上手いこと展開を組み立てられれば良かったんですが、いやはやなかなか
薬の効果と、短時間とはいえ睡眠を取ったことで、動ける程度には回復したサオリは、アツコがいるであろう目的地……『バシリカ』への道として、『マダム』が来るより以前に作られている旧校舎の回廊を使うこととした。
時間はそう多くはない。彼女たちがアリウス自治区を進んでいると、サオリが異変に気付いた。
「……静かすぎる」
夜も遅く、往来を人が行き来するような時間ではない。しかし、それを差し引いたとしてもアリウスの街に人の気配1つない。
サオリの言葉に、ヒヨリも自らの違和感を口にする。
「な、なんか……知らないものがいっぱい増えてます……」
「そうだね……違和感は、私もさっきからすごくある」
ミサキもその言葉に同意の言葉を返す。
「自治区から長く離れていたとはいえ、私の全く知らない街になってる」
「な、なんというか……よくよく思い出すと、以前から少しずつよくわからないものが増えていたような気がします」
ヒヨリ達の言葉に、ユウカは浮かない表情を浮かべ、ため息をついた。
「ウチの会長の横領を思い出すわね……」
「父さんから聞いたアレか」
センジョウがキヴォトスに来るより以前、天童アリスが、天童アリスと呼ばれるようになったきっかけともなる事件。
「……今回のほうが、薄汚い大人の悪意が絡んでるぶん、状況は悪そうだがな」
嫌悪感をあらわにして、そうつぶやく。
「……自治区のあちこちに設置された、巡航ミサイルや……補給された謎の武器……」
「それに今考えてみると、あの
彼女たちは、まだ子供だ。
子供にとって、『教育』というものは洗脳にも近しい。与えられた知識は、経験となり蓄積され、子供が生きて聞く世界の基本や基礎となっていく。
────センジョウにとって、それは『先生』である父への最上級の侮蔑に他ならなかった。
子供は、大人に教わり、導かれ先へと進む。そして、大人は自らより先の未来を子供に託すために、自らの経験を糧に変える。
それが、それこそがセンジョウが憧れ、目指している『大人』の姿であり、在り様だ。
「アリウス。か」
センジョウが父から託されたのは、エデン条約の顛末や、それに関わる生徒たちの未来だけというだけではない。
少なくとも、彼はそう考えている。
「ちょっと待って……誰かいる。隠れて」
先行するミサキの指示に従い、物陰へ身を隠す面々。気配のない街に突如現れた人影は──
「あれって、聖徒会!?ユスティナ聖徒会ですよね?それにあの姿は……」
──聖徒会の
「……なぜだ?エデン条約が取り消された以上、使役は不可能なはず」
「お前たちもイマイチ理解してなかったのか、アレ」
「原理が不明でも因果関係が分れば利用できる技術。ってこと?でも、だとしたら……」
ユウカの考察に、ミサキは自らの考えを口にする。
「……そもそも、私たちがエデン条約の会場を襲撃した理由は、
「そうですね……だから姫ちゃんは、古聖堂の地下であの『木の人形』の言う通りにしました」
見落とした違和感が、動き出した思考によって、露になっていく。
「そうして確保した聖徒会の兵力で、トリニティとゲヘナ自治区を占領する。それが、私たちの任務だった」
その後、あなた達に負けたけど。と付け加えられ、センジョウとユウカは微妙な顔をした。
「私たちが逃亡したのもその敗北が理由。能力の確保も、学園の制圧も失敗した。……作戦は、失敗した」
「なら、どうしてあそこに聖徒会がいるの?」
ユウカの問いの直後、遠くから何者かの『呻き』が響く。
「『アンブロシウス』の悲鳴……理由はわからないけど、あの時私たちが扱った
ミサキの言葉は、この事件の、いや。『本当の目的』の答え合わせ。
「──
つまり、その事実は。
「『彼女』にとって……トリニティとゲヘナは。私たちの憎しみは」
『ええ。どうでもいい事です』
聞きなれない女性の声が響き、どこからともなく、聖徒会が周囲を取り囲む。
「罠か」
「読まれてたみたいだね」
サオリとミサキは、苦虫を噛みつぶしたような表情で周囲を確認する。
