青空DAYS   作:Ziz555

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お約束回です




3章:戦火動乱 -無法者の矜持-

 便利屋事務所で、アルは鼻歌を歌いながら、自分の愛銃を磨いていた。

 

「アルちゃん、急に機嫌よくなったねぇ」

「さっきの電話が切っ掛けのようですが……」

 

 いつに無く上機嫌な彼女の様子に、ムツキとハルカがにこやかに、あるいは不思議そうに彼女の顔を見ていた。

 

「最近、大した仕事もなかったから……ってだけじゃなさそうだけど」

「アルちゃんが『ああいう時』って、ぜぇーったい。面白いことになるもんね♪」

「面倒な事、の間違いでしょ」

 

 ムツキの言葉に、カヨコはため息をついて眉間を指で揉んだ。……彼女たちのリーダー、社長である、陸八魔アルという少女は詰めが甘いというか、浮足立った瞬間に足元を掬われるような性質を持っている。

 しかし、それを持ち前のカリスマ性と胆力で切り抜けることができるし、そんな彼女の在り様が『便利屋68』という組織を成立させていた。

 

 ちなみに、彼女の掲げる理想は『一人前のアウトロー』である。これは、良くも悪くも偶像的な『無法者(アウトロー)』のことを指しており。根っからの悪人を目指しているわけではない。

 そもそも、事務所に飾られた『一日一惡』の掛軸の時点で、彼女の目指す『無法者(アウトロー)』が、すこしズレているのは……想像に難くない。

 彼女の行う『便利屋稼業』は、その理想の為の手段であり、彼女が上機嫌、と言うことは。まあつまり、何かしら『無法者(アウトロー)』な出来事がこれから起こると言うことだ。

 

 ムツキ達が、切っ掛けである電話の内容を彼女に聞いても、『後のお楽しみよ!』の一言以上は教えない社長の姿に、期待と、不安とを抱えた社員は落ち着かない様子で待機していた。

 

 そうして、いよいよ事務所の呼び鈴が鳴る。

 

「来たわね!」

「来たねぇ」

「来ましたね……」

「……来たね」

 

 それぞれの思いを胸に、4人は顔を見合わせると、アルが代表して扉に手を掛ける。

 ガチャリ。と鍵を開けて扉を開く。

 

「良く来た────」

 

 景気良く、格好つけた台詞を選ぼうと、笑顔でアルが扉を開くと────

 

 

「久しぶりね。陸八魔アル」

 

 

────白い制服に身を包んだ、空崎ヒナが銃を片手に立っていた。

 予想外の人物の登場に、アルは思考が止まり、動きもあわせてピタリと止まる。

 まるで、時間が止まったかのような、そんな静かな時間が二人の間には流れ。

 

 思考の追い付いたアルの表情が驚愕にそまる。

 

「─────ヒナ!?」

「風紀委員長……!?」

「あははっ!ハメられちゃったかなー?アルちゃーん!」

「え、えっと!あっと、げ、迎撃体制を……!!」

 

 アルの悲鳴に対し、状況を理解したカヨコ達がすぐさまそれぞれの武器を手取り、戦闘態勢を整える。

 

「まてまてまてまてまて!違う!違うから!別に取り締まりに来てない!!」

 

 そんな彼女達を制止する声に、アルはヒナの背後へ視線をやると、そこにはセンジョウが立っていた。

 

「え、あれ?センジョウ!?なんでヒナと一緒にいるの!?」

「依頼の話をしに来たんだよ!言ったろ、同行者が居るって!」

「い、依頼?ヒナがいるのに?」

「電話で伝えたろ……、『すこし厄介な事になってるけど、驚くなよ』って……」

「あ、あー…………」

 

 センジョウの言葉に、アルは先程の通話を思い出す。

 冷静になって思い返してみれば、そんなようなことを言っていた気がする。

『便利屋68にしか頼めない、とびきり危険で、反逆的な依頼がある』

 そんなセンジョウの言葉に心を掻き立てられ、良く話を聞いていなかったが。確かに思い返してみれば、そんなような言葉を聞いた記憶が微かに存在している気がした。

 

「で。結局、センジョウは今の私達の敵?それとも依頼主?」

 

 動揺するアルの背後から、銃口をセンジョウへと向けたまま、カヨコが鋭い目付きで彼を睨む。

 騙したのであれば容赦はしないと、語らずともその意志が伝わってくるようだった。

 

「依頼主だよ。約束する」

 

 センジョウは両手を上げて、敵意がないことを示す。

 そんな彼の姿をみて、カヨコは大きく溜め息をついた。

 

