青空DAYS   作:Ziz555

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エピローグ<Who's prolog>

「やあ、先生。初めまして」

 

「私は百合園セイア……おや?その反応は、私の事を知っているのか」

 

「ここは、君の夢の中……いや、私の夢の中かもしれない」

 

 ふわふわとした感覚の中で、先生は目の前の少女に問い掛ける。

 

「センジョウはどうなったか、知ってる?」

「……自分の事より優先して知るべきなのかい?」

「今の私にとっては」

 

 迷わず答える先生に、セイアはやれやれと肩を落とす。

 

「無事だよ。君の身を案じて泣いてはいるが」

「そっか」

 

 いつの間にかそこにあった椅子に腰掛け、トリニティの夜空のような空を見上げる。

 

「残念だったね。先生。……結局、この話は、痛く、虚しいばかりだった」

 

 

「君が信じたエデンは、アリウスの悪意に乗っ取られ、古の亡霊は悪意の尖兵となった」

 

「互いを信じられぬトリニティとゲヘナは、ただ怒りのままに争いを続けるだろう」

 

「君が家族を後回しにしてでも救おうとしたミカも、今となってはトリニティの悪意に晒されている」

 

「白州アズサは……己の罪と戦うため、大事な繋がりさえ武器にして、友を護るために『人殺し』へと落ちる」

 

 

 

 たしかに、救い様のない話だ。

 

 そこかしこに悪意が広がって、痛みと、悲しみと、嘆きばかりが広がって行く。

 

 

「そうして、君でさえ暴力の前に倒れ伏した」

 

「もう、この物語はここで終わったんだ」

 

 

 セイアは、疲れきった顔でそう告げる。

 

 けれど。

 

 

「そうだね。私の物語は、きっとここで終わりだ」

 

「けれど、それでも。私には救いたいみんながいる。諦められない、世界がある」

 

 それはまるで、子供のわがままで。

 

「だからまだ、あとすこしだけ。私にはやることがあるよ」

 

 

 ゆっくりと、椅子から立ち上がる。

 

 

「……この後のエピローグへの参加権は、今の君にはない。私と同じように、あとはこの夢の世界から眺めることしかでき──」

 

 

 そこまで言いかけて、セイアは目を見開く。

 

 

「まさか、君は…………!!」

 

 

 

 その反応に、先生は肯定の頷きを返す。

 

 

 

「そんな馬鹿なこと…………どうしてそんな、選択ができる……?」

 

「君が立ち向かってきた物の大きさは、戦っていた君自身が一番よく知っている筈だ」

 

「残酷だ……残酷すぎる」

 

 先生の考えの先にある『呪い』に、セイアは顔を青くする。

 

「そうだね。今私の考えていることは、きっと先生としても、親としても最低な事かもしれない」

 

 

「当然だ。君の前に立ち塞がっているのは、憎悪と不信、長きにわたって積み重ねられた────」

 

 

 

 

「だから、私一人じゃ解決できなかった」

 

 

 

 それでも。

 

 

 

「このまま眠るわけには行かないから」

 

 

「すこしだけ行ってくるね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────目を開ける。

 

 

 そこには、泣き腫らした顔の、少年がいた。

 

「……オヤジ?」

「ああ。おはよう、センジョウ」

 

────身体は……動かない。

 

 なんとか力を振り絞り、ポロポロと涙をこぼすセンジョウの頬を撫でる。

 

 

「ごめんね。センジョウ」

「なんで謝るんだよ。オヤジは、まだこうやって、生きてる。まだ、まだ、時間はたくさん……」

「そうだね、本当なら、私もゆっくり君と話したいんだけど、さすがにそうも言ってられなくて」

 

 情けない自分に、嫌気がさす。

 力のない自分に、怒りもある。

 

「それでも、君に……話さなくちゃいけないことがある」

 

 今の自分には、彼を信じることしかできない。

 

 センジョウは、そんな自分の顔を見て、涙を拭った。

 

「……ありがとう」

 

 立派な息子に、今度は自分が涙をこぼしそうになる。

 

 それは、嬉しさか、悔しさか、寂しさか。

 

「今の、キヴォトスには……沢山、困ってる子達がいる」

「ああ。そうだな」

「ヒフミ、コハル、ハナコ……それに、アズサ」

「補習授業部」

「ミカと……セイアに、ナギサ」

「ティーパーティー」

「きっと、ヒナも……真面目な頑張りやさんだから、塞ぎ込んでるかも」

「かもしれないな」

 

 ポツポツと、生徒達の名前を呼ぶ。

 まだ、これから沢山の未来を持っている。夢や、思いを、持っている生徒達……。

 

「……当然、君も」

「……ああ、そうだよ。俺だって、困ってる」

 

 目の前の少年だって、自分の大切な生徒で……でも、それ以上に。

 

「センジョウは、私の大事な……息子だよ」

「ああ、わかってる」

 

 

 だから。

 

 

「……私にはもう、みんなを助ける、力はないから」

「…………」

 

