青空DAYS   作:Ziz555

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もう少しだけ……もう少しだけ日常パートが続くんじゃ……


1章:流浪の旅人 -出会いと変化-

 

 ユウカとセンジョウの作戦会議の翌日、ヒナはいつも通り(?)にシャーレへと出勤し、鼻歌交じりに仕事の支度を始めていた。

 ゲヘナ風紀委員の頃の仕事よりも負担が少なく、しかし適度な忙しさに心地よさすら感じていたヒナにとって、シャーレでの仕事というのは丁度いい環境であったといえる。

 

 しかし、だからといってこの状況は好ましいとは言い難いのも事実であり、センジョウにとってはヒナに『趣味』を見つけてもらいたいのも事実だ。

 

 故に、センジョウは思い切って、まっすぐに自分の考えをぶつける選択をした。

 

「ヒナ」

「どうしたの、センジョウ?」

「今日の仕事はナシ。ちょっとミレニアムに出かけるぞ」

 

 突然の有無も言わせぬ決定に、ヒナは不思議そうな顔を浮かべてセンジョウを見る。

 

「ずいぶん急だけど……何かあったの?」

「何かあったというか……何もないままというか……」

 

 センジョウはヒナの問いに、なんと伝えればいいか言葉を思案し、腕を組んで深く考え込む。

 

「まあ、要するに、ヒナの『趣味』の話だ」

「趣味……?」

 

 何のことだといわんばかりの表情を浮かべ、数秒。ヒナははっとする。

 

「……シャーレの仕事が充実してて忘れてた」

「充実してるのはいい事だけど!忘れるなよ!自分の事だろ!?」

 

 センジョウの言葉にヒナは困ったような表情を浮かべる。

 

「そういわれても……今まで考えたこともなかったから、どうやって探せばいいのかもわからなくて」

「まあ、だろうな。だから、ミレニアムに行くんだ」

「どうして……?」

 

 疑問符を浮かべたままのヒナに、センジョウは笑顔を見せて答える。

 

「趣味探しだ」

「あの……それがどうミレニアムと結びつくのかわからないのだけど……」

「いいからいいから。物は試し、百聞は一見に如かずだ」

 

 センジョウはヒナの手を掴むと、その手を軽く引く。力を籠めれば、簡単に振り払えるであろうその手を、ヒナは振りほどこうとは思わなかった。

 

「さあ、行くぞ。ユウカも待ってる」

「はあ……仕方ない」

 

 いつになく強引なセンジョウに、ヒナはため息をつくと、しかし、笑顔を浮かべたまま彼に手を引かれるままに、ミレニアムへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 センジョウがいつぞやの時のように、ヒナをヌィルの後ろに乗せて走ると、昼前ごろにはミレニアムへとたどり着いていた。

 センジョウから出発前に連絡を受けていたユウカは、彼らの到着時刻を予測しており、彼らを迎える。

 

「いらしゃ────」

 

 そうして、ヌィルから降りた二人の姿を見て、ユウカは少し言葉に詰まる。

 

 わかってはいたが。わかってはいたのだが、目の前で2人そろってシャーレの制服を着ているという絵面は、ユウカにとって、少しクるものがあった。

 

「どうかしたのか?」

「いえ……なんでも……」

 

 何かを言いよどんだユウカに、センジョウは疑問符を浮かべるが、少し苦笑いをしているだけであると判断すると、そこで追及を終えると、ヌィルを変形させ、ミレニアムの格納場所へと向かわせた。

 

「それで、私はここで何をすればいいの?」

 

 センジョウの後ろから一歩前に出たヒナは、物珍しそうにあたりを軽く一瞥すると、ユウカの顔を見る。

 

「その話は、ご飯を食べながらにでもしましょう。案内するから、ついてきて」

 

 ユウカの言葉にヒナはうなずくと、そのあとをついて歩いてゆく。

 

 センジョウは、その光景にどこか、初めて自分がミレニアムへ初めて来た時の光景を思い出し……少しだけ、笑みを浮かべた。

 

 