「先生に免じて、信じてあげる」

「すまん」

「ちぇー、それならそれで面白そうだったのに~」

「お前なぁ」

 

 冗談とも、本気ともとれる声色のムツキにセンジョウは呆れたように肩をおとす。

 だが、どちらにしても敵意は感じられなかった。

 

「……入って良いのかしら」

 

 頭越しに会話をされていたヒナは、何とも居心地の悪そうな様子で問うのだった。

 

 

 閑話休題

 

 

 何はともあれ、誤解も解けて、無事に依頼主として事務所へと上がり込んだセンジョウは、ヒナと共にソファーへ腰かける。

 

「お茶でいい?」

「任せる」

 

 カヨコはセンジョウの言葉に静かに頷くと、支度のためにポットへと向かった。

 

「そ、それで?風紀委員長連れで、私達に依頼なんて。一体どんな了見なのかしら?」

 

 可能な限り自信ありげな見栄を張るアルだったが、喋りだしで躓いた以上、そこには威厳もクソもなかった。

 しかし、それには触れないのが礼儀。として、センジョウはそれを指摘するような不粋な真似はしなかった。

 

「自治区から離れてるから知らないのか」

「……カヨコ」

 

 センジョウの問いに、アルはお茶を支度している最中のカヨコの背に声をかけた。要するに、『何を知らないのかも解らないから、何とかフォローを』の意である。

 そんな頼りない社長の助けを敏感に汲み取ったカヨコは、小さく溜め息をついてから、口を開く。

 

「空崎ヒナは停学中で、今はあくまでもシャーレ所属という噂。本当だったんだ」

「ゲヘナの外にはそこまで広まってないみたいだしぃ。知らない人の方が多いんじゃない?」

 

 アルの座るソファーの背もたれに腰を掛け、脚をパタパタとさせながらムツキがアルに言葉をふる。

 

「流石は自慢の社員達、と言うところね。情報収集は完璧よ」

「……」

 

 何とか面子を持ち直したアルの顔を、ヒナが何とも言えない顔で見つめていた。言いたい気持ちは、センジョウにも解らないでもない。

 

「それで。その件の人物をわざわざつれてきたって事は……それに関係した依頼?」

「察しが良くて助かる」

「停学中とはいえ、元風紀委員長が指名手配の私達を頼るなんて、……くふふ。センジョウくん、本当とびっきりの依頼。持ってきたんじゃなーい?」

 

 ムツキの言葉に、センジョウはニヒルな笑みを浮かべる。

 

「ああ。間違いなくとびっきりに危険で、無法で、お前達にしか出来ない仕事だ」

「御託は良いわ。内容を聞かせてちょうだい?」

 

 わくわく。と顔に書いてあるアルを前に、センジョウはチリチリと神経がヒリつくような感覚のままに、言葉を発した。

 

「────ゲヘナの現政権を崩壊させる」

「なるほど。政権の崩壊……確かに危険……きけ、ん……」

 

 アルの表情がピシリ。と固まる。

 どつやら、言葉の意味を理解したらしく、期待に浮かれていた表情は、真顔になり、疑問が浮かび。

 

 衝撃を受ける。

 

「な、何ですってーーー!!!???」

 

 白眼をむいて口を大きく開けて、驚きを隠そうともせずにアルは悲鳴じみた声をあげる。

 

「さ、流石に冗談よね!?クーデターよねそれ!?」

 

 アルは、身を乗り出してセンジョウに詰め寄るが、センジョウは笑みを崩さない。

 ……いや、良く見るとニヒルっぽい笑みに苦笑が混じり始めている。こいつも無理してやがる!!

 

「生憎、本気も本気。大真面目にマジな話だ」

「つ、ついに万魔殿と風紀委員会が全面戦争するんですか……?」

 

 恐る恐ると言った様子で問うハルカに、センジョウではなく、ヒナが首を横にふる。

 

「今の政権を握っている組織は、万魔殿ではないわ」

「どういうこと?だって、ゲヘナの生徒会は万魔殿でしょ?」

 

 もっともな疑問を投げ掛けるムツキ。

 

「クーデターだよ」

「それは今から起こすんじゃないの……?」

「違う、既に起きた後なんだよ」

 

 ゲヘナ自治区から離れ、独立した活動をしていた便利屋には、ここ数日のゲヘナの激動の事情は伝わっていない。

 事情を掴みかねていたアルに、センジョウはここ数日の事情を事細かに説明した。

 懲戒委員会の復活。ヒナの停学。断罪部の設立。赦免制度の誕生。

 

