青空DAYS   作:Ziz555

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4章:真実の地獄 -破壊者-

 

「ヒナァァァァァァァ!!」

 

 センジョウの叫びが、慟哭が、響き渡る。

 

 あの日の光景が。フラッシュバックする。

 

 

────飛び散る鮮血と、倒れ行く人影。

 

 

 

 心の底に、押さえつけていた泥が。封を破って、溢れ出す。

 

 

 

「ヌィル・ヴァーナァ!!!!」

 

 背部に背負ったバックパックのスラスターを全力で吹かし、センジョウはヒナの元へと急ぐ。

 

「センジョウ!?……もう!全員、センジョウの援護に入るわよ!」

 

 突如として飛び出したセンジョウに対し、アルは即座に社員達に指示を出すと、本人もスナイパーを構える。

 

 手早くオウカへ照準を定めて、1発。

 

 ギィン!

 

 オウカが、アルの狙撃に対して即座に『無煉獄』を振るうと金属同士が擦れ合う音を響かせて、彼女の後方に2発の弾丸が着弾する。

 

 いや、違う。

 

「嘘でしょ……弾丸を切った(・・・・・・)の!?」

「狙撃の腕は大したもんだ。狙いを定めるのも早い。だが、2度は通じねぇ」

 

 弾丸切りなどという芸当をやってのけて尚、動揺もせず、呼吸すら乱れず、オウカは静かにアルを見据えていた。

 

「本来なら、スカウトしたいところだが────」

 

 オウカは、刀の切っ先をアルへと差し向ける。

 

「────狙撃の礼だ。次はお前を切る」

 

 冷たさの中に、燃えたぎる憎悪と殺意の炎を秘めた視線にい抜かれ、アルは、本能的な恐怖を覚える。

 

「……コレは少し、不味いかもしれない、わね……!」

 

 全身から吹き出る冷や汗を自覚しながら、アルは、銃を握る腕の震えを押さえるために、深く呼吸を整えた。

 

 ちらり、と視線をオウカからはずせば、いつの間にかセンジョウはヒナの元へたどり着き、彼女を抱えてオウカから距離を取り始めていた。

 

 目的は果たしている。だが、アルはどうにも『撤退』の選択肢が浮かばない。

 

 逃げられるとは、思えなかった。

 

「(気合いをいれなさい、陸八魔アル!……ここから先は、1ミスで全てが終わる、文字通りのデスゲームよ…………ッ!)」

 

 姿勢を整え、視界を広げ、狙撃の構えを取る。

 

 

 陸八魔アルは、目の前にいる『恐怖』に、照準を合わせた。

 

 

 

 

「ヒナ!ヒナ!目を醒ましてくれ!ヒナ!!」

 

 センジョウは、腕のなかで意識を失ったままのヒナに声をかける。

 

 どうみても、血をながしすぎている。

 

「クソッ!クソッ!……クソぉッ!!」

 

 センジョウは、ヌィルの装備を解除し、上着を脱いで、止血のためにヌィルの装備で服を裂く。

 

「ダメだ!ダメだ!ダメなんだ……!もう、なにも失いたくない、なにも!俺はまた……!そんなの!」

 

 使わなければ最善だと思っていた、応急措置の知識を使いながら、何とか止血のための処置を進めていく。

 

 その手は、ヒナの血で赤く濡れ、指の隙間から血がこぼれ落ちて行く。

 

 ぬるりとした感触は。あの時のようで。

 

「俺は!おれは……!!おれ、はぁ…………!!」

 

 その言葉の先が、喉を支えて、出てこない。

 

 

 

 

 すくえなかった。

 

 

 きずつけた。

 

 

 まもれなかった。

 

 

 

 俺には、『先生』みたいな(そんな)力は。

 

 

 

 

 無かった。

 

 

 

 

 失意の中で、目の前の光景に。怒りと、悲しみと、虚しさと。

 

 どうしようもない憤りが、行き場を失った怒りが、嘆きが。

 

 センジョウを支配していた。

 

 

 

 

「────余所見とは、ずいぶんと余裕だな。『先生』」

 

 

 

 

 そんな声に、センジョウが振り向くと、その横になにかが投げ捨てられる。

 

