青空DAYS   作:Ziz555

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賛否両論ありそうな展開ですが、こういう展開が趣味なので……


蒼井センジョウ

 先生既婚者騒動から1日。キヴォトスはまた変わらぬ日常を送っていた。

 

 シャーレの壁が爆破されたり、先生の個人情報保護の偽装と流出があったり、偽装報道による策謀が巡らされたり、ゲヘナの風紀委員長が参戦したり、陸八魔が恨まれたり。まあそれなりに色々な事があったが、それでも変わらぬ朝がめぐってきた。

 

 そんな、これまたなんでもない日に、なんだかいつもと違うことが起きていた。

 

「んー。この事案は要するに労働力不足が原因だな。早瀬、この件の予算って?」

「はいはい、どの話?……これね、この案件なら外的要因のリスクも計算して……こんなところね」

「ほーん……となると赤冬の工務部の派遣は非現実的か」

「レッドウィンターの?そんなことしたらそもそも、学校間の確執にならない?」

「シャーレを挟めばなんとかなる。管理権限が委譲できない上で事務に忙殺されてたオヤジが動けなかった頃とは訳が違うんだ」

「……そっか、その為にあなたが呼ばれたのね」

「純粋にオヤジのサポートをしに来た、その一環だがな。それに、オヤジは『人を使う』のが苦手な質だから、しかたない」

「それはあるかもしれないわね。先生は少し優しすぎるところがあるから」

「まあ、なんにせよこれで『かんぺき~』な業務体制が整ったって訳だ……にらむなよ、冗談だ」

「まったく……あなたも少しは先生を見習ったら?」

「オヤジの方が冗談みたいな距離感で話してるだろ」

「それは、そうね」

 

 意見や議論を交わしつつ、適度な雑談と冗談で円滑なコミュニケーションを行った上で、書類作業のては止まらない二人。

 そんな二人を見て、先生は苦笑を浮かべていた。

 

"なんか、息ピッタリだね"

「「仕事だ(です)から」」

"……ま、まあ。センジョウが馴染めそうでほっとしたよ"

 

 壁の壊れたシャーレの執務室で、先生を置き去りにした様子で仕事を進めているのは、昨日もシャーレにいた『早瀬ユウカ』と、一人の少年だった。

 少年の名は、『蒼井センジョウ』。先生のことを『オヤジ』と呼ぶ、パッと見めちゃめちゃ失礼な少年だ。

 なぜ彼らがここにいるのか、どうして仕事をしているのか。『蒼井センジョウ』とは何者なのか。

 その話をするためには、今日の朝まで時間をさかのぼる。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 時刻、朝5:30。

 

 

 少年、蒼井センジョウは、キヴォトスの中枢、連邦生徒会オフィスの、応接間に訪れていた。

 

「……お待たせしました」

 

 応接間の扉を開けて、一人の女性──七神リンが現れる。

 

「よくお越しくださいました。……えっと」

「蒼井センジョウと申します。父がお世話になっています」

 

 センジョウは立ち上がり、一度深く頭を下げる。リンも、それに応えて軽くお辞儀をすると、椅子に座ることを促した。

 

「……正直、驚きました。まさか、先生に私達と同じぐらいの息子さんがいたなんて」

「オヤジは、あまり多くを話したがらないタイプなので」

 

 困ったオヤジです。と苦笑するセンジョウ。確かに、先生が『困った人である』という事実は、リンも知るところだ。勿論、それ以上に頼りになる人物でもあるのだが。

 

 

「忙しい身の上と聞きます。本題に入りましょう」

「配慮、痛み入ります。……では、こちらがその書類となります」

 

 リンがテーブルに広げた書類。それは、シャーレに関するものだった。

 

「こちらの書類にサインしていただければ、センジョウさんはシャーレ所属の教育実習生となります」

「シャーレ直属の生徒であり、先生見習い。ってところですかね」

「平たく言えば、そうなります」

 

 広げられた書類を手に取り、手早く契約内容を確認していく。書面の内容を把握しなければ、自身にとって不利益になることは、センジョウはよく学んでいた。

 

「まだ、帰れますよ」

 

 真剣な表情で、センジョウに語りかける。『ここから先は、一方通行である』と。

 

