同日更新なので注意
こっちが本編
ある日。センジョウの元に一通の果たし状が届いた。
差出人が不明のそれを受け取ったセンジョウは、指定された場所……シャーレのビルの屋上へと向かう。
そして、目的の場所へたどり着くと……そこには、お面を被った一人の少女が立っていた。
「……お前は」
少女はセンジョウを見ると、恭しく、丁寧に頭を下げる。
「お初にお目にかかります。私は狐坂ワカモと申します」
強い風が吹き荒れる中、センジョウは警戒を緩めず、いつでも攻撃に対処できる体勢を崩さない。
「それで、俺になんの用事だ」
「ご用件は、お渡しした手紙に記載させていただいた通りでございます」
────一対一での、果たし合い。
「俺には、……お前と戦う理由がない」
センジョウの言葉にワカモはお面の下でクスクスと笑う。
「さて。それはどうでしょうか?」
「……なに?」
「貴方があのお方……『先生』と喧嘩をした切っ掛け。私ですので」
ワカモの言葉に、センジョウは目を丸くする。
「は?」
「ご存じないのも無理はありません。あのお方は貴方の事を特別大事にしていましたからね」
「どういう意味だ」
今一状況を飲み込めないセンジョウは、ワカモへ素直に言葉の意味を問う。
その問いに、ワカモは素直に答えを返す。
「──私にとって、貴方があのお方の『特別』であることが許せなかったのですよ」
ワカモが、銃口をセンジョウへと向ける。
「…………オヤジがあの時、妙に俺に距離を置こうとしてた理由がそれか」
『先生』が、自らの判断に迷い、悩み、苦しんだ理由。
それは確かに、ワカモの『センジョウも生徒の一人である』という言葉だった。
「ええ。その通りです。私はあの方と貴方の距離を離すべく言葉巧みに誘導し、貴方を追い詰めた……。最も、その策は徒労に終わり、貴方ではなくあの方が倒れ、貴方がここにいる」
銃声が響き、一発の弾丸がセンジョウの頬を掠めた。
「私には、それが我慢なら無いのです」
今のは警告だ、といわんばかりに、ワカモは一歩前へ踏み出す。
しかし、センジョウはヌィル・ヴァーナを呼び出すことすらしない。
「……どういうつもりです?戦う理由は、ご理解頂けたと思うのですが」
「いいや、わからないね」
ワカモの言葉に、センジョウは否定の言葉を投げ掛ける。
「お前が本気で俺を殺す気なら、オヤジを言葉で誘導したなら、俺はもうここに立ってない」
ワカモの表情は仮面で見えない。
「わざわざ回りくどく『果たし状』を出す理由にも、俺が武器を構えるのを待つ理由にもなってない」
ピクリ、と銃口がぶれるのが見えた。
センジョウは、一歩前へ出る。
「お前を嘘をついてる」
一歩。
「嘘など」
一歩。
「いいや、嘘をついている。俺にも……お前自身にも」
一歩。
センジョウは手を伸ばしワカモの構える銃剣の刀を掴み、自分の喉に突きつける。
「……ッ!?なにを!!」
「撃てよ。お前が本気でその気なら撃てるだろ」
ボタボタと、刃を掴んだ手のひらから血を流しながら、センジョウは真っ直ぐな瞳で、お面の先にあるワカモの瞳を見つめた。
「──それが本当に、お前の信じた『先生』の為になると。お前自身が納得できるなら」
刃の先端が僅かに喉にささり、その皮膚の表面を裂く。
首から滴る雫は、センジョウの……シャーレの制服に赤い染みを創る。
しかし、センジョウの眼光は緩まない。
そうして、ワカモは────
「…………貴方は本当に。あのお方の息子なのですね」
────引き金から、指を離した。
それを見たセンジョウは、ワカモの銃を手放す。
「生徒を信じる。身体を張ってでも、真っ向から、真っ直ぐに生徒と向き合う。……オヤジの背中から学んだやり方だ」
「そうですね。その無謀さ、……そっくりです」
ワカモは、銃の先に備えられた刀剣を外し、その剣先を拭う。
センジョウは、右腕の傷を止血するためにハンカチを取り出し、手首を強めに縛った。
「……その傷、切れ味の良くない銃剣の根本を掴んだだけとはいえ、浅くはない傷でしょう。……早めに医者に見せることをお勧め致しますわ」
「心配、感謝するが……それより、お前にたのみたい事がある」
「私に?」
センジョウは頷く。
「……今、父さんがトリニティの総合病院にいるのは知ってるな?」
「ええ、存じ上げております」
