センジョウの年齢に関しては結構賛否両論あるとは思いますが、拙者若い男女のボーイミーツガール的な展開が好きな部分もあるのじゃ……許してくれ……趣味ゆえに……趣味ゆえに……
修羅の戦いは。30分にも満たなかった。
静かな読み合い。一瞬の交差。猛攻と反撃。その全てが一瞬で、一方的だった。
結果──引き分け。
「す、すごい……UZQueenと引き分けなんて……」
「連れてきたのお姉ちゃんでしょ……」
「5勝5敗ずつ……どれも一方的なゲームに見えたけど、結果だけ見れば五分五分だったのね……」
「アリスもあんな風になりたいです!」
"良い勝負だった……"
観戦していた人達の感想を背に受けた二人は、静かにコントローラーを床におく。
「……俺の完敗だ」
「「どこが!?!?」」
「正直、危なかった……あの固め、ブランクさえなければきっと割り込みのブッパも対策されてたから……」
「「そうなの!?」」
「ダイヤグラム8:2有利のキャラを使ってこのザマとなると、さすがに少し自信を失くすけどな」
「そんなことはないよ。そのキャラは私が一番対策してたキャラだから……引き出しの多さに驚いた、から」
「カシオペアの拳に終わりなし……」
「うん……正に終わらないロケテスト……このゲームの真髄を楽しめたよ」
周囲の理解を置き去りに、ガシィ!と力強い握手を交わす。……そこには紛れもなく、戦い、拳を交えた者同士にのみわかる、絆があった。
──お前も正しく、
「……なにこれ」
ユウカの感想が、まあおおむね正しい。
その後、ゲームと言う共通の趣味で打ち解けたセンジョウは、再戦の約束とともににこやかにゲーム開発部の部室を去る。
「思わぬ出逢いに感謝だな……」
"趣味を共有できる友達ができるのはいいけど、先生として、公私はちゃんと分けられるようにね"
「先生、言うほどできてますか……?」
"……よーし!次はC&Cにでも挨拶しにいこうか!"
「あ!こら!ごまかして逃げないでください!」
早足どころか、駆け足でその場から逃げ出す先生を、ユウカは迷わず追いかけていく。
そんな二人に取り残されたセンジョウは、高ぶっていた気持ちが一気に冷めていくのを感じた。
「……いや、廊下を走るなよ」
この場に清廉潔白な、清く正しい教師、及び生徒はいないらしい。
~~~~C&Cの場合~~~~
「あれ?ご主人様じゃん。やっほー!」
「おや?……珍しいですね。ご主人様自身からこちらにいらっしゃるのは」
"ちょっとみんなに用事があったからね"
ミレニアムが誇る、メイド集団C&C。身の回りのお世話から戦闘まで。なんでもござれのお手伝いさん達。
メイドを自負する通り、彼女達は普段からメイド服に身を包んでおり、そして、その上司に当たる先生の事をご主人様と呼ぶ。
素性をしっていれば、まあわからないでもない話だ。だが、しかし。しかしだ。
その事情を全くしらない者がこの光景を見たらどう思うだろう?生徒にメイド服を着させ、ご主人と呼ばせる先生の構図を見たものはなんと言うだろうか?
「オヤジ……」
"ん?"
センジョウは、先生の肩に優しくてをおき、哀れみの目で彼を見つめる。
「大丈夫だ。きっとオヤジがいなくなっても、俺が何とかするから。だから、自首しよう……な?」
"混乱とかじゃなくてもうやったこと疑わないんだ!?"
「その気持ちは良くわかるわ……」
"ユウカも頷いてないで説明してよ!私がそんなことする大人に見えるの!?"