────父さんが俺をここへ連れてきた時は、どんな気持ちだったかな。

 

 

 なんて、そんなことを考えながら。彼は二人の後を追うのだった。

 

 

 

 ミレニアムの売店へと足を運んだ3人は、それぞれが思い思いの昼食を購入し、食事を行いながら、ユウカ達は、ヒナに事の経緯を説明する。

 ヒナの趣味を探すためにユウカとセンジョウが相談した結果、たどり着いた答え、『ゲーム』。

 それに関して、ミレニアムには専門家……というには怪しいが、ヒナにゲームの魅力を紹介してくれるであろう部活が存在している。

 

 物は試しで、そこにヒナに体験入部してもらおう。というのが、今回の目的である。

 

 

「という訳なんだけど……どう?」

 

 ヒナの顔色をうかがいながら、そう問いかけるユウカと、ヒナの反応をうかがうセンジョウ。

 そんな彼らの顔色に、ヒナは相変わらず困ったような表情を浮かべていた。

 

「それは……二人が私の為にいろいろ考えてくれたことはうれしいんだけど」

「気が進まない、か?」

 

 センジョウの問いに、ヒナは首を静かに横に振る。

 

「そうじゃないんだけど……その」

 

 ヒナは、申し訳なさそうに、二人の顔を見る。

 

「せっかく考えてもらったのに……うまく、期待にこたえられるか、わからなくて」

 

 そんなヒナの言葉を聞き、センジョウとユウカは互いの顔を見合わせて、そして、笑顔浮かべてヒナを見た。

 

「ダメだったら次探せばいいだけだ」

「そうそう、私たちの事は気にせず、ヒナは自分の事を考えて」

「どうせ俺たちの『世話焼き』なんだからな」

 

 それは、二人にとって嘘偽りのない本心だった。……ユウカ自身も、打算が少なからずあるとはいえ、ヒナが趣味を見つけられれば良いと思っているし、センジョウも、彼女が新しい経験や出会いを得ることは望ましい事だった。

 そんな二人の感情は……確かに、文字通りの『世話焼き』なのだろう。いままで、風紀委員の長として。そして、万魔殿の不足を補うゲヘナの長としての役割を果たしてきたヒナにとって、その感情は、向けられたことのない、初めての種類のものだった。

 

 二人のそんな思いに、ヒナは、心が温まるような感覚を覚えた。

 

「……そうね。ありがとう」

 

 ヒナは、2人へ感謝の気持ちを伝えるために、笑顔でそう応えると、センジョウたちはそんなヒナに、静かに頷くのであった。

 

 そうして、昼食を済ませた3人は、ユウカにつれられるままにミレニアムの敷地内を進み、『ゲーム開発部』の部室へと向かった。

 その道中、ユウカの隣を歩くセンジョウは、彼女へ問いかける。

 

「ユズたちにはなんて話してるんだ?」

「体験入部の子がいるから、よろしくって。私が話を持ち掛けたから裏があるんじゃないかって勘ぐられたけど」

「変に警戒されてるからなぁ、お前」

「仕方ないでしょ。仕事とはいえ、活動内容に口を出したり、邪魔するような立場なんだから……」

「そこまでやって『嫌われてない』んだから上等だろ」

「そうね、……そうかも」

 

 センジョウがミレニアムを去るより以前はよく見られた光景も、今となってはそうみられる物でもない。

 ヒナは、そんな二人の歩く姿を見て、ふとしたことに気づく。……センジョウがユウカの隣を的確に歩いている。

 二人の身長差はそれなりにある、ということは必然的にセンジョウのほうが足が長く、一歩辺りの距離が大きいはずだが、彼らは乱れることなく、その距離感を保ったまま並んで歩いている。

 そう。センジョウは無意識にのうちにユウカの歩幅に合わせて歩く速度を調整しているのだ。

 

「(……なるほどね)」

 

 そんな光景を見れば……『あの噂』がミレニアムを飛び出し、キヴォトス全体に広がるというのもうなずける。

 そんなことを思いながらヒナが2人の背中を見ていると、ふと、彼らの足が止まる。

 

