青空DAYS   作:Ziz555

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盛り上がり続けるフェイズきたな……


3章:戦火動乱 -切り札-

 

 センジョウの感覚麻痺の症状は、一時的なものだった。

 

 ヌィルの連続的な長時間運用に、脳が腕の感覚を忘れ始めていた。と言うような症状であり、時間がたてば回復するだろうと言う結論だった。

 

 だが当然。ここ数日間のような運用を続け、次第に脳の誤認が進行して行けば、取り返しのつかない段階まで進行することも考えられる。

 

 その為、センジョウに伝えられた事は3つ。

 

1.普段から意識的に右腕を使うこと。

2.事務作業にヌィルは使わないこと。

3.戦闘での使用も可能な限り避ける。当然『最大稼働』は厳禁。

 

 センジョウ自身も、伝えられたそれらの条件に異論はなかった為。今回は厳重注意と言う形で釈放(?)される流れとなった。

 

「因みに破ったらどうなる?」

「……さあ、どうしましょう、ユウカさん?」

「どうしましょうね?ヒマリさん」

「アッハイ、いいです破らないです。絶対守ります。オレ、ヤクソク、マモル」

 

 もしも。は許されないらしい。

 

 

 何はともあれ、無事に検査を終了したセンジョウとユウカは、ついでとばかりに、日用品と、数日分の食料品を調達してからシャーレへと帰還した。

 

 荷物は全部ヌィルのフライングボードに積んだので、ユウカは「買い物が楽でいいわね……」とまじまじとヌィルを見つめていた。いやそれそう言うものじゃないです……。

 

 

「「ただいまー」」

 

 

 返事があるわけでもないが、シャーレへ着いた二人はそんな挨拶をしてから、中へと入る。

 ゲヘナの対応に追われているセンジョウにとって、シャーレは現在、『寝泊まりをするためのスペース』てして使われていた。故に、まだ日も落ちきらない時間のシャーレを見るのは久々であった。

 

 センジョウの検査の結果がどうなるかが解らなかった為、今日はシャーレの業務は臨時休業となっている。

 センジョウとユウカにとって、束の間の休日である。

 

「荷物、どこに置く?」

「えっと……シャンプーとかは私が貰っちゃうから、センジョウは食品をしまってきて」

「あいよ」

 

 普段はセンジョウの生活スペースとして使われている居住区の一角も、今の主はユウカだ。

 シャーレの環境維持、管理をユウカに任せている以上、センジョウは自分の独断で勝手にものを配置するような事はしない。

 二人は、買い込んだ荷物を手分けして、しまうべき場所へ収納していくと、山のようにあった荷物は数分で跡形もなくなっていた。

 

 分担した互いの作業が終わった頃、リビングの様なスペースに集まった二人は、どちらのモノとも解らぬ、お腹の音を聴く。

 たしかに、今日は昼頃になにも食べていなかった。

 

「なにか作るか」

「そうね。……少し早いけれど、夕飯にしましょう」

 

 いつの間にか日は傾き始め、夕暮れの日差しが窓から差し込み、シャーレをぼんやりと朱く染める。

 

 ぼうっとしていた訳でもないが、いつの間にか休日の時間も残りは少なくなっていた。

 

 二人は厨房へ向かうと、手分けをして食事の支度を進めた。

 

 手慣れた様子で支度を進めるユウカに、センジョウが声をかける。

 

「ここ2.3日任せっぱなしだったし。今日は俺が作るよ」

「そう?……でも、右腕は?」

「……あー」

 

 いくら普通に動くとはいえ、感覚の無い右腕で刃物を握るのはさすがに危険だ。

 その考慮を忘れていたセンジョウは、どうにかして包丁を使わないメニューを考えようと頭を捻る。

 そんな、センジョウの不器用な優しさにユウカは何処と無く安心感を覚えていた。

 彼は今、手の届く場所(ここ)にいる。

 

「気を遣ってくれただけで十分よ。私がやるから、センジョウは手伝いをお願い」

「……悪い」

 

 申し訳なさそうな表情で謝罪するセンジョウに、ユウカはクスリと笑みをこぼした。

 センジョウは、母を失ってからしばらく、先生を支えるために色々なことをしていたと言っていた。

 だから、きっと。甘えかたを忘れている。

 

