青空DAYS   作:Ziz555

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原作通りのシーンをかっ飛ばすとこんなにテンポが早い


カウンター・アタック

 ……黒服との取引から数日がすぎ、翌日に試験が迫った夜、センジョウは一人、トリニティの学園の本校舎敷地全てが見下ろせる時計塔の上に立っていた。

 

 その身には、ヌィル・ヴァーナを纏い、臨戦態勢を整えている。

 

「こちら、コードNull。周囲に変化はない」

『こちらにも反応はありません。引き続き警戒を』

「了解」

 

 センジョウと黒服は、ヌィル・ヴァーナに備えられた回線ではなく、古ぼけた無線機をつかって、やり取りをしている。

 当然、ヌィル・ヴァーナのログ機能も切っているし、彼らのやり取りが記録に残ることはない。

 これは、あくまでも『蒼井センジョウの単独行動』。それが、黒服とセンジョウの決めた設定だった。

 

 その為に、お互いが接触した記録を全て残さぬように徹底する。それも、先生を護るために下した決断だった。

 

『時間も大分遅い。周囲に残っているのは、最早警備の正義実現委員会ぐらいのものでしょう』

「みたいだな。これなら、多少の人数が固まって動いても人目にはつきにくい」

 

 ヌィル・ヴァーナのサーチモードを使い、バイザー越しに見通すセンジョウにとって、闇夜に紛れた行動はすべて確認できる。

 しかし、それでも敷地内の全てを監視できるわけではない。故に、黒服も自身の手段で用意した装置を用いて索敵を分担していた。

 

 方法や、内情は探らない。それが互いの線引きであり、契約だ。

 

『……最早いつ動きがあってもおかしくありません。最後に段取りを確認します』

 

 センサーの数値に注視しつつ、センジョウは黒服の言葉に耳を傾ける。

 

『私達は無関係であることを主張するため、戦闘行為突入の直前にはこの無線機は速やかに破壊、放棄すること。当然、私の出来るオペレーションは索敵までとなります』

「……標的は、アリウスの一般生徒ではなく、聖園ミカ一人。可能な限り無駄な戦闘を避けつつ、とにかく指示系統の破壊を優先する」

『ただし、戦闘行為へ突入するのは、彼女とアリウスの繋がりをおさえてから。……アリウスをとかげの尻尾とされる可能性もあります。万全を期すように』

 

 淡々と情報を確認する二人。そこには感情の入る余地はない。そして、そんな隙も、余裕もこの作戦には存在しない。

 

『最後に、忠告を一つ』

「……なんだ」

『聖園ミカはトリニティでも屈指の実力者という情報もあります。……事前確認がないのは不安要素ではありますが、いざと言う時には『調整剤』を使用してください』

「…………」

 

 センジョウは、黒服から渡された物の中で、『調整剤』だけは唯一使用をしていない。たとえ、誓約書による安全弁があったとしても、使わないで済むに越したことはない筈だからだ。

 

『……貴方が負ければ、この作戦は失敗します。ゆめゆめ忘れぬよう、お願いします』

「……わかってる」

 

 黒服の言葉に、自分を言い聞かせるように答える。

 

『……反応がありました、……しかしこれは……?』

「どうした」

 

 黒服の様子に異変を感じたセンジョウは、センサーから意識を離す。

 

『……アリウスの動きが乱れているかもしれません、どうやら襲撃計画に異変が生じている様子です』

「……オヤジだな」

『そう考えるのが自然でしょう、座標を送ります。……では、これを最後の通信としましょう』

 

──システム、通常モード移行。

 

「座標を確認した、作戦行動に移る」

『武運を祈ります』

 

 座標データを確認したセンジョウは、ぺきゃり、と無線機をヌィル・ヴァーナのマニピュレーターで押し潰した。

 

「お前に祈られるぐらいなら、まだ死神に乞うほうがマシだ」

 

 そんな悪態をつき、センジョウはヌィル・ヴァーナの炉に火を入れる。

 

──システム、戦闘モード移行。

 

「コード:ヌル。ヌィル・ヴァーナ、作戦を遂行する」

 

 

 トリニティの夜空に、緋色の閃光が走った。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 作戦通りに、桐藤ナギサを保護し、アリウスの襲撃を退け、あとは、正義実現委員会の到着を待つのみ。

 ……そんな彼女達の前に現れたのは、アリウスの大群を率いたミカだった。

 

"ミカ……?"

