救いは……ありまぁす!!
───ああ、腹へった。
茫然自失のまま、センジョウは道を進む。
装備していた筈のヌィル・ヴァーナは、センジョウの衰弱を関知し、装備を強制解除して、ミレニアムへと自動帰還してしまった。
────眠い。
ふらふらとした足取りは、まるで幽鬼のようで、今にも倒れそうになりながら、それでも、歩き続ける。
────帰って、シャワー浴びたい。
『調整剤』の反動だろうか。全身を激痛が走り、歩く度に身体が悲鳴を上げているのがわかる。……だが、いまは、その痛みが遠退く意識を繋ぎ止めていた。
────帰るって、どこに帰ればいいんだろ。
シャーレにはもう戻れない。ミレニアムもべつに自分の居場所ではない。
────なんか、疲れたな。
どこへいけばいいのか。何処へ向かうのか。
────俺は……何を目指していたんだっけ。
怒りのままに、感情のままに、ただ、衝動的に動かしていたからか、なにもわからなくなっていた。
────どうでもいいか。
どうせもう、自分を見ている人はいないのだから。
そんな思いが、トドメになった。
足が止まる。
もう、止まってはならない理由はなく。進む理由も、存在しなくなっていた。
────姉さん、兄さん……。
愛する家族の顔を浮かべる。……わかっている、あの場の父は、先生として、生徒である自分の非を咎め、傷付いた生徒を守る責務を果たそうとしていた。
俺が、ただ、息子であるという繋がりに甘えただけ。
でも、まあ。
そんなことも。もう、どうでもよかった。
────遠ざかる意識の中、誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「全く……本当に、男の子ってバカなんだから」
気を失う直前に、ふんわりとした暖かさに包まれた気がした。
~~~~~~~~
次にセンジョウが目を覚ました時。視界には、見覚えのある天井が広がっていた。
痛むからだと、ぼんやりとした意識の中。ゆっくりと上半身を起こす。
「……ん?」
全身の怪我に下っ手くそな処置が施されていた。丁寧だし、気遣いの後は見受けられるが、非効率的というか、不馴れな感じが見受けられる。
「目が覚めたのね」
声がした方を向けば、ノートパソコンを膝の上に置いた、見慣れた顔の少女……早瀬ユウカがそこに座っていた。
「……ユウカ?」
「なに?記憶でも無くしたの?そんな間抜けな顔を向けられても反応に困るわよ」
パタン。とパソコンを閉じると、センジョウの顔を不機嫌そうな顔で見る。
「いや、さすがにそんなことはわかるぞ」
「じゃあ何がそんなに納得いかないのよ」
「え、あの、いや……」
しどろもどろになるセンジョウを見て、ユウカは大きくため息をつく。
「……ここはミレニアムの宿直室。昨日まであんたが使ってた部屋」
「だよ、な?」
「で、ここまでアンタ運んだのも私。怪我の手当てをしたのも私」
「……は?」
言葉の意味はわかる。だが、訳はわからない。
「どうして、ユウカが俺の事を助けてくれるんだ……?」
「……むしろなんでそこを疑問に思うのよアンタは」
「……?」
要領を全く得ないセンジョウに、ユウカはモゴモゴと口を動かす。
「だって、ほっとけなかったから……」
答えになっているような、なっていないような言葉に、センジョウはなんだか可笑しさが込み上げてくる。
「やっぱりお前、頭いいけど良くないよな」
「んなっ、助けてあげたのによくもまあそんなことを!」
ユウカが文句を言いきるより先に、センジョウは笑顔を浮かべて、ユウカに思いをつたえる。
「ありがとうな、ユウカ」
「……どういたしまして」
あんまりにも素直にお礼を言われたもんだから、ユウカはむしろ、なんだか恥ずかしくなってしまって、思わずセンジョウから目を逸らした。
────その後、何故センジョウがボロボロの身体になっていたのか、そのあらましをユウカへと話すこととなった。