「大丈夫。安心して任せなさい」

 

 だからせめて。自分がこうして傍にいる時ぐらい、彼が安心できるようにしてあげたいと。ユウカはそんなことを、考えていた。

 

 

 夕食を二人で作り、二人でテーブルを囲んで料理を食べて。二人で並んで食器を片付けた。

 

 何気ない、けれど、かけ替えの無い一日は。ゆっくりと終わりを迎えようとしてした。

 

 

 夕食も、その片付けも終わらせた二人は、ソファーに並んで座り、パソコンで他愛ない動画を見ていた。

 

 互いになにかを言うわけでも、求めるわけでもない。穏やかな時間が流れていた。

 

 そんな中で、センジョウがふと口を開く。

 

 

「いいなぁ」

 

 

 溢れ落ちた本音のような、彼のその一言には。憧れと、寂しさと、安堵と……様々な感情がこもっている様に、ユウカには聞こえた。

 

 それが何を意味するのか。どうしてその一言だけが溢れ落ちたのか。彼が何を『良い』と感じているのか。その答えはユウカにはわからない。

 

 ただ、一つ。確実に言えることは。

 

「……そうね」

 

 ユウカも。この時間を。この距離感を。この空間を。

 

 

 『良い』と。

 

 

 そう、感じていた。

 

 

「なあ。ユウカ」

「なに?」

 

 

 

 

「────帰ってくるよ。必ず」

 

 

 

 

 それは。願いか。祈りか。

 

 

 

「それは、約束?」

「ああ。約束だ」

「随分一方的な『約束』ね」

 

 

 でも、まあ。

 

 

「破ったら承知しないから」

「ああ」

 

 

 きっと。私もそれを望んでいる。

 

 

 

 

 

 二人の手は。いつの間にか重なっていた。

 

 

 

 

 

 翌日。センジョウは仕事の為に、ユウカをシャーレに残し、一人ゲヘナへと向かった。

 

──おt……。マスター

「ん?どうした、ナル」

 

 ヌィルで空を飛んでいると、珍しくナルがセンジョウへと声をかけた。

 

──昨晩は。随分楽しそうでしたね。

「なんか言い方がエグい気がするが」

──いえ、そう言う意図ではなく……

「解ってるよ。……ああ、楽しかった」

 

 ナルの言葉に、センジョウは昨日の事を思い返す。

 一昨日のユウカの説教には堪えたが……それは自業自得だ。

 それに、『叱ってくれる』というのは、それだけ気に掛けてくれている証拠とも言える。……いや、別に叱られるのが好きと言うわけではないし、叱られる事は避けたいのだが。振り返った時に、すこし、嬉しくなる。

 

 その後の、ユウカと過ごした半日は。センジョウにとってこれ以上無い程に心が安らぐ時間だった。

 ゲームだとか、映画を見るだとかの『楽しさ』とは違っていたが。それでも、『普通に』買い物をして、『普通に』食卓を囲んで、『普通に』過ごす。そんな、時間が。

 

 

────母が死に。父が仕事に傾倒し始め。そんな彼の背中ばかりを見るようになってから。久しく感じていなかった。『日常』が、そこにはあった。

 

 

──マスター?泣いているんですか?

「え?」

 

 いつの間にか、センジョウの瞳には暖かい雫が溢れていた。

 彼はごしごしとその雫を袖でぬぐう。

 

「雨だ」

──え。あの、今雲の上なのですが。

「雨なんだよ」

──…………。

 

 ざわつく彼の心を感じ取ったナルは、それ以上の追求はしなかった。

 

 空の上から溢れる雫は。降り注ぐこと泣く乾いていた。

 

 

 

 

 空の上でひと悶着有ったものの、ゲヘナへとたどり着いたセンジョウを待っていたのは、一昨日と同じようにシャーレの制服に身を包んだヒナだった。

 

 センジョウはヌィルから降りると、彼女へと歩み寄る。

 

「待たせたな」

 

 ヒナはセンジョウの顔をまじまじと眺めると、しばらくしてから満足げに頷く。

 

「やっぱり、センジョウはそっちの方がかっこいいと思う」

「は?」

「ううん。こっちの話」

 