「やっ、久しぶり先生。また会えて嬉しいな?」

 

 それが当然であるかのように、彼女は語る。

 

「正義実現委員会は動かないよ。私の名前で改めて待機命令をだしたから」

 

 それは、補習授業部の全員にとって、絶望の言葉。

 

「今日、学園が静かだったのは、私がティーパーティーの名前で、出来る限りの足止めをしたからなんだ。ナギちゃんを襲う邪魔されたら困っちゃうし」

 

 生徒を信じる、先生にとっての、悲劇の言葉。

 

「ティーパーティーの一人……聖園……ミカ、さん」

「うん。そうだよ。『黒幕登場!』ってところかな?」

 

 そして────

 

 

 

「私が、本当(・・)の、『トリニティの裏切り者』」

 

 

 

 

───それは、彼の戦いの狼煙。

 

 

 

 

『下がれ!!』

 

 

 

 

 突如、体育館に響く声に、その場にいた全員が天井を見上げた。

 

 次の瞬間、爆音と共に天井の一部が崩壊し、ミカの頭上へと降り注ぐ。

 

「下がってください!先生!」

 

 ハナコに手を引かれ、後方へと距離をとる先生。

 対するミカは、羽のような身のこなしで瓦礫と、共に落ちてきた(・・・・・・・)それを回避した。

 

 土埃の中にぼんやりと浮かび上がる影は、ゆっくりと立ち上がると、眼前の敵を捉える。

 

「よお、『久しぶり』だな。聖園ミカ」

「……驚いちゃった。随分派手なオモチャだね。先生に買ってもらったの?センジョウくん」

 

 ヌィル・ヴァーナを纏った蒼井センジョウが、そこに立っていた。

 

「敵……!?」

「待ってくださいアズサちゃん!」

 

 銃を向けるアズサを、ヒフミが制止する。

 

「センジョウって……もしかして」

 

 物々しい武装のみが見える背中からでは、その男の顔を見ることはできない。

 だが、コハルはたしかに、ミカの口にした名前に聞き覚えがあった。

 

"センジョウ!?どうしてここにいるの!!"

「悪いオヤジ。説明は後だ。……さすがに余裕が無さそうだからな」

 

 いつになく声を荒くする先生に、センジョウはいつになく冷めた声を返す。

 

「聖園ミカは、俺が止める」

 

 その言葉に、ミカは張り付けたような笑みを浮かべた。

 

「……へぇ。随分な自信だけど、私、結構強いんだよ?」

「あいにくコイツも、知り合いの自信作でな。……負けねぇよ」

 

 センジョウも同じように、不敵に笑う。

 

 

──一瞬の静寂は、小石の落ちる音で崩れた。

 

 バーニアを吹かし、真っ向から突撃するセンジョウに対し、ミカは装甲に覆われていない、センジョウの生身の体へ向けて銃を発砲する。

 

 完全な直撃コースの弾丸は、しかし、センジョウに届くことはない。

 

 見えない斥力に弾き返された弾丸は床のタイルへと突き刺さり、センジョウはそれらをものともせずミカの懐へ潜り込んだ。

 

「場所を変えさせて貰う」

 

 ミカの胴体めがけて、マニピュレーターを動かし、そのままミカの身体を突き上げるようにして持ち上げる。

 当然、ミカもそれに対応して腕で直撃を防ぐが、そこも織り込み済みだ。

 

「出力、全開!」

 

 ヌィル・ヴァーナのブースターを全開で吹かし、跳躍と共に上昇のためのエネルギーに変換する。

 

 そのまま、センジョウが降ってきた穴めがけて突き進み、屋根の上へと飛び出した。

 高度の頂点へと至った頃、ミカの右手がヌィル・ヴァーナを掴んでいた。

 

「デートのお誘いなら、もっとスマートにやらないと、だめだよっ!!」

 

 そのまま、ミカは力任せに腕を振り抜き、センジョウを放り投げる。

 投げられたセンジョウは、急激な遠心力に歯を食い縛りながら、姿勢を整え、銃口をミカへ向ける。

 

 放たれた銃弾を回避するため、ミカは、屋根の上を蹴り、素早く身を翻す。

 空中で照準の甘い、センジョウの弾丸を避けつつ、反撃を欠かさない。

 

 ミカに投げ飛ばされたセンジョウも、なんとか着地をすると、体勢を立て直す。

 

 しかし、その一瞬を見逃すミカではない。

 

 鋭い弾丸と、正確な狙いが、ミカのサブマシンガンから繰り出される。

 

「チイッ!!」

 

 センジョウは直撃を防ぐために、アームを遮蔽代わりに前方へ動かすと、装甲の斜面によって弾丸は受け流された。

 しかし、それすらミカにとっては隙になる。

 

「さっきは直撃コース無視したのに、ちゃんと護るってことは……」

 

 いつの間にか、今度はセンジョウの懐にミカが立っていた。

 

「……さっきのバリア、限界があるんでしょ♪」

 

 銃を握っていない方の拳が、センジョウへと振り抜かれる。

 

 バジィッ!!という、独特の音と共に、何らかの障壁を貫いたその拳は、そのままセンジョウの身体の中心へと突き刺さる。

 

「がはっ……!?」

「ほぉら……大、正解っ!!」

 