「意識がなくても、父さんは『シャーレの先生』だ。そんな、キヴォトスに置ける超法規的機関の肝でもある存在を、いつまでもトリニティで受け持つことはできない」
『シャーレの先生』の身柄を確保している……それが持つ事実は、そこにどんな善意があったとしても、争いの火種として十分すぎる事実だ。
「父さんは未だに目を覚ます気配はない。故に、トリニティでの治療行為を中断。各校有志の生徒達による、『シャーレ』での治療を行うことになった」
「…………」
だが、それは。
「……実質的な、先生の治療措置の停止ではないのですか?」
「さあな。連邦生徒会にどんな意図があるのかまでは、俺にも見当がつかない」
勿論、先生を慕う生徒達によって、治療行為は続けられるだろうし、相応の準備は整えられる筈だ。しかし、シャーレに重症な患者を治療する設備があるわけもない。
「容態が安定しているが目を覚まさない以上、それでも問題はない筈だ。という意見を棄却する手立ては俺達に無い以上、受け入れるしかない」
「……」
ぎり。とワカモは歯を食い縛る。
「…………皮肉だな。俺がいることでシャーレの機能は保たれていると。君の言うように、俺がいるから、先生の存在が不要であると……そう、言われた」
センジョウもやるせなさに表情を暗くする。
「……そこで。君に……ワカモに頼みたいことがある」
センジョウはそれでも、真剣な表情でワカモを見る。
「父さんが……『先生』がいるここを、守ってほしい」
「私が……?」
静かに彼は頷く。
「俺には、『シャーレ』を……父さんの戻る場所を守ると言う使命がある。だけどそれは、どうしたって常に父さんのそばにいることができなくなる仕事だ」
例えその行動が、どんな結果になろうとも。今のセンジョウにできることは、それぐらいだった。
「だから、そばにいられない、不甲斐ない俺の代わりに……父さんを、先生を頼みたい」
「……」
センジョウの言葉に、ワカモは背を向ける
「……私は、『災厄の狐』……。人々に不幸と災禍、破滅をもたらす者です」
静かに、感情を圧し殺した声で、彼女は続ける。
「私は、あのお方……『先生』に傷ついて欲しくなかった。その一心で、言葉を尽くしました」
押さえていた筈の、感情の『仮面』が揺らぐ。
「しかし、それが。その結果……!私は、『先生』と貴方を傷つけ、あまつさえ、自らの感情に振り回され……!」
震える声で嘆くように続ける。
「『先生』と交わした、貴方を護ると言う約束さえ反故にして……!ただ、眺めていることしか……できなかった……!!」
────だが、それでも。彼女が護ると、護るまいと、センジョウは傷つき、苦しみ、倒れ伏そうとも。何度でも立ち上がった。
「私には……貴方のような、資格は……!無いのです…………!!!」
結局。ワカモのしたことは、いたずらに先生とセンジョウを傷つけただけだと。そう、自覚させられた。
崩れ落ち、仮面が外れていることにも気づかず泣き続ける彼女に、センジョウは声をかける。
「『それでも』」
それは、彼が。先生が。強い想いを、心を保つ為の言葉。
「……今君が流す涙は、父さんの事を想って流れるものだ。それは、災厄なんかじゃない。君の持つ優しさの証だ」
「優しさ……」
「そんな君の事を。きっと父さんは頼りにしてた筈だろ」
ふと、ワカモの脳裏に、先生の言葉がよみがえる。
頼りにしている。
確かに彼は、自分へそう言ってくれた。
「……きっと。先生は君の事を信じている。だから、力になって欲しい」
「『先生』の……力に」
ワカモが見上げると、そこには穏やかに微笑むセンジョウの姿があった。
「大丈夫。きっと、君は父さんの力になれる」
その笑顔に、彼の面影が重なった。
「────そう、ですね」
差し出された手を掴み、ワカモは落としたお面を片手に立ち上がる。
そうして、彼女はふたたびお面を被る。
「──このワカモ。あのお方をお守りするために全身全霊を尽くすことを誓いますわ」
その声は、もう、震えてはいない。
「……ああ。頼んだ」
センジョウはワカモに背を向け、シャーレの屋上を後にした。
きっともう、ここは大丈夫だろう。
あとは自分が、父の居場所を、護り続けよう。
きっと、望んだあの日々を、また迎えるために。
と言うわけでワカモの清算会というか、なぜワカモが助けに来なかったのかとかもろもろ含めた話でした。
またセンジョウくん怪我してる……