たのしかったです!!
「明日、明後日の予定?」
ミレニアムの事務仕事を終え、センジョウの自室……厳密には、ミレニアムの宿直室でコーヒーを嗜んでいたユウカとセンジョウ。
そんな中、唐突なユウカの質問に、センジョウは顔をしかめていた。
「ほ、ほら。明日はクリスマスイヴでしょ?みんな色々予定あるみたいだし、アンタはどうなのかなーって……」
妙にそわそわとうわついた様子で、言い訳じみた言葉を並べるユウカに、センジョウは呆れたような表情を浮かべる。
「それさぁ。前日に聞く話か?」
「うぐ……」
センジョウの発言にユウカは口をつまらせる。ごもっともだ。
しかし、ユウカが悪いとは言いきれない。
明日は、センジョウがキヴォトスに来てから初めてのクリスマス……、言ってしまえば、ユウカにとっても初めての『恋するクリスマス』なのである。
しかも目の前のこの男、粗雑そうに見えて、割と紳士的な側面も持ち合わせている上で、ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナと、度々ディナーに出掛けるような、スミに置けない面もあるのだ。
風の噂で、各務チヒロにやけに優しいだとか、聖園ミカと親しげに町を歩く姿をみたことがあるなど、意外と女性の影はある。
だが、ユウカには『自分が一番センジョウと親しい』という、数学的根拠(共に過ごした時間や、普段の話している距離から計算式を仮定して求めたもの)に基づく自信を持ち合わせていた。
逆にその自信が邪魔をして、『もし先に予定を埋められていたりしたらショックで立ち直れないかもしれない』という不安がユウカの決断を鈍らせ……。
結果。前日に明日の予定を急に聞き出す少女が完成した。
「し、仕方ないじゃない。忙しかったんだし……」
12月の業務が忙しいのも事実だった。それに加え、先生代行としての信頼をじわじわと獲得しつつあったセンジョウは、以前に比べてミレニアムで過ごす時間は減ってきている。
当然、ユウカと過ごす時間も、じわじわと減ってきていた。
────事実。こうして二人でコーヒーを嗜む時間も、1週間ぶりだった。
「ま、確かに最近忙しかったからな……」
トリニティで有名な店舗のワッフルを、コーヒーのお供にいただきながら、センジョウはしみじみとカレンダーを眺める。
「そういえばそもそも明日の仕事はどうなんだ?」
セミナーの仕事の量はセンジョウもよく知っている。いくらクリスマスとはいえ、仕事が全くないとは考えにくい。
「……さすがにお休みよ。とはいえ、25日の午後からは働かないとだけど」
「…………ほーん」
妙に得心の行った顔で、横目でユウカを眺めつつ、コーヒーを傾ける。
「な、なによ」
今までに見たことの無いセンジョウの意味ありげな頷きに、ユウカはそわそわと身じろぎをする。
しかし、次の瞬間、脳裏に湧いた可能性に、心が一気に冷え込むのを感じた。
「……もしかして、空崎さんとデートの約束?」
彼女がなにかと理由をつけてセンジョウを外出へ誘っていることは、ユウカも知っていた。わざわざミレニアムへ向かいに来る事もあれば、逆に、センジョウ自身が彼女との食事の際に身なりを気を付けるような素振りをしていることも知っている。
それをデートと呼ばず、なんと呼べばいいのか。
……初めて彼が空崎ヒナとの食事に出掛ける時、ファッションの意見を聞かれたときの事を思い出して、胸が締め付けられるような思いがした。
センジョウの返答が怖い。一瞬のやり取りな筈なのに、その一瞬の時間が何倍にも引き伸ばされて感じられた。
心臓の鼓動は、煩い程に早鐘をうち、脳内にガンガンと響く。
胃からコーヒーが、逆流してきそうな気分だった。
「いや。それは断った」
あっけらかんといい放つセンジョウに、ユウカは、いつの間にか伏せていた顔をあげる。
「こ、断った……?」
誘われてない。ではなく。
「まあな。ヒナには悪いが……他に優先したいことがあってな」
「優先、したい、こと……?」
センジョウが空崎ヒナの事を信頼している、親しいと感じていることは、ユウカにも理解できていた。そんな彼が、その申し出を断る程の、優先事項が何か。予想もつかない。
「あ、えっ、と……」
──ユウカは、戸惑っていた。
目の前の彼が、自分のよく知る彼に、自分の知らない部分を見せつけられて。……その『優先事項』を聞いていいのか。……いや、『聞くべきなのか』を。判断できずにいた。
だからだろう。……ユウカは、センジョウの耳が、赤くなっている事に気づいていなかった。
スッ。っと、二枚のチケットが差し出される。
「……はぇ?」
空気の抜けるような、間の抜けた声がユウカの口から漏れた。
センジョウは、チケットをユウカにつきだしながら、そっぽを向いたまま、言葉を続ける。
「…………映画、見に行かないか。二人で」
「わた、しと?」
ユウカの言葉に、センジョウは静かにうなずく。
「ユウカが良ければ、その後の夕食も、予約してあるんだけど……」
「は、へ?え??」
これは、なんだ?
