをなぞり上げたセンジョウの指導により、RABBIT小隊はヴァルキューレ警察学校の不祥事を暴くことに成功。その成果も相まって現在は彼女達のデモ活動は不問となっており……言ってしまえば、彼女達RABBIT小隊にとって“先生”は恩人と言える状態だった。
「あ……センジョウさん……来てたんですね」
「おはよう、ミユ」
「ここんとこよく来るよね〜。暇なの?センジョウくん」
「仕事と言えよ、モエ。ほれ、その証拠に補給品だ」
サキに先導されるままにセンジョウが訪れたのは、彼女達が寝食を行うためのテントが張られている中心地であり、そこには他のRABBIT小隊の面々が居た。
コールサインRABBIT4。影の薄いスナイパーの霞沢ミユ。
コールサインRABBIT3。後方支援担当の風倉モエ。
2人はセンジョウの差し出した
「こ、コレは……!お肉!?」
「しかもただの肉じゃ無いぞ?高級の霜降り牛だ」
「すごい……こんなお肉、見たことないです……」
「やたらと自信満々だったのはそういう理屈か……」
ニヤリと笑うセンジョウを見て、サキはあきれたように頭を抱えて首を振る。だが、ミユとモエの注意は完全にお肉へと向けられており、センジョウの狙いが十分に達せられている事は明らかであった。
「少し安直すぎやしないか?物で釣るような真似は褒められないと思うぞ」
「まあ、狙いがない訳じゃないが。労いたいってのも本心だよ、詫びの意味もある」
「
それはセンジョウ自身の過ちに起因するものであり、彼が働いた不義理が原因だった。
それは些細な、よくある青い過ちで。実際の所、今の彼女たちとセンジョウのやり取りをみて分かる通り、サキ達はその不義理をもう許しており、過去の事だと水に流している。
——ただ。
「——何をしに来たのですか。蒼井さん」
酷く冷たい、突き放すような声がセンジョウへと向けられた。
声の主の方へセンジョウが視線を向けると、テントの入り口付近に一人の少女が立っていた。
雪のように白い髪を持ち、氷のように澄んだ水色の瞳を持つ少女の冷たい視線がセンジョウへと向けられていた。
コールサインRABBIT1。RABBIT小隊の体調を務める少女、月雪ミヤコがそこに居た。
「差し入れだよ、ミヤコ。お前もどうだ?」
「必要ありません」
ミヤコはセンジョウの提案を一蹴し、視線をその横に立つサキへと向けた。
「……賄賂を受け取る様な真似はすべきではありません」
「賄賂なんて大層なもんじゃない。ただの食料だ」
「厚切りのお肉だよ〜。やっぱりステーキ?それとも少し凝った物にチャレンジしちゃう?」
「ミヤコちゃんも、一緒に……」
「…………」
センジョウを挟んで向こう側。キャンプ中心地で彼の差し入れを取り巻くモエとミユ、そして、センジョウの横で腕を組んでいるサキ。
そんな同胞たちを……ミヤコは静かに見渡してから、再びセンジョウへ視線を向けた。
「性懲りもなくご機嫌取りに来たんですね」
「ご機嫌取りって……、俺は単に謝罪を兼ねて差し入れをだな」
「謝罪?あなたが?」
「……迷惑かけたからな」
「何が迷惑だというのですか。私達は貴方の指導の元で
センジョウの謝罪を否定する言葉を挙げながらも、ミヤコの声音は冷たく、厳しい。
「貴方の行為や言葉は
「…………」
——RABBIT小隊のデモ活動が認められるに至った事件の解決に際し、そのサポートに当たっていたセンジョウについても、相応の評価と世間からの信頼を獲得する事ができた。
それまでは半人前の先生モドキとしか見られていなかった彼は、その功績によって名実ともに多くの生徒達から“先生”として受け入られる事ができるようになった。
それはつまり——。
「互いの利のために互いを利用する。貴方がしたのは、そういう事です」
——“大人”の、やり方だ。
「……ミヤコ、俺は」
「私たちを騙すつもりはなかった。ええ、そうかもしれませんね。貴方の指導は確かに
当然だった。
センジョウがミヤコ達RABBIT小隊と接する時に徹したのは、“蒼井センジョウ”としての在り様では無く、“先生”の行動の完全な模倣。
