青空DAYS   作:Ziz555

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4章:真実の地獄 -疑念-

「揃ったな」

 

 ゲヘナの校舎からいくらか離れた林の中。センジョウとヒナ、便利屋の面々はそれぞれ別のルートから合流座標であるこの場にたどり着いていた。

 

「全員、補充は必要か?」

「私達は問題無いわ。救出した『万魔殿』から予備の弾薬と爆薬を工面して貰ったから」

「公には、私達が強奪した。ってことにするって話だから……後が少し面倒くさそうだけど」

「ヒナは?」

「アコに言って届けて貰ったから、ひとまずは大丈夫。……懲戒委員会を狙って襲撃をかけてきた不良生徒達の対応も、イオリ達に任せてきた」

 

 そう告げるヒナの格好は、先ほどまでのクソダサTシャツではなく、コートこそ羽織っていない物の、風紀委員会時代に彼女の着用していた、黒い軍服の様な服装になっていた。

 

「……着替えたのか?」

「ええ、アコが、予備に委員会で残していたものを用意してくれたの。……少し目立つけれど、この方が防弾性も確保できるし」

「そうか」

 

 センジョウは、そんなヒナの姿をまじまじと見つめると、無意識に頬を緩めた。

 

「やっぱり、ヒナにはその方が似合うな」

「そうね。私も、この方が落ち着く」

 

 シャーレの制服や、彼女の私服が似合わない。と言うわけではない。だが、しかし。やはり、『空崎ヒナ』には、……『風紀委員会』であるその姿が良く似合っていた。

 

 最終決戦の為の、それぞれの支度が済んでいることを確認したセンジョウは小さく頷いた。

 

「よし。それじゃあ俺達はこれから、オウカを止めるために、彼女が待つ『古聖堂跡地』へ向かう。……と、言いたいところなんだが……」

「さすがに足がないまま行くには、距離がありすぎるわね」

 

 ヒナの言葉に、センジョウは苦い顔を浮かべる。

 

「問題はそこだ。ヌィルで移動するにしても、乗れて俺とあと一人。……ヒナを連れていくとしても、アル達はどうするか、なんだ」

 

 オウカの指定した『古聖堂跡地』は、トリニティ自治区内に存在しており、ゲヘナ学園からはお世辞にも近いとは言いがたい。

 徒歩で行くのはもっての他だし、少なくとも何かしらの移動手段は欲しいところだ。

 しかし、少数精鋭による隠密奇襲作戦をたてていた彼らにとって、車のような移動手段は用意されておらず、便利屋自身も特段利用している『足』は存在しなかった。

 

「多分、オウカはもう『古聖堂跡地』にいる。……彼女が撤退してから、そこまで時間が経っている訳ではないことを考えると、何かしらの移動手段があると考えて良い」

「その方法さえ分かれば楽なんだが……」

 

 腕を組み思考に更けるセンジョウとヒナ。

 

 そんな二人をみて、アルは満面の笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふっ……。抜かりはないわ!」

 

 そんな台詞と共に、アルはピッと人差し指と中指を立てた。

 そんな二本の指には、一枚の紙片が挟まれている。

 

「────宍戸オウカの隠し通路と思われる情報は既に入手済みよ」

 

 これ以上無いどや顔でそう告げるアルに、センジョウは目を丸くし、ヒナは冷ややかな視線を向ける。

 

「いつの間に調べたんだ……?」

「それ、信用できる情報なの……?」

「なんで疑いの方が先に来るのよ!?」

 

 二人の疑問に対してショックを受けたように抗議の声を上げるアル。

 

「救出した万魔殿の人から提供して貰ったのよ!元々信用はしてなかったから、いざという時の為に調査してた物を渡されたの!」

「イロハの情報なのね」

「……抜け目無い辺りがイロハらしいな」

 

 ソースの裏がとれた事で納得をする二人に対し、アルはなんとも言えない表情を浮かべる。

 

「わ、私の信用って……」

「社長。私達一応指名手配だから」

「そりゃ生徒会の情報と比べたら信用度合いは落ちるよねぇ」

「わ、私はいつもアル様の事を信じてますから……!」

 

 フォローの様でフォローになっていない言葉に、ジリジリと自尊心が削られるのを感じながら、アルはやけくそ気味に口を開く。

 

「と!とにかく!!話している時間も勿体ないのだから!早く行くわよ!!」

 

 その手に握った情報をブンブンと振って主張するアルの姿に、その場にいる全員がなんとも言えない哀れみのような感情をもって眺めるのだった。

 

 

 

閑話休題(次よ次!)

