青空DAYS   作:Ziz555

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2024年1発目の投稿です。

年始から色々ありましたが……私は何時も通りの日常と仕事をこなします。

今年も一年よろしくお願いしますね!


センジョウのバニーチェイス:前編

 

──ポイントαに到達。対象を確認しました。

 

 月明かりだけが辺りを照らす、暗闇の海上で、センジョウはヌィル・ヴァーナのセンサーをフル稼働させつつ、ステルス飛行を続けていた。

 

──対象への接近を開始します。

 

 ヌィル・ヴァーナの長距離航行形態、『ウェポンユニット:フライングボード』の上に片膝をついて搭乗している彼は、静かに目的の『船』との距離を詰めてゆく。

 

 

「……コード:Null。目標上空へ到達。これより潜入を開始する」

『了解。……できるだけ急いでC&Cを派遣するつもりだけど、無理はしないでね』

「ヌィル・ヴァーナのステルスとセンサーをフル稼働させればそう簡単には気づかれないさ。……作戦、『バニーチェイス』を開始する。以後の通信は暗号通信で」

 

 

 センジョウは通信を切ると、飛行するウェポンユニットを駆り、眼下に広がる漆黒の海に、ポツンと浮かぶきらびやかな船──『ゴールデンフリース号』へと、降下していった。

 

 

 

 

 事の発端は、二日前へと遡る。

 

 ミレニアムに所属する『元』セミナー……黒崎コユキの脱走が確認された。

 『暗号に強い』という特殊な力を買われてセミナーへと入った彼女だったが、その実、善悪の区別がつかない問題児であったため、センジョウがミレニアムに来るより前に反省部屋へと閉じ込められていた。

 

 しかし、先日のセンジョウの卒業と、それによるセミナーの業務の増加により、監視の目が緩み、その隙を見て彼女は脱走。現在はセミナーの名義で大量に債権を発行しながら件の船……『ゴールデンフリース号』にいることが確認されている。

 

 この船は、『オデュッセイア海洋高等学校』と呼ばれる、複数の船舶により構成された学園に所属している船だが……独自の経営をしている、言ってしまえば『無法地帯』となっている為、セミナーとしても、オデュッセイアとしても手が出せない状態となっていた。

 

 本来であればミレニアムの内部で片付けるべき内容だったが、コユキの捕獲を何度も担当していたC&Cのやり方では、オデュッセイアに被害をだし、学校間の火種となりかねない。

 

 

 そこでユウカは、思いきってセンジョウを頼ることとした。

 

 

 センジョウであれば、単独であっても申し分のない戦力を保有しており、又、セミナーの事情についても明るい。

 

 加えて、シャーレであるセンジョウの介入であればオデュッセイアが手を出せない『ゴールデンフリース号』であっても、問題なく干渉できると踏んでいた。

 しかし、『ゴールデンフリース号』はこの要請を拒否。センジョウの乗船は拒まれる結果となってしまった。

 

 

 万事休すかと思われた時に、ヌィル・ヴァーナのAI、『ナル』が一つの提案をした。

 それが、黒崎コユキ……通称『白兎』を捕えるための作戦、『バニーチェイス』。

 

 彼女……正確には、彼女が宿る『Nuill-Vana Spec-2』は、以前までとは異なり、飛行能力と、屋内環境、狭い空間でも戦闘を行えるだけの性能をもっている。

 加えて、ウェポンユニットのフライングボードであれば、レーダーに対するステルス機能を備えているため、空からの潜入、離脱が可能だった。

 

 

 正面から堂々とシャーレの権力を使って『ゴールデンフリース号』へ介入することが出来ない以上、潜入を余儀なくされた彼らに残されたこの作戦は。『スニーキングミッション』として位置付けられている。

 

 

 つまり、センジョウの目的は、スマートに『白兎』を捕えることだ。

 

 

 彼はあくまでも『先生見習い』であり、特殊作戦のプロではない。

 伝説の傭兵のような技術も、経験もないが、『ナル』は、「そんなマスターであっても完璧なサポートをこなして見せる」と息巻いていたし、コユキが今のペースのまま債権を発行し続ければ、ミレニアムは数日の内に無くなってしまう程の危機だ。

 

 迷っている暇など無かった。

 

 

──そうして、話は現在へと至る。

 

 

 センジョウは船舶の側面ギリギリまでフライングボードを接近させると、その欄干へと手を掛けた。

 

「よっ……と」

 

 パルスフィールドを応用し、着地の音を相殺すると、そのまま手早く身体を通路の端へと滑らせた。

 

「……とりあえず、第一フェーズは完了か」

 

──フライングボード、自動航行モードへ移行。

──アーマーユニット、待機状態へ移行。残エネルギー99%です。

 

 センジョウを降ろしたフライングボードはそのまま静かに高度をあげていくと、ステルスモードへと移行した。

 

 バイザーの内面に表示される、現在の自分のデータと、『ゴールデンフリース号』の見取り図に目を走らせると、センジョウは静かに行動を開始した。

 

 

