仕事の休日パワーで投稿が早くなる
────ミカとの戦闘は、一方的だった。
彼女はセンジョウへと攻撃を仕掛けるが、ユウカの的確なサポートと、スクワッドの攻撃力の前に、万全な攻撃を行うことができず、車椅子のままのセンジョウにでさえ、その攻撃が致命になることはなかった。
しかし、それでも止まらないミカは何度か攻撃を試み、その度にユウカに阻まれた。
そうして、何度かの衝突の後、ミカは膝をつく。
「……ああ、もう。邪魔ったいなぁ……」
イラつきを隠そうともせず、ミカはセンジョウの周囲に立つ少女達を睨み付ける。
「ミカ。もうやめろ」
「諦めるなって言ったり、諦めろって言ったり……自分勝手だなぁ」
センジョウの言葉に、うんざりとした様子で言葉を返し、ミカは立ち会がる。
「セイアも、ナギサもお前のことを学園で待っている」
「待ってる?……部外者のくせに、知ったようなことを言うんだね」
彼女の言葉には、明確な拒絶の意志があった。
「センジョウ君。トリニティはもう、私の帰る場所じゃないんだよ?」
────ミカは、何も映らない、真っ暗な瞳のまま、言葉を続ける。
「私はトリニティの裏切り者で、セイアちゃんを傷つけて、みんなをひどい目に合わせた」
「そんな私はきっと、ううん。絶対に学園から追い出される」
「誰も私を待ってない。誰も私を守ってくれない」
「私のことを守ってくれる人さえ、私のせいで傷つけるなら」
──私はもう、全部捨てちゃうしかない。
「でもさ、それって不公平でしょ?」
「私だけが全部を捨てなきゃいけないなんて、私には我慢も納得もできないよ」
「だから、だから私は……『
「その罪を償って死ぬ」
寂しげに、悲しげに。
センジョウには、彼女の顔が、今にも泣きだしそうな、そんな女の子のように見えた。
「ミカ……」
「必ず殺すから。待っててね」
その言葉を残して。ミカは去っていく。
「センジョウ」
走り去るミカの背中を見送るセンジョウに、ユウカが声をかけた。
「……今は、アツコと、ベアトリーチェが優先だ」
「でも」
「時間がない。……計算すれば、分かるだろ」
震える声で、皮肉交じりの言葉を漏らすセンジョウに、ユウカは言葉を失った。
彼だって、彼女を救えずにいる自分に、憤りや悔しさを感じているのだ。
「……とはいえ、ストーカーの相手までしてられない」
ミサキの言葉に、ユウカは彼女を少しだけ睨み、ミサキは静かに目線をそらした。
「センジョウの言う通り、今は姫のもとへ急ごう」
サオリの言葉に促され、彼らは先へすすむ。
この先にどんな結末が待っていたとしても、止まるわけにはいかなかった。
────ベアトリーチェの刺客を退け、アリウス旧校舎から回廊へと入ったセンジョウ達は、目的地へ向けて走り続けていた。
その道中、サオリがセンジョウへ語りかける。
「どういう経緯で、聖園ミカがお前を狙う様になったのかは、わたしにはわからない。……だが、彼女はきっと、もう1人の私なのかもしれない」
「……どういう意味だ?」
突然の言葉に、その意図を聞き返す。
「彼女は、帰る場所を失い、全てを捨てなければならない……全てを失ったと言っていた。……いまの私も、帰る場所を失い、自らの過ちで、姫……アツコの事すら失いかけている」
「似ている、のかもしれないな」
センジョウの言葉に、サオリは静かに頷いた。
「私と彼女の違いは、お前の存在だろう」
「俺?」
ああ。とサオリは言葉を続ける。
「私にとってお前は『英雄』ではない。ましてや、『先生』ですらない。……ただ、救いの手を伸ばしてくれた、赤の他人だ。失った先で得た、可能性そのものだ」
「だが」
「ミカにとってのお前は、絶望そのものなのかもしれない」
……センジョウは、言葉を失う。
「ミカのこだわる、魔女や英雄というような立ち位置は、きっと、周囲から与えられた物だ。……自らの過ちで、君達は『先生』という、同じ、かけ替えの無い大切なものを失っている」
「……それなのに、俺は救われて」
「彼女は、救われなかった」
────それが、センジョウに彼女を救えない理由。
「君が『大人』であったなら。聖園ミカにとって、自分と同じ『子供』でなかったなら。……また、話は違ったのかもしれないな」