「貴方は、先生ではない。私達、生徒に近い存在です。けれど、私達とは違う」

 

 キヴォトスは、外部の人間が来るには危険すぎますから。と付け加え。リンはペンを取り出す。

 

「貴方は、それでも先生の力になることを望みますか」

「……親孝行、したい時に親は無し」

 

 センジョウは、リンのペンを受け取り、書類にサインをする。

 

「二度とそんな思いはしたくない」

「……確認しました」

 

 リンが確認したのは、書類か、覚悟か。

 

「では、お受け取りください。『シャーレ』の生徒証と……制服です」

「確かに、受け取りました」

「貴方の身分を保証する物でもあります。外に出られるのであれば、可能な限り制服を着ていた方がいいでしょう。……少なくとも、今の貴方の服よりは頑丈です」

「肝に銘じておきます。……更衣室をお借りしても?」

「ご自由にお使いください。それでは、私はこれで」

 

 軽く頭を下げた後、リンは部屋を後にする。連邦生徒会の簡単な実情は聞いていたセンジョウは、その苦労を察し、無言のまま礼を返す。

 

 とはいえ、彼自身もこれからその渦中へと身を投ずるのだ。他人事では済まされない。

 

 センジョウは受け取った生徒証と制服を手に取り、『オヤジ』へと思いを馳せる。

 昨日から返信はなく、連絡も途絶えたまま。単に仕事が忙しいだけなのならそれでいい。と自分を納得させつつ、しかしそれでも、だからこそ、彼は目的地へ急いで向かわねばならない。

 

「……いくか」

 

 最後の覚悟を言葉に紡ぎ、自分のなかで形に変える。自分は、『大人』にならなければならない。

 

 

 

 

 少年は、更衣室で制服へと着替え、朝のキヴォトスへとその身を投じる。

 

 見慣れぬ人々、物々しい装備、ちらほらと見える学生達と現地の人々。

 

 連邦生徒会のオフィスへ着いた時には、まだ人気の無い町を歩いていたから沸いていなかった、知らない世界へ飛び込んだ感覚が、センジョウの胸中へ、実感として浮かび上がっていた。

 

 

「……オヤジは、一人で」

 

 自分は『二人目』だ。ここ、キヴォトスに外部の人間が招かれる例は多くはないと聞く。それも、先生として招かれたのは、『先生』が一人目だったのだろう。

 

 そんなことを思いながら、確かなプレッシャーを感じつつ、その重みを背中を押す力に変えて、一歩を踏み出した。

 

 

 目的地──シャーレのオフィスは、そこまでの距離はない、だが、その道を進むなかで、センジョウは明らかに視線を集めていた。

 

 物珍しいのだから当然だと言えるかもしれないが。それだけではないだろう。

 

──なるほど、制服の方がいいってのはこういう。

 

 武器を持ち歩く生徒が一般的な中で、武器を持たぬセンジョウは、特に目立つ。それも、明らかな『外の気配』を漂わせているなら尚更。

 

 視線のなかに混じる、伺うような素振りは、『こちらの手札を図る』意図を感じていた。要は、センジョウは現在、獲物としてみられていた。

 

 だがそれでも、センジョウに危害を加える存在がいないのは、十中八九『シャーレ所属』を示す制服の存在だろう。

 

 さらに正しく言うなら、昨晩の『既婚者騒動』の延長で、厄介ごとに巻き込まれるのを忌避しているから。という要素もあるのだが……それを知る術はセンジョウには存在しない。

 

 今後の自衛手段に関しての考えをめぐらせながら歩いているに、声がかかる。

 

「先生、お出かけですか?でしたら一緒に──」

「ん?」

 

 背後からかかった声に、センジョウが振り向くと、そこには一人の少女。早瀨ユウカが立っていた。

 

「────だれですか?あなた」

 

 ユウカは、振り向いたセンジョウの顔を確認するや否や、即座に武器に手を掛ける。

 その様子にセンジョウはあわてて両手を挙げて無抵抗の姿勢を取る。

 

「待て、待て。武器を下ろしてくれないか。俺は怪し……いかもしれないけど、悪い人じゃない」

「その言葉を信じてくれる人がいると思う?」

「それはごもっともだが!俺はそもそも、『先生』の知り合いだ!」

「先生の?」

 

