青空DAYS   作:Ziz555

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一個前にあるやつは、クリスマス記念の外伝です。
同日更新なので注意

こっちが本編


先生の息子(ワカモの場合)

 ある日。センジョウの元に一通の果たし状が届いた。

 

 

 差出人が不明のそれを受け取ったセンジョウは、指定された場所……シャーレのビルの屋上へと向かう。

 

 

 

 そして、目的の場所へたどり着くと……そこには、お面を被った一人の少女が立っていた。

 

「……お前は」

 

 少女はセンジョウを見ると、恭しく、丁寧に頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。私は狐坂ワカモと申します」

 

 強い風が吹き荒れる中、センジョウは警戒を緩めず、いつでも攻撃に対処できる体勢を崩さない。

 

「それで、俺になんの用事だ」

「ご用件は、お渡しした手紙に記載させていただいた通りでございます」

 

────一対一での、果たし合い。

 

「俺には、……お前と戦う理由がない」

 

 センジョウの言葉にワカモはお面の下でクスクスと笑う。

 

「さて。それはどうでしょうか?」

「……なに?」

 

 

「貴方があのお方……『先生』と喧嘩をした切っ掛け。私ですので」

 

 

 ワカモの言葉に、センジョウは目を丸くする。

 

「は?」

「ご存じないのも無理はありません。あのお方は貴方の事を特別大事にしていましたからね」

「どういう意味だ」

 

 今一状況を飲み込めないセンジョウは、ワカモへ素直に言葉の意味を問う。

 その問いに、ワカモは素直に答えを返す。

 

「──私にとって、貴方があのお方の『特別』であることが許せなかったのですよ」

 

 ワカモが、銃口をセンジョウへと向ける。

 

「…………オヤジがあの時、妙に俺に距離を置こうとしてた理由がそれか」

 

 

 『先生』が、自らの判断に迷い、悩み、苦しんだ理由。

 

 

 それは確かに、ワカモの『センジョウも生徒の一人である』という言葉だった。

 

 

「ええ。その通りです。私はあの方と貴方の距離を離すべく言葉巧みに誘導し、貴方を追い詰めた……。最も、その策は徒労に終わり、貴方ではなくあの方が倒れ、貴方がここにいる」

 

 銃声が響き、一発の弾丸がセンジョウの頬を掠めた。

 

「私には、それが我慢なら無いのです」

 

 

 今のは警告だ、といわんばかりに、ワカモは一歩前へ踏み出す。

 

 

 しかし、センジョウはヌィル・ヴァーナを呼び出すことすらしない。

 

 

「……どういうつもりです?戦う理由は、ご理解頂けたと思うのですが」

「いいや、わからないね」

 

 ワカモの言葉に、センジョウは否定の言葉を投げ掛ける。

 

「お前が本気で俺を殺す気なら、オヤジを言葉で誘導したなら、俺はもうここに立ってない」

 

 ワカモの表情は仮面で見えない。

 

「わざわざ回りくどく『果たし状』を出す理由にも、俺が武器を構えるのを待つ理由にもなってない」

 

 ピクリ、と銃口がぶれるのが見えた。

 

 センジョウは、一歩前へ出る。

 

「お前を嘘をついてる」

 

 一歩。

 

「嘘など」

 

 一歩。

 

「いいや、嘘をついている。俺にも……お前自身にも」

 

 一歩。

 

 センジョウは手を伸ばしワカモの構える銃剣の刀を掴み、自分の喉に突きつける。

 

 

「……ッ!?なにを!!」

「撃てよ。お前が本気でその気なら撃てるだろ」

 

 ボタボタと、刃を掴んだ手のひらから血を流しながら、センジョウは真っ直ぐな瞳で、お面の先にあるワカモの瞳を見つめた。

 

「──それが本当に、お前の信じた『先生』の為になると。お前自身が納得できるなら」

 

 刃の先端が僅かに喉にささり、その皮膚の表面を裂く。

 

 首から滴る雫は、センジョウの……シャーレの制服に赤い染みを創る。

 

 

 しかし、センジョウの眼光は緩まない。

 

 

 そうして、ワカモは────

 

 

 

「…………貴方は本当に。あのお方の息子なのですね」

 

 

 

────引き金から、指を離した。

 

 

 

 それを見たセンジョウは、ワカモの銃を手放す。

 

 

 

「生徒を信じる。身体を張ってでも、真っ向から、真っ直ぐに生徒と向き合う。……オヤジの背中から学んだやり方だ」

「そうですね。その無謀さ、……そっくりです」

 

 ワカモは、銃の先に備えられた刀剣を外し、その剣先を拭う。

 

 センジョウは、右腕の傷を止血するためにハンカチを取り出し、手首を強めに縛った。

 

 

「……その傷、切れ味の良くない銃剣の根本を掴んだだけとはいえ、浅くはない傷でしょう。……早めに医者に見せることをお勧め致しますわ」

「心配、感謝するが……それより、お前にたのみたい事がある」

「私に?」

 