 いつの間にか、センジョウは私の手を握っていた。

 強く、強く。暖かい、その手で。

 

「だから、私を……助けてほしい」

「…………ああ、もちろんだ。勿論だよ、父さん」

 

 ぼろぼろと、押さえていたであろう涙が、センジョウの瞳からこぼれ落ちる。

 

 こんな、不甲斐ない男を。血の繋がりもない、偽物を。

 

 それでも、父と呼んでくれる。

 

 それが、センジョウの優しさだ。

 

「……シャーレの、私の机の引き出しに……書類が、ある」

 

「いつか必要になるとおもって、いつか、センジョウの力になれるとおもって。作っていた、書類……」

 

 

────シャーレの、実質的な権利移行。

 

 

「────君に、託す」

 

 遺せるものを。遺して、託す。

 

 それが結局、大人が、子供にできる事。

 

 そうして、過去から未来へ、脈々と受け継がれていく、願い。

 

 それを、受け取ってくれるなら────

 

 

 

 

「……わかったよ。俺は……確かに、受け取った」

 

 

 

 

────こんなに幸せなことは、ない。

 

 

 

「ああ……よかった」

 

 

 センジョウの決意には、陰りは見えなかった。

 

 

 だから、安心した。

 

 

 

 

「センジョウ」

 

 

 

 

 

────────誕生日、おめでとう。

 

 

 

 

 

 今日は、センジョウの、18歳の誕生日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、キョウカ。私の願いは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん……」

 

 自らの誕生日を、祝う言葉を最後に。彼は、再び目を閉じた。

 

「……母さん…………」

 

 漏れそうになる嗚咽を、強く、強く噛み潰す。

 

「俺は」

 

 

 そうして、彼は、『先生』の羽織っていた、血で濡れた、白いコートの袖に手を通す。

 

 

 

 

「行くよ」

 

 

 

 

 迷いはない。

 

 ここから先は、託された彼の物語。

 

 

 先達の示した道を、憧れた背中を追い越し、自ら暗闇を突き進む物語。

 

 

 遺されたものは、託されたものは。立ち向かうべき命題だけではないのだから。

 だから、きっと大丈夫。

 

 

 

 

 救護騎士団に、自らの父の身を任せ、彼は進む。

 

 

 

────まずは、託された物を。受け取るために。

 

 

 

 

~~~~シャーレ~~~~

 

 

 

 

「……ここに来るのも、久しぶりだな」

 

 補習授業部の一件以降、センジョウはシャーレへ来ることはなく、かなりの期間をミレニアムで過ごしていた。

 そうなると自然に、シャーレには懐かしさを覚える。

 

 感傷に浸りながら、父と過ごした日々を思い出す。

 ……どれも、大事な思い出だ。

 

 

 だからこそ、護らなくてはならない。

 

 

 今は疲れて眠っていても、父が起きた時に、今の自分と同じように、『居場所』へ戻ってこれるように。

 

 覚悟と友に、父のデスクから書類を取り出す。

 

 そこには、彼のしてきた仕事のコツのメモや、彼がキヴォトスに来てからの日記が共に仕舞われていた。

 

──こんな形で受け取るのは。予想外だったろうか。

 

 それとも、父は既に覚悟していたから、用意があったのか。

 

 

 今となってはもう、それもわからない。

 

 

「……これで、よし」

 

 既に承認印の押されていた、センジョウをシャーレの実質的な最高責任者にするための書類に、自らの名前を書く。

 

 そうして、判子を押せば……これでもう、センジョウは『教育実習生』ではなくなる。

 

 形式は違えど、シャーレに所属する……二人目の先生。

 

「それじゃあ、初仕事とするか」

 

 軽く伸びをして、センジョウは書類をデスクにしまい、鍵を閉める。

 

 そうして、シャーレの戸締まりを済ませてビルを後にしようとした時。

 

「……行くのね」

 

 かけられた声に、センジョウが振り向くと、そこにはユウカが立っていた。

 

「ああ。託されたから」

 

 ハッキリと、そう答える。

 

「強がり……とかじゃなさそうね」

 

 センジョウの顔を見て、呆れたようにため息をこぼす。

 

「言っておくけど、そこから先は地獄の道よ」

 

 善意で舗装されたその道を行く彼を、引き留める術を、ユウカは知らない。

 

「大丈夫」

 

 そう答えて、センジョウは歩き始める。

 

「……馬鹿な人」

 

 そんな彼の背中をみて、ユウカは言葉をこぼし、同じようにシャーレを後にする。

 

 きっと彼は、無茶をするだろうから。

 そんな彼を、指を咥えてみているだけと言うのは……彼女の計算結果にない答えだ。

 

 

 

 

 

 

~~~~空崎宅~~~~

 

 

 

 

 次にセンジョウが訪れたのは、ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナの自宅だった。

 

「ヒナー?」

 

 チャイムをならす。

 

 ……返事がない。

 

「おーい?」

 

 居ないのか?疑問が浮かび、ドアに手を掛けるが……。

 