いや、冷静に、客観的に見ればどう考えてもデートのお誘いだろう。しかも、クリスマスに、映画と、ディナー。
だが、そんなアプローチがセンジョウから自分へ向けられたことは一度もなかった。
単発で映画やご飯に誘われることはあっても、半日以上のまとまった休日の時間を埋めるような誘いを彼から受けたことは、ユウカにはこれまで一度も存在しなかった。
だから、言葉の意味を理解できないまま、思考が止まっていた。
「……その。ディナーも、結構遅い時間しか、取れなかったから……なんか、アレ、だけど」
ユウカと同じぐらい顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになりつつ、センジョウは言葉を続ける。
「あー、勿論。お前が良ければ、なんだけど……」
だんだんと言葉がちいさくなり、最後にはモゴモゴと言葉になら無いような何かを口にしていた。
「え、あ……えっと」
ユウカは何とか思考を動かし、口を動かし、言葉に変える。
「デー……ト、の。お誘い、で……いい、のよね?」
ユウカの言葉に、センジョウはプルプルと震え始める。
「……………………はい」
妙にかしこまった言葉と、ガチガチになった声で、ユウカの問いを肯定する。
そうして言葉を理解したユウカは、頭が沸騰するような感覚を覚え、一気に顔が真っ赤になる。
目をグルグルと回し、おろおろと混乱した様子でいると。
「……あーーー!もうっ!!」
ガッ。とセンジョウがユウカの手を掴み、チケットを握らせてくる。
前のめりになったセンジョウの赤くなった顔が、ユウカの視界一杯に広がる。
「どうせ予定無いんだろ!!行くぞ!!」
「は、はい!」
いつになく強引なテンションのセンジョウに、思わずユウカは合意の言葉を返す。
かえして、しまった。
「ったく……」
呆れたような声は、照れ隠しだろうか。いつになく乱暴に椅子へ座り直したセンジョウは、空になったコーヒーカップを口元へ運んだ。
その日の後の記憶は、ユウカには無い。
気がつけば翌朝となり、センジョウとの待ち合わせ場所に、目一杯のおめかしをして向かい、二人でイルミネーションの施された町を歩き、映画を見て、美しいクリスマスツリーをみて、ディナーを済ませ。そして。
「ユウカ……」
「センジョウ……」
薄暗い一室。凍えるような外気から逃れるように、二人は身を寄せあって、ひとつのベッドに入っていた。
そうして二人は、互いの名を呼び合い、求め合い。互いの距離が─────
「うわぁぉぁぁぁぁぁ!!!」
ガバッ。っと、ユウカが飛び起きると、そこは自分の部屋だった。
「……え?あれ?デートは………?」
ぼんやりとした頭で周囲を見渡すが、当然、そこにセンジョウの姿はなく、見慣れた景色だけが広がっていた。
「ゆ、夢……?」
ユウカは、自分の置かれた状況を正しく整理し、頭を落ち着かせる。
要は。今まで見ていたのは、文字通りの『甘い夢』だったのだ。
ガバッ。っと、今度は布団を被り、枕へ顔を押し付ける。
「(何て言う夢を見てるのよ私はぁぁぁぁぁぁ~~~~!?!?!!?!)」
火照る顔と、身体に、混乱を隠すこともできず、自己嫌悪と羞恥に苛まれる。
これも全て、戦いの最中、急に自分を抱き締めてきたあの男が悪いのだと、そう結論付けたユウカは、……その瞬間の、センジョウの温もりを思い出す。
「…………」
「センジョウのばかぁぁぁぁぁ!!」
「ぶえっきしっ!」
センジョウは自室で身体をさすりながら、カレンダーを眺める。
「まあ、もうすぐ秋だもんな……風邪はひかないようにしないと」
突然出たくしゃみに、自身の体調への気を配りながら、今日の仕事のためにスーツへと袖を通す。
「……っと、これ、忘れない様にしないと」
出掛ける前に、テーブルの上に置いてあったチケットを手に取り、内ポケットへとしまう。
「この前、ユウカとの夕食の誘いすっぽかしちゃったからな ……いやまあ、連絡も無しに俺の帰り待ってるアイツが悪いんだけど」
けどまあ。ユウカにいつも支えられているのも事実だった。
「……感謝の気持ちを伝えるぐらい、悪いことじゃないだろ」
そう結論付けて、ユウカを誘うための映画のチケットをしっかりと持ったセンジョウは、自室を後にした。
夢☆オ☆チ
最後の映画のチケットはユウカがテンパって逃げたので、仕方なくヒナを誘ったらしいですよ。
ヒナとのお食事会はこの幕間中にやる予定なのでお楽しみに。
あとは幕間、イベントなんか一つ終わらせたら『ゲヘナ動乱編』始めます。