青空DAYS   作:Ziz555

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一日やすんだよね?


仕事の時間だ、センジョウ


忘れられし神への──:その1

 自走式車椅子に乗ったセンジョウは、トリニティへと足を運んでいた。

 明日に迫った聴聞会の前に、何か問題がないか、確認をするためである。

 

 事件が一旦解決をしたとは言え、ミカのした罪が消えるわけではない。罪には罰という責任が伴う。責任を果たしてこそ、本当の意味で人は赦される。

 

 だから、これは避けられないことなのだが……、それとは別に、センジョウには気がかりがあった。

 

 その確認も含めて、トリニティへと来訪したセンジョウを出迎えたのは、数人の護衛をつれた少女……桐藤ナギサだった。

 

「ようこそ。トリニティ総合学園へ。……初めまして。私はティーパーティーの『桐藤ナギサ』ともうします」

 

 深く頭を下げる彼女に、センジョウは苦笑しながら自己紹介を返す。

 

「シャーレの蒼井センジョウだ。そんな、わざわざ出迎えんでも良かったんだが」

 

 ナギサは顔を上げ、軽く首を横にふる。

 

「貴方はエデン条約の裏で暗躍する、アリウスの野望を打破した、トリニティの英雄です。相応のもてなしをしなくては、私たちの名に傷がつきますので」

 

 んんんんん????なんか、変なこと言われなかったか????

 

 ナギサの言葉に強い違和感を覚えたセンジョウは、激しく首を傾ける。

 

「ティーパーティーの一人……聖園ミカの暴走を止め、アリウスの凶行に自らの父を撃たれても諦めず、自ら剣を取ってトリニティの危機へ立ち向かった貴方を英雄と呼ばずしてどうしましょう」

「ず、随分大袈裟な……」

「大袈裟でも、『その方が都合が良い』のです」

 

 なにか含みを持たせた言い方をするナギサに、センジョウは渋々言葉を受け入れる。まあ、何かしら理由があるのだろう。

 

「では、ご案内致します。必要であれば、移動のお手伝いもしましょう」

「いや、大丈夫だ。一人で事足りる」

 

 ナギサの提案を断り、センジョウは車椅子を走らせ、案内されるままにトリニティの校内へと進んだ。

 

 

 

 センジョウが案内された先にたどり着いたのは、ティーパーティーが来賓をもてなすための応接間であり、そこには文字通り、『お茶会(ティーパーティー)』の支度がされていた。

 

 センジョウは勧められるままに席へと車椅子を近づけ、ナギサは対面の椅子へと腰を掛ける。

 

「私はこれから、センジョウさんと内密の話をします。席をはずしてください」

「かしこまりました」

 

 護衛のトリニティ生がナギサの指示を聴き、一礼をしてから部屋をでると、センジョウは姿勢を少し崩した。

 

「で、わざわざ人払いしたって言うことは、『事情』って言うのも聴かせてくれるんだよな?」

「ええ、……すみません。貴方がそういう事を望まない人だとは知っていたのですが……」

 

 申し訳なさそうにするナギサに、センジョウは苦笑を返す。

 

「いや、少し驚いただけだ。何か意図があるんだろうから、それなら仕方ない」

「はい。……実は、トリニティの中には貴方に反発する派閥が少なからず存在しています」

 

 ナギサの言葉に、センジョウは溜め息をつく。

 

「まあ、そりゃなあ……ぽっと出の男が先生の息子を名乗って、地位を盾に正義実現委員会を顎で使ってりゃ、そうもなるか」

 

 キヴォトスにおいて、『シャーレの先生』は十分な知名度と、影響力を持っていた。

 どんな生徒であっても、噂ぐらいは聴いたことがある。という程度には有名な存在が、センジョウの父親だった。

 しかし、それに対して、『蒼井センジョウ』という存在の認知度はかなり低い。トリニティ内部でさえ、生徒によっては今回の事件が認知のきっかけであり、ましてや彼が『先生の息子』であるということを知らぬ人も多く存在する。

 

 年齢的にも、『実子ではない』という推測は十分にたてられるし、となれば『先生の息子』という話も、尾ひれがつく噂になり果てる。

 

