青空DAYS   作:Ziz555

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ゲヘナ動乱編、2章ラストです。


2章:災禍の狼煙 -動乱の狼煙-

 

「3つ!!」

 

 パルスブレードで尾翼を切り裂かれたヘリは、制御を失い、地面へと落下していく。

 キヴォトスの生徒であれば、その爆発に巻き込まれた程度ならは、悪くても意識を失う程度で済むことを知っていたセンジョウにとって、躊躇は……している場合ではなかった。

 

──警告、狙われています!

 

 ナルのアラートを認識し、後方地面に振り返れば、そこにはこちらへ砲門を向ける戦車があった。

 

「次から次へと……!!」

 

 砲が火を噴いた瞬間、センジョウは身を翻し、砲撃を回避する。

 そして、そのまま急降下したまま、パルスブレードを展開し、その砲身を叩き斬る。

 

「それで言い訳つくだろ!怪我する前に帰れ!」

 

 戦車の中にいるであろう生徒へ向けて、センジョウは声を荒げると、そのまま戦車を踏み台にして加速し、再び空へと舞い上がる。

 

 

────不良の軍勢との戦闘が始まってから、もうすぐ10分が経過しようとしている。

 

 

 

 風紀委員会側であるセンジョウは、その誰より早く装備を済ませ、少しでも不良達の進行を止めるために、単身、敵陣へと突撃を敢行。

 単機での飛行能力を持つヌィル・ヴァーナの強みを活かした戦法で、不良生徒達の頭の上を飛び越え、対処が困難な、ヘリコプターや戦車を優先的に撃破する事を目的に戦闘を続けていた。

 

 しかしそれでも、押し止めていたはずの戦線は、いつの間にかセンジョウの遥か後方へと移り、目をやれば、本部前では風紀委員会達との衝突が始まっているのが見える。

 本部の防衛は、イオリを信じて任せる他に無いと、センジョウは割りきった判断を下して、自分が撃破するべき対象へと意識を向けていた。

 

 だからといって歩兵からの攻撃が無いわけではない。

 

 浴びせられる弾丸の雨から逃れるように機体を旋回、上昇、下降させ、その攻撃を掻い潜りながら優先すべき航空戦力であるヘリの上をとってローダーを銃撃で破壊するなり、尾翼を切り裂くなりして、撃破を進めていた。

 

 3次元的な動きその物は、センジョウ自身に適性があった上、ナルの補助もあり、航空戦力との空中戦は、初めての経験ながらに順調に進んでいるようにも見受けられた。

 

 しかし、実際は違う。

 

 ナルの見せる、様々な情報に思考を回し、戦況を予測し、周囲の脅威を探る。

 平面ではなく、自身を中心とした、文字通りの『全方位』に注視をしての戦闘など、ろくな訓練もしていない、実践での叩き上げでしかないセンジョウにとっては、負担その物だった。

 

 故に、致命的な一撃こそ受けていないものの、ヌィルの装甲には、極端に行動へ支障はでない程度のダメージが蓄積されていたし、彼を守る最後の盾でもある『パルスフィールド』も、着実に損耗を重ねていた。

 

──マスター!ロックオンされています!!

 

 ナルの警告にセンジョウが意識を背後へ向ければ、そこには此方目掛けて誘導ミサイルを射出したヘリの姿が見て取れた。

 

「回避は……不可能か!」

 

 とっさに思考を回し、意識を左腕のパルスブレードと、自身へ向けられたミサイルに集中させる。

 

 回避が不可能で、防御したところで損傷を受けるのであれば、いっそ迎撃してしまえば良い。

 

 迫り来るミサイルに敢えて接近し、近接信管が起動するより先に、その弾頭をすれ違い様に切り捨てる。

 すると、飛行機能が不全を起こしたミサイルは、その場で爆発した。

 

 爆風に巻き込まれぬ様、センジョウはそのまま切り捨てたミサイルから離れ、確実に処理ができたことを確認するために振り向こうと、足を止める。

 

 止めて、しまった。

 

 

 

────次の瞬間、センジョウの身体が熱と斥力に押され、打ち上げられる様な衝撃を覚えた。

 

 

「ぐっ……!くそッ!!」

 

 

 ミサイルの迎撃に意識を向けるあまり、自身へと向けられていた迫撃砲の存在を見落としていたセンジョウは、攻撃を受けて初めて、自分に攻撃を仕掛けた存在を認識した。

 センジョウは、とっさの反撃として、右腕部マシンガンを掃射し、自身を攻撃した迫撃砲を破壊することには成功する。

 

 パルスフィールドにより、衝撃その物は軽減され、肉体的な損耗はほぼ無いに等しい。

 しかし、『直撃』を受けてしまったパルスフィールドは……その限りではない。

 

 

──パルスフィールド、損傷甚大!出力8%……、一時撤退を推奨します!!

