青空DAYS   作:Ziz555

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3章:戦火動乱 -真意-

 宍戸オウカが『空崎ヒナ』を『先輩』と呼ぶには理由がある。

 

 現在の宍戸オウカの立ち位置は、ゲヘナの学園における『暴力装置』である。抑止の象徴であり、学園の力の頂点に立つ存在。

 その存在の影響力は、空崎ヒナに比べれば決して大きくはない。しかし、恐怖の象徴として、確かに彼女はゲヘナの頂点に君臨していた。君臨せんとしていた。

 彼女はヒナのその姿に『秩序』を感じていたのだ。

 

 それ以外の意味もあるのだが……大きな要因はそこにある。

 

 そして、宍戸オウカには、空崎ヒナの後任足りうるだけの実力が、確かにあった。

 

 ヒナの示した新たな戦い方に、宍戸オウカは戦闘の方法を『一撃必殺の近接強襲』から『右手の致命の一撃』を囮とした、失黒鉄の銃弾を確実に当てていくものへと変化させていた。

 

 宍戸オウカの『失黒鉄』は、ハンドガンの中でも、口径がかなり大きく、さらに、改造の施されたソレの最大の特徴として、『弾丸の他に内蔵火薬』があり、それが内部で爆裂することで弾丸の火力を向上させるような調整が施されている。

 故に、彼女の見せた『0距離爆破』に頼らずとも、十分な火力と破壊力が担保されている。

 

 対するヒナの戦闘スタイルは『タフネスにモノを言わせた被弾覚悟の前進制圧』。故に、彼女の相棒、『デストロイヤー』はとにかく火力と継戦能力を優先した大型のマシンガンなのである。

 オウカの戦闘スタイルである『攻撃と移動に爆発を用いた高速機動による一撃離脱』は、ヘビー級の戦い方をするヒナにとって、最悪の部類の相性だった。

 

 ヒナは新たに装備した『ガーディアン』のお陰で、それまでの彼女では対応できなかったであろう、クロスレンジの小回りを補うことで対応こそできるものの、反面、『デストロイヤー』の制御が不十分となり、オウカの高速機動に、効果的な一撃を与えられずにいた。

 

 いくらヒナが規格外のタフネスを有しているとしても、無尽蔵の体力があるわけでも、完全に無敵なわけでもない。

 

 オウカの『失黒鉄』の弾丸がじわじわと一方的にヒナの体力を削り、ヒナはまともにオウカへ弾を当てられない。

 

 そんな状況が続いていた。

 

 オウカは、火薬の尽きたグローブを投げ捨て、新しいグローブに付け替えながらヒナを見る。

 

「随分諦めが悪いですね。『面倒くさい』ことは嫌いでしょう?」

「諦める必要、ないもの」

 

 オウカの言葉を軽くいなしつつ、ヒナはデストロイヤーをリロードする。

 煤と埃程度のオウカに対し、ヒナは身体の至るところにダメージがあり、とてもではないがヒナが追い詰められつつあることは、誰から見ても明白だった。

 

「チッ。…………断罪部、そちらはまだ終わらないのですか?」

「す、すみません……!奴ら、なかなかにしぶとく……!!」

「はぁ。……終わらせ次第加勢しますが、馬の骨に手こずりすぎるのは考え物ですよ」

「も、申し訳ありません!」

 

 苛立ち各層ともせず、荒々しい口調で部下に当たるオウカに、ヒナは……

 

「ふっ……」

「…………何がおかしいのですか?」

「いえ、ごめんなさい。随分と苦労してるみたいだから」

 

 ヒナの嘲笑とも取れる笑いに、オウカは眉間にシワを寄せる。

 

「貴女なら解るでしょう。無能な部下を持つ苦労」

「おあいにく様、私の仲間達はみんな優秀だったから」

「……私はてっきり、貴女が一人で戦うのは、周囲に不満があるからだとばかり思っていたのですが」

「そうね。私が出た方が早く済むから」

「なら」

 

 オウカの問いを遮るように、ヒナは口を開く。

 

「それでも。……私は、みんなと共に頑張りたい」

 

 そんなヒナの言葉に、オウカの表情がスッ……と抜け落ちる。

 

「────失望しました。下らない」

 

 カチャリ。と失黒鉄を構える。

 

「やはり、貴女は『ゲヘナ最強』に相応しくない。貴女を倒して、その座を、貰い受けましょう」

 

 冷たい、しかし、その奥に燃える、歪んだ炎を宿した瞳が、ヒナを捉える。

 