必死の反抗を見せる先生に、センジョウとユウカは互いの顔を見合わせる。
「「うん」」
"そっかぁ……"
先生に信用はなかった。
──閑話休題──
「……成る程。ご主人様のご子息様で、助手をされていると……」
「まあ、そんなところです」
「先生の息子さん……なんだか、不思議な感じがする」
「ご主人様みたいな雰囲気あるし、なんかわかる気がする!」
「別に血は繋がってねぇって話だろ……」
「お言葉ですがネル先輩。義理とは言え息子であるのなら、生活環境の近さから雰囲気が似ることもあると思います。その様な浅慮具合では、メイドとしては私の方が優れていると言わざるを得ません」
「ンだとォ!?」
あまりの信用のなさに、ちいさくてかわいそうな生き物になってしまった先生をユウカに任せ、センジョウは一人で事情を説明していた。
大小様々なメイド達が、自らの父親を『ご主人様』と呼ぶ姿にえもいわれぬ気持ち悪さを感じつつ、しかし彼女達に責任はない。どうせオヤジがなんかやらかしたのだろう。と自己完結をしたまま、やり取りを続ける。大体あってる。
「ねぇねぇセンジョウくん!どうしてシャーレに来たの?」
「……えー」
ぐい。と上半身を前につきだし、センジョウに近寄るアスナ。そのある部分に一瞬視線が持っていかれそうになったセンジョウは、理性で視線を引き留め、距離を離すために半歩後ろへ身を退いた。
「……?」
半歩離されたので、アスナは更に半歩前へ。すると当然、センジョウも更に半歩後ろへ。すると、さらにアスナが前へ。
ずい、ずい。
ずる……ずる……。
ずいぶんとゆっくりとした、間抜けな鬼ごっこが始まると、アスナは不思議そうな顔から、笑顔へと変わる。
「あはは!センジョウくん面白い!」
「か、からかわないでください」
「アスナ先輩。センジョウさんが困ってるから」
「はーい」
「申し訳ありません、ご子息様。悪気はないのですが、アスナ先輩もご子息様へ興味があるようなので」
「いえ、……いや。こちらこそ変に距離を取って申し訳ない」
カリンに咎められて距離を戻したアスナに、センジョウは呼吸を整えると、C&Cに向き直る。
「センジョウ様」
内心、ホッとした様子のセンジョウに金髪のメイド……トキが手招きしていた。
何事だろうかと疑問符を浮かべながら、トキへ近づくと、トキは自身の耳を示す。……どうやら、他には聞かれたくない話らしい。
ひとまず聞いてみてから考えようと、トキに耳を貸すセンジョウ。
「アスナ先輩の身体は、先生から見ても魅力的なようです。そう恥じずともいいかと」
「んなぁ!?」
バッ!っとトキから身を退くセンジョウ。肝心のトキ本人は、真顔のままピースサインをセンジョウへとむけていた。
「……なにが言いたいんだお前……」
「配慮もできるメイドです。ぴーすぴーす」
「……そ、そうだな……」
表情からはなにも読み取れない。読み取れないのだが、なんだか無駄に表情豊かな雰囲気と、どこかズレた様子のトキに先生の難しさの一端を感じるセンジョウであった。
個性豊かなメイドたちのパワフルさに振り回されるセンジョウに追撃をかけるかのように、室笠アカネが声をかける。
「ご子息様」
「……その呼び方どうにかなりません……?」
「いえ、ご主人様のご子息様ですから。譲るわけには参りません」
「ご主人様の完璧なメイドである以上!ご子息様の命はご主人様の命も同義!ご用命の際は!ぜひC&Cをご贔屓に!」
「……あ、はい。よろしくお願いします」
アカネの矜持とも言える宣言と熱意に、まあ恐らく自分の要望は通らないんだろうなぁ。何て事を考えながら、まあでも、この人達が悪い子ではないことも理解できたので、センジョウは彼女達のアリのままを受け入れる選択をした。
くしくもその姿は、どことなく先生に似ていた。
~~~~セミナーの場合~~~~
「……………」
「……………あの、ユウカさん?なんか怒ってません?」
「別にぃ?」
"やきもち……ってこと!?"
「ちがいます」
C&Cのメンバーと別れてしばらく。死ぬほど冷たい視線がセンジョウへつきささっていた。
やきもちではない。単純に男が目の前で下品に鼻の下を伸ばしていたことを軽蔑しているだけである。
「先生を目指す人が、生徒にあんな視線と態度なんて、本当に軽蔑します」
「…………」
思わず「教師な上他人の父親に色目使ってるお前に言われたくはない」と返しそうになるセンジョウだが、言ったところで無益な争いが広がることは火を見るより明らかだった。
"二人とも……なかなおり、しよ?"
「先生もいつまでそのままなんですか!もうちょっとしっかりしてください!」
いまだにちいさくてかわいそうないきもの状態から戻らない先生も頼りになりそうにはない。
「……」
センジョウは、この一日で大きく成長していた。
個性豊かな生徒達、自分とそう年齢の変わらない少女達。だが、彼女達と『友達』でいることは許されない。
『先生』であることの意味、責任、自分の取るべき行動の違い。
"……センジョウ"
「……ああ、大丈夫。わかってる」
そんなセンジョウの不安をしってか知らずか、先生は彼の背中をかるく叩く。
"みんなかわいいから辛いよね!"
「アンタと一緒にするな」
そもそもアンタ既婚者だろ。と、自分の感動を取り上げられたセンジョウは憤り、肩を落とす。
……さて、挨拶回りもそろそろ終わりだ。
「……あら、お帰りなさいユウカちゃん。それと、いらっしゃい、先生」
ミレニアムの生徒会室とも呼べる、セミナーの執務室の戸を開けると、二人の少女が彼らを待っていた。
一人は、セミナーの書記を担当している、生塩ノアであり、もう一人は──
「待っていましたよ、皆様」
"あれ、ヒマリ?"
