青空DAYS   作:Ziz555

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と言うわけで始まりましたね、新章。

ここら辺を描きたくて始めた小説なので、もうしばらくお付き合い下さい。


第3部:空色DAYS
ネバー・ファイティング<continue world>


 

 

 センジョウは、装備を整えたヒナを後ろに乗せたまま、ヌィル・ヴァーナを走らせる。

 

 背中にぴったりと張り付く彼女の体温を感じながら、暗がりの街を駆け抜けて行く。

 

「……本当に大丈夫なのか?」

「そんなに弱く見える?」

「そりゃ……あんなの見たらな」

 

 先程までの、力なく弱りきった姿を見てしまったセンジョウにとって、ヒナは最早、最強の風紀委員というだけの存在ではない。

 彼女も、必死に戦う、一人の少女だ。

 

「そうね。あんな姿を見られたからには、ちゃんと最後まで責任とってもらうから」

「それはまあ、しかた……ん??」

 

 含みのある言い方に、センジョウは背筋が冷えるのを感じる。

 

 心なしか、自分の腹部に回された腕の力が、少し強くなった気がした。

 

「あ。ッスー……ええっと、それってぇ……一体ぃ……?」

 

 途端に慌てふためくセンジョウに、ヒナはクスクスと笑い声を上げる。

 

「冗談よ。本気にしたの?」

「……急にかましてくるなよ……こっちは運転中なんだぞ」

 

 声だけで相手の本心がわかる程の経験は、センジョウにはない。

 だが、恐らく。こちらの反応は筒抜けなんだろうなぁ。等と思いつつ、背後のヒナの表情を想像する。…………全くわからん。

 

「まあでも、仕事の愚痴ぐらいは聞いてもらうつもりで居てね。どうせ一度見せたなら、何度見せても同じでしょう?」

「……それで少しはヒナが楽になるなら、いつでも相手ぐらいしてやるよ」

「そう」

 

 そっけなく返すヒナに、センジョウは少し平静を取り戻した。

 

 

「少し飛ばすぞ、ちゃんと捕まってろ」

 

 返事の代わりに、自分を捕らえる手に、力が込められるのがわかった。

 

 ヌィル・ヴァーナの出力をあげ、加速していく。

 

 

────目的地のアビドスは、そう遠くはない。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に送るだけでよかったのか?」

 

 アビドス市街地近郊でヒナを降ろしたセンジョウは、ヒナへ問い掛ける。

 

「私は大丈夫。ちゃんと貴方が先生から託された物を繋いでくるから」

 

 ヒナは、センジョウをじっと見上げる。

 

「私は、私の頑張りをするから。貴方は貴方の頑張りをしなさい」

 

 行くべき所が有るんでしょう。と、センジョウの背中を言葉で押す。

 

「……ああ。ここは、任せる」

「ええ。『任せて』」

 

 小さく、しかし確かに頷いたヒナを見届けて、センジョウは再びヌィル・ヴァーナを走らせる。

 

 

 まだ、託された物は残っている。

 

 

 

 

 

 

────ヒナは、走り去るセンジョウの背中を静かに見送っていた。

 

「……任せたわよ」

 

 託し、託され、思いを繋ぐ。

 今まで、風紀を一人で担っていたヒナにとってそれは、始めての経験だった。

 頼れる部下はいても、彼女達を率いるのはいつもヒナが一人でやっていた事だ。

 

 だから、自分にできないことを、誰かを信じて、誰かに託すことが。

 

「わるく、ないわね」

 

 センジョウの背中には、あの人のような安らぎは感じない。

 深い愛情とか、包み込むような暖かさは、彼にはない。

 

 けれど、『共に歩む仲間』としては……確かに心強かった。

 

 

 ふと、初めて彼に会った時の事を思い出す。

 彼に感じた、あの人とは違う感覚。それは。

 

 

 『支える者』と、『共に行く者』の違いだったのかもしれない。

 

 

 彼が『先生』になったとしても、それはきっと、『あの人』とは違う姿をしているのだろう、なんて。そんなことを思う。

 

「……私も、私なりに。信頼に応えよう」

 

 今はただ、彼と行く道のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒナをアビドスへと送り届けたセンジョウは、そのままトリニティへと戻って来ていた。

 

「…………さて、まずは」

 

 この物語の因果の起点と、向き合うとしよう。

 

 

 

 

 

 

「この……!お飾りのトップが!」

「アンタなんて所詮血筋だけの存在なのに!図に乗るんじゃないわよ!」

 

 ひどい侮蔑と、思い上がりだ。

 

 胸ぐらを捕まれ、酷く歪んだ怒りを向けられるミカは、そんなことを思っていた。

 