 しかし。

 

「ごめんなさい。最初に言ったと思うのだけれど────」

 

 ヒナは、そんな彼女の視線に動じず、穏やかに笑う。

 

「────そんなことに、興味はないわ」

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 

────「右側が見えてないじゃない!」

 

 

 

 オウカの右頭部を、衝撃と爆発が襲った。

 

 

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

「部、部長!?」

 

 

 突然の爆発と、オウカの苦悶の声に、断罪部の動きが止まる。

 

「ムツキ!今!」

「はいは~い!待ってましたぁ!」

 

 カヨコの掛け声と共に、ムツキはカバンを意識のそれた断罪部へ投げつけると、そのまま弾丸で撃ち抜く。

 

 すると、なかに仕込まれた爆薬が即座に起爆し、陣形を組んでいた断罪部を纏めて吹き飛ばす。

 

「ハルカ!」

「ま、任せてください……!」

 

 陣形が崩れた断罪部に、追撃をかけんとハルカは突撃をかける。

 

「死んでください!死んでください!!」

 

 爆撃で散り散りとなった断罪部に対し、確実に、至近距離で容赦も慈悲もない弾丸を送り付け、一人ずつ、確実に、手早くその意識を刈り取っていく。

 

 

 一瞬にして、形勢が、ひっくり返った。

 

 

「(バカな!どこから……!オレの気づかない狙撃だと……!それも、爆発を伴う狙撃!……このオレに、『0距離爆破』の弾丸…………!!)」

 

 オウカは、爆破の衝撃で剥がれ落ちた包帯を右手で押さえながら思考を回す。

 何が起きたのかを考え、分析し。

 

 

 答えを、える。

 

 

「…………便利屋68、社長、『陸八魔アル』ゥ!!」

「あら、気づくのが随分遅かったわね」

 

 

 ヒナの言葉と同時に、さらに弾丸が放たれ、彼女達を照らしていたサーチライトが破壊される。

 

 とたんに闇に包まれた戦場で……何処からともなく放たれる弾丸に、断罪部の面々は一人一人確実に倒されていく。

 

「空崎ヒナ……貴様!最初からこれを狙っていたな!」

「私じゃないわ。……これは、先輩達の作戦だもの」

 

 激しい怒りを隠そうともせず、オウカは右目から血をボタボタと流しながらヒナを睨んだ。

 

「くくく……はは、ふははははははは!!!」

 

 オウカは狂ったように笑い声をあげ、天を仰ぐ。

 

「認めてやる。認めてやろう、『便利屋68』!ゲヘナから逃げた路傍の石と軽んじていたお前達が、まさかオレの障害になるとはな!!」

 

 影も見えぬ、その場にいるハズのアルへ向けて、聞こえるように、オウカは声をあげる。

 

「お前は、お前は確実に殺してやるぞ……陸八魔アル!!」

 

 ……そんな声に、どこからか怯えたような悲鳴が聞こえた気もするが、ムツキとハルカの起こす爆撃音が大きい為、聞こえないような気もするし、気のせいなのだろう。

 

「断罪部。私は下がる、戦線の維持に努めろ」

「え、この状況でですか!?」

「異議は認めない。岩動キヨミを護れ」

「そんな……!」

 

 部下の声を無視して、オウカは闇夜に隠れるようにしてその場から離脱していく。

 

「……あーあ。行っちゃった」

「追うのはナシ」

「わかってるって」

 

 いたずらっぽく笑うムツキに対してため息をつきつつ、カヨコは銃のサイレンサーを外して、天へ構える。

 

「────それじゃ、最後の仕上げにはいろう」

 

 『恐怖の咆哮(デモンズロア)』が響き渡り、及び腰になっていた断罪部は、恐慌状態へと陥る。

 

 そうなってしまえば、断罪部も完全なる烏合の衆だ。

 

 

 

 

 

 逃げ惑うだけの断罪部を、一人ずつ、全員気絶させ終えたヒナ達は、意識を取り戻してもすぐには戻れぬように彼女達を縛り上げると、ある程度纏めてその場に寝かせた。

 そんな彼女の前に、ステルスを解除したヌィル・ヴァーナが降り立つ。

 

「流石だったわ。アル」

「やっほー、アルちゃん。夜空の旅はどうだった?」

 

 ヌィルから降り立ったアルは、二人の労いの言葉に、胸を張る。

 