「俺は、どうすれば……」
センジョウが彼女の為を思って伝えた言葉は、きっと、彼女にとって呪いになっていた。
大事なものを失ってなお、光の道を歩み、願いを託され、『英雄』となった少年。
大事なものを失った事で、暗闇へと堕ち、憎悪を背負い、『魔女』となった少女。
光に照らされた闇は、より色濃く、深くなる。
「どうすればいいか。それは、私にもわからない」
「わからない、が」
サオリは、センジョウの顔をみる。
「──少なくとも、私がそれでも前に進めるのは。友がいたから、だろうな」
「友達、か……」
センジョウは、セイアとナギサの顔を思い浮かべる。
彼女達がミカを見捨てるとは、追い出すとは考えられない。
つまり、きっと。すれ違いがあっただけなのだ。
「……なっさけねぇ。『生徒』に教わるなんて。『先生』失格だな」
センジョウは、サオリの言葉に笑顔を浮かべる。
「アンタは『先生』じゃないんだから、わからなくて当然でしょ」
ユウカは、小さく笑みを浮かべながら続ける。
「まだまだこれから、『
「……そうだな」
託された。とはいえ、まだまだ未熟なのも事実だ。
「……アツコを救って、ミカも立ち直らせる。絶対に」
「ああ」
「手伝うわよ」
それでも。共に、前へ進む仲間がいるなら。いつかはたどり着ける筈だから。
不意に。回廊が大きく揺れる。
「リーダー!」
ミサキの声に振り向けば、柱が彼女たちへ向けて倒れてくる。
「ちぃっ!!」
「ユウカ!離れろ!」
センジョウはとっさにユウカの背を押し、サオリへと任せる。
「センジョウ!!」
センジョウは、倒れ来る柱から下がるようにして柱を避ける。
「ま、まだ来ます!!」
連続で倒れ来る柱に、センジョウだけが後ろへ、後ろへと追いやられる。
────気がつけば、完全に分断されていた。
「センジョウ!!無事!!」
瓦礫の向こうから、ユウカの声が聞こえる。
「……とりあえず、今はな」
「とりあえずって……今そっちに迎えにいくから!」
「いや、いい。先に進んでくれ。追い付く」
努めて冷静に、そう返す。
その声を聞いたユウカは、確信した。
「────聖園さんが、そこにいるのね」
「うわっ。すごいね、なんでわかるんだろう。声色?」
センジョウは、ユウカの勘の良さを恨み、舌打ちをする。
「バレない方が互いに都合がいいんだから、静かにしておいて欲しかったぜ」
「ごめんごめん。つい。……君たちの以心伝心?がみててちょっと気分悪くてさ」
ミカは自分の嫌悪を隠すこともなく、素直に打ち明ける、
「センジョウ!!1人で戦わないで!今のその怪我じゃ……」
「いいから先にいけ!時間がない!!」
センジョウはユウカの言葉を遮り、先を促す。
「目的を間違えるな!今の最優先は俺じゃないだろ!」
「でも……!」
「必ず追い付く!だから、ユウカ!!」
渋るユウカに、センジョウは声を大きくする。
「────俺を信じろ」
その言葉に、ユウカは、強く唇を噛んだ。
「……いきましょう。錠前さん」
「いいのか」
「いいの。……あのバカ、ああいう時はいっても聞かないから」
ユウカは、大きく息を吸い込む。
「死んだら承知しないわよ!!」
……その声を最後に、ユウカたちは回廊を先へと進む。
「……かーっこいいー。でも、恋人への最期の言葉、あれで良かったの?」
「恋人じゃねえよ。……それに」
──システム、戦闘モード。装備形態へ移行します。
センジョウは、『ヌィル・ヴァーナ』を、完全な戦闘形態へと移行した。
「最期でもない。俺も……お前も」
満身創痍のまま、センジョウは右足に全ての体重を預けるようにして、痛む身体のまま、立ち上がった。
「……まるであの時みたいだね」
それは、初めてミカとセンジョウが戦った時の話。
「今回は……逆だけど」
互いに満身創痍。しかし、より致命的な筈のセンジョウが普段のように語っている。
「いいや。今回も同じだ」
────脳波同調率、90%
────『最大稼働』へ、移行します。
ヌィル・ヴァーナのジェネレータが、再び唸りをあげる。
そうして、あの時のように、血のような赤い光が、彼を包む。
「……へぇ。ドーピング無しでできるようになったんだ」
感心したようにその姿をみるミカ。
「でもさ」