 堂々とした態度てシャーレの制服を着こなし、先生の関係者を名乗るセンジョウに、ユウカは眉を潜める。

 

「嘘だと思うなら生徒証を確認してくれ。首から掛けてるやつ」

 

 敵意は感じられず、みたところ武装もしていない。それに、言われてみれば先生と同じ『外部の人間』の雰囲気をまとっていることに気づく。

 言われた通りに、彼の首から下がる生徒証をぶん取ると、その内容を確認した。

 

「シャーレ直属の生徒……?しかもこれ、連邦生徒会が発行してる……?」

「それで足りないなら、もう直接先生に聞いてくれ。どうせ俺もこれからシャーレのオフィスに向かう予定だったんだ」

「ふーん……」

 

 ユウカは、外部協力者が来るという話は特に聞いてはいない。書類もみたことはない。だが、自分のしている仕事がシャーレの全てではないことは知っていた。

 信用するには足りないが、状況証拠としては不十分だった。

 

「いいわ、シャーレまで同行します」

「はぁ……いきなりどっと疲れるような事になるとは……」

「同情を誘ったって無駄よ。どんな結果にしろ、先生に会えばハッキリするんだから」

「そりゃどーも」

 

 半ば呆れたように返し、軽く服装を整えたセンジョウは、ユウカと共にシャーレへと歩き始めた。

 

「……なあ、もしかして」

「なによ」

「お前が『早瀬ユウカ』か?」

「えっ?」

 

 センジョウの問いに、ユウカは驚き、思わず足を止める。

 それに遅れて、センジョウが足を止めて振り替える。

 

「みたところ、『ミレニアム』の生徒で、俺の話の中に信憑性を少なからず見いだす冷静さと、先生を知っている素振り」

「……」

 

 わずかな間に、よく自分の事をみていると、ユウカは感心するが。

 

「後頑固」

「ちょっと!?」

「どれもオヤジに聞いてた通りだからな」

「?!?!?」

 

 聞き捨てなら無い要素があったものの、最後の言葉のインパクトに押し流された。

 

「お、オヤジ……?」

「ん?ああ。……そうか、本当にだれにも言ってなかったのか」

 

 思い返せば、連邦生徒会の人間も知らなかったな。などと思いつつ、センジョウは身の上を明かす。

 

「俺は、蒼井センジョウ。オヤジ……シャーレの先生の息子だよ」

「む、む……」

 

 哀れなり算術使い。二日も続けて予測の遥か上を行く事実を受け止める羽目になるとは。それ程先生との因果がつよいのか、それとも。

 

「息子ぉ!?」

「あー……そもそも結婚してたこととかも話してなさそうだしなぁ」

 

 息子というだけはあり、先生への理解が深いセンジョウだが。目の前の相手には偶然昨日話したばかりですよ。

 さて。カミングアウトを受けたユウカは。というと……

 

「……ダメだ固まってる」

 

 昨日の出来事も、結局爆撃銃撃の騒ぎの結果、しっかりと処理しきれていなかった少女にとって、センジョウの言葉は劇薬が過ぎた。

 いや、むしろ。聞かされていたからこそ、その言葉の信憑性を真に受けてしまったゆえの事故だろうか。哀れなり、算術使い。

 

「……はっ!まって!おかしいわよ!貴方が息子だなんておかしいわ!」

「お前ホント俺の事何から何まで疑うな?」

「当たり前でしょ!貴方、どう若く見積もっても私と同い年か、ひとつした位だもの!つまり!貴方の言葉が事実なら、先生は私達と同じぐらいの頃には子供を作った変態ってことになるもの!そんなのあり得ないわ!」

 

 確かに。その計算は正しい。

 

 ユウカは先生の詳しい年齢を知らないが、40を越えてないことは本人とのやり取りで知っている。

 とすれば、10代後半の息子がいるのは計算が合わない。

 

「証明終了よ!嘘は暴いた!Q.E.D.!かんぺき~」

「えーっと……いやまあそこはそうだが、そうではないというか……」

「数学は真実を導く!貴方にこの計算が崩せるかしら!」

 

 ユウカ は こんらん している!