黒服との契約に関しての話は、ブラックマーケットの情報屋という事として誤魔化したが、ミカとの戦闘や、父と自分の関係、そうして、その後の……喧嘩とも言えないような、ただの自分の感情の爆発を。そのままを、ありのままを話した。
多分、聞いてほしかったのだ、自分の本音を。誰かに。
たぶん、他の誰が相手でも話せなかっただろう本音を。……センジョウは、なぜだか、ユウカには聞いてほしかったのだ。
そんな話を聞いたユウカは────
「……カッコ悪い」
「ひでぇ!?」
真底呆れた、というか軽蔑も含めた表情でセンジョウをバカにした。
「要するに早合点して格好つけて大人ぶったら、全部裏目って親に怒られて拗ねた子供ってことじゃない」
あんた何歳よ。と付け加える。
「おっしゃる通りです……」
冷静になれば、まあ。確かにそうだ。
ちゃんと連絡をするべきだし、連携をとるべきだし、ちゃんと確認をするべきだ。
仕事の基本は『報・連・相』。大人なら誰でもわかること。それができていたなら、今回の様なことにはなっていなかった。
「先生も先生だけどね」
「……え?」
だって、そうでしょう?と言葉を続ける。
「報告も連絡も相談も。先生だってできてないじゃない」
「……え、あ、いや……たし……かに……?」
一理ある。いや、あると言うか。先生が色んな事をすぐに一人で抱え込むのが悪い癖である、というのを知っている視点からすると、的を得ている。
「センジョウは悪くない。なんて、そんな甘い言葉がほしい訳じゃないでしょうけど、それでも」
ユウカは、ふい。と、顔を逸らして、言葉を続ける。
「……あんたは、あんたなりに良く頑張ってたと思うわよ」
──ああ。そうか。
「ちょ、ちょっと、センジョウ?」
──俺は、俺は、ただ。
「なんで泣くのよ!私なにか悪いことした!?」
「ああ……いや、悪い」
──認めて欲しかったんだ。誰かに。
「本当に大丈夫……?」
「大丈夫。……大丈夫だ」
──俺も、見落としていたみたいだ。
全部を失ったと思ったから、ようやく見えた。大切なもの。
まだ、もう少し。頑張ってみようと。センジョウはそんなことを思っていた。
~~~~~~~~
───ミカの反乱から数日。トリニティのゴタゴタが落ち着いた頃。先生はミレニアムを訪れていた。
目的は、一つだ。
"……えっと、久しぶりだね、ユウカ"
「ええ。お久しぶりですね」
廊下の前で、先生とユウカが対峙する。
その空気は……以前とはすこし、違った雰囲気を纏っていた。
「一体どんな用件でいらっしゃったのか、お伺いしてもいいですか?」
"えっと……怒ってる?"
「質問を質問で返さないでください」
先生の言葉を、迷わず一蹴するユウカに、先生は思わず半歩引き下がる。
"せ、センジョウに会いに……"
「どうしてシャーレに所属しているセンジョウに、わざわざミレニアムへ会いに来るのですか?」
"だって、今センジョウはミレニアムにいるし……"
口ごもりながら、そんなことを返す先生に、ユウカは腕を組んだまま、一歩たりとも引き下がる気配を見せない。
「それで?」
"それでって……私はただ、センジョウに会って話を……"
「なんの話をするって言うんですか?今の先生が、センジョウに」
"それは……その、謝罪とか"
「はあ。そうですか」
呆れたユウカは、手元の書類作業を進めながら、先生の言葉を聞き流す。
「お帰りはあちらです」
"ユウカ!?"
ユウカの冷たい態度に、先生は衝撃を受ける。
「……お言葉ですが先生。今の貴方をセンジョウに会わせるわけには行きません」
"…………"
「なぜセンジョウが自らシャーレに行かないのか、先生に会いに行かないのか。考えたことは有りますか?」
ユウカの言葉に、先生は言葉を詰まらせる。
「……話は聞いています。バカみたいな親子ゲンカです」
"だったら"
「だからこそ、です」
ユウカは、真剣に先生の顔を見つめる。
「先生。貴方は、センジョウの先生ですか?父親ですか?上司ですか?」
"…………?"
