「ユウカ……?お前、なんでこんなところに……!」
センジョウは、身体の痛みもわすれ、目の前にいる少女に問いかける。
「だから助けに来たのよ」
「いや、でも、だって」
しどろもどろになりながら、自分がユウカに何を言いたいのかわからなくなりながら、彼女の顔を見る。
「なによ。来ちゃダメなわけ?」
「あ、いや。そう言うわけでもない、けど……」
「ならいいじゃない」
不満そうにしたかと思えば、得意気に笑う。
そこにいるのは、いつものユウカで。……センジョウのよく知る、『いつも』の光景だった。
「……どうせまた最後は一人で抱え込んで、ボロボロになってると思ってたら、やっぱりそうだし」
「うぐ……こ、今回はみんなに声をかけてるし……」
「じゃあなんで私には声かけなかったの?」
「え、あー。いや、それはー」
言葉に詰まるセンジョウに、ユウカはすこし、寂しそうな顔をする。
「……私は、信用できなかった?」
「そんなわけ無いだろ!」
考えもなしに、センジョウは、反射的にその言葉を否定する。
「ただ、その……」
「その?」
……センジョウ自身にも、イマイチ言葉になら無いまま、口を開く。
「……ユウカには、待っていてほしかったと言うか」
「……はあ?」
訳のわからないことを言うセンジョウに、ユウカは顔をしかめた。
「危険なことにはつれていけなかったって?」
「近いようなー遠いようなー」
「ハッキリしなさい」
「痛ァ!?今俺全身ボロボロなんですけど!!」
はたかれた頭を押さえ、苦情を呈するセンジョウに、ユウカは溜め息をつく。
「自業自得でしょ」
「助けに来たやつの台詞じゃねぇな!?」
そんな、いつもと変わらないやり取り。
「ユウカ様、センジョウ様。仲睦まじいのはよろしいのですが、戦闘の方も手伝っていただけると」
「うわーん!さすがにアリスとトキだけでは手に負えません!!」
ユスティナ聖徒会とヒエロニムスの攻撃を食い止めるアリスとトキの苦情を聞いて、二人は意識を切り替える。
「帰ったらお説教」
「はいはい……わかったよ」
それぞれの装備を整え、戦闘態勢に戻る。
「なあユウカ」
「なに?」
センジョウが問う。
「お前、この戦いの勝率、どう計算する?」
ユウカは、不適な笑みを浮かべて答える。
「私達とセンジョウがいれば、計算するまでもないわ」
「100%よ」
その言葉を最後に、ユウカは前線へと駆け出した。
足が動かないセンジョウは、その場に腰を下ろし、ヌィル・ヴァーナを固定砲台として運用を再開する。
攻撃を引き付けてくれるユウカとトキの存在、そして、センジョウに無い瞬間火力を補ってくれるアリス。
────最初見た時は意味わからんメンツだと思ってたが……良いところに声かけてるな、流石だユウカ。
火力の低いヌィル・ヴァーナのマシンガンで聖徒会を撃退し、トキのアビ・エシュフと、アリスの光の剣でダメージを与えていく。
だが、しかし。その程度で勝てるなら、センジョウは此処まで苦戦しない。
────消耗戦になれば、ヒエロニムスはともかく、無限に沸き出る幽霊兵の分こっちがじり貧……ヌィル・ヴァーナの弾薬がなくなれば、俺は実質完全なお荷物……。なにか、手段は……
センジョウは、マシンガンの弾倉を交換しながら思考を巡らせる。
勝つための手段を。絶対に見つけなければならない。
その時、脳裏にエンジニア部で過ごした日々を思い出す。
────ヌィル・ヴァーナの武装?
────ああ、ヌィル・ヴァーナは我々エンジニア部がチューンした装備だ。当然、武器も我々が作成したものはなんでも使える!
────馬鹿デカイチェーンソーにパイルバンカー……こっちはクソでかバズ?……取り回しの良いやつ付けてくれよ、自衛手段だぞ?
────ロマンがわからないとは……悲しい限りだ。
────いやこれ兵器だから……。
────"アリスの光の剣"のように、ようやくこの子達の使い手が見つかったと思っていたのに……。
────趣味と野望を勝手に俺に押し付けようとするじゃない!!