 それは、全身に切り傷と、焼け焦げた服装のまま、力なく倒れるアルだった。

 

 

「セン、ジョウ……」

「……ア、ル?」

「ごめん、なさ、い……」

 

 

 彼女は、謝罪をのこして、意識を失う。

 

 

「アル、……おい。アル!しっかりしろ!」

「クククク……ハハハ…………!」

 

 傷つき、倒れたアルに手を触れるセンジョウを見て、オウカは嗤う。

 

「ハァーッハッハッハッハッハ!!」

「何がおかしい!!」

 

 センジョウは、怒りを隠そうともせず、笑い声を上げるオウカを見上げ、睨み付ける。

 

「何が?考えればわかるだろ。回りを見てみろよ」

 

 オウカの言葉に、センジョウは視線をあげて、周囲をみる。

 

 ヒナや、アルだけではない。

 

 ハルカが、カヨコが、ムツキが、傷つき、その場に倒れ付していた。

 

 その光景に、センジョウは言葉を失う。

 

「『似てる』よなぁ。『先生』。……この光景、見覚えはないか?」

 

 

────倒れ伏す、不良生徒達の姿が、呼びおこされる。

 

 

「なあ、『先生』」

「……黙れ」

「オレも、あんたも。『子供』でありながら、『大人』に匹敵する『力』を持ってるなぁ?」

「黙れ」

「その『力』の使い方。…………オレと、何が違うんだ?」

「黙れェ!!」

 

 オウカの言葉を、センジョウは否定する。

 

「俺は!!お前とは違う!お前なんかとは違うんだ!!俺は!自分のために力を振るったことは、一度たりなんてありはしない!!」

「ほぅ。だから、誰をどう傷つけても、その『責任』はお前には無い、と」

「…………ッ!!そんなことッ!!」

「詭弁だな。……どんな理由があろうと、どんな経緯があろうと…………、その『力』を振るう選択をしたのは、お前だろ?」

「黙れ……!黙れ黙れ黙れ!」

 

 

「その口を閉じろよ!宍戸オウカァ!!」

 

 

 センジョウは、感情のままに。怒りのままに、血に濡れた拳を振りかぶる。

 

 

 だが。

 

 

「…………殴れないだろうな。お前には」

「…………………!!」

 

 

 その拳は。オウカに届くことはない。

 

 

 彼女も、『生徒』であるなら。『先生』は、そんなことをしては、いけないのだ。

 

 

「……理由が欲しいか?『蒼井センジョウ』」

「なに、を……」

 

 オウカは、歪んだ笑みを浮かべる。

 

「なあ。お前。何故聖園ミカが、アリウスに辿り着けたと思う?」

「…………どういう、意味だ」

 

 オウカの言葉に、センジョウの思考が止まる。

 

「ゲヘナを力で支配し、それを足掛かりに他校に戦争を仕掛ける。そして、その果てに天下を獲るのがオレの目的だとすれば。『エデン条約』は目の上のたんこぶ。どうにか邪魔できない物かと考えたのさ」

 

 オウカは、自慢をひけらかすかのように言葉を続ける。

 

「そこで閃いたのさ。……『アリウス』を利用してやれば、トリニティの戦力を削ぎ落としつつ、エデン条約をご破算に出来る。とな。……アリウスを支配していた『ベアトリーチェ』は、支配欲に対して随分と矮小で短絡的な女だったからな。単純な『聖園ミカ』さえ唆してやれば、後は勝手に『コレ好機』と動いてくれる」

「まさ、か……」

「ああ。そうだ」

 

 

 

「エデン事変は、オレの目論見通りだ。ミカの反乱も、それを押さえる『シャーレ』の介入も、『先生』が、ベアトリーチェを倒すところまで。……あの女は、それには気づいていなかったみたいだがな?」

 

 

 

 それは、つまり。

 

 あの嘆きは、悲劇は。

 

 父の、怪我は。

 

 

「お前がァ……!!!!」

「……そうだ、そうだぜ。『蒼井センジョウ』」

 

 

 

 

「お前の全てを奪ったのは────この、オレだ」

 

 

 

 

 

「宍戸ォッ!!オウカァァァァァッ!!」

 

 