だが、みればわかるほどに、その光は安定しておらず、不定期に明滅を繰り返している。
ヘイローのように見える円環も、途切れ途切れで、まるでひび割れてぼろぼろな様にさえ見える。
「そんなんで勝てるの?」
センジョウは不敵に笑う。
「勝てなくても……止めるには十分だ」
言葉を合図に、センジョウはミカへと飛びかかる。
「単調」
ミカはセンジョウの攻撃を後方へ飛ぶようにして回避し、手頃な石を投げつけた。
放たれた石弾は、『ヌィル・ヴァーナ』の右腕部へと直撃し、センジョウは体勢を崩す。
「ぐがぁ……っ!!」
「やっぱり、あのバリア。機体には展開されてないんだね」
既に彼の手の内を知っているミカは、自分の推測が正しいことを知る。
質量の少ない弾丸で体勢を崩すことが難しくとも、石弾なら少なからずヌィル・ヴァーナの体幹へ影響を与えられる。
──そうしてそれは、右腕と左足が折れている今のセンジョウにとっては、軽くはないダメージとなる。
「ほらほら、ちゃんと避けないと腕と足が本当に使い物にならなくなっちゃうよ?」
ビュンビュンと石弾を投擲し、ヌィル・ヴァーナの左足と右腕を執拗に攻撃するミカに、センジョウは懸命に回避を試みる。
だが。ここは外ではなく、屋内。
「あはっ!その大きな身体じゃ、思うように動けないよね!」
「ちく、しょうっ!」
ブースターを強くふかせば、壁へと激突しかねない。
かといって生半可な機動力では、ミカの石弾を回避し続けることは困難だ。
地形、戦法、体調。
その全てが、ミカの味方をしていた。
そして、それだけの機動をすれば、それだけで肉体へ負荷がかかり。
「隙だらけ」
「しまっ……!!」
痛みと回避に気をとられ、ミカの接近を許してしまう。
「──ここ、痛いんでしょ?」
そうして、ミカの拳が、ヌィル・ヴァーナの右腕へと振り下ろされた。
備え付けの装備が粉砕され、大きな衝撃をセンジョウが襲う。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その痛みにセンジョウは絶叫し、地面へと叩きつけられた。
───損傷拡大。同調率低下。最大稼働を維持不可能。
ヌィル・ヴァーナのジェネレータが、静かにその輝きを失っていく。
そうして、センジョウは。
「……あっけない。こんなにあっさり勝っちゃうなんて、なんだか拍子抜け」
「う……ぐ……」
聖園ミカに、敗北した。
「……じゃあ。殺すけど。何か言い残すことある?」
銃口を脳天へ突きつけたまま、ミカはそう問いかける。
センジョウは、凍りついた表情のまま、自分を見下ろすミカを見つめていた。
「……ごめんな。ミカ」
「命乞い?……カッコ悪」
呆れたように、軽蔑したように吐き捨てるミカに、センジョウは言葉を続ける。
「ちがうんだ。ミカ……おれは、知らないうちに、……君を、追い詰めていたんだな」
「うん。そうだよ。だから、許してって?」
「いや……ただ。謝りたくて」
センジョウの言葉に、ミカの眉がピクリと動いた。
「……俺は、俺が。飛び出したせいで、オヤジが死にかけた」
──思うがままに、口を開く。
「あの場には……ヒナ……、ゲヘナの、風紀委員長だっていた。だから、たぶん。俺がいなかったら、オヤジはこんな目には……合わなかった」
「……だから、同じだって言いたいの?私も貴方も、自分の行動で大事な人を失った、おんなじ痛みを知ってるっていいたいの?」
ミカは、センジョウの言葉に銃をおろし、その胸ぐらをつかみあげた。
「違う!全然違う!!私は貴方みたいに、『先生』から何かを貰うことも!託されることもなかった!!私はただ、全部を奪われて!全部を踏みにじって!全部を踏みにじられて!!貴方なんかとは!全然ちがう!!」
「……そう、だよ。俺は……君じゃない。君は……俺じゃない……そして、俺は、『先生』にも……なれない」
ぽん。と左腕をミカの頭にのせる。
「よく……頑張った。こんなにいたくて、苦しくて、……泣いてるのに、それでも。よく耐えたよ」
────いつの間にか、ミカの目からは、涙が溢れていた。
「それなのに、ごめんな。俺は……君に求めるばかりで、君の求める物を、何もわかってやれなかった」
「……そんなこと。今さら言われても……もう、おそいよ」