 

 

 

 焦ったようなナルの声と、損傷を知らせるアラートがセンジョウの脳内へ鳴り響く。

 

「駄目だ!今下がったらイオリ達がどうなるかわからない!」

──それはマスターも同じです!飛行戦闘はパルスフィールドの回復に時間がかかります!このままでは3分と持たずに残りのパルスフィールドも全損してしまいます!

「なら全部避ける!」

 

 最早、冷静な思考すらできず、子供のような理屈を立てて、センジョウは戦闘を続ける意思を崩さない。

 そんな彼の様子に、ナルは捲し立てるように言葉を紡ぐ。

 

──いい加減にしてください!マスターは無敵でも、ヒーローでも、なんでもないんです!ただの人間である貴方が、『パルスフィールド』無しで、ミサイル、砲弾はどころか、銃弾一発受ければ、計算するまでもなく危険な状況になるんですよ!!

 

 ナルの言葉は、正論だった。

 

 頭では理解していても、身体が忘れかけていた正論をぶつけられ、センジョウは頭から冷や水を掛けられた様な衝撃を受け、血の気が引いていくのがわかる。

 

「…………そうだな」

──マスター、解ったのであれば待避を!早く!

 

 冷えた頭で、思考を回し。

 

 

 …………それでも、状況は変わらない。

 

 

「ナル……『最大稼働』で一気に終わらせるぞ」

 

 攻撃を止め、回避に徹していたセンジョウは、『切り札』を切ることを決める。

 確かに、ジェネレータの出力が段違いに引き上がる『最大稼働』を発動させれば、パルスフィールドを急速に回復させ、攻撃の火力も、機動力もあがり、殲滅速度は劇的に上昇するだろう。

 

 その引き換えとなる『リスク』が、何を意味しているかを、理解しても尚、センジョウはその『力』を求めた。

 

──ネガティブ!拒否します!今の貴方には、Phase4の症状が出つつあるんですよ!

「お前の補助があれば支障はでない」

──有ります!……貴方には、帰りを待つ人(早瀬ユウカ)が居るんですよ!!

「………………」

 

 ナルの言葉に、センジョウの思考が止まる。

 

 脳裏に浮かぶ、かけがえの無い存在に、彼女の笑顔に。どうしようもなく、足が重くなる。先へ進む『覚悟』が揺らぐ。

 

 だけど。でも。

 

「『生徒』の為なら、その身を捧げるのが、『先生』なんだ」

──マスター…………。

 

 想いを殺し。意志を曲げて。『覚悟』を持って、心を置き去りにする。

 『前に』進む為に。

 

 

 チリチリと、ジェネレータが熱を上げる。

 

 

「やるぞ、ナル」

──…………………………。

 

 ナルは。センジョウの心が、魂が。震えていることに気付きながら。それでも。

 

──ポジ、ティブ。

 

 『マスター』の指示に、従うしかない。

 

 そうして彼女は、センジョウの『魂』へ手を伸ばし────

 

 

 

 

────戦場に、弾丸の嵐が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

「なんだ!?」

 

 薙ぎ払われる不良生徒達と、突然現れた『暴力』に、センジョウは意識をヌィルから外す。

 

 その『暴力』の主は、堂々と、悠々と。戦場へと現れた。

 

 

 その姿に悲鳴が上がり、生徒達が怯え、竦み上がる。

 

 

「まったく。本当に無茶をするのね」

 

 

 白いコートと、長い髪をなびかせて、身の丈程の黒い銃を携えた少女は、敵陣の中に置いても尚、その堂々たる様を見せつけるように歩いていた。

 

「お待たせ。センジョウ」

「ヒナ……!?」

 

 そこに、『ゲヘナ最強』が、シャーレの制服を身に纏い登場した。

 

「空崎ヒナ!?何で!?」

「おかしいだろ!委員長は不在って話だったから来たのに!」

「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」

「カテルワケガナイヨォゥッ!!」

 

 本来居るはずの無い彼女の存在を認識した生徒達は、完全な恐慌状態に陥り、人によっては持っていた銃を落としてしまっていた。

 

 センジョウはすぐさま彼女の隣へと降り立つと、まとまらない思考のまま、浮かんだ疑問をそのまま言葉に変える。

 

「どうしてここに、だって。ゲーム開発部に居るはずじゃ」

「ユウカに、貴方がピンチだって教えて貰ったの。だから、ユズ達には悪いけど、活動は少しお休み」

「お休みって……」

 

 あっさりと言ってのけたヒナに、センジョウは困ったような表情を浮かべる。

 声色から困惑を読み取ったのか、ヒナはクスリと笑うと、センジョウより、一歩前へ歩み出る。

 

「やりたい事。見つけたの」

「やりたい事……?」

 

 センジョウには、自分に向けられたヒナの背中が、以前より本の少し、大きく見えていた。

 

「そう。『私のやりたい事』……ちゃんと、私なりに見つけたから」

 

 ヒナは、そう言いながら、愛銃である『デストロイヤー』を構える。

 その銃口に迷いはなく、ヒナの視線は、はっきりと『その先』を見据えていた。

 