『ここは私の支配下にある領地。あなた達の位置や目的地、その経路に至るまですべて把握しております』
通信から聞こえる声の主。『マダム』が、静かな声で告げる。
『あなた達が旧校舎の回廊に行こうとすることも最初から分かっていました』
サオリたちを『愚か』と罵り、彼女は嗤う。
『私に隠し事なんて、不可能ですよ』
「ひ、ひいぃぃ……さ、最初から……」
「やっぱり、手のひらの上だったの……」
彼女の声に、ヒヨリは慄き、ミサキは諦めたような声を漏らす。
『あなた達の任務は最初から、《ロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させること》。……一度パスさえつなげば、以降は私の自由です』
『トリニティとゲヘナへの憎悪など……この自治区を統制するための方便です。私にとっては些末なこと……』
あっけらかんと、彼女は言い放つ。
『そうですね。ですから、あなたは任務を全うしたといえるでしょう』
『私に
底の読めぬ声で、『マダム』はいう。
『あなたは言いつけを良く聞くいい子ですね、サオリ』
「……やはり、最初から約束を守るつもりなんてなかったのか……」
後悔と、怒りと、悔しさと。様々な負の想いが渦巻いたまま、サオリは立ち尽くす。
『……さて、私はさほど興味はなかったのですが……』
マダムは、話は終わったといわんばかりに、言葉を続ける。
『……蒼井センジョウ』
「…………」
彼女に名を呼ばれたセンジョウは、表情が険しくなる。
『私はベアトリーチェ。黒服と同じ、ゲマトリアの一員です』
「俺に何の用だ」
センジョウは敵意を隠すこともなく、言葉を返す。
『随分と嫌われてしまった様子ですね……せっかく、この世界の真実を教えて差し上げようかと考えていたのですが』
「興味はない。俺にとっての真実は、俺が見て、俺が知った中から、俺が選ぶ」
彼の言葉に、ベアトリーチェは嗤う。
『所詮はあなたも子供……純粋で、単純で、愚かですね。』
「黙れよ三下。俺の知る『大人』は、アンタなんかよりずっとデカいものを見ていた」
センジョウの煽りに、ベアトリーチェは呆れたようにため息をついた。
『……ではやはり、あなたは私の敵ですね。……教えて差し上げましょう、《楽園》は……原罪の生まれた場所であるということを』
「お前が何と言おうが、前に進む。その前に立ちふさがるなら、俺はそれを超えるまでだ」
はっきりと言い切ったセンジョウに、ベアトリーチェは溜め息をつく。
『……やはり、シャーレは飽く迄も敵ですね。黒服は貴方に何かを見いだしていた様子ですが……それも終わりです』
センジョウたちを取り囲んでいた聖徒会が、武装を構える。
『子供は子供らしく、大人の言うことに従っていれば良かったものを』
「それでも、今は俺が。『シャーレの先生』なんだよ」
────システム、戦闘モード。
脚部を車椅子にしたまま、戦闘はヌィル・ヴァーナの武装を展開する。
大人とか、子供とか。そんなことではなく。
センジョウという個人として、『ベアトリーチェ』という存在を許せなかった。
『であるなら、あくまでも邪魔をすると言うのなら……我が至聖所で、私は待ちましょう。決着はそこで』
最も。
『たどり着ければ。の話ですが』
その言葉を最後に、ベアトリーチェからの通信が切れる。
「……やるぞ、スクワッド!ベアトリーチェをぶっ飛ばして、アツコを救い出す!」
その言葉に、スクワッドのメンバーは深く頷き、戦闘を開始した。
「まずは包囲を抜ける!フォーメーションはわかってるな!」
「地下道で十分学んだ。前に出るぞ」
センジョウが車椅子を走らせ、サオリがそれに続く。
「まずは薄くしないと、か」
センジョウ達の進軍方向を確認したミサキは、ランチャーの弾丸を入れ換える。
「塵は塵に帰るもの……」
装填が終わったそれを、即座に上方へ放てば、ある程度進んだ段階で弾頭が分裂し、爆薬を撒き散らした。
広範囲にわたる爆撃をうけ、包囲陣形には乱れが生じる。
「援護する」