 芯を捉えた感触のミカは、全身の力を込めてそのまま拳を振り抜くと、ヌィル・ヴァーナごと、センジョウは凄まじい速度で吹き飛ばされた。

 

 ズガァン!という、大きな音とともに、併設された校舎の外壁へ叩きつけられ、その壁を貫いて校内へ押し込まれたセンジョウは、瓦礫に埋もれながら、肺から叩き出された空気を、大きく吸い込んだ。

 

──なんだ、この実力差……

 

 ミカと、センジョウの間には、明らかな、それも、あまりにも大きな戦力の溝があった。

 

 トリニティでも指折りの実力者。その話は聞いていた。キヴォトスでも有数のマンモス校で、それほどの評価なら、間違いなく彼女が上澄み中の上澄みであることなど、想定していた。

 

 だが、しかし。これは、あまりにも。

 

──違い、過ぎる。

 

 攻撃の速さ、正確さ、隙の無さ、判断力の高さ、そして何より……一撃の重さ。

 

 ヌィル・ヴァーナの備える電磁障壁、『パルスフィールド』は、並大抵の衝撃は全てを相殺し、銃弾程度であれば、しばらくの間直撃をくらい続けたところで支障は出ない。

 

 だが、ミカの一撃は、ヌィル・ヴァーナの最終防衛ラインとも言える、センジョウの身を護る唯一の機能であるその盾を、易々と突破してきた。

 

──パルスフィールドの再充電までの時間は……

 

 一度全損したパルスフィールドが再展開するまでには、1分程のリチャージを必要とする。

 しかもそれは、ジェネレータの出力を移動や攻撃に回せば回すほど遅くなる。

 

 

──次、同じ攻撃を貰えば。確実に死ぬ。

 

 

 死ぬのが恐いわけではない。だが、それでも、どんな手を使ってでも、センジョウは勝たなければならない。

 

 

──ああ、そうだ。

 

 

「どんな手を……使ってでも!」

 

 

 

 

 

「うーん……良く飛んだなぁ」

 

 ミカは体育館の屋根の上で、崩れた校舎の壁を眺めていた。

 追撃はできるが、大口を叩いた割に大したことがないと感じていたセンジョウの強さから、ミカはその必要を感じていなかった。

 

「まあ、確かにちょーっと驚いたけど。所詮はオモチャ頼りだし、しかたないか!」

 

 アリウスとの連携さえしてしまえば、敵ではないだろうと結論付け、先生達のもとへと戻ろうとした時。

 

 

「待てよ」

 

 

 ……振り返れば、満身創痍な姿の蒼井センジョウがそこへ立っていた。

 

「まだやるの?あんまり時間もないし、寝ていた方がセンジョウくんも痛くなくて良いとおもうんだけど?」

「生憎、そうもいかなくてな」

 

 

 センジョウは、懐から『調整剤』を取り出す。

 

「……取って置きってやつだよ」

 

 それを左胸に突き立てると、そのまま体内へと注入する。

 

 

 

 

──ドクン。と、大きく自分の心臓が跳ねるのを感じた。

 

──耳につく、雑音がすっと薄れていくのを感じた。

 

──どこまでも自分の感覚が広がっていくのを、確信した。

 

 

 

────搭乗者とのリンク率、上昇を確認。

────75……79……80……88……92…………

 

 

 

────…………脳波同調率、97%での安定を確認。

 

 

────闘争の意思を確認『ヌィル・ヴァーナ』、最大稼働モードへ移行します。

 

 

 

 

 ヌィル・ヴァーナのジェネレータが、熱を放つ。

 

 全身に備えられた、エネルギーラインが、中心から、じわじわと赤熱していく。

 

 

 

 ジェネレータから溢れるエネルギーが光の粒子となり、ジリジリと音を立てながら、回り、加速し、回転し。

 

 

 

 

 

 

 円環を、成した。

 

 

 

 

 

「……私達の真似?大道芸にしても、もう少しいい演出があると思うな」

 

 

 ヌィル・ヴァーナの全身に走るエネルギーラインは、まるで生き物に流れる血流のように、赤く、揺らぎながら発光し。

 

 その背部ジェネレータより漏出したエネルギーの粒子は、ジェネレータの回転にあわせて高速で回転し、光の円を成す。

 

 

 その姿はまるで。

 

 

「ヘイローを持った血みどろの悪魔みたいだよ?」

 

 

 

 行き場を失ったエネルギーが、赤い陽炎となり、ヌィル・ヴァーナの周囲を漂い、センジョウの身体を包んでいた。

 

 

 

「…………3分だ」

 

 

 

 

 

「3分で終わらせる」





ちなみに、センジョウのコードネームは

ヌィル(Nuill)から自分(i)を抜き取った無(Null)という意味。
作戦に自己は必要ないからね。
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