 

 

 アルの入手した情報の示す場所へ向かうと、そこには巧妙にカモフラージュされた洞窟が存在していた。

 その洞窟から奥へと進んでいくと、次第にライトや、細々とした電気器具が増えていき、人工的に手が加わった、整備、管理された空間へと変化していく。

 

 そうして、進んだ先に、少し開けた空間が広がる。

 

「これは……!」

 

────そこには、戦車の部品や、様々な銃器、爆薬などが保管されていた。

 

「なによ、これ……?これを、一個人が保有していたの……?」

 

 戦争でも始めるのか。そう疑う程の備えに、アルは驚きを隠せず言葉を漏らした。

 

「この量を一人で集めることも、管理することも現実的じゃない。おそらく、オウカは何者かと手を組んで動いていると見て良さそうね」

 

 ヒナは、積み上げられた兵器の一つを手に取る。……そこに刻まれていた文字をみて、大きく表情を歪めた。

 

「カイザーの傘下か」

「ええ。……多分、ほぼ全部がそうでしょうね。風紀を襲撃してきた生徒達が保有していた武器と合致するものも少なくない……。現在のゲヘナに流されてる武装はほぼ彼女が出所と見て間違いはなさそう」

「彼女、汚い大人(カイザー)の掌の上で踊らされているだけ……だといいんだけどね」

 

 カヨコの言葉に込められた意味に、センジョウは表情を曇らせる。

 

「────『弱肉強食』、か」

 

 ヒナから聞いた、オウカの掲げる思想に思うところがないと言えば、嘘になる。

 彼女は、『絶対的なルールにおいて、大人も子供も関係がない』という信念を持っており。それは、皮肉なことに、今のセンジョウの立場そのものでもあった。

 

 センジョウは、カヨコと年齢が同じ、『18歳』である。

 

 つまり、『子供』である筈なのだ。キヴォトスにいきる、生徒達のうちの一人と、そうあるべき筈なのだ。

 身体は、現実は。センジョウが未だ『子供』であるという事実を示している。

 

 しかし、センジョウは既に、『生徒』ではない。

 それは、彼の背負う立場や肩書き、『権力』が示すところであり。

 

 

────それは、ともすれば、オウカのいうところの『大人も子供も関係がない』ことの証明でもある。

 

 

 

 センジョウは、『先生』として、オウカの過ちを止めなければならないと。そう考えている。

 だが、その考えそのものが、『オウカ』の『間違い』を肯定してしまっている。

 

 

 『Nuill-Vana』という『暴力』を。

 

 『シャーレの先生』という『権力』を。

 

 

 その二つを担う自分に。果たして、彼女を咎める権利は。

 

────『先生』の言葉が。甦る。

 

『その武器は、誰かを倒すための物じゃない』

 

 

 分かっている。そんなことは、わかっている。

 

 

────わかって、いるんだ。

 

 

 それでも。オウカは止まらない、止められない。止め方を、知らない。

 

 『暴力(コレ)』しか。俺には…………わからない。

 

 

 帰ると約束した。守ると決めた。『あの場所』にいたいと。心のそこから思ったのに。

 『暴力』しか知らない自分では、いつか、それすら自分で壊してしまいそうに思えて。

 

 痛みしか、破壊しか産み出せない自分の手が。どうしようもなく、醜く思えて。

 

 どろどろとした感情と、ぐちゃぐちゃになった考えが、脳裏を多い尽くして。

 

 

 

「────センジョウ?」

 

 

 

 ヒナの自分を呼ぶ声に、センジョウはふと意識を現実に引き戻された。

 

「……ずいぶん、酷い顔をしていたけど」

 

 心配そうに自分を見上げる、その少女に。センジョウははっとして────笑みを浮かべる。

 

 

 

「"大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ヒナ"」

 

 

 

 考えを挟まず、ポロリと口からでた言葉に、センジョウ自身が驚いた。

 

「……そう?なら、いいんだけど」

 

 少し不思議そうに、センジョウを見つめていたヒナは、彼の言葉に納得したのか、情報を集めるために視線を周囲へと戻す。

 どうやら、センジョウの驚きは、表情や仕草には出ていなかったらしい。

 

 どうして、そんな言葉が出たのか。

 

 心配させてはならないと、生徒を不安にすべきではないと。確かに考えはした。だが、行動までは、決めていなかった。

 

 

 そうして、また。嫌悪する。

 

 

 仮面で自分を偽って。都合の良い『大人』を演じた自分に気づき。……どうしようもなく、吐き気を催す嫌悪ばかりが降り積もる。

 

────わすれろ

 

 今は、そんな時間はないのに。

 

────わすれろ

 

 やらなければならないことが。あるだろう?

