難産だったプロットも組み上げてるので後は書くだけですからねぇ~
────ここは?
センジョウが部屋を去ってすぐ、セイアはいつの間にか眠りへついていた。
────ミカはすぐに来るはずだというのに……。こうもすぐに意識が夢へ落ちるのは不便なものだ。
自身の今の体の不調に頭を悩ませながらも、セイアは辺りを見回す。
そこは、4人の異形が立っている、どこかの一室のようだった。
窓もなく、部屋全体が赤く、薄暗く照らされているそこで、彼らは何やら『会議』をしている。
それらが何者か。セイアには直感的にわかった。
────『ゲマトリア』……!?
彼らは、どうやら意見の違いでもめている様で、木像の男は、白いドレスの女への不満を漏らし、頭無しの男と、黒いスーツの男がそれを諫めていた。
「……彼女は、キヴォトスに自分だけの領地を確保しています」
黒服の言葉に、絵画の男が言葉を返す。
「アリウス自治区ですね。あそこのすべての生徒と学園を支配下に置くなんて、確かにそれは偉業です」
その言葉に、セイアは衝撃を受けた。
トリニティの、ミカを騙した黒幕が、そこにいる、白いドレスの女だ。
「黒服のアビドスは残念でしたが……おっと、失礼。皮肉を言っているつもりではありません」
「ククッ……お気になさらず。確かに惜しかったですが──あの『先生』の存在は、私の計算に入ってなかったので」
「……『シャーレ』。例のあの者たちですね。私たちの敵対者」
黒服の言葉に、ドレスの女が不機嫌そうに言葉を漏らす。
「そういうこった!」
頭のない男の、意味のない相槌が響く。
「……最も、すでに彼は虫の息。死んだも同然ですが」
「私としては残念な限りだ。あの者は私たちの理解者になってくれるかもしれなかったというのに」
「私もまだ判断を保留していましたが……ああなってしまえば、もはや論ずる余地もありません」
自慢げに勝ち誇った様子で『先生』の重体を告げる彼女に、木像の男と絵画の男が同意する。
「私としては……彼の忘れ形見にも十分な可能性が秘められていると考えているのですがね」
黒服が唯一その論調に反対し、ドレスの女を見る。
「……そういえば、彼が使用した薬剤。あれはあなたが提供した技術でしたね」
「ええ。彼とは良い関係を築けると考えていますので」
黒服の言葉を彼女は、くだらない。と一蹴する。
「しかしまあ、『アレ』もシャーレの残滓……取り除くに越したことはないでしょうが」
沈黙する黒服に、ドレスの女は呆れたように口を開く。
「説明が必要なようですね。ええ、折角なので一つずつ順を追っていきましょうか」
そうして、彼女の口から。この、『凄惨な物語』の真実が語られる。
ミカがアリウスを訪れたことで、ドレスの女は『エデン条約』を利用した『太古の威厳』の確保や、予知夢の大天使……セイアのことを知った。
そして、『シャーレの先生』という存在が、自身の望む世界に不要な存在であることを初めて認知する。
彼女がアリウスを支配したのは、『秘匿されていた』という事実だけの理由であり、そこに住まう『生徒』たちへ植え付けた『偽りの憎悪』はあくまでも彼女たちを統制する手段で、『エデン条約』も守護者の力を得るための手段。実行犯の『スクワッド』でさえ、彼女にとっては使い捨ての『手段』でしかない。
はずだった。
しかし、『シャーレの先生』の介入により、確かに『聖園ミカ』はその役割を果たせず、『白洲アズサ』は信念を貫き通し……そうして、彼を排除してなお、すべてを継いだ『蒼井センジョウ』によって、彼女の計画は一旦の成功はしたものの、想定していた結果の半分もことを成すことはなかった。
「故に、いかなる残滓であろうと、『先生』を排除しなくてはなりません」
「ククッ……」
黒服は、彼女の言葉に笑みを漏らす。
「……何か言いたい様子ね」
「失礼。大したことではございません。気分を害したのであれば謝罪しましょう」
黒服を不機嫌な様子で睨む彼女に、彼は言葉を返す。
「あなたの思うようになさってください。ベアトリーチェ。それが『ゲマトリア』です」
しかし。
「あなたの計画というものが何なのか、私たちに具体的に教えてくれたことありませんでした。マダム、あなたはアリウス自治区で何をしているのですか?」
彼の言葉に、ベアトリーチェはシンプルな答えを返す。
「祭壇を用意しています」
「祭壇?」
要領を得ていない黒服に、ベアトリーチェは言葉を続ける。
「あなたがアビドスで行おうとしていた事と本質的には変わりません。ただ、私は契約をするつもりはないですが」
「ほう、契約の代わりに儀式ですか。……そして、そのためには『シャーレの先生』が邪魔になると?」
黒服の言葉に、ベアトリーチェは嘲笑を返す。
「『その残滓』です。……あなたはずいぶんと彼を買っている様子ですが、彼も所詮はただの『子供』です、取るに足らない、大人の道具。……『先生』の力もないような彼にできることなどもはや存在しないでしょう」
彼がどうあがこうと、もはや単独でアリウスの戦力を覆すことはない。とそう言い切る。
「無謀な蛮勇を振りかざし、『先生』のまねごとをして私のもとへ来る可能性もありますが……儀式のついでに排除してしまえばそれまでです」
