青空DAYS   作:Ziz555

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3章:戦火動乱 -災火の根源-

 便利屋と共に本館へ突入したヒナは、先陣を切りつつ目的地である生徒会室へと最短ルートを走っていた。

 

 当然、道中に警備の生徒はいるが、断罪部でもない懲戒委員会など、便利屋とヒナの相手にはならない。

 

「元とは言え、風紀委員会の委員長と校舎内を暴れまわりながら走る。なんて、考えたこともなかったね」

「普段は追われる側だったからね」

「お互い様でしょう?私もまさか、貴女達と肩を並べる日が来るとは思わなかった」

「すみません……本来なら、私が前線を維持するのですが……」

「気にしないで、ハルカ先輩。校舎に関しては私の方が詳しいのだから、任せてほしい」

「せ、先輩……えへへ……」

「アルちゃん!!ハルカちゃんが絆されちゃう!」

「しゃ、社員の引き抜きは許さないわよ!?」

「いや、流石にそんなことはしないから……」

 

 校舎の中を駆け抜けながら、そんな和気藹々とした会話を交わす彼女達の間には、短い間ながらに、確かに積み重ねられた信頼が、絆が存在していた。

 

 そうしてしばらく、校舎を走り抜け、生徒会室の前へとたどり着く。

 

「……この先に、岩動キヨミはいるはず」

「その人を倒して、政治の椅子から引きずり降ろせば、ゲヘナは以前までの状況に戻るのよね」

「たぶん。……マコトは確かにバカだけど、政治の手腕はそれなりに本物だから、時間はかかるかもしれないけど、なんとかなると思う」

「そう。……それじゃあ、行くわよ」

 

 アルが扉に手を掛けようとした瞬間。ヒナがその手を横からつかんだ。

 

「待って、社長」

「…………」

 

 アルは腕をつかまれた一瞬、肝が締め付けられるような幻覚を覚えたが、ヒナの自分を見上げる真剣な表情を見て、静かに彼女の言葉を待った。

 

「私一人に行かせてほしい」

 

 わがままとも、無謀ともとれるその言葉に、カヨコが眉間にシワを寄せ、口を挟もうと一歩踏み出した瞬間。アルはそれを手で制す。

 

「理由、あるのね」

「ええ。……うまく言えないけれど、キヨミに伝えないといけないことがある気がして」

「そう。…………なら、その仕事、しっかり果たすのよ」

 

 アルはヒナの表情をみて、満足したように頷くと、ゆっくりと手を降ろした。

 

「ここはヒナ……いえ、マオに任せて、私達は捕らわれている万魔殿の救出へ向かうわよ」

「社長はそれでいいの?」

「社員の意見を尊重するのも、社長としての器量よ」

 

 毅然といい放つアルに、カヨコは溜め息をつく。こうなったアルを止めることは誰にもできないことは、よく知っている。

 

「いい?今の貴女は『風紀委員会委員長の空崎ヒナ』ではなく、『便利屋68の新入社員の天野マオ』よ。便利屋の一員である以上、失敗は許されないわ」

 

 だから。と、アルはヒナの肩を叩く。

 

「かならず成し遂げなさい。信じてるから」

 

 そうして、その言葉だけを残して、アルは扉から離れるように歩きだした。

 

「ありがとう、社長」

「…………いくわよ。私達の仕事を果たしに」

 

 ヒナの感謝の言葉に、アルは振り返ることはせずに、静かに笑って、カヨコ達を引き連れてその場を後にした。

 

 そんな彼女達の背中を見送ったヒナは、扉に手を掛けた。

 

 開かれた扉の先で、一人の少女……岩動キヨミは、会長の椅子に座り、書類仕事を進めていた。

 

「……来たか。空崎ヒナ。いや、今はマオ。と名乗っているのだったかな」

 

 キヨミは静かにペンを置くと、ゆっくりと席から立ち上がる。

 