 そんな男が、『シャーレの先生』が凶弾に倒れた直後に『後継』を名乗り、権力を使って、ティーパーティーのいないトリニティの治安維持部隊の正義実現委員会を戦場に駆り出したとなれば……聞こえは最悪である。

 

 

「そこで、貴方に『トリニティを救った英雄』という肩書きを付けさせていただきました」

「たしかに、恩人にわざわざ牙を剥くような生徒はトリニティにはいない、か」

 

 実際、センジョウは年齢的に威厳があるとは言いがたく、生徒から嘗められやすいポジションにいる。

 そんな彼を受け入れさせるための『箔』という意味では、とても理に叶っていた。

 

「相談もせずに、勝手に貴方の印象を操作するような事をした非礼、心から謝罪します」

 

 

 再び、深く頭を下げるナギサ。

 

「いや。気遣ってくれたんだ。感謝こそしても、責める理由はどこにもない。……顔を上げてくれ」

「ご容赦、痛み入ります」

 

 落ち着いた手付きで紅茶を手に持ち、優雅にそれを飲むナギサに、センジョウは感心する。

 なるほど。確かにこれは女傑だ。効果的な策謀を顔色ひとつ変えずに行い、優雅な立ち振舞いには余裕すら感じられる。

 補習授業部の話を聞いた時には、どんな人がでてくるのかと構えていた部分もあったが、これならば納得が行く。

 

────実際は、先生が倒れた事や、恩人に対する無礼、先生の息子という特異存在に対する対応で一杯一杯になってるのだが、センジョウがそれに気づけるほど彼女との付き合いは長くはない。

 

 

「それで、聴聞会の準備はどんな感じだ?」

「概ねつつがなく進行しています。確か、センジョウ様もご出席頂ける予定……ですよね?」

「父さんの代理でな」

 

 俺自身は補習授業部担任ではないからな。と頬杖をつく。

 

「あと、様はやめてくれ……先生の代理とはいえ、年齢もそう変わらない相手に言われるのは俺も肩身がせまくなる」

「では、センジョウさん。と」

 

 かちゃり。とカップを皿に置き、ナギサはセンジョウの顔を見る。

 

「……今回の件。センジョウさんは、どうお考えでしょうか?」

「そうだなぁ」

 

 センジョウは不馴れな左手で、どうにか紅茶を一口飲む。

 

「ミカの行いは、到底許されることじゃない。……厳密には、今トリニティに起きた不条理の全部を彼女の責任にしないと、納得しようにも怒りが収まらない。……ってやつが少なくないだろ」

「仰る通りです」

 

 沈痛な面持ちで、センジョウの言葉を受け止めるナギサ。

 

「ミカさんは……今、トリニティの生徒達からの憎悪を一身に受けています。いくら咎めても、彼女への"イジメ"は止むことを知りません」

「難しい問題だな。……みんな怖いんだろ。一度、日常が呆気なく崩れ去ったんだ。いつ同じ目に遭ってもおかしくない。そんな不安に耐えられなくて、原因を排除して、安心したくなる」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、センジョウは続ける。

 

「……ミカは、その槍玉に都合がよすぎる」

「ですが……!!」

 

 ナギサは、強く手を握りしめ、センジョウへ訴える。

 

「彼女は……確かにミカさんは多くの人を傷つけました!けれど、今のミカさんは、十分すぎる代償を払った筈です!痛みを、苦しみを感じている筈です!」

「……そうだな。十分すぎる反省はしてるだろ」

 

 事実、ミカはそれほどの悪意に晒されながらも、その力を振りかざそうとはしない。甘んじてその痛みを受け入れていた。

 

「だがそれは、あくまで私怨だ。それを公的な免罪符にはできない」

「そう……ですが……」

 

 納得できないようすで、うつむくナギサ。

 

「…………確か、ナギサはミカと幼馴染みだったな」

 

 センジョウの問いに、ナギサは静かにうなずく。

 

「……ナギサは、ミカの事を救いたいんだな?」

「幼馴染みとして……親しい友として、そう思うことは、いけないことなのでしょうか」

 

 

────嘆きの連鎖は、まだ終わってない。

 

 センジョウが父から託されたものは。『エデン条約』ではない。……この世界に生きる、生徒達の願いだ。

 

 

「なら、俺はミカの罪を軽くするように進言すればいいな」

 

 センジョウの言葉に、ナギサは目を丸くする。

 