「ここは私に任せて。……大丈夫、貴方よりずっと『慣れてる』から」

 

 ヒナは振り返らず、眼前に並ぶ多数の不良生徒を前に、これっぽっちも臆すること無く立ちはだかる。

 

「……すまん!回復したらすぐ戻る!」

 

 センジョウは、彼女に謝罪の言葉を残し、回復のために本陣へ向かい、と飛び上がる。

 

「逃げるつもりだ!狙え!」

 

 当然そんな彼の行動を許さんとする生徒も中には存在する。

 ヒナが現れようと、目的や意志の揺らがない気骨のある生徒であると言えるかもしれない。

 

 だが、それだけだ。

 

「────よそ見してる暇、あるのかしら」

 

 その声に、背筋が凍るような寒気を感じた彼女は、思わず狙っていたセンジョウから狙いをはずし、声のした方を振り返る。

 

 

「あ……悪魔……」

 

 

 全身から闘志を放つヒナの姿を見て、彼女は呆然と口から言葉をこぼす。

 向けられた殺気に、全身が竦み上がり、上手く身体が動かなかった。

 

「悪魔呼ばわりなんて……礼儀がないと思うのだけど────」

 

 

 

「────今は、それでもいい」

 

 

 

 ヒナは引き金を引き、眼前の敵を蹂躙していく。

 

 鎧袖一触、一騎当千。

 

 そんな言葉ですら、今のヒナを表すには役不足になりかねない程の暴れっぷりで、風紀委員会の前に立ちはだかる敵を打ち砕いて行く。

 

────肩書きは違えど、ゲヘナ生なら誰もがよく知る『風紀委員長の空崎ヒナ』が、そこには確かに存在していた。

 

 

 

 ヒナの到着と活躍により、戦力の多数を失い、彼女の復活によって士気が著しく低下した不良連合軍は、バラバラと撤退を開始した。

 各々が統率もなく、散り散りに逃げいく事と、現在の風紀委員会の部員達の消耗の都合から、イオリは追撃の判断を下さず、あくまでも本部の防衛に徹した。

 捕えたところで、参加者の中のどれ程が『赦免制度』を利用しているかも解らないのであれば、兵力の消耗を少しでも抑えるべきだと、イオリは判断したのだ。

 

 結果として、イオリの判断が功を奏し、風紀委員会本部防衛戦は、奇跡的に重傷者0人という、輝かしい結果を勝ち取ることとなった。

 

 そして、そんな『長』として活躍するイオリの姿に、ヒナは満足げに頷いていた。

 

 

 閑話休題

 

 

 戦闘の後の処理に追われる風紀委員会本部の中、イオリ、チナツ、アコの中核メンバーは、センジョウとヒナを連れて、執務室に集まっていた。

 

「来てくれて、ほんっとうに助かったよ!委員長!!」

 

 感極まって涙をこぼしそうになりながら、ヒナに詰め寄るイオリに、ヒナは優しい笑顔を浮かべた。

 

「今の『委員長』は貴女でしょ、イオリ」

「でも、やっぱり私の中の『委員長』は『ヒナ委員長』だから……」

「そう言ってくれるのは嬉しいけれど。貴女も立派に『委員長』の勤めを果たせてたと思うから。……胸を張りなさい。私が保証する」

「委員長…………」

 

 ヒナの言葉を噛み締めるようにしながら震えるイオリに、ヒナは苦笑を漏らした。

 

「お休みなのに申し訳ありません。……停学中にこんなことをすれば、万魔殿に何を言われても可笑しくないのに」

「いいのよ、チナツ。今は一応『シャーレ』の生徒として動いてるし、その辺りも問題ない」

「……本当に、委員長は変わりませんね」

「もう。チナツまで」

 

 イオリだけならまだしも、チナツまでもが自分を『委員長』と呼び、以前と変わらないような姿でやり取りをすることに、ヒナは、ゆったりとした安心感のようなものを感じていた。

 

 しかし、そんな光景の中。一番喜んで盛り上がりそうな少女は。一人、表情を曇らせたまま、ヒナを見ていた。

 

「アコ?」

「……なんでしょう」

 

 違和感に気づいたセンジョウが彼女に声をかけると、アコは、ハッとした様な反応でセンジョウを見る。

 

「何かあったのか」

 

 センジョウの問いに、アコはいよいよ、苦虫を噛み潰したように表情を歪め、視線を下へそらした。

 

「……アコ?どうしたの?」

 

 その様子に気づいたヒナがアコへと近づくと、アコは苦しそうな表情のまま、口を開く。

 

 

 

「────懲戒委員会が、クーデターを起こしました」

 

 

 

────動乱の火は。静かに、けれど確実に燃え広がり始めていた。





ちなみに『ゲヘナ動乱編』、とある作品モチーフで、それをブルアカに転用するような形で描いています。

解った方がいても感想などでは言わないでいただけると幸いです。
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