 

 理性をまたもや手放しつつあるユウカに、どうしたものかと呆れるセンジョウ。

 ……結論から言えば、どちらの言葉も嘘ではないのだが。それを証明する手だてはセンジョウにはないし、文字通りお手上げだった。

 

 

 そして、物語は動き出す。

 

 

"あれ、二人ともどうかしたの?"

 

 センジョウとユウカが声のした方を振り向くと、そこには救世主が立っていた。

 

「先生!」

「オヤジ」

"うん?私?"

 

 話の脈絡を知らない先生は、状況を飲み込めずにいたが、まあ二人が何かしらで揉めていることは理解したらしい。

 

"つもる話は、シャーレに着いてからにしよっか"

「「……あ」」

 

 道端で騒ぎすぎたらしい。ユウカとセンジョウの回りには、妙な人だかりができており、道行く人の邪魔になっていた。

 

 

 

────こうして三人揃ってシャーレへとたどり着いた後。休憩室でユウカは先生から事情を聞くことになる。

 

 

曰く、センジョウは先生の息子である。

曰く、センジョウは義理の息子であり、同時に妻の年の離れた弟である。

曰く、センジョウを呼んだのは先生自身である。

曰く、センジョウは『教育実習生』として、先生の元で学ぶ先生の助手である。

 

 そのどれもが先生の口から語られたことで、ユウカはどうにかセンジョウの存在を受け入れた。

 

 対するセンジョウにもいくつかの事が話された。

 

曰く、シャーレの『当番』について。

曰く、ユウカは頑張りやさんだということについて。

曰く、ユウカは親切で優しいということについて。

曰く、ユウカの魅力はふともm──「その情報は必要ねぇな!?」

 

 ……とにかく。一通りの誤解がとけ、先生の立ち会いの元、二人の和解は成立した───

 

 

 の、だが。

 

 

曰く、性格上の仕事の態度が不安である。

曰く、補佐としての実力が疑わしい。

曰く、難癖の付け方だけは一人前。

曰く、口先だけ大人の真似が上手い。

 

 

 などなど。あれよあれよという間に互いの不満が積み重なり、どちらがより先生の仕事を手伝えるかという話に繋がり───

 

 

 

 

 場面は、冒頭へと戻る。

 

 二人がムキになっていたというのもあるが、あれよあれよという間に先生のタスクが減っていき、お昼を過ぎた辺りには、もう殆ど残っていなかった。

 

「試し算も問題なし。打ち込みの早さと計算の正確さは見事という他ないな……」

「こっちもスケジュールやプランの穴は確認したわ。書類整理とマネジメント能力は私の知る限り最高レベルね……」

"それは良かっ──"

「「性格はクソだけど」」

"そっかぁ……"

 

 最後の仕上げを終えた二人は、互いの実力を認めはしたが、あまり良好な関係とは言えなかった。

 

"なんか、今日私確認の判子しか押してないけど……"

「そのための助手だろ。というかこの量に加えて普段は外回りの仕事もあるとか無理だ」

「そうね。その結果無理したり、ストレス溜め込んで余計な出費を増やして、更に不健康な生活をしたり」

"え、えーっと……"

「体調管理も大人の仕事、なはずなんだがな……」

「先生には本当に計画性がないんですよ」

"すみません……"

 

 呆れたように先生の普段の素行に小言をこぼし。互いの意見に首を立てに振る。

 

"……やっぱり二人って仲良くできるんじゃ"

「「それはない」」

"そっかぁ"

 

 

 こうして、シャーレに一人。新たな生徒が加わった。

 

 先生に憧れ、先生をよく知る、先生の後を追うもの。

 

 

 

 生徒と先生の日常は、明日も続く。






"そういえば、どうしてユウカはシャーレに来てたの?当番は昨日だったと思うけど……"
「あ、えっと………それは、ほら!昨日の爆破でまたシャーレの修繕費とかで経費の再計算に私の力が必要かと!」
"そっか、いつもありがとう"
「い、いえ……先生の為ですから……」
(同年代の女子が、オヤジに色目を使う場面……どんな顔すればいいんだ俺は)
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