 ヒナは小さく首を横に振った。

 

「腕の容態は?」

「一時的な物だとさ。まあ、治したいなら戦闘は避けろって話」

「よかった。……ユウカが悲しまなくて済むわね。センジョウ?」

「うるせぇ」

「ふふふっ」

 

 ヒナのからかいに、センジョウはすこし恥ずかしそうにそう返す。

 そんな彼の姿に、ヒナは声を出して小さく笑った。

 

「んな事は良いから行こうぜ。対策、練るんだろ」

「そうね。行きましょう」

 

 苦し紛れにヒナを急かし、センジョウはイオリの待つ執務室へと向かった。

 

 

 

────今日の目的は、今後の風紀委員会の方針会議だった。

 

 

 

 イオリとチナツ。そして、ヒナが、神妙な面持ちで会議机を囲む。

 アコは一人、資料を手に、ホワイトボード前に立っていた。

 

「そろそろ始めましょうか」

 

 ヒナの一言に、その場にいた全員か静かに頷いた。

 

「それではまず、私から現状の報告をさせていただきます」

 

 アコは小さく礼をすると、ホワイトボードに張り出された資料を指し示す。

 

「現在、『ゲヘナ学園』は極度の混乱状態に有ると言えます。その原因は言わずもがな。先日の『懲戒委員会』によるクーデターです」

 

「『懲戒委員会』は、『万魔殿』の政策に異を唱え、『絶対秩序』を掲げて元生徒会を襲撃。武力的手段でもってその実権を奪取しました」

 

「現在、『懲戒委員会』は沈黙を貫いており、政治的な行動は一切確認されていません。おそらく、政治体制の整備が追い付いていないものと考えられます」

「なんか、考え無しのクーデターみたいだな……」

 

 イオリの言葉にアコは肯定のうなずきを返す。

 

「彼女らの当初の目的は、『万魔殿』と組んで、我々『風紀委員会』を打倒すること。と推測していましたが……現在の彼らの行動は、端的に言って破綻しています。……そもそも、『秩序』を掲げながら、『テロリズム』に訴えかける行為事態、破滅的と言わざるを得ません」

「動機も目的も不明。ということね」

「そうなります。ヒナ委員長」

「アコ。委員長はあっち」

 

 ヒナに指を指されたイオリは、すこし照れ臭そうにし、そんなイオリをアコは酷く冷めた目で一瞥した。

 

「……先日の不良生徒の襲撃に関して。捕えた生徒達から、事情聴取を行いましたが、誰の口からも『懲戒委員会』と『万魔殿』の文字は出てきませんでした。『万魔殿』はともかく、『懲戒委員会』の目的が私達の打倒、という線はかなり薄いと考えて良いと思います」

「混乱に乗じて、私達の事を良く思わない『懲戒委員会』でも『万魔殿』でもない誰かが唆した、ということ。ですかね」

「その可能性もありますが……」

「私達、恨みはたっっっっさん買ってるからなぁ……」

「イオリの言う様に、その線で見た時は容疑者が多すぎて絞り混むのは困難です」

 

 はあ。とアコは大きくため息をつく。

 

「そして同時に、原因が不明と言うことは、『次』が起こり得る。ということでもあります」

「……『懲戒委員会』の件もあるのに、次まで考えないといけないなんて、もうどうすれば良いのかわからないよアコちゃん!」

「そのための会議です!!委員長も何か言ってください!」

「その委員長が言ってるんですよ……」

 

 泣きつくイオリにアコが怒り、チナツが諌めるという、今の風紀委員会のいつもの流れに、ヒナとセンジョウは苦笑を浮かべた。

 

「纏めると、今の私達の取り組むべき問題は大きく二つ。『懲戒委員会』と『有るかもしれない二回目の襲撃』と言うことね」

「流石です委員長!」

「アコ。だから私は……」

 

 何度注意しても変わらないアコに、ヒナは大きくため息をついた。

 

「ともかく。『襲撃』対策は一つあるわ」

「こんな短時間で……!」

「短時間も何も。解りきった事があるでしょ」

 

 ヒナはそう言いつつ、自分を指し示す。

 