 現在のセンジョウは、ヌィル・ヴァーナの内、アーマーユニットのみを装着していた。

 フルフェイスメットに、全身を覆う最低限の機械的なアーマーは、オートマタのような外見をしており、文字通り『最低限』の性能だけがそこにはある。

 

 コアユニットを分離させ、ウェポンユニットに搭載したまま活動している為、エネルギー残量と、活動時間に限界を伴う姿ではあったが、完全な隠密作戦である以上、多少のリスクを負ってでも身軽になる必要があった。

 

 ジェネレータから供給を受けられない以上、エネルギー消費の激しいパルスフィールドによる防御性能は無く、武装も必要最低限、自衛と捕獲のための閃光弾(フラッシュバン)煙幕弾(スモークグレネード)が数個と、牽制用のゴム弾の装填されたピストル程度のものだ。

 

 限られた装備と、わずかな支援、活動限界時間という、複数の条件が、このミッションを困難なものに変化させていた。

 

 

 しかし、それでも。背負ったからには、その責任を果たさなくてはならない。

 

 

 センジョウは予定通り、船内を走るダクトへ侵入すると、その内部を匍匐前進で移動してゆく。

 

 

 ゴールデンフリース号は、簡単に言ってしまえば『豪華客船』だ。

 

 様々な設備とサービス、無数の客室が備えられた船の中から、一人の少女を単独で探し回るのは困難極まる。

 故に、センジョウがまず目指したのは……船内のセキュリティ管理室だった。

 

 

 ナルのナビゲーションに従うままにごそごそと通気孔を進んだセンジョウは、内部の通路へ突き当たる。

 

 

──サーチ終了。熱源反応無し。侵入可能です。

 

 

 ナルの報告を確認すると、目の前を塞ぐ格子を外し、廊下へと降り立った。

 

「侵入まではスムーズだったな。人影も少ないし、運がいい」

 

──ネガティブ。それは運ではなく、私の計算通りです。

 

「やっぱお前感情あるだろ」

 

──ネガティブ。

 

 その応答を最後に、ぷつり。と音声が途切れ、ナビゲーションの内容が文字だけに切り替わる。

 まるで拗ねる子供のような反応を示す『ナル』に、センジョウは苦笑を浮かべると、目的地へと足を進めた。

 

 

 

 

 『ゴールデンフリース号』の正体は、言ってしまえば『合法カジノ船』である。

 船内に儲けられた『プレイルーム』には、様々なギャンブルゲームが用意されており、ゲストは金銭を使ってそれらを遊ぶことができ……得られた結果に応じて、この船内における『サービス』を受けることができるようになる。

 

 換金ができないだけで、その構造は完全にカジノであり、とてもではないが、『学生』が遊ぶ場としては健全とは言い難かった。

 

 故に、表立ったシャーレの介入を拒んでいたのだ。

 

 生徒の中には、ギャンブルの誘惑に負け、その身を滅ぼしてしまう者も確かに存在する。

 それ程までに、その船のサービスの最上位……『Sランク』のVIP待遇の価値は大きかった。

 

 

 その恩恵は、『あらゆる特権の獲得』。この船にいる限りそのほぼ全てを自由に使うことが許される権利であり……恐らく、黒崎コユキがセミナーの資金を勝手につぎ込んででも獲得しようとしているものだ。

 

 何を考えて彼女がその権利を狙っているのかまではわからなくとも、彼女の行動は『やりすぎている』。

 悪さをした生徒を捉え、その間違いを説くのも先生の仕事だと、センジョウは考えていた。

 

 その為にも、手遅れになる前に彼女を見つけ出し、セミナーへと連れ戻さなければならない。

 

 

 船内の監視の目をくぐり抜け、センジョウはどうにか管理室へとたどり着き、その扉の脇へと背中を張り付ける。

 

「(……ナル。室内の状況は?)」

──サーチ完了。生体反応が2つ。どちらも稼働中です。

「(さて、どうするか)」

 

 管理室の警備がそう簡単に途切れるとは考えにくいが、かといって強行突破をするのは相応のリスクがある。

 

 襲撃がばれてしまえば、センジョウが単独でこの船全体を敵に回すことなってしまう。

 しかし、ゆっくりと考えている時間があるわけでもない。

 

 そんなことに思考を巡らせていると、ナルの音声が脳内へ響き渡った。

 

──強行策を提案します。2名程度であれば、煙幕弾を用いて静かに鎮圧が可能です。

「(悩んでる時間はない、か)」

──扉のセキュリティシステムにアクセスします。突入用意を。

 

 センジョウはナルに促されるままに、扉のロックシステムへ手を伸ばしつつ、煙幕弾を手に握らせた。

 

──解錠します。

 

 

 ピー。という音と共に、扉のロックが解除され、センジョウは即座に扉を小さく開くと、煙幕弾を室内へ転がした。

 

「なんだ……?うわっ!?」

 

 室内から困惑の声が聞こえると共に、センジョウはその身を室内へ滑り込ませる。

 

「て、敵襲!?」

 