「……開いてるってことは」

 

 センジョウは怒られることを承知で、そのままヒナの家へ上がる。

 

 そうして家のなかを進めば、ヒナの部屋の前へとたどり着く。

 

 コンコン、とノックすれば、扉のおくから、白いモジャモジャが顔を出した。

 

「……先生?」

「残念、新任の方だ」

 

 明らかに弱りきった様子のヒナに、申し訳なさそうにしながら、センジョウはそう答える。

 

「……やっぱり、先生は」

「まだ寝てる」

「……そう」

 

 ヒナが、扉を大きく開く。

 

「……入って、良いわ。立ち話させるのも……悪いし」

「ならお言葉に甘えて」

 

 招かれるまま、ヒナの部屋に入ると、綺麗に整えられた、可愛らしい女の子の部屋がそこには広がっていた。

 

「……センジョウは、何をしに来たの?」

「託された物を、受け取りに」

 

 センジョウの言葉に、ヒナは疑問を浮かべる。

 

「……私は、あなたに渡せるものは何もない」

「そうでもない」

「……私はもう、戦わない」

 

 ぎゅっ。と寝巻きの裾を弱々しく握りしめ、ヒナは泣きそうな顔で続ける。

 

「……私は、小鳥遊ホシノみたいには、なれない……」

 

 ぽつり、ぽつり、と本音がこぼれる。

 

「小鳥遊ホシノは、大切なものを失って、想像もできない様な苦しみを受けても。それでも、アビドスに残って、戦い続けた」

 

 

「私だって……私だって頑張った!」

 

 悲痛な叫びが、彼女の口からこぼれる。

 

「先生に誉められたかった!先生に優しくしてほしかった!でも、それでも!私は、そんな先生すら護れなくて……!!」

 

 怒りと、悲しみと、無力感。

 

 そんな彼女の姿に、いつしかセンジョウは、どことなく自分を重ねていた。

 

「貴方だって、……いえ、貴方の方こそ、私なんかよりもっとずっと辛い筈なのに!なんで、なんで今そんな顔で、そんな服で!私の前に……私の前で……先生の話をするの……」

 

 センジョウより、ずっと強くて、優しくて、頑張りやだからこそ。誰よりも抱え込んでいた。塞ぎ込んでいた。

 

「……俺は、父さんみたいにはなれない」

「……」

 

 だからだろうか。なんとなく、すこし、自分の話をしたくなった。

 

「俺だってそうだった。父さんに憧れて、父さんに認めてほしくて頑張って。けど、うまく行かなくて、喧嘩をして」

 

 うまく、纏められる気はしないが。言葉は止めない。

 

「俺は、先生みたいにヒナを誉めたり、優しくしたりできないかもしれないけど。」

 

 そんなものが、今の彼女のためになるのか、わからなくても。

 

「……俺は、ヒナの気持ちは、すこしわかる気がするよ」

 

 ただ、すこしの共感。その寂しさと虚しさと、悲しさの、肯定。

 

「ごめんな。ヒナだって辛い思いをしたのに」

 

 彼女に触れることはできない。その資格は、今のセンジョウにはない。

 センジョウが来なければ、きっと彼女は先生を護れていたと、センジョウは思っていた。

 

 だから、その罪を、彼女の悲しみを背負うことをきめる。

 

「……どうして、そんな顔ができるの……?」

 

 決意に満ちたその顔を見て、ヒナはセンジョウに問い掛ける。

 

「……父さんは、俺の事を信じて、託してくれたから」

 

────その気持ちに、応えたい。

 

 

 そういって、センジョウは立ち上がる。

 

 

「……邪魔してごめん。ヒナは、ゆっくり休んでいてくれ」

 

 そういって、背中を向けたセンジョウの、血に濡れたコートをヒナは掴む。

 

「……待って」

 

 弱々しく、しかし、先程とは違う様子でセンジョウに問い掛ける。

 

「……先生が、託したものって……」

「……君の事も託された。きっと、頑張りすぎで疲れちゃってるだろうから。って」

「心配、してくれてたんだ」

「してたよ」

 

 少し、ヒナは下を向いて、手を離した。

 

「……私も行く」

「え?あ、いや。でも」

「もう、大丈夫」

 

 その顔は少し、スッキリしていた。

 

「『先生じゃない』あなたが頑張っているなら、私もきっとまだ頑張れるから」

「……そうか」

 

 

 きっともう。空崎ヒナは大丈夫だろう。

 

 

 

 そうしてセンジョウは、託された絆を、一つ、一つ集めていく。

 

 

 

 

 

 さあ、次へ進もう。






2024/5/5追記

 チキ・ヨンハさんから(https://x.com/TyongeTyon_nise?t=-C6Qn_AgwAxaMJIE6AmeMA&s=09)
 センジョウとユウカのワンシーンのファンアートを頂きました!!


【挿絵表示】


 こんなんもう挿し絵やん……挿し絵貰っちゃいましたよ……。
 本当にありがとうございます!
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