「さ、着いたわよ」

 

 そんなユウカの言葉に視線を上げると……そこには、『ゲーム開発部』の文字が。

 

「モモイ、ミドリ、いるー?体験入部の子、連れてきたわよ」

 

 そんな言葉と共に扉をノックすれば、部屋の内側から「入っていいよ!」との声。

 ユウカはそれを聞いて、扉を開くと……そこには、散らかった部屋の中に、なんとか用意された折り畳み式のテーブルの上に用意されたジュースとお菓子。加えて、部屋のあちこちに飾られた『新入部員歓迎!』の飾り。

 

 これでもかと言わんばかりの歓迎ムードに、ユウカは苦笑を漏らし、待ち構えるモモイとミドリ、アリスの様子を見た。

 

「遅いよユウカ!待ちくたびれてゲームを始めるところだったよ!」

「遅すぎます!」

「お昼食べた後になるって言ってたでしょ!」

 

 ユウカに対し、全身で不満を表すモモイとアリスに、ユウカは軽く反論を返す。

 

「元気そうで何よりだな」

「センジョウさん。お久しぶりです」

『久しぶり……』

「ユズはロッカーの中か……さすがに初対面は厳しいか」

 

 ユウカの後から部屋に入ったセンジョウにミドリは一礼し、センジョウがそれを返すと、ユウカはそれを確認して、部屋の外に待つヒナへと声をかける。

 

「さあ、入ってきて」

 

 その言葉に、モモイが、ミドリが、アリスが、そして、ロッカーの内側から扉の先を見つめ、そこに、ヒナが現れた瞬間、アリス以外の3人の表情が固まった。

 

「げ、ゲヘナの風紀委員長さん!?なんでここにいるの!?」

 

 いち早く復帰したモモイが驚愕の声を上げると、ヒナは困ったような表情でユウカを見上げ、ユウカがヒナな背中を押した。

 

「それは当然、ヒナが体験入部希望者だからよ」

「ほ、本気なんですね……」

 

 ユウカの言葉に、少しおびえ気味のミドリは、ヒナの様子を深く伺う。そして、当然のようにユズはロッカーの内部で気配を極限まで消しており。

 

 

 そして。

 

 

「アリス知ってます!この方はレベルカンスト勢です!!」

 

 

 天童アリスだけが、物怖じせずに、ヒナへと近寄った。

 

 

「初めまして!アリスは、アリスと言います!こっちがモモイで、そっちがミドリ!ロッカーの中にいるのがユズです!」

「え、ええ……はじめ、まして」

 

 突然距離を詰められたヒナは、少し驚いた様子で半歩身を引くと、アリスの紹介を聞き、あいさつを返す。

 

「私は……空崎ヒナ。よろしく」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 ヒナは元気よく差し出されたアリスの右手に握手を返すと、アリスは満面の笑みのままその手をぶんぶんと振った。

 

「風紀委員長も、ゲームに興味があるんですね?」

「えっと、今の私は委員長じゃなくて……」

「そうなんですか?」

 

 きょとんとした顔を浮かべるアリスに、センジョウは苦笑を浮かべてフォローへ入る。

 

「ヒナは事情があって、今は……フリーの流浪人、って感じなんだよ」

「そうなんですね……きっと、複雑な事情が……」

「まあ、そうなんだが……とにかく、今はゲーム開発部の体験入部生って言うのは間違いない」

 

 な?とセンジョウに問われ、ヒナは静かに頷くと、その様子を見てアリスは元気よくうなずいた。

 

「それじゃあ、元風紀委員長は、今日からアリスたちの仲間です!」

「え!?アリス!?体験入部だよ!?」

 

 モモイの言葉も気にせず、アリスはヒナの右手を上げて、高らかに宣言した。

 

 

 

「ぱんぱかぱーん!レベルカンストの委員長さんが転職しました!!」

 

 

 

 

────こうして、空崎ヒナの、ゲーム開発部での日常が、幕を開けることとなった。








書いてて思ったこと───




────あれ?ヒナってセンジョウとユウカの子供だっけ??


A.違います
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