 

────わすれろ

 

 悩んでる暇なんて。今の自分にはない。

 

────わすれろ。

 

 考えるな。何も、もう。考えちゃ、だめだ。

 

 

 思考を止めて、疑いを止めて、自問自答を止めて。ただ、前に進まなくちゃ。

 そんな時間も、余裕も、権利も。俺にはない。

 

 責任を、果たせ。

 

 切り捨てて、割りきって。思考がクリアになり、目的が見えてくる。

 

 

────オウカを倒して。ゲヘナの生徒を救うんだ。

 

 

 そう心に楔を撃ち込んだちょうどその時、少しはなれた所から声が聞こえた。

 

 

「みんなー!こっちこっち!」

 

 ムツキの声に呼び寄せられ、その場の全員が集まった先には……古典的ともいえる、簡易な線路と、数台のトロッコが用意されていた。

 

「コレ使ってトリニティまで行ったんじゃない?」

 

 恐らく、物資の運送用と考えられるその設備は、十分に管理されており、問題なく使用ができる状態だった。

 確かに、地下を通るトロッコであれば、ゲヘナへの武器類の持ち込みも比較的気づかれにくくできるだろう。しかし、そう簡単に用意できる設備ではない。

 

「どこから計画していたんでしょうか……?」

「さあね。けど、本気で『天下』を取るつもりと言うのは間違いなさそう」

「尚更、止めないわけには行かないわね。みんな、トロッコへ乗り込むわよ」

 

 アルは早速トロッコへ乗り込もうとし、ヒナに手を捕まれた。

 

「待って、アル。この線路がどこに繋がっているかもわからないし、途中で分岐が無いとも限らない。それに、動力の無いトロッコで動くのは手間」

「それは…………そう、ね」

 

 ヒナの指摘に言葉を詰まらせ、腕を組んで考え始めるアルに、センジョウが口を開く。

 

「俺がヌィルで牽引する。誰か繋げられる物を探してきてくれ」

「頼めるの?」

「ああ。ナル……ヌィルのAIにナビゲーションさせれば、道も分かる筈だ」

『位置情報の同期は済ませてあります。目的地へのナビゲーションは問題なく可能です』

「……ヌィルって喋れたの?」

 

 いつの間にやらアクセスしていたらしいナルが、センジョウの左腕のデバイスから音声を発して、彼の発言をフォローする。

 その声を聞いたヒナが、小さく驚きの表情でセンジョウをみるが……。ナルがここまで能動的に動くのは初めての事だった為、センジョウも同じように驚いていた。

 

「ま、まあ。……ナル。お前、音声使えるなら先に言ってくれ」

『その、心境の変化といいますか』

「し、心境ってお前な……」

『とにかく!……ナビゲーションなら私が完遂しますので、御安心下さい』

 

 センジョウの何やら文句を言いたげな雰囲気を、少し強めの発音でごまかしたナルに、ヒナは笑顔を浮かべた。

 

「それじゃ、よろしくね。ナル」

『はい。お任せください』

「…………」

 

 どこか腑に落ちない様子で左腕のデバイスを眺めるセンジョウを他所に、ヒナはナルに挨拶を済ませると、いつの間にどこからかロープを持ってきていたハルカがそこに立っていた。

 

「あ、あの……コレでうまく繋げられるでしょうか……?」

「バッチリよハルカ!」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 ハルカからアルがロープを受け取ると、それをみたセンジョウはヌィルを展開、装備し、FA形態へ移行する。

 

 センジョウは、一台のトロッコへ括られたロープの一端を受け取ると、ヒナと便利屋がそのトロッコへ乗り込んだ。

 

「……準備は良いな?」

 

 センジョウの言葉に、ヒナ達がうなずくのを確認すると、センジョウはバイザーを下ろす。

 

 

「───蒼井センジョウ、Nuill-Vana。出る!」

 

 

 脚部スラスターに火をいれると、レールに合わせて展開されたパルスフィールドを滑らせてレールの上をヌィルが走り始める。

 

牽引されたトロッコも、その速度に次第に加速し、線路を走る。

 

 

 

 

────決戦の地、カタコンベに、彼らは向かっていった。




ゲヘナ動乱も残すところ2~3話です。
最後まで是非お付き合いください。
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