陣形を崩すために突撃するセンジョウに弾丸を浴びせようとする無傷な対象を優先してサオリは銃撃し、自身へ火力を分散させた。
「切り開く……!!」
支援を受けたセンジョウが、車椅子とは思えぬ加速で敵陣に切り込むと、パルスブレードのなぎ払いで、聖徒会を蹴散らした。
「敵陣形再編まで、予測20秒!それまでなら包囲を抜けられる!」
ユウカの声に、ミサキとヒヨリは駆け出した。
「サオリ!」
「わかっている!」
包囲の風穴を確認したサオリは、センジョウに促される間に後方へ振り返り、殿を努めるユウカへと加勢する。
先生の、全体を見据えた指揮とは違い、最前線に立ち『自らが道を開く』。
それがセンジョウの戦い方だった。
そのどちらの戦いの経験もあるユウカは、戦いながらも、自らの表情が緩むのを感じた。
戦闘に置いてユウカは、最前線に立ち、周囲を守る立場だった。
それゆえに、『戦う人の背中』をみることは少ない。
そんな彼女がみる、『自分を護るために前に立つ』少年の背中に。
────安心感を、覚えていた。
それは、以前感じた、背後から聞こえる先生の声……支えてくれる存在による安心感とは、少し質の違うものだ。
ふと、少し前に彼に伝えた言葉を思い出す。
──あなたが『先生』になるのは無理じゃない?
「(……ああ、そう言うことだったのね)」
彼の決意に感じた違和感と、彼を支えると決めた心の矛盾が、ほどけるのを感じた。
包囲を抜けてしまえば、いまの彼らにとって、聖徒会とアリウス生の集まりなど敵ではなかった。
だが、終わりではない。
「ようやく追い付いた」
1人の少女の声と共に、センジョウの眼前の聖徒会とアリウス生のが吹き飛ばされる。
「もう。女の子との大事な約束ほっぽりだして、他の女の子に一生懸命なんて。男の子として最低じゃない?」
「ミカ……!?」
通路で撒いた筈のミカが、そこにはいた。
「どうしてここに?って顔してるね?そんなの決まってるよ!!」
明るく振る舞いながら、ミカは狂った笑顔をセンジョウへ向ける。
「大事な大事な
ミカの言葉に、凄まじい圧力を"背後から"感じるセンジョウ。
「ひょ、表現が独特だな……。俺はお前の特別になった覚えは無いんだが……」
とりあえず、背後の圧を無かったことにしつつ、センジョウはミカに言葉をかける。
それに対して、ミカはクスクスと笑う。
「おかしなこと言うんだね、センジョウくん。ちょっと面白いかも」
ひとしきり笑うと、ミカは、だって。とセンジョウを指し示す。
「貴方は『
つぎに、自分を指し示す。
「私は『
それは。と言いかけたセンジョウの言葉を覆い隠すように、ミカは言葉を重ねる。
「みんなが言い出したこと。何て言い訳は通じないよ?」
────物語は、誰かに語られる物。
「みんなから見たら、それが現実で、真実なの」
だから。
「この物語の最後はね。『
ミカは、再び銃口をセンジョウへ向ける。
「センジョウ。さすがにもう、交戦は避けられないわよ」
ユウカの言葉に、センジョウは覚悟を決める。
「……お前がそこまで追い詰められたのは、俺にも原因があるんだな」
小さく、センジョウは独り言を漏らし、ミカを見すえた。
「────物語は、まだ終わらない。俺も、お前も……!」
「力を貸そう。……どのみち、彼女がああなった責任は私たちにもある」
サオリの言葉に、スクワッドのメンバーも、武器を構えて、センジョウと共に彼女に対峙した。
「あれ?もしかしてみんなに狙われる感じ?……もう、私っていつもこんな感じなんだから」
ミカは、仲間をつれるセンジョウに苦笑して、武器を構え直した。
その方が魔女らしくてちょうど良い。何てことを、考えながら。
4章も折り返し。
エデン書き終わったらなに書こうかな何て考えつつ。
カルバノグか、外伝やるか
光輪大祭はやりたいですが、SRTちょろっと出てくるからカルバノグの後の方が良さそうなんですよねぇ
あとバニーチェイサーは恒常化したら読んでから考えます。
コユキすきだからやりたい。
後はゲヘナ編もなんかオリジナルでやるのもありかもですね