青空DAYS   作:Ziz555

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ヒナのエミュが少しずつ上達してきてると信じたい


1章:流浪の旅人 -そして、また一人-

 

 その日のユウカは機嫌が良かった。

 

 足取り軽く町を歩き、目的地であるシャーレへと向かう彼女の姿をみれば、誰しもがその事実を認める程度には受かれていたし、彼女自身も自分の気持ちが弾んでいる自覚は持ち合わせていた。

 

 

 何せ今日は、久しぶりのシャーレの当番だ。

 

 

 センジョウがミレニアムを卒業してから早数日。シャーレの当番制度が復活したことで、センジョウはユウカに頼りきりだった業務体制の改革に見事に成功し、結果、ユウカがシャーレに名指しで呼ばれる事は極端に減少していた。

 

 ユウカがセンジョウに最後に会ったのは、コユキの引き渡しの時であり、それより前ともなれば、センジョウがシャーレについた翌日以来、と言うことになる。

 

 センジョウと自分の連携であれば、シャーレの1日分の仕事など取るに足らない量である確信があった。

 ましてや、セミナーの業務との兼ね合いすらなく、シャーレの当番だけに集中できる環境ともなれば……定時までに仕事を終わらせ、そのまま二人で食事に出掛けることも容易いと、ユウカの明晰な頭脳は計算結果を叩き出していた。

 

「(今晩はゲヘナの風紀委員長との約束もないと言うのは確認済み。直接的シャーレで仕事をするなら、急ぎの外回りの仕事が入っても、私が同行すれば、アビドスの時みたいなすれ違いも起こらない。まさに、死角なし!)」

 

 かんぺき~♪と、上機嫌なままユウカはシャーレのビルへたどり着くと、そのまま専用の入館証を使い、彼が待つであろう執務室へ向かった。

 

「センジョウ、お待た────」

 

 そのままの勢いで扉を開いたユウカは、視界に入る光景に言葉を失った。

 

「センジョウ、この資料はどこにある?」

「ああ、それは窓際の棚の右から2番目の………ああ、そこそこ」

「これね。……先生の時より、かなり整理されてるのね」

「越してきたばかりだしな。それに──」

 

 本来、今ここにいる筈のない、白い髪の少女が、センジョウと共に仕事を進めている。

 ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナが、当番でもないのに、当然のようにセンジョウと仕事をしているのだ。

 

 唖然とするユウカは、扉を開いたままの姿で固まってしまい、その場に立ち尽くしていると……センジョウより先にヒナがその存在に気づく。

 

「……早瀬ユウカ?そこで何をしてるの?」

「ん。ユウカも来たか、相変わらず早いな……」

 

 ヒナの言葉に、ユウカの存在に気づいたセンジョウは椅子から立ち上がる。

 

「んじゃ早速……って、なんで固まってるんだ」

「な……」

「な?」

 

 

 

 

「なんでここに空崎ヒナがいるの?!?!!???!」

 

 

 

 

 シャーレのビルが揺れる光景を幻視するほどの声量に、センジョウは思わず耳をふさいだ。

 

 

 

 

 

 話は、今日の早朝にまで遡る。

 

 

 その日。……いや、さらに正しく言うのであれば、『ヒナがゲヘナを停学となった翌日』。その日の朝の話だ。

 

 ヒナは、『いつも通り』に目を覚まし、寝ぼけた頭で、気だるげに何時もの様に起床し、朝食を作り、身支度を整えていた。

 

 そう、『いつも通り』に、だ。

 

 彼女はその日の朝から、それまでの日常とは大きく自分の日常が変化する。と言う自覚がすっぽりと抜け落ちており、完全に以前と同じように……具体的には、風紀委員長としての日常を送るための身支度を整えてしまったのだ。

 

 それにヒナが気づいたのは、全ての支度が終わって、最後に羽織る、黒のコートが何処にもないことに気づいた瞬間だった。

 