「……本当、ですか?」

「当たり前だろ。ミカの退学になんで俺が喜ぶんだよ」

 

 センジョウはもう一度紅茶を飲む。

 

「大体、俺の立場を『英雄』にした理由の一つだろ。多分」

「…………センジョウさんは、先生より察しがいいのですね」

「言葉の裏読む癖があるだけだよ」

 

 良くも悪くもな。と付け加えるセンジョウに、ナギサは少し笑みをこぼす。

 

「乱暴な方だとばかり思っていましたけど、不器用なだけなのですね」

「なんかそれ良く言われるんだけど……」

 

 ナギサの言葉に不服そうな表情を浮かべるセンジョウ。

 彼は咳払いをして、姿勢をただす。

 

「ともかく。聴聞会では極力ミカの罪を軽くできるように取り計らう。ティーパーティーの2人と俺がそういうスタンス取ってれば、最悪でも退学は避けられるだろ」

 

「セイアとの仲直りさえできてれば、ミカ自身の最大の罪はかなり軽減されるしな」

 

 簡単な話だ。と余裕の面持ちで紅茶を再び口につける。こいつ結構紅茶気に入ってんな。

 

 しかし、ナギサがその言葉に対し、苦笑を浮かべる。

 

「それが……その……」

「ん?」

 

 ナギサは、言いにくそうに口を開く。

 

「実は……セイアさんとミカさんが……会おうとしなくて……」

「……はぁ!?」

 

 ナギサの言葉に、すっとんきょうな声を上げて驚くセンジョウ。

 

「な、なんでだよ!ミカはお前達に謝るって約束してるし、セイアも別にミカの事許してるんじゃないのか!?」

「それが……」

 

 ナギサは事情をセンジョウへ話す。

 

 要点をまとめれば、

1.ミカがセイアの元を訪れる

2.セイアが体調不良を理由に断る

3.ミカがへこむ

4.セイアも会いに行かない

 

 という感じである。

 

「子供かあいつらは!?」

「い、一応まだティーンですから……」

 

 あーもう!とガシガシと頭を掻くセンジョウ。

 

「『概ね』の概ねじゃない部分それかよ!!」

「お恥ずかしながら……」

 

 疲れきった様子で肩を落とすナギサにつられ、センジョウも肩を落とす。

 

「それで……。ミカとは幼馴染みだし、セイアの事情もわかるがゆえに、どちらに付こうとしても今一うまく取り持てなかったんだな?」

「情けない限りです……」

「いや、いい……仕方ないことだと思う。近すぎるとそれはそれでやりにくいことがままあるのはわかる……」

 

 はぁ。と深く、大きな溜め息をつく。

 

「わかったよ。なんとかする」

「申し訳ありません………………」

 

 ナギサは、深く、それはもう深く頭を下げる。

 

 センジョウはそんなナギサの姿を見て、少し頬を緩めた。

 

「ナギサが友達の為に懸命になれる人だってのは良くわかったよ。……この前はそれが妙に空回りしてただけだって言うのも」

「えっと……ありがとう、ございます……?」

 

 突然の言葉にナギサは不思議そうな顔をセンジョウへと向けた。

 それを見たセンジョウは、車椅子をひいて、テーブルから離れる。

 

「じゃあ、行ってくる。時間もあまりないしな」

 

 ナギサへ背を向けて、応接間の出口へと進むセンジョウに、ナギサは声をかけた。

 

「一つ、お伺いしても」

「ん?」

 

 頭だけを振り返り、センジョウはナギサの顔を見る。

 

「どうして貴方は、そこまで私達の為に尽くしてくれるのでしょう?……やはり、『先生』に託されたから……でしょうか」

 

 ナギサの問いに、センジョウは少し頭を捻る。

 

「それもあるけど」

 

 

 

 

「俺も憧れたんだ。あの背中に」

 

 

 

 

 その言葉だけを残し、「じゃあ」と、一言別れの言葉を告げてセンジョウは応接間を後にする。

 

 

 

「……親子、ですね」

 

 

 

 彼の笑顔を見たナギサは、彼に良く似た笑顔を想いだし、紅茶を口へ運んだ。






というわけでエデン4章開始です。


……なんか、開始前からセンジョウくん死に体なんですけど。
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