 懲戒委員会の、クーデター。

 

「────と言うわけで。このままだとゲヘナ学園その物が無くなりかねない」

 

 センジョウの説明を聞いた、便利屋の面々は驚きと呆れと、興味を示す。

 

「ゲヘナの消滅って……いやまあ、事情が本当ならあり得なくはないけど」

「それにしても『懲戒委員会』かぁ。ずいぶん懐かしいのが出張ってきたね?」

 

 ねー。とカヨコに同意を求めるムツキに、カヨコは露骨に眉間にシワを寄せた。

 同意も否定もせずに、カヨコはムツキの言葉をスルーして、センジョウを見た。

 

「風紀委員会で解決しようにも、公の組織である以上、表だって動いたところで今の懲戒委員会のポジションに風紀委員会がすげ替えられるだけだから、代わりの手駒を求めて私達に声をかけた……って所?」

「手駒って……そんなつもりは」

「でも、一緒でしょ」

「そうだねぇ。どうせ、私達はゲヘナの指名手配だしぃ。実質的に学校が解体されても、名義としての学籍さえ残ってれば今までと変わらないもんね」

 

 カヨコとムツキの言葉に、センジョウは息を飲む。

 

「どんな報酬があったとしても危険すぎる。……社長、今回の件は」

「……そうね。流石にリスクが大きすぎるというか、私達には手に負えない依頼ね。申し訳ないけれど────」

 

 顎に手を当てて、真剣な表情で思案していたアルは、カヨコの意見に首を縦に振り、断りの言葉を発し。

 

 

 それを遮るように、ヒナが立ち上がった。

 

 

「陸八魔アル」

「はいぃっ!?」

 

 突然立ち上がったヒナに、アルは驚きと怯えの表情を見せる。しかし、それでも彼女は、愛する社員を危険に晒さぬ為に、脅しに屈するつもりは無かった。

 

 だが。

 

「……えっ、と」

 

 ヒナは、深く、深く頭を下げた。

 

 困惑するアルに対し、ヒナは頭を下げまま口を開く。

 

 「無理を言っているのは、百も承知。……だけど、頼れるのは、貴方達しかいないの。……私は。ゲヘナを守りたい。ゲヘナのみんなを、大切にしたい。だから」

 

 

 

「お願いします。……私達を、助けてください」

 

 

 

 

 それは、真摯で、純粋で、優しい願いだった。

 そんな彼女の姿を見て、アルは静かに俯く。

 

 

 カヨコは呆れ、ムツキは笑顔になり、ハルカは決心を浮かべる。

 

 こうなってしまえば。もう、彼女が取る選択肢など、一つしか知らない。

 

 

「────ふ、ふふふふ……」

 

 

 便利屋68、社長の陸八魔アルは、俯いたまま不適に笑う。

 

「『元』とはいえ、委員長である貴方が、指名手配である私達に頭を下げるなんてね」

 

 ゆっくりと、彼女は顔を上げる。

 

「貴方の覚悟、確かに拝見させて貰ったわ。……そこまでされて断ったのなら。『便利屋68』の名折れ」

 

「だから」

 

「その依頼────この『陸八魔アル』が、確かに受けさせて貰うわ!!」

 

 不敵に、優雅に、大胆に。

 彼女は笑って高らかに宣言する。

 

「法で裁けぬ悪を裁くのは、……私達、『無法者(アウトロー)』に任せなさい!!」

「アルちゃん、さっすがー!そうこなくっちゃ!」

「はあ……。全く、本当に仕方がないけど。社長が決めたなら、ね」

「ど、どんな相手でも、死んでも戦い抜きます……!!」

 

 それがどんなに無謀であろうと、その行く先が地獄であろうと。

 『陸八魔アル』がいるのであれば。そこが彼女達の、居場所なのだ。

 

 それが────便利屋68。

 

「空崎ヒナ。安心しなさい、私達が請け負ったからにはこの仕事。確実にこなして見せるわ」

「アル……」

「貴方の護りたいものは……必ず護るから」

 

 アルの言葉に、ヒナは顔を上げて、笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう」

 

 ヒナの感謝の言葉に、アルは再び、不敵な笑みを返す。

 

 

 

 が。

 

 

 

 

「(言っちゃったーーーーーーー!!!!!!)」

 

 

 

 

 相も変わらず、アルは内心、自分の発言を後悔するのだった。




物語的にも便利な便利屋だぁ……。

原作が良すぎて、アルの良さがちゃんと出せてるか不安になりますね
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