 センジョウは頷く。

 

「……今、父さんがトリニティの総合病院にいるのは知ってるな?」

「ええ、存じ上げております」

「意識がなくても、父さんは『シャーレの先生』だ。そんな、キヴォトスに置ける超法規的機関の肝でもある存在を、いつまでもトリニティで受け持つことはできない」

 

 『シャーレの先生』の身柄を確保している……それが持つ事実は、そこにどんな善意があったとしても、争いの火種として十分すぎる事実だ。

 

「父さんは未だに目を覚ます気配はない。故に、トリニティでの治療行為を中断。各校有志の生徒達による、『シャーレ』での治療を行うことになった」

「…………」

 

 だが、それは。

 

「……実質的な、先生の治療措置の停止ではないのですか?」

「さあな。連邦生徒会にどんな意図があるのかまでは、俺にも見当がつかない」

 

 勿論、先生を慕う生徒達によって、治療行為は続けられるだろうし、相応の準備は整えられる筈だ。しかし、シャーレに重症な患者を治療する設備があるわけもない。

 

「容態が安定しているが目を覚まさない以上、それでも問題はない筈だ。という意見を棄却する手立ては俺達に無い以上、受け入れるしかない」

「……」

 

 ぎり。とワカモは歯を食い縛る。

 

「…………皮肉だな。俺がいることでシャーレの機能は保たれていると。君の言うように、俺がいるから、先生の存在が不要であると……そう、言われた」

 

 センジョウもやるせなさに表情を暗くする。

 

「……そこで。君に……ワカモに頼みたいことがある」

 

 センジョウはそれでも、真剣な表情でワカモを見る。

 

「父さんが……『先生』がいるここを、守ってほしい」

「私が……?」

 

 静かに彼は頷く。

 

「俺には、『シャーレ』を……父さんの戻る場所を守ると言う使命がある。だけどそれは、どうしたって常に父さんのそばにいることができなくなる仕事だ」

 

 例えその行動が、どんな結果になろうとも。今のセンジョウにできることは、それぐらいだった。

 

「だから、そばにいられない、不甲斐ない俺の代わりに……父さんを、先生を頼みたい」

「……」

 

 センジョウの言葉に、ワカモは背を向ける

 

 

「……私は、『災厄の狐』……。人々に不幸と災禍、破滅をもたらす者です」

 

 静かに、感情を圧し殺した声で、彼女は続ける。

 

「私は、あのお方……『先生』に傷ついて欲しくなかった。その一心で、言葉を尽くしました」

 

 押さえていた筈の、感情の『仮面』が揺らぐ。

 

「しかし、それが。その結果……!私は、『先生』と貴方を傷つけ、あまつさえ、自らの感情に振り回され……!」

 

 震える声で嘆くように続ける。

 

「『先生』と交わした、貴方を護ると言う約束さえ反故にして……!ただ、眺めていることしか……できなかった……!!」

 

────だが、それでも。彼女が護ると、護るまいと、センジョウは傷つき、苦しみ、倒れ伏そうとも。何度でも立ち上がった。

 

 

「私には……貴方のような、資格は……!無いのです…………!!!」

 

 

 結局。ワカモのしたことは、いたずらに先生とセンジョウを傷つけただけだと。そう、自覚させられた。

 

 

 崩れ落ち、仮面が外れていることにも気づかず泣き続ける彼女に、センジョウは声をかける。

 

 

「『それでも』」

 

 

 それは、彼が。先生が。強い想いを、心を保つ為の言葉。

 

 

「……今君が流す涙は、父さんの事を想って流れるものだ。それは、災厄なんかじゃない。君の持つ優しさの証だ」

「優しさ……」

「そんな君の事を。きっと父さんは頼りにしてた筈だろ」

 

 ふと、ワカモの脳裏に、先生の言葉がよみがえる。

 

 頼りにしている。

 

 確かに彼は、自分へそう言ってくれた。

 

 

「……きっと。先生は君の事を信じている。だから、力になって欲しい」

「『先生』の……力に」

 

 ワカモが見上げると、そこには穏やかに微笑むセンジョウの姿があった。

 

「大丈夫。きっと、君は父さんの力になれる」

 

 その笑顔に、彼の面影が重なった。

 

「────そう、ですね」

 

 差し出された手を掴み、ワカモは落としたお面を片手に立ち上がる。

 

 

 そうして、彼女はふたたびお面を被る。

 

「──このワカモ。あのお方をお守りするために全身全霊を尽くすことを誓いますわ」

 

 

 その声は、もう、震えてはいない。

 

 

「……ああ。頼んだ」

 

 

 センジョウはワカモに背を向け、シャーレの屋上を後にした。

 

 

 きっともう、ここは大丈夫だろう。

 

 

 あとは自分が、父の居場所を、護り続けよう。

 

 きっと、望んだあの日々を、また迎えるために。






と言うわけでワカモの清算会というか、なぜワカモが助けに来なかったのかとかもろもろ含めた話でした。


またセンジョウくん怪我してる……
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