 『委員長の証』として、自らのイオリへと手渡したそのコートが、自分の家にないと言う違和感に、ヒナは寝ぼけていた頭が冴えるのを実感し、それと同時に、必要のない身支度をこれでもかと言う程に整えてしまった事実に頭を悩ませた。

 

 かといって、ここまで済ませてしまった支度を全て取り止めると言う事にも面倒くささを覚えたヒナは……前日の晩の事を思い出した。

 

 

 こういう時に都合の良い知り合いがいる。と。

 

 

 そう思い付いたヒナは、モモトークの一番上にあるトーク欄を開き、ポチポチと短く、これから向かう旨を書き記し、送信を押して、端末をしまい、返事を待つこともせずに自宅を後にした。

 

 

 そうして、ヒナがシャーレへたどり着いた頃、センジョウはまだようやく起きたばかりで、今度は彼が寝ぼけた頭で彼女をシャーレへと迎えた。

 

 

 ……寝巻きのまま玄関口まで降りてきて、「いくらなんでも早すぎる」だの、「お前には合鍵渡してただろ……」などと、ヒナの事をユウカと勘違いしていたセンジョウは、玄関口でヒナに会ったことで寝ぼけていた頭が冴え渡り、自分の間抜けさに赤面する、なんて一幕があったりはしたが。

 

 

 とにかく。かくして、ヒナは自主的にシャーレへと訪れ、その業務を手伝っていた。

 

 

「……という感じ」

「またそう言う感じなのね……」

「『また』ってなんだ『また』って」

 

 ヒナの説明を聞きながら、納得半分、呆れ半分の様子でユウカは頷き、その様子にセンジョウが苦言を呈した。

 

 因みに、3人は現在、執務室ではなく、休憩室でテーブルを囲み、ヒナの淹れたコーヒーを飲みながら話していた。

 

 理由はシンプルである。

 

 

──午前中の作業が、既に終わっていた。

 

 

 膨大な事務作業を捌くのになれているヒナ。

 マネジメント、書類整理に特化したセンジョウ。

 計算作業において、無類の早さを誇るユウカ。

 

 3人それぞれの長所が、相乗効果を生み出し、シャーレ史上最速の事務処理チームが完成し、センジョウを中心とした神速の書類裁きによって、シャーレには今までで類をみない安寧が訪れていた。

 

 3人は揃ってコーヒーに口をつけ、ゆっくりと一息をつく。

 

「で。どうするつもりなの、センジョウ」

「どうって……何が」

「ヒナさんの今後よ」

 

 ユウカの言葉に、センジョウはすこし困ったような表情を浮かべる。

 

「どうって言われてもな……それを決めるのは俺じゃなくて、ヒナ自身だし」

「けど、どんな都合にしろ、学校を停学中ってなると、かなりの時間をもて余すことになるでしょ。ヒナさんは、何かやりたいこととかはないの?」

 

 ユウカにそう問われ、ヒナは顎に手を当ててしばらく考え込む。

 

「…………その、正直」

「あまりないのね」

 

 考え込んだ結果でてきたその言葉に、ユウカは苦笑を浮かべる。

 自分も、明日から学校に来なくて良いと言われたとして、何をすれば良いのか、想像もつかないのだから、無理もない話ではある。

 

 例えばユウカが今のヒナの立場……セミナーの業務から突然解放され、ミレニアムに出入りができなくなったとしたら、確かに何をすれば良いかわからなくなるだろう。

 ……まあ、多分、今のヒナと同じようにシャーレでセンジョウの手伝いを始めるのだろうが。

 

「……ま、何も今すぐ答えを出すこともないだろ。どのみち時間だけはあるんだしな」

 

 能天気というか、テキトウというか、センジョウはそんなような事を言って、コーヒーを味わう。

 

 しかし、センジョウが言うことも、あながち間違いというわけではない。

 