「貴女達も完璧だったわ。その勇姿は、夜空の特等席からバッチリ見ていたから!」

「狙撃体勢入る直前まで落ちるの怖がってたやつがよく言う」

「ちょっと!?」

 

 センジョウの暴露にアルは表情を崩し、そんな彼女の姿に、ヒナ達が笑みをこぼした。

 

────断罪部に対する今回の作戦は、ヒナを囮にした狙撃による奇襲作戦だった。

 

 先んじてヌィル・ヴァーナのステルス機能を用いて偵察を済ませていたセンジョウが、地上部隊であるアル達へ状況を伝達。

 クーデター作戦の最大の障害である『断罪部』を先んじて撃破するために、敢えて彼女達の張る罠へと飛び込んだのだ。

 

 その際、学園付近で合流したセンジョウがアルをフラインクボードを展開させたヌィルに乗せて上空へと上がり、奇襲狙撃を行うために待機。ヒナ達は、オウカ含めた断罪部の油断と、隙を誘い、アルの狙撃を機転に、混乱を誘って、正面から奇襲をかける大胆な作戦を実行していた。

 

 数で劣る戦闘になれている便利屋だからこそできる芸当は、オウカが『便利屋68』を侮っていた事で、想定以上の成果を挙げることができていた。

 

 センジョウ自身も、今回は直接的に戦闘はせず、フライングボードによる偵察と、アルの狙撃のための操縦にのみ徹していたた為、Phaseの進行を心配する必要もない、何一つ憂いのない作戦の遂行となった。

 

「大丈夫か、ヒナ?」

「ええ。少し痛むけど、このぐらいは慣れてるから」

 

 センジョウはヒナの傷を案じると、ヒナはいたずらっぽく笑う。

 

「どこかの誰かさんみたいなやせ我慢はしてないから」

「…………俺が悪かったからその言い方はやめてくれ」

「誰。とはいってないのだけれど?」

 

 そんなヒナのからかいに、センジョウは肩を落とす。

 そうして、敗けを悟ったセンジョウは、ヒナから逃れるようにして便利屋の面々へと視線を向ける。

 

「ハルカ達も……大丈夫そうだな」

「あの、えっと……」

「心配してくれてありがと♪センジョウせーんせ?」

「…………」

 

 右を見ても左を見てもからかわれる構図に、センジョウは頭を抱えて大きく溜め息をついた。

 そんなセンジョウに対し、カヨコは少し苦笑するような表情でセンジョウに声をかける。

 

「ムツキの言い方はともかく。確かに少し、『先生』っぽく感じた。支援、感謝してるよ」

「上から見て、状況を垂れ流してただけだ。大したことはしてない」

「貴方にとっては些細なことでも、貴方の支援は確かに私達の支えになっていたわ。自信を持ちなさい」

 

 謙遜をするセンジョウの背中に、アルは純粋な称賛の言葉を投げ掛ける。

 そんなアルの言葉に、センジョウは口元を緩める。

 

「流石は『リーダー』。だな。……称賛は素直に受け取らせて貰うよ」

「ふふっ。貴方が『先生』になったとしても、私達は貴方の席を開けてあるわ。あの日から、ね」

 

 初めてゲヘナで共に戦った日の事を思いだし、センジョウは挑戦的にに『リーダー』と呼び、アルはそれを受け止める。

 

 立場が変わろうと。センジョウの本質は、在り方は、変わってはいない。

 アルは、確かにそれを見抜いていた。

 

「……さて。雑談はそろそろ終わりだな」

 

 センジョウは姿勢をただして、全員の顔を見る。

 

「ここから先は校舎内。俺の偵察は成立しない。……だから、俺はここまでだ」

 

 この作戦はあくまでも『便利屋68』の独断としての体裁を保つ必要がある。その為、センジョウの介入は、表だってできるものではない。

 だから、センジョウに出来ることはただ一つ。

 

 信じて、待つこと。

 

「帰ってこい。お前達なら絶対にできる。後の事は、俺がかならず何とかするから、やれるだけの事を、やってこい」

 

 生徒達を、送り出す。

 

「ええ。行ってくるわね、センジョウ」

 

 短く言葉を交わし、ヒナ達は校舎の中へと走って行く。

 

 共に並び、共に進みたい衝動に駆られるが。センジョウはその気持ちをおし殺し、いつの間にか伸ばしていた手を降ろす。

 

「…………頼んだぞ。みんな」

 

 いつの間にか見えなくなった背中に、届かぬ言葉を、小さく残して。

 

 センジョウは、ヌィルと共に空へと再び上がっていった。

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