 結局、自分の大切にしていたトリニティという世界は、一皮むけばこんなものなのだろうと、醜い権力闘争と、傲った自尊心の暴走を、まるで他人事のような目で見ていた。

 

────だが、それも自分の起こしたことの結果だった。

 

 友人の願いを踏みにじり、招いた悪魔が、間違いを犯した自分に、それでも味方してくれた、大切な人さえ奪い去ってしまった。

 

 自分も目の前の醜い女と同じだと思って、酷く、心が冷え込んだ。

 こんな女は、きっと、裁かれるべきなのだろう。

 報われてはいけないのだ。

 救いのない絶望のなかで、ただゆっくりと死を待つしか。ないのだと。

 

 そんなことを考えていた。

 

 そんな時だった。

 

「ちょっと!!何してるのよアンタ達!!」

 

 桃色の髪の少女が、制止の言葉を投げ掛ける。

 声のした方向を向けば……そこには、補習授業部の下江コハルがいた。

 

「なんだかよくわからないけど、暴力はダメ!禁止!」

「正義実現委員会……?」

「今さら何様のつもりでそんな指図をしているの?こんな状況になったのも、この女の責任なのよ!」

「だからって、一方的に暴力をふるって良いわけないもの!!」

 

 なぜ。この子は、自分は、確かに補習授業部の子達にとって敵だった筈なのに。まるで私を護るような事を言うのだろうか?

 

 どうして、こんな私の味方を、してくれるのだろうか?

 

 

「貴方、もしかして補習授業部の……」

「待っ……」

 

 怒りの矛先が、いつの間にか私から彼女へと向いていた。違う、その子は無関係で、私が罪を、罰を──

 

 

「シャーレの先生の教え子の下江コハル。父さんの立派な、教え子達の一人だ」

 

 

 血で汚れたコートを纏った、一人の男がそこに立っていた。

 

「あ、貴方はシャーレの……」

「先生2号。父さんの後任だけど……君達は何をしてたのかな?」

 

 にこやかに、しかし、凄みのある笑顔で彼は暗に言う。「見逃してやるから、さっさと帰れ」と。

 

 責任や原因を、他人に求めてしまう様な、弱い彼女達には、それは効果バツグンだったようで、そそくさとこの場を後にする。

 

「……やれやれ。ちゃんと反省してくれればいいんだが……ああ言うのはそう簡単に変わらないからなぁ」

 

 がさつに頭を掻く彼は、その言葉とは裏腹に、自分の知る様子とは、全く別人のような様子で、そこに立っていた。

 

「……蒼井、センジョウ……」

「二回目の『久しぶり』だな、聖園ミカ」

 

 自分を敗北へ追い込んだ、私の敵が、そこにいた。

 

「せ、センジョウさん……」

「さっきの啖呵、めっちゃカッコよかったぞ、まさに『正義』って感じだった。父さんにも見せたかったぜ」

 

 腕を組んで、深く頷くセンジョウに、コハルは途端に顔を赤くする。

 

「さ、さっきのはだって!見てられなくて!」

「……恥ずかしい事なんかじゃない。誰かを護るために、立ち向かうべき相手に立ち向かえるのは、素晴らしい事だ」

 

 センジョウは、コハルを真っ直ぐに、しっかりと見つめて、言葉を伝える。

 

「暴力を暴力で止めるのは簡単だ。でも、暴力に立ち向かうのは、簡単じゃない。……それでも、自分の正義に素直に従えたんだ。……誇れ、今の君は、最高にヒーローだったぜ?」

「えっと……は、はい……」

 

 少し、茶化したような、格好つけた言い方が、逆にダサく見える。

 でも、その、少し間の抜けた誉め言葉が、逆にコハルの心に、正しくその言葉を届けた。

 

 

 そうして、センジョウは、聖園ミカへと向き直る。

 

「怪我は、大分治ってきたな」

「……誰かさんに随分酷くやられちゃったからね。全身が痛くて大変だったんだよ?」

「それは、まあ。お互い様って事にできないか……?」

 

 痛いところ突かれた。という表情を向ける。

 

「どうかな。……私は、貴方の目の前で貴方の大切な人を奪った。……それも、2度も」

 

 一度目は、先生が私の事を案じて。息子である彼より、私の事を優先したから。……あの時は、先生の『私の味方』であると言う言葉を、ちゃんと護ってくれた事に驚いたし、嬉しかった。……けれど、だからこそ目の前で見た、センジョウの取り乱し方と、絶望をしっている。

 

 二回目は、今も倒れたままの、先生だ。

 直接的に被害を出した訳ではないが、この騒ぎは、自分がアリウスを招いたことで起きた悲劇であり……彼から、大事な家族を、二度も奪い取った、敵である筈だ。

 

 だから、私は。

 

「それでも、俺は君を父さんから託された」

 

 センジョウの言葉に、顔を上げる。

 

「ミカが、どうしてあんなことをしたのか。……本当に、ゲヘナが嫌いってだけで、あんなことができる人なのか。……俺自身、信じられない部分は、有ったからな」

 

 

────あの時、センジョウは確かに。自分に倒され、倒れ伏すミカが、どこか救われたような表情をしていたことに気づいていた。

 

 

「……なあ、お前。あの日、先生の前に現れたのは、先生に全部話したのは」

 

────止めてほしかったから、じゃないのか?