泣きじゃくるミカを、センジョウはただ、ただ優しく撫でる。
「……ミカ。君は、童話の魔女なんかじゃない。今を生きる、一人の人間で……これからを生きる、子供なんだ」
そっと手を離し。ミカの背後を指で指す。
「成りたいものに、成ることを。諦めるのは……まだ早い」
センジョウの指した方向を振り向くと、こちらへ走ってくる二人の少女の姿が見えた。
「……俺に君は。救えない。だけど、君はまだ全部を失った訳じゃない」
「うそ……なんで……」
────そこには、セイアとナギサがこちらへと走りよってくるのが見えた。
「ミカ!」「ミカさん!!」
「ナギちゃん!!セイアちゃん!!」
三人は互いの名前を呼ぶと、二人がミカへと抱きついた。
「ようやく、ようやく追い付きました……」
「全く……君と言うやつは本当に、まったく……!」
「どうして二人が、こんな危険なところに……?」
「貴方のためですよ」
ミカの疑問に、その二人の背後から近寄る人が答えを告げる。
「……ミネ、団長」
「危険だと止めても聞きませんでしたし、貴方の救護に必要と考えましたので。私が護衛し、お連れしました」
救護騎士団団長、蒼森ミネは、ツカツカとミカをスルーすると、センジョウへと歩みよった。
「……無茶をしましたね」
「するしかないんだからしょうがないだろ」
センジョウは倒れたまま、ミネの応急手当を受け入れる。
彼女とは、『先生』の治療で何度か面識があり、この怪我で仕事をしている事実を激怒されたが──訳あって、その『無茶』を見逃して貰っている仲だったりする。
「ミカ」
セイアとナギサがミカから離れると、セイアがミカの顔をみる。
「え、えっと……」
「すまなかった」
ミカの反応も待たず、セイアは謝罪と共に、頭を深く下げる。
「私も、申し訳ありませんでした、ミカさん」
「ちょ、ちょっと二人とも!?」
なぜ謝られるのかがわからない、といった様子であわてふためくミカに、セイアは言葉を続けた。
「私は、君の気持ちを考えず、共にいた時間に甘えて、言葉にすることを怠っていた。……許して欲しい。私はいつの間にか、君の事を追い詰めていた」
「私も、……責任にばかり追われ、本当に大切なものを……守りたいものを見失っていました」
「……そんなの、だって。私は……」
魔女。なのに。
「君は、魔女ではない。……聖園ミカだ」
「ええ。……私達の、大切な友達です」
その言葉に、ミカは大粒の涙をこぼす。
「……いいの?こんな私でも、二人の友達のままで、いいの?」
静かに、だが、確かに二人は頷く。
「…………ありがとう、ごめんなさい……ごめんなさい……!」
ミカは二人へ泣きつき、ぎゅっと、抱き締める。
「……ミカ」
センジョウは、ミネに肩を支えられながら立ち上がり、ミカへと声をかける。
「俺達は、まだ子供だ。だから、何度間違ったって、やり直せる。……1人でやるのが難しくたって、お前にも仲間や、友達がいるんだ。……だから、悩んだり、わかんなくなったら、素直に頼れ」
「センジョウくん……」
ぼろぼろなまま、頼りなく彼は笑う。
「それでもダメなら、いつでも俺を呼べ。一緒に悩んで、戦って、頑張ってやるよ」
「────うん!」
少女は、輝くような笑顔で、頷いた。
「────鬱陶しいハエが。どうしてこうも私の邪魔をする」
至聖所で、彼女は吐き捨てるようにそう漏らす。
周囲には、倒れ付した少女たち──ユウカと、スクワッドの面々。
「……いいでしょう。ここで使う予定は無かったのですが……仕方ありません」
ベアトリーチェは、最後の札を切る。
「『バルバラ』……彼女にかかれば、トリニティの子バエなど一瞬で消し去ってくれる」
そして。
「……『蒼井センジョウ』。来るならば来なさい。貴方のその心を、絶望で埋め尽くして差し上げましょう」
というわけで、ミカの救済はやっぱりセイアとナギサだよね。
というお話でした。
先生が原作より早めにセイアを起こしてくれたので間に合った……という因果関係があるので、結果的にミカを救ったのはこの世界でもやっぱり先生でした。
いや……あのメンヘラの相手はセンジョウ君には荷が重いって……()
そしていよいよクライマックスです。
私も楽しみ