 バニー服を着た警備の生徒が、センジョウへと銃口を向けるが、それよりも早く、センジョウはピストルの引き金を引いた。

 ナルの着弾予測の手伝いもあり、放たれたゴム弾は的確に生徒の銃をもつ手に直撃し、手から武器が落ちる。

 

「なにも……ぐわぁっ!」

 

 そのまますぐさま距離を詰めると、センジョウは拳を繰り出し、対象の意識を刈り取る。

 

「制圧された……!?増援を!」

 

 もう一人の生徒が、煙幕の向こうでなにやら連絡のための機器へ手を伸ばすのが見える。

 ヌィル・ヴァーナのバイザーを持ってすれば、この程度の煙幕で視界情報が限られることはない。

 

 再び、ピストルの引き金を引いて、対象の手を弾きつつ、距離を詰める。

 

「ぐっ……!?一体、お前、は……!」

 

 ヌィル・ヴァーナの示す戦術プランの通りに、対象を背後から拘束し、首を強く締め上げることで、その意識を刈り取った。

 

 意識を失った警備員2名が管理室の床に倒れ付した中、センジョウは一人、その場に立っていた。

 

 

「……やりすぎ、てないよな」

──キヴォトスに生きる彼女達はこの程度で後遺症が残ることはないでしょう。必要な犠牲です。

「しかし、こうも上手く行くと、まるでゲームみたいで、ゾッとする」

──ネガティブ。その危機感は必要ありません。私のサポートさえあれば、貴方が負けることは無いのですから。

「そうじゃねぇよ」

──?

 

 

 不思議そうな音声データを漏らすナルに、センジョウは苦笑を浮かべる。

 

 まるで、道徳をなにも知らない子供のようだ。

 

 

「どんな理由があっても、他人を傷つけることは良いことじゃない。それが必要な犠牲であっても、それに『慣れる』様なことが有るべきじゃない」

──ネガティブ。理解できません。それは効率的な判断を鈍らせるだけです。

「効率だけを考えてたら、『人』は『人』じゃなくなるだろ。……その辺りが気になるなら、ユウカにでも聞いてみると良い。案外、良い答えが聞けるかもしれないからな」

──早瀬ユウカ、ですか。

 

 ナルは、センジョウの言葉を受けて少し黙ると、静かに、考えておきます。とだけ返した。

 

 センジョウはそんなナルに少し笑みを漏らしながら、気絶している警備員達を軽く拘束し、管理室のコンソールの前へと立った。

 

「……さて、ここからどうする?ハッキングでもするか?」

──ネガティブ。……これほどの設備のハッキングは、私の専門外です。地道にカメラの記録からターゲットを探す他ありません。

「どうせなら警備プログラムをオフラインに変更ぐらいしておきたかったんだがな……そう上手くはいかないか」

──仕方ありません。画像処理はこちらで行いますので、マスターは機器の操作を優先してくださ……

 

 そういいかけて、ナルは言葉を改める。

 

──外部から通信が来ています。開きますか?

「……?まあいい、繋いでくれ」

──ポジティブ。通信、開きます。

 

 バイザーに『Soundonly』の文字が展開され、通信回線が開かれる。

 

『潜入お疲れ様。そろそろ、私の力が必要な頃かと思って連絡したけど、どう?』

「チヒロ?どうしてこの回線を……」

『事情はユウカから。……潜入っていっても、ソフトウェア的なサポートは専門外でしょ?力に成れると思って』

「ナイスタイミングだ。……っていうか、そっちの仕事は平気なのか?」

『ミレニアムの危機。なんでしょ』

「……助かる」

 

 センジョウは静かに礼だけを返し、ナルを確認する。

 

──ポジティブ。デバイスへのアクセスは既に完了しています。

「だ、そうだ。任せて良いか、チヒロ?」

『うん。少しだけ時間もらうから』

 

 センジョウの意図を汲み取っていたナルは、既にヌィル・ヴァーナから、システムへのアクセスを済ませており、チヒロはヌィル・ヴァーナを介して、ゴールデンフリース号の警備システムのハッキングを開始した。

 

 そうして、数分後。

 

『よし。警備系統の全システムオフライン。それと、ターゲットの姿を確認できた監視カメラのデータも見つけた』

「流石ヴェリタスのリーダーだな」

『副部長、ね……データ、送るから』

 

 チヒロから受け取ったデータが、バイザー内部へ表示される。

 

 場所は……プレイラウンジの、スロットマシン前。

 

 

『じゃあ、あとは任せて大丈夫だよね』

「十分。助かった、ありがとう」

『どういたしまして。……必ず帰りなさいね』

 

 その言葉を最後に、通信は切断される。

 

──ターゲットの活動範囲の予測、算出済みです。

「じゃあ、あとは手早く済ませるか。……ナル、オペレーションを開始してくれ」

──ポジティブ。ミッションを再開します。

 

 

 ここからが、船上の『バニーチェイス』の本番だ。





名前ネタがヤリタカッタダケー


後編が終わったらこの幕間も終わりです。
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