 喉が張り裂けんほどの叫びを響かせ。センジョウはヌィル・ヴァーナをその身に纏う。

 

「そうだ。それで良い。『誰かの為』なんて建前、『力』の前にはこれっぽっちも必要ねぇ」

 

 

 センジョウの怒りを、『殺意』を、全身に浴びて、オウカは笑みを浮かべる。

 狂気のままに、刀を振りかぶる。

 

 

「テメェとオレは!同類なのさァ!」

「お前は!お前だけはァ!!」

 

 ヌィルのパルスブレードの一撃を、オウカは『無煉獄』で受け止めた。

 

「見せてみろ!『蒼井センジョウ』!お前の、その力を!」

「後悔させてやる……!お前のしたことの全てを!全力で、ブッ壊してやる!!」

 

 出力に物を言わせて、センジョウがパルスブレードを振り抜くと、オウカはその力をいなすように後方へ飛び去る。

 

「逃がすか!!」

「逃げる?違うぜセンジョォ!」

 

 オウカは後方へ飛ぶと共に、足元に転がっていた『失黒鉄』を踏んで弾きあげ、左手でキャッチする。

 そのまま即座に、センジョウ目掛けてそのトリガーを引く。

 

 独特の爆音と共に放たれた弾丸に対し、センジョウは回避するでも、防御するでもなく。

 

 真っ向から突っ込んだ。

 

 

 鈍い音ともに、肉体に突き刺さる弾丸。

 

 肉をえぐり、骨を砕く一撃に、しかし、センジョウは瞬き一つせずに、ヌィルを前へと進ませた。

 

 

「オオオオォォォッ!!」

 

 防御の全てを捨て。その出力の全てを『攻撃』へと転化する。

 ただ、目の前の敵を排除する為だけの、その『暴力』に。

 

「いい!いいぜ!センジョウ!!もっとアツく、オレの血肉を滾らせてみせろ!」

「その薄汚い口を──!!」

 

 力のままに、思うがままに、暴力の刃を振り回し、互いの身体に、その『力』を刻み込む。

 

「力ずくで黙らせてやるッ!!」

 

 感情の昂りを。本能を。全てをむき出しにして。センジョウは怒り狂う。

 

 刃を振り回し。引き金を引き。獲物を引き裂かんと、食らいつく獣の様にオウカへ追いすがりながら、センジョウは吠える。

 

──マスター!止まってくださいマスター!

 

 そんな、怒りに我を忘れたセンジョウを引き留めんと、ナルは必死に語りかける。

 

──そんな戦い方!あなたはだって!あなたを信じる人だって!誰も望んではいません!

「黙れ!コレは、俺の戦いだ!!俺の意思だ!!」

──怒りに呑まれてはいけません!このままでは……!『Nuill』を、抑えきれません……!!

 

 センジョウの『殺気』に共鳴し、今にも『最大稼働』を引き起こさんとする『Nuill-Vana』を必死に押さえ込むナルの言葉は、センジョウには届かない。

 

──お願いです……!マスター!

「壊すことしかできない『力』なら、いっそ───」

 

 

 

「全てを壊せ!ヌィル・ヴァーナァァァァ!!」

 

 

 

 その嘆きに。怒りに。悲しみに。

 

 『Nuill-Vana』は。共鳴した。

 

──そんな……システムが、侵食されていく……!?

──ダメです……!マスター…………お父さん!!

 

 

 ナルの叫びは虚しく。闇の中に木霊した。

 

 

 『炉』にくべられた感情の様に、ヌィルの全身が、どす黒い紅に染まり、熱を帯びる。

 

 歪んだ『意思』は、ただ、破壊をもたらす『暴力』へと生まれ変わる。

 

 

────意思も、願いも、思いも。その全てを『虚無』へと還すモノへ。変貌していく。

 

 

「それがテメェの『地獄』か?……悪くねぇ。悪くねぇぞ!センジョォ!」

「ヴオオォォォォォォッ!!」

 

 空間が揺れていると錯覚する程の、『恐怖』を放つ彼の咆哮は。嘆きと、怒りに濡れていた。

 

 

 

 

 

 

────意識を取り戻したヒナが最初に目にしたのは、怪物のように吼えるセンジョウの姿だった。

 

 痛む身体と、霞む