 今すぐに答えがでなかったところで、何か大きな問題があるわけではないし、まだヒナはこれから沢山の時間があり、今日はその初日にすぎない。

 そんなにいきなり答えがでるのなら……ヒナ自身も悩むことはない筈だった。

 

「それもそうね」

 

 センジョウの言葉に、ユウカも納得を示し、コーヒーを味わう。

 

 そんな二人を他所に、ヒナだけがすこし不安そうというか、浮かない表情のまま、コーヒーに写る自分の顔を見つめていた。

 そんな彼女の様子に、センジョウとユウカは顔を見合せ、互いに静かに頷いた。

 

「センジョウじゃあ女の子の休日の過ごし方なんてわからないでしょうから……私でよければいつでも話し相手になるわ」

「どうしても手持ち無沙汰なら、今日みたいにシャーレの仕事手伝いにきてくれても良いしな。それはそれで俺も助かる」

 

 その言葉に、ヒナは顔を上げ、二人の顔をみる。

 

「……いいの?」

「当然でしょ」

「俺は今更だしな」

 

 ヒナの問いに、二人は笑顔を浮かべてヒナを迎え入れる。

 

「センジョウの世話焼きは、今に始まったことじゃないものね?」

「ほーん……お前そう言うこと言うんだ。父さんから聞いてるぞ。ゲーム開発部が賞を受賞した時──」

「ちょ、ちょっと!なんでいきなりそんな話を始めるのよ!!」

「『世話焼きさん』が自己紹介を間違えたからフォローしてやろうとな」

「ほんっとうに……!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべるセンジョウに、ユウカは顔を真っ赤にして怒りを見せる。

 そんな二人の姿に、ヒナは、クスクスと笑みをこぼした。

 

 そんなヒナの姿に、センジョウとユウカは落ち着きを取り戻し、椅子に深く座り直した。

 

「……早瀬ユウカ」

「ユウカでいいわよ」

「なら、ユウカ」

 

 笑顔のまま、ヒナは一呼吸置いてから言葉を続けた。

 

「とってもお似合いだと思う」

「はい!?」

「センジョウも、あんまり意地悪ばっかりしてたらダメ」

「別にそう言うんじゃねぇって……」

 

 ヒナの言葉にユウカは、別の意味で顔を真っ赤にし、センジョウも照れを隠すようにコーヒーカップを深く傾けた。

 

「……さ、そろそろ仕事に戻って、終わらせましょう」

 

 そんな二人を残し、ヒナは一足早く執務室へと戻る。

 

 センジョウ達は、そんな彼女の後にギクシャクした様子のまま続くのだった。

 

 

 

 そうして、3人は午前中と同じようなペースで仕事を進め、定時になる頃にはその日の業務は完全に終了し、3人は連れだって夕食を食べに出掛けるのだった。

 

 その席は、ユウカとヒナが互いにセンジョウへの不満を漏らし、共感し合う場となり……センジョウは、味のしない夕食を食べ続けることとなった。

 

 

 そうして、ヒナとユウカは友達となり、モモトークの交換も済ませ、何故か成り行きで3人のグループトークが誕生するところで、一日は終わり、3人はそれぞれの帰るべき場所へと帰っていった。

 

 

 

 

 そして。翌朝。

 

 

 

 

 センジョウは眠い目を擦りながら、シャーレの来客を知らせるベルに起こされ、前日と同じように玄関口へと向かった。

 

 

 昨日との違いがあるとすれば……その最中、なんとなく浮かんだ、『嫌な予感』で彼の目がバッチリ醒めている。と言うことだろうか。

 

 一日前より冴えた頭で、一日前より重い足を動かして、センジョウが来客を迎えると────

 

 

「おはよう。センジョウ」

「……おう、おはよう」

 

 

 昨日よりは、すこしだけラフな格好をしているヒナが、昨日と同じようにそこに立っていた。

 




やったねセンジョウ!シャーレに人が増えるよ!
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