「私がいることを可能な限り示すこと。……それでたぶん、牽制にはなる」

「まあ、確かにヒナ委員長がいたら狙われにくくはなるかも」

「イオリ……」

 

 いつの間にかイオリまでヒナの事を『委員長』と呼び始めたことに、ヒナは頭を抱えた。

 

「それに、この前あれだけ叩いたなら、体制が建て直されるまでそれなりに時間はかかるだろ。少なくとも、数日間は猶予はある」

「そうね。センジョウの言う通り。……だから、問題はもう一つの方」

 

 『懲戒委員会』のクーデター。

 

 この事件の切っ掛けである、その問題が解決しない限り、この危機は終わらない。

 

「懲戒委員会と事を構えるとなると、やっぱり目下最大の敵は、『断罪部』と、その部長のオウカだよなぁ」

「戦力としては、ですよ。イオリ」

 

 アコは、イオリの言葉に眉間をしかめて言葉を返す。

 

「現在の『懲戒委員会』は、力付くで奪ったとは言え、政権をもっています。そんな彼女達を、我々『風紀委員会』が制圧したら、どうなると思います?」

「それは…………あれ?もしかして……」

「今の構図と何も変わりませんね」

 

 そう。例え風紀委員会が制圧したてしても、今の政権に不満の有る勢力が、武力で政権を打倒する構図は、変わらない。

 

「100歩譲ってあのタヌキに政権を返還しようとしたとしても、何かしらの理由をつけてろくでもない話になるのは目に見えています。……ですから、我々が『懲戒委員会』を打倒することは、根本的な解決になりません」

「面倒くさいなぁ!」

「そうね。本当に、面倒くさい」

 

 頬杖をついたヒナが、大きくため息をつく。

 

「放置していれば、他の学園が『救援』の名目で兵力を派遣してくる可能性もあります。……そうなれば今度は、ゲヘナの自治に影響がでてきて、最悪、『ゲヘナ』がキヴォトスの地図から消えかねません」

「きゅ、急に話が大きくなってきたな……」

「『クーデター』が起きた時点でかなり大きな話ですよ。イオリ」

「ともかく。この件は『可能な限り早急』に『ゲヘナ内部で』解決する必要があります。……例外的に、シャーレの力はお借りできるでしょうが……」

 

 アコがチラリとセンジョウの様子をうかがう。

 

「……俺が単独で出向くのは不可能だ。もう既にかなり『風紀委員会』に肩入れしてる以上、『風紀委員会』が『シャーレ』を利用したと取られかねない。……やるならあくまで、『風紀委員会とは無関係、もしくは敵対してる生徒』主導に見せかける必要がある」

「そうですね。それも、『ヒナ委員長抜きの風紀委員会』と同等並みの戦力の有る組織である必要があります」

「それでいて『政権に興味がない』必要もあるわね」

 

 話せば話すほど、芋づる式に条件が増えてくる様子に、イオリが頭を抱えて机に突っ伏した。

 

「『風紀委員会と敵対』してて、『風紀委員会並み』に強くて、『政権に興味がない』のに、『ゲヘナの生徒』で、しかも『素直に力だけ』を『直ぐに』貸してくれるなんて、そんな……」

 

 

 

 

「────そんな『便利』な組織なんて、有るわけ無いだろ……!」

 

 

 

 

 

 

 そのイオリの言葉に、その場にいたイオリ意外の全員が目を丸くした。

 

 

 訪れる沈黙。

 

「え?なんだ?みんな、どうかしたのか?」

 

 何を言ったのか、自覚の無いイオリだけがキョロキョロと4人の表情を見回した。

 

 

 そんなイオリに、センジョウは興奮を隠せず、歯を見せて笑う。

 

 

「────いるじゃないか。ゲヘナの『秩序』に真っ向から歯向かえる。『無法者(アウトロー)』が……!!」

 

 

 

 

 

 そうしてセンジョウは、端末を取り出して。とある番号へすぐさま電話を繋ぐ。

 

 

 数回のコールの後、ガチャリ。という音と共に、向こう側から声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

『はい。こちら便利屋68。陸八魔です』

 

 

 

 

 

 とびっきり別格の『鬼札』が。ゲヘナには残されていた。




ほら出番だぞ、千両役者
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