「本来であれば歓迎したいところだが……今は忙しい。願わくばお引き取り願いたいが」

「貴方が万魔殿に政権を返してくれるなら、すぐにでも帰るのだけれど」

「……だろうな。故に、我らの意見は平行線だ」

 

 キヨミは、静かに己の武器を手に取った。

 

「空崎ヒナ。……私の正義を、貴女ならいずれ理解してくれると思っていたよ」

「『力』で全てを押さえつけるだけでは、何も変わりはしない」

「変わるさ。変わるのだ。……故に、変化のために、今のゲヘナは揺れ動いている。これは、必要な犠牲だ」

 

 キヨミは、物静かに、どこか悲しみを秘めた、冷たい視線で、ヒナを……その先にある、ゲヘナの風景をみた。

 

「全ての人が強くあることはできない。貴女のように強く在れる人は、ほんの一握りしかいないのだ」

「だから、管理しようっていうの?」

「そうだ。それが、力有る者の責任。……誰かがやらねば、ならんのだ」

 

 重く、固い鎖にがんじがらめにされたような、そんな彼女の姿に、ヒナは目を細める。

 それはまるで、過去の自分を見ているようで。助けを求める子供を見ているようで。

 

「キヨミ、あなたは」

「これ以上の言葉は不要だ」

 

 キヨミは、ヒナの言葉を振り払うようにして、銃を構える。

 

「意思を通すのであれば力を示せ。それが私の……『秩序(ルール)』だ」

「…………そう」

 

 ヒナは、そんなキヨミに応えるように。『デストロイヤー』と『ガーディアン』を抜き放つ。

 

「……力有る物と、力なき物の、二丁」

「ええ。これが私。私の選んだ答えだから」

「ならば、その『答え』……存分に見せて貰おう」

 

 キヨミは、言葉と同時に、作業していた机を蹴り飛ばした。

 積まれていた書類が宙を舞い、ペンや文具が辺りへ散らばり落ちる。

 

 視界を塞ぐ、それらの障害物に隠れ、キヨミの姿を見失ったヒナは、即座にデストロイヤーの引き金を引き、遮蔽ごとその全てを破壊するべく、弾丸をばら蒔いた。

 

 遮蔽越しでは互いに決定打は与えられない、故に、その遮蔽ごとの制圧を試みるヒナに対し、キヨミは。

 

「う、おおおおおおおっ!!」

 

 全身の力でもってテーブルを押し込み、遮蔽ごとヒナへと距離を詰める、力任せの戦法を取った。

 

 確かに、全身を覆うほどの巨大な盾となったそれに身を隠せば、ヒナの強烈な弾丸の直撃を貰うことなく距離を詰め、距離を詰めさえすれば、ショットガンであるキヨミの『悪即滅』は遮蔽を破壊した上でヒナに弾丸を叩き込むことができるだろう。

 室内と言う回避が望めぬ、狭い戦場に置いて、キヨミの選択はまさに、壁が迫ってくる様な圧力があった。

 

 しかし、ヒナは動ずることなくデストロイヤーの弾丸をキヨミが盾とするテーブルに集中させる。

 

 いくら頑丈とは言え、弾丸を弾き、流す盾として設計された訳ではないテーブルは、当然のようにデストロイヤーの威力には耐えられず、限界を迎え、粉砕される。

 

 しかし、キヨミにとってそれは十分すぎる時間だった。

 

 超えるべき相手……ヒナを目前に捉えたキヨミは、極限まで手を伸ばし、その喉元めがけて悪即滅を突きだし、引き金に指を掛ける。

 

 地形を、道具を、相性を。全てを駆使して、届かぬ『力』に手を、いや。指を掛ける。

 

 しかし、それでも……力の差は、覆らない。

 

 キヨミが引き金を引く直前に、ヒナは即座にデストロイヤーを引き、ガーディアンを構え、その引き金を引いた。

 