その言葉に、セイアは危機を理解する。
「しまった……!『彼』なら。もし彼が、『スクワッド』に接触すれば……!」
その未来を想像し、セイアは顔を青くする。
しかし、それがまずかった。
「……どうやら、ネズミが潜り込んでいるようですね。……私はこれで失礼します」
いかなる方法か。想像もつかないが、セイアの存在を知覚した彼女はその空間を後にし、セイアは目を覚ます。
そうして、答えを得る。
────すべては、あの女の仕組んだ出来事だった。
その危険の始点があるとすれば。
「やっほ、セイアちゃん。呼ばれたから急いできたよ」
疲れたような表情の、ミカがそこには立っていた。
「ミカ……」
「セイアちゃん……どうしたの?顔色悪いけど……そんなに私と会うのは嫌だった?」
夢に飲まれていた影響か、セイアは回らない頭のまま、ミカへと歩み寄る。
「アリウス自治区に接触したとき……『スクワッド』以外との接触は……?そもそも、自治区へは本当に一度も行ってないのか……?」
「えっと……どうしたの?」
呼吸が乱れ、顔色の悪い、様子のおかしいセイアに、ミカは不安そうな顔をする。
「ドレスを着た背の高い女性……『スクワッド』に関する、ほかの情報でもいい……!」
「せ、セイアちゃん?少し落ち着いたほうが」
ふらふらと倒れそうなセイアを、ミカは抱き支える。
「君が……アリウスに接触したことで……」
「……」
息も絶え絶えのまま、セイアは言葉を続ける。
「彼が……蒼井センジョウが……君のせいで……」
そこまで言いかけて、センジョウの言葉を思い出す。
「……いや、君のせいではない、な……すまない、ミカ……」
弱弱しく、セイアはミカを見上げる。
彼女の表情は──。
────いつの間にか、セイアのは、古びた教会にいた。
先ほどまであった苦しさもない。
「ここは……アリウスの……?」
「察しがいいようですね」
セイアが声をした方を振り向くと。そこには長身のドレスの女……ベアトリーチェが立っていた。
彼女はすさまじい力でセイアの首を締め上げる。
「ここは『バシリカ』と呼ばれるアリウスの至聖所。まさかここまで来るとは思いませんでしたよ。預言の大天使……いえ、『百合園セイア』」
「こ、ここが。……祭壇……」
「ほかのゲマトリアでも訪れたことのない秘境です。光栄に思いなさい」
────セイアの視界の端に映る、不吉な『像』は、セイアの直感を刺激する。
この女が、キヴォトスに災禍を招こうとしている。
「み、ミカ……」
いつの間にか現実に戻っていたセイアの前には、ミカがいた。
視界がぼやけ、彼女の表情はわからない。
「すまない、ミカ。私は君に……また、同じこと、を……」
「ううん。いいんだよ、セイアちゃん。大丈夫」
「み、か……?」
彼女の声は、冷たく、無機質で、血がまるで通っていないような、そんな印象を与えた。
「ごめんね。全部、私のせいだもんね」
「ちがう……違うんだ、ミカ、君のせいでは……」
「ううん。私のせいだよ」
だって
「私は────トリニティの裏切り者で。魔女だから」
だから
「み、か……」
最後にセイアが見たのは、自分を取り囲む正義実現委員会と、救護班。
そこに、彼女の姿は。なかった。
トリニティ郊外。
差出人不明のメールを受け取ったセンジョウは、指示通りに路地裏へ入ると。
そこには、『アリウススクワッド』のリーダー。『錠前サオリ』が待ち構えていた。
「……数日ぶりだな。錠前サオリ」
「蒼井、センジョウ」
冷たい雨に打たれながら、それでも傘を差さずに彼女はそこに立っていた。
「メールをくれたのはお前か?」
「……ああ、そうだ」
戦場の問いを肯定したサオリは、装備していた銃に手をかけ────
────武装を、解除する。
そうして、そのまま地面に膝をつき、両手をつくようにして、頭を下げる。
「姫が……アツコが攫われた……!」
追い詰められた様子で、震える声で、言葉を続ける。
「作戦を失敗して逃げたことで、私たちはアリウスにも帰れず……追われる身になり、逃げ続けていた。でも、それも長くは続かなかった……!」
悔しさのままに、サオリは拳をアスファルトへとぶつける。
「守れなかった……救えなかった!アツコは攫われ、ほかのスクワッドのメンバーとも散り散りになってしまった」
「『先生』も、私の弾丸を受けて意識失ったまままだ起きていないというのも知っている……!」
「もう、私一人では、どうすることもできない。だから────」
────もう、お前しか、頼れるのは……!!
「お前は、あの時、カタコンベで私に言った」
『……誰かに頼ることとか、助けを求めることは。悪いことなんかじゃない』
『俺は────君の事も、助けたい』
『間違えたっていい。ぶつかる事だってあるかもしれない。……『
『だから。君には、この手をつかんでほしい』
「あの言葉が、真実なら。私を、私たちを」
その問いへの答えは一つだ。
「わかった。一緒に戦おう」
迷いなく、彼はその手を掴む。
────ユウカには、今日は遅くなるって伝えとくか。
大事なのは、経験ではなく、選択。
じゃあ、その選択をするのが先生じゃなかったら、どうなるんでしょう
無数の役で呼ばれる彼の選択は、一体どうなっていくのか。
お楽しみに。