「…………あったな!今はお前達の頭の悪いロマンに感謝するよ!!」
センジョウは即座に声を張り上げる。
「ユウカ!アリスをこっちまで下がらせてくれ!!」
前線で指揮をするユウカは、振り返らずに応える。
「どうするつもり!!」
「説明してる暇はない!今は俺を信じろ!!」
センジョウの言葉に、ユウカは一瞬考えを走らせて……計算するより先に、『センジョウへの信頼』を取った。
「アリスちゃん!お願い!」
「任せてください!」
アリスが武器を背中に背負い、センジョウの元へと駆け寄ってくる。
「お呼びでしょうか!マスター!」
「よし、それじゃ……ん?ま、マスター?」
「はい!マスターはマスターです!」
どういう思考回路で、自分のことを『マスター』と呼ぶのか、イマイチ理解が及ばないセンジョウだったが、それを追求するのは、今じゃなくても出来ることだ。
「と、とりあえず。……悪いが、お前の『光の剣』を貸してくれ」
「アリスの武器を、ですか?」
キョトンとするアリスに、センジョウは目的を手短に話す。
「ヌィル・ヴァーナのジェネレータを、アリスの光の剣に直結させる。それで出力を引き上げて、最大火力でやつをぶち抜く」
「つまり!合体攻撃ですね!」
「まあ、そうだな」
キラキラとした瞳を向けられ、やりにくそうに返すセンジョウにたいし、アリスは満足げにうなずく。
「アリスの『光の剣』は、勇者の証です。世界のために己を省みず、仲間のために戦える。そんな勇者であることのあかしです」
アリスは、背負っていたそれを、センジョウへと差し出す。
「だからきっと、今のセンジョウさんは。勇者です。だから、きっと使いこなせます!」
真っ直ぐな思いと、信頼が、自分自身に向けられていた。
他の誰でもない、俺自身を信頼してくれている。
……助けに来てくれた皆は、この戦場にいる3人は、たしかに『蒼井センジョウ』のことを信頼してくれていた。
「……ああ、たしかに、受け取った!」
センジョウは、右腕の武装を全てパージし、アリスから受け取った光の剣を接続する。
────警告。不明なユニットが接続されました。
────警告。不明なユニットが接続されました。
────警告。不明なユニットが接続されました。
『光の剣』は元々、宇宙戦艦での運用を想定された武装だ。規格なんて物が合致するわけもなく、ヌィル・ヴァーナは接続された異物にエラーを吐き出し続ける。
「強制、接続」
ヌィル・ヴァーナを捩じ伏せて、光の剣を装備し、ジェネレータからのエネルギーを全て光の剣へ注ぎ込むようにラインを再構築する。
パルスフィールドへの供給すら遮断し、各部駆動制御エネルギーさえも、『光の剣』へ注ぎ込む。
────重すぎて、銃口が定まらねぇ……!!
本来のヌィル・ヴァーナの装備から超過しすぎた重力を支えきれず、武装の照準がブレる。
だが、そんなブレもすぐに収まった。
「大丈夫です!アリスが支えます!!」
「……助かる!!」
アリスの小さな身体からは想像も付かないパワーで銃身を支えてもらい、ヒエロニムスを照準へとらえる。
着々と充填されるエネルギーに、少しずつ『光の剣』が赤熱していく。
────『ヌィル・ヴァーナ』のジェネレータには、不可解な挙動があった。
それは、『燃料』が不明なことと、センジョウの精神状況で出力が変動することだ。
何を燃やして、これほどのエネルギーを発生しているのか。センジョウはおろか、エンジニア部や、ヒマリもその答えを見つけられずにいる。
だか、もし。非科学的な、センジョウの直感が正しいとしたら。
「ヌィル・ヴァーナ……」
これはきっと、『人の意思』を力に変えるマシーンだ。
ならば、きっとこの力に限界はない。
一人の思いに限界はあっても、託し、託されて、無限に広がる力に、人の意思に限界など有りはしない。
ならば。
「────エネルギー、充填完了」
──『絶望』程度、打ち破れない訳はない。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
溜め込まれたエネルギーが、センジョウのトリガーを切っ掛けに全て放たれる。
赤く光る光条は、直線を描き、無貌の怪物へと降り注ぐ。
怪物が吼え、悶える。
光条の元凶を潰さんと、幽鬼の尖兵がセンジョウへと向かう。
「させるわけ無いでしょ!!」
それを阻むように、ユウカが立ち塞がり、両手に持った銃を乱射する。
「後輩の晴れ舞台です、邪魔物はこのエースパイロットメイドが全て片付けましょう」
センジョウを攻撃するより早く、トキが敵を打倒していく。
「アリスだってちゃんと支えます!だから!全力で!」
砲撃の反動を、アリスが支える。
此処に有る想いの全てを、センジョウは託される。
「…………!」
いつの間にか、センジョウは笑っていた。
「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
想いを、意思を、決意を。
全てを燃やせ。
「これが!人の可能性だ!!」
そして。
想いの力がついに、ヒエロニムスを、貫いた。
無貌の怪物が、力を失い、その実体をボロボロと崩壊させていく。
「勝った……の?」
「その、様ですね」
「はい!やりました!マスターとアリス達の完全勝利です!!」
ヒエロムニスの消滅と共に、聖徒会もその力を失い、消滅していく。
今度こそ、完全に。センジョウ達の勝利だった。
「……ああ、やった」
力を使い果たし、意思をもやしつくしたセンジョウは、力無く空を仰ぐ。……天井の上に有る、空を。
「約束……守ったぞ、おや……じ……」
ふらり、と身体が揺れる。
「っ!!センジョウ!!」
それに気づいたユウカが、倒れこむセンジョウの元へと駆け寄る。
ヌィル・ヴァーナの装着が緩み、ゆっくりと地面へ倒れ伏すセンジョウの前に、滑り込むようにしてユウカは彼を抱き止める。
「センジョウ!センジョウ!!大丈夫なの!センジョウ!!」
自分に覆い被さるように倒れるセンジョウに呼び掛ける。
しかし、返事はない。
「センジョウ……!」
まるで、糸の切れた人形のようにピクリとも動かないセンジョウに、ユウカは最悪の想像をして、瞳に涙を浮かべる。
しかし。
「……ぐぅ」
血のせいか、妙にくぐもったイビキが聞こえる。
彼は、息をしていた。
「…………馬鹿…………ッ!!」
思わず、ユウカは彼の身体を力強く抱き締め────
「いっでぇぇぇぇぇ!?!?!?」
その激痛にセンジョウ悲鳴を上げて目を覚まし
「…………」ガクッ
激痛で、意識を失った。
「えっと…………ごめんなさい……」
ユウカの謝罪は、センジョウへは届かなかった。
こうして、彼は託されたものと、彼自身の想いを果たす。
全ての願いが救われた。なんて、そんな都合の良い
それでも、世界は救われた。彼女達の、
そうして、今度こそ。物語は『エピローグ』を迎える。