「ええ、超天才清楚系病弱美少女ハッカーであり、ミレニアムが誇る『全知』のヒマリです」
「流れるような自己紹介だな……」
本人が名乗ったので説明を省くが、車イスの少女がそこにはいた。彼女は本来、ここに普段からいるような人間では無い筈だが。なぜかそこにいる。
「言わぬが華と言うこともあります。私がなぜここにいるのかは……秘密。ということで」
自慢げに微笑む少女の表情をみて、センジョウは確信する。彼女もまた、まあ恐らく間違いなく一癖も二癖もあるのだろう。と。
「ごめんね、ノア。最近仕事の席を外してばかりで」
「大丈夫ですよ。……代わりに、今までなにをしていたのかを教えてもらえれば♪」
「そんなに話すような事はないのだけれど……」
ユウカがノアに謝罪をすると、ノアは優しく微笑んでそれを許すが、その内容にセンジョウが口を挟む。
「お前絶対俺の事ボロクソに言うだろ。ちゃんと正しく報告しろよ」
「はぁ?変な言いがかりはやめてくれるかしら?ボロクソ言われるような事をしているのはアナタ自身の問題でしょう?」
「色眼鏡かけて受けとる情報を正確だととらえるやつが何処にいるんだ???」
「印象も含めての態度だと思うのだけれど、そんなこともわからない先生見習いなんているのかしらね???」
バチバチと火花を散らす二人。そんな様子を見れば、残りの三人が言う言葉は当然決まっている。
「仲の良いお友達が増えたんですね、ユウカちゃん」
"絶対仲良いよねあの二人"
「『全知』の私から見ても、あれは……」
「「全然仲良くないから!!」」
「あらあら」
息の合った反発に、微笑ましそうに返すノア。彼女から見ても、ユウカのセンジョウに対する罵倒には、ある程度の敬意が見て取れた。嫌悪はあるが認めてもいる相手……。そんな相手ができたことを喜ばしく感じるノアだが……ユウカが、その本心を聞いた時の怒る姿は、また別の機会に楽しむこととするのであった。
「それで、あなたが先生の一人息子のセンジョウさんですね」
「既に知ってるのか」
「天才病弱美少女ハッカーに不可能はないのです」
「そ、そうですか……」
「もっと驚いてもいいんですよ」
「わ、わぁーすごいやー」
自慢げに語るヒマリに、なんとか合わせようとするセンジョウに対し、適度な拍手を送る先生。その拍手を聞いてご満悦な様子でヒマリは言葉を続ける。
「アナタは先生とは事なり、私達生徒に近い存在です。『先生』と『生徒』……そのどちらでもあり、どちらでもない……。外から招かれたアナタの立場において、その存在はあまりにも不安定で、危ういものです」
「……そうなのか?」
"うーん……そう言われてみれば、そんな気がしないでもないけど……"
「神秘を持たない先生やアナタは、私達より脆い。けれど、センジョウさんは生徒であり……きっと、先生より狙われやすい立場になるでしょう」
「そこで!この超天才清楚系ハッカーである私は!先生の為にも、アナタの身の安全を確保するための術を用意しています!」
漫画であれば、『ばばーん!』といった効果音がつきそうな身振りで二人へとそう声をかける。どう見ても自称してる言葉とちょこちょこイメージが食い違いを起こしている気がするのはご愛嬌。
「……先生も我が子の安全は望むところでしょう。その為に!私が手を尽くしているのです!」
「これはもうきっと!それはそれはすごい称賛の嵐と!恩返しが待っているのでしょう!」
キラキラと輝いた瞳で先生を見つめるヒマリ。
つられて先生を冷めた目でみるセンジョウ。
見つめられて固まる先生。
彼の一挙手一投足が、今、注目を集める──!!
"こ、こんどまた足を洗ってあげるよ"
「足ぃ!?」
「先生!?」
「……うわー、オヤジ、それはさすがに無いわー」
「……あらあら」
───ミレニアムにおける、センジョウの挨拶回りは、先生の爆弾発言で幕を閉じた。
その日の夜、先生はユウカにこっぴどく叱られたし、センジョウからは凄まじい軽蔑の視線を浴びせられ、また、ちいさくてかわいそうないきものになってしまったのだった。
"わ……わぁっ……!"
大の大人が泣いて許されるわけ無いだろ!
"そういえばヴェリタスのみんなは?"
「先日の既婚者騒動の騒ぎの元凶として反省部屋で絞られてます。チヒロ先輩はその後始末で忙しくて」
(なにやらかしたんだその組織……)