“生徒”を守り、導く最善の“選択”。
その、
それは——欺瞞でもあった。
なぜなら、その選択は、その在り方は。
「蒼井さん」
センジョウの選択の善悪を問うならば、どうしようもなく“正義”に属する行為だと言うことぐらい、ミヤコにも分かっていた。痛いほどに、恨むほどに、狂おしい程に。
だからこそ、自らの
「既にお伝えしたとは思いますが——」
「——私は、貴方のような人の事が嫌いです」
——月雪ミヤコは、蒼井センジョウを嫌悪する。
「…………」
「感謝もしています。恩義もあります。貴方に罪は無いのでしょう。……ですから、銃口を向けることはしません」
だが、だからといって——目の前の男を赦せる筈がない。
一度は信じた、その信頼も、優しさも、言葉の一つでさえ。
全てが、ただの模倣で、偽りだった。
「……ミヤコ」
「差し入れ、ありがとうございます。お帰りください」
「俺は」
「
——明確な拒絶。
全てを断ち切る氷の心が、センジョウの前に立ちはだかっていた。
——それはすべて、センジョウの選択の……責任だった。
「……又、来るよ」
「結構です。お帰りの際はお気をつけて」
ようやく諦めてキャンプ地を後にするセンジョウに、ミヤコは強張っていた肩の力が抜けて行くことを感じた。
いつの間にか銃を握る手に入っていた力も抜け、一つ大きく溜息をついた。
「なぁ、ミヤコ」
「なんですか、サキ?」
センジョウが去った後、呆れたように眉をハの字にしたサキがミヤコへ声をかけた。
「いい加減、許してやったらどうなんだ?センジョウだって悪気があった訳じゃないんだろ」
「悪気が無ければ、人を騙すのも許されるんですか?」
「それは……違うけど」
センジョウの“嘘”については、ミヤコ含めRABBIT小隊全員が知っている事実だ。
ある日突然野営地へと現れたセンジョウが、それまでとは全く異なる立ち居振る舞いをしながら四肢を地につけ、額を地面へ擦り付けていた姿は記憶に新しい。
結局の所、RABBIT小隊の前に経っていたのは“先生”の影としてのセンジョウであり、偽りの仮面で接していた事を謝罪して始めて、RABBIT小隊と蒼井センジョウと言う少年は知り合いとなったのだ。
当然、最初は騙されていた事に傷つきもした。疑いもした、衝撃も受けていた。
しかし、蒼井センジョウと言う少年がまだ未熟であり、彼も彼なりに努力をしているのだとその熱心な姿を見て理解したサキ達にとって、“蒼井センジョウ”という少年は信頼に値するものであると考え、受け入れるに至っている。
ただ一人、月雪ミヤコを除いて。
「私達だって、“正しい事”だけをしてる訳じゃないんだ。間違うことだってそりゃあるだろ」
「…………」
ミヤコは、サキのこちらを諭すような言葉に、静かに手を強く握った。
「私達のこの抵抗だって……褒められたものじゃない」
「それは……」
「でも、それでも。私達のやりたい事の為に必死にやれる事をやってる。そういう意味なら、私達もアイツも、そんなに変わんないんじゃないか?」
“STR存続の為のデモ活動”。それが正しいか正しくないか等というのは……言うまでも無い事だ。
目的のために手段を選んでいないのは、互いに同じはずだった。
けれど。
「……私は、彼を許すことができません」
「ミヤコ……」
理屈ではないのだ。ミヤコの思いは、怒りは、憤りは。
心に掲げた、強く焦がれる“正義”を。
あの人となら、成せるのでは無いかと。そう思っていたのに。
——すまん!!俺は、お前たちが思ってるような男じゃない!!!!
子供のような軽い口調に、思慮深さとは無縁そうな表情。
情けなく、無様に、白い白衣を泥で汚しながら頭を垂れる愚かな姿。
“正義”とはかけ離れた、みっともない男。
その姿を見て——ミヤコは。
「私は……」
正義に焦がれた少女の心は。
「……あの人が、キライです」
確かに——深く傷ついたのだから。
ミヤコとセンジョウの相性良いよなーとか思いながら書いてます。