 

 

「そんなわけ、ないじゃん」

 

 

 ただ、その否定の一言を絞り出すのに、ミカは全身の力を振り絞っていた。

 

 

「だって、私は。ゲヘナとの和解なんて、受け入れられなくて、耐えられ無かったから、友達だったセイアちゃんを、殺すことも、いとわなかった様な、そんな、悪人で」

 

 

 ばくばくと音を立てる心臓が、乱れた呼吸で、言葉を繋げる。

 

「だって。そんな悪い子が、そんなことあるわけ」

 

 誰から見ても、自分は救い様のない悪人で、悪い子だから。だから、だから……。

 

 

「なら、なんで泣いてるんだ?」

 

 

──いつの間にか、ミカはぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。

 

「あれ……どうして、なんで?なんで、私は、だって、酷いことをしたのは、みんなを傷つけたのは、私なのに」

 

 どうして、傷つけた、悪い自分がこんなに傷ついてるんだろう。

 

「……私だって、こんな、こんなことになるなんて思ってなかった」

 

 ぼろぼろ、なにかが崩れていく。

 

「セイアちゃんは、いつもなに言ってるかわかんないし、ナギちゃんだって、私の事すぐにバカって言うし……」

 

 涙が、想いが、止まらない。

 

「すこしでも、みんなが幸せになれたらって、そんな想いで、アリウスに声をかけただけで……。だって、セイアちゃんは、少しぐらい痛い思いしても、いいだろうって。ただ、死んでほしかったなんて、そんなこと思うわけないじゃん……!!」

 

 なのに、それなのに。

 

「どうしてかなぁ……!!どうして、こんなことに、なっちゃったのかなぁ……!!」

 

 顔をぐしゃぐしゃにして、泣き崩れるミカを、センジョウは静かに見守る。

 

「こんなことになるなら、こんなことしかできない私なんていらない、いらないよぉ……いなくなっちゃえばいいんだよ……」

 

 彼女が許せないのは。他の誰でもない、自分自身。

 

 だから、助けや救いを求めることすら、できなかった。

 

「……ミカ」

 

 泣き崩れ、嗚咽をもらすミカに、センジョウは触れることはしない。

 

「大丈夫だ、ミカ。まだ、なにも終わってない」

「そんなこと!だってもう、私の味方は……!!」

 

 先生は、もう。

 

「そうだ。父さんは今はいない。……俺も、父さんにはなれない」

 

 

 

「けれど」

 

 

 

「俺は託された。想いを、願いを。沢山の人の『明日』を。父さんの願いは、想いは、俺の一部になって今も此処にある」

 

 

 

「だから」

 

 

 

「必ず俺が、この悲しみの連鎖を終わらせる。……君からもう、これ以上なにも奪わせはしない」

 

 ……どうして、彼は。

 

「なんで……?私は、貴方から、奪ったのに……」

 

 どうして、あの人は。

 

 

「俺を誰だと思ってる」

 

 

 センジョウは、血濡れたぼろぼろのコートを翻し、腕を組んで宣言する。

 

 

「俺は、シャーレの先生を継ぐもの。生徒の…………キミの味方の……先生だ」

 

 

 力強く、堂々とした宣言は、宣誓でもあった。

 

 

「約束だ、ミカ。この戦いが終わったら、セイアやナギサに謝るんだ。君自身が、直接」

「でも、そんなの……」

 

 

 

「俺も逃げない。だから、君も逃げたら駄目だ」

 

 それは、あまりにも理不尽で、傲慢で。

 

「必ず守る。だから、君は君の戦いをしろ」

 

 ……けれど、不思議と勇気を与えてくれる。

 

 

「……わかった。約束。だから、破ったら許さないから」

 

 

 その言葉に、センジョウは満足げに頷く。

 

「任せとけ」

 

 

 彼女の歪んだ憎悪は、切っ掛けは、「みんなで仲良くしたい」という、小さな、優しい祈りだった。

 

 ならば、それを護り抜こう。

 

 その祈りも、俺に託された想いの一つだ。






センジョウ君、カッコよく書けてるといいんだけど……実際どうなんですかね彼。

一応作者の『好き』は詰め込まれてますので、私は結構好きですよ彼
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