 デストロイヤーに比べれば、あまりに小さく、貧弱とさえ表現できる弾丸を、ヒナは的確に狙いを定めて放つ。

 

 

 それは、キヨミの急所ではなく……その手に握る、『悪即滅』の銃口へ。

 

 

 寸分の狂いなく銃口へと吸い込まれた弾丸は、キヨミがトリガーを引くことで点火された弾丸と、バレルの中で衝突し、その銃身を破裂させた。

 キヨミは、暴発の衝撃に倒れながら、予想外の出来事に突然自身の相棒が暴発したと認識し、ヒナの構える『ガーディアン』の銃口をみて、その真実を知る。

 

「────見事だ、空崎、ヒナ…………」

 

 たった一撃。それも、自分が『力なき物』と侮った小さな拳銃の一発。

 その弾丸は見事に、『悪即滅』の内に有る弱さを貫き、討ち果たした。

 

 ほんの一瞬の戦いに敗れ、キヨミは床に倒れたまま天井を見る。

 

「…………私は。間違っていたのか」

「そうかもね。……けれど、あなたの『気持ち』は決して、間違いなんかじゃないと思う」

 

 呆然と倒れたままのキヨミに、ヒナは歩み寄り、手を差しのべる。

 

「あなたの『力』は、誰かの為を思って振りかざされたもの。ただ、その振り下ろしかたを間違えただけ」

「……己の未熟を恥じるばかりだ。力だけでなく、心でさえ、貴方には敵わないらしい」

 

 キヨミは差し出されたヒナの手を掴み、身体を引き起こす。

 

「あなたは私を『強い』と言うけれど、私にだって『弱さ』はある。あなたにだって、『弱さ』はある。……ただ、それを受けいれていいんだって。そう教えてくれた人達がいたから」

「……己の弱さ、か」

「そう。……きっとみんな、どこか傷や弱さを抱えてる。それから目を逸らして、見えないふりをして、間違ったり、自分を見失ったりすることもあるかもしれない」

 

 ヒナにとって、ゲーム部での過ごした日々は、短いながらも、心の休まる日々でもあった。

 彼女達は、『ゲヘナの風紀委員長』であると、自分の事を知りながら、しかしそれでも仲間として迎え入れ、共に過ごす時間を真摯に受け止めてくれていた。

 だから、考えることができた。自分と向き合うことができた。悩んで、苦しんで、自分が彼女達と共に過ごしていいのかと、疑う時もあった。

 けれど、それでも、彼女達は自分を受け入れてくれた。

 あまつさえ、勝手なわがままを伝えても、笑顔で送り出してくれたのだ。自分に正直になればいいのだと、教えてくれた。

 

 だから。

 

「あなたもきっと。いつか自分を、自分の弱さを、許してあげられる日が来るから」

「…………そう、か。そうだな」

「ええ。何度間違えても、何度失敗しても、また立ち上がればいい」

 

 ヒナの言葉に、キヨミは穏やかな笑みを浮かべる。

 

「────私の完敗だ。政権は万魔殿へと返そう、捕らえていた構成員も解放し……罪を償う」

「キヨミ……」

「やはり、貴女には敵わんな。……私は、いつの間にか『力』に、『強さ』にとりつかれていたらしい」

 

 完全に一人で立ち上がったキヨミは、ヒナの手を離すと、服についた埃を軽く手で払い除ける。

 

「ゲヘナに起きた混乱の鎮圧には骨を折るだろうが、私も協力しよう。元はと言えば『赦免制度』なるものをでっち上げた万魔殿の落ち度ではあるが、現状の責任の一端は我々にも────」

 

 

 ヒナは、キヨミの言葉に目を見開いた。

 

 

「ちょっとまって。今、なんて」

「む?責任の一端は……」

「違う。その『前』の話」

 

 ヒナの問いに、キヨミは疑問符を浮かべてその顔を見る。

 