問いの意味を飲み込めず、先生は要領を得ない顔をする。
「では、私は?」
"私の大切な生徒だよ"
「センジョウは?」
"もちろん、センジョウも──"
そこまで言葉をいいかけて、先生は言葉を詰まらせる。
"……………………"
「そうです。センジョウは、先生にとっての生徒で、家族で、部下で、……そして、そのどれでもありません」
無自覚だった、自分の本音を、明け透けに語られる。
「先生、センジョウに甘えすぎなんです。彼のことを、自分の事を無条件に信じて、助けてくれる、それでいて頼れる、自分の理解者だって。それを望んで、押し付けているんですよ。今の貴方は」
ユウカは、言葉を止めない。
「家族だから?共に過ごしてきた時間が長いから?……それとも、自分と同じ大切な人を、失ったから?」
ユウカは、いつになく先生へ、無性に腹が立っていた。
「貴方は、大人です。ですが、センジョウは、子供です」
生活や金銭のだらしなさに対する苛立ちとは、質の違うソレの理由は。ユウカにも説明がつかない。
「なのに、どうして貴方が。あの人に甘えているんですか」
でもソレはきっと。センジョウが原因なんだろう。
「どうして貴方は、彼をちゃんと見てあげないんですか」
……なんで、私の方が彼について、よく知っているのか。どうして、自分より近い筈の先生が、彼の泣いてる理由を気づけずにいるのか。
"……私、は"
「情けない。……怖いんですか?彼が自分の知らない存在に……大人になっていくことが」
ああ、ずいぶんとキツい言い方をしているなぁ。なんて、そんなことをぼんやりと思う。すこし前なら、こんな事、先生にハッキリ伝えることはできなかった気がする。
"俺、は"
「……答えが出るまで。センジョウには会わせません。今のセンジョウは貴方にとって、シャーレの生徒でも、貴方の息子でも、シャーレの教育実習性でもない。つまり、貴方は彼の味方ではありません」
けれど。
「それでも。私は彼の、味方です」
今はそれが、私の本心。
ユウカは確かに。誰よりも、『蒼井センジョウ』の姿をよく見ていた。
"…………ごめんね"
「言う相手を間違えています」
"そうだね。頭を冷やすべきだったのは、私なのかもしれない"
……ミカを傷付けていたセンジョウをみて、冷静じゃないと思った。だから、頭を冷やして欲しくて、シャーレから、仕事から離れるように伝えたつもりだった。
それが、センジョウにどう聞こえるかなんて考えることも出来ずに。センジョウなら、自分の事を解ってくれると思い込んでいた。
──信じることと、盲信することは、違うことだ。
"……センジョウは、いい友達を持ったと思うよ"
「そうですか」
"ごめん、ユウカ。……センジョウの事、よろしくね"
すこしだけ、前向きになった先生の顔を見て。ユウカもすこし表情が緩む。
「勝手に任せないでください。元はと言えば、先生の仕事ですよ」
"ははは……いつもありがとうね"
本当に、ユウカには頭が上がらないと。そう思った。
──答えが出たら、また来る。と先生はそう告げて、ミレニアムを後にした。
「……だそうよ」
ユウカは振り返らず、背後の曲がり角の気配にそう伝える。
「……気づいてたのか」
「別に。あなたならそこにいると思っただけ」
見透かされているような気がして、センジョウはすこし恥ずかしくなる。
「……ありがとうな、ユウカ」
「その分、仕事は手伝ってもらうから」
いたずらっぽく笑うユウカに、センジョウは微笑みを返した。
折角なので伏線ばらし。
第一章のタイトルをご覧いただくと、ほとんどが『先生の(と)息子』です。
文字通り、キヴォトスの生徒達との出会いの話ですが、そのなかで彼女達は『蒼井センジョウ』という存在は、『先生の息子』としてみています。
ですが、1つだけ『蒼井センジョウ』というタイトルがあり、そこで登場している生徒がいますね?
……そう、ユウカだけは最初から、センジョウを『先生の息子』ではなく、『蒼井センジョウ』として見ているんですね。
なので、この瞬間にセンジョウの救いとして機能します。なんというメインヒロイン力……。
そんでもって、『先生と息子』というタイトルですが……これ不自然じゃないですか?
『先生』は親を示す言葉ではないので、『先生』という言葉と『息子』という言葉は一方通行です。
『先生の息子』はありえても、『息子』視点では『先生≠親』は成立しませんので……これって、先生側の勝手な都合なんですよ。
はい、と言うわけでこんな感じで今後の展開にもこんな感じで意図的にちゃんと仕掛けがあるので、読み返したら面白いかも!!
、………なんて話を、普段は活動報告でするので、気が向いたら見に来てネ(?)