「『赦免制度』をでっち上げた万魔殿……か?」

「でっち、上げた……?『万魔殿』が、単独で?」

「…………どういう意味だ?」

 

 キヨミはヒナの表情に、険しい表情を浮かべる。

 

「『赦免制度』は、風紀委員会を機能停止させて、懲戒委員会が実権を握るために共謀した政策では、ない……?」

「当然だ。私の望みは管理された混沌等ではない。その様なことは望むはずが……いや、まて。『赦免制度』を、あの愚女が、一人で……?」

 

 冷静になったキヨミの頭が、事象の違和を捉える。

 

 なにかが、おかしい。

 

 ピロピロピロと、ヒナの端末に通信が入る。

 画面を確認すれば。発信者は、アコだった。

 ヒナはキヨミとアイコンタクトをすると、静かに頷き、スピーカーモードで回線を開く。

 

『大変です!委員長!急いでそこから離れてください!!』

「アコ、どうしたの。状況を説明して」

『武装した勢力が、生徒会室へと向けて進行中です!どうやら現在、ゲヘナ全域で『首領を撃ち取れば、その権力を我が物にできる』という噂が、急速に拡大している様子で……!』

「どういう事……?」

『詳細は不明で……。しかし、彼らも又出所不明の最新鋭の装備を固めている様子です!』

「……ここ数日の、一部派閥同士に。妙な動きがあった」

『岩動キヨミ!?なぜ委員長と共に……!』

「アコ。キヨミは敵じゃない。……話を聞く価値はある。話して欲しい」

 

 アコの通信を横から聞いていたキヨミの言葉に、アコは敵意を剥くが、ヒナの言葉に勢いを飲み込み、彼女の言葉をまつ。

 

「小競り合いを繰り返し、勝者が敗者の組織を取り込むような形で成長するような動きだ。……政権交代の混乱に乗じた火事場泥棒だとばかり思っていたが。まさか、奴らの目的は」

「他勢力を『力』で支配して、勢力を伸ばし、その果てに、ゲヘナの権力を手中に納めること……?」

『そんな……そんなこと』

 

 キヨミの言葉が。ヒナの予想が正しいのであれば。

 

 

『これではまるで……戦乱の時代ではないですか……』

 

 

 呆れるような、信じられないような、そんな、動揺を隠そうともしないアコの声に、ヒナとキヨミは表情を険しくする。

 

「バカげている、いくらゲヘナが自由とは言え、こんな古典的な考えにそう簡単に、大勢が陥るとは思えん」

「そうね。何かが、おかしい」

 

 疑念が膨れ上がる中、ヒナの端末に別の着信が入る。

 今度は、アルからだ。

 

「ごめんなさいアコ。少しでも情報が欲しい、また後でかける」

『え、委員長!?』

 

 アコの応答もまたず、ヒナはアコとの通信を切ると、アルとの回線を開いた。

 

『ヒナ!大変よ!』

「アル。どうしたの?」

『それが──』

 

 通話の先でアルが何かを話そうとした瞬間に、『それは私が』と、別の声が割ってはいる。

 

「イロハ、無事だったのね」

『ええ。丁重に軟禁されていただけですから。……それより、風紀委員長……いえ、ヒナさんに伝えなければならないことが』

「……ええ。私も、知らないといけないことがあるみたいね」

『成る程。キヨミさんとの誤解は解けた様子ですね。であれば、話は早いです』

 

 イロハの、意味深な言い回しに、ヒナは疑念の裏で膨らんでいた、嫌な予感が急速に形を成してくるのを感じた。

 

『────今のゲヘナの異変は、一人の生徒の手によって引き起こされています』

 

 その予感は。

 

『単刀直入にいいます』

 

 最悪の形で、彼女達の前に現れる。

 

 

『この事件の黒幕は────────』

 

 

 

 

 

『────宍戸オウカです』

 

 

 

 

 

────煉獄の炎が、戦火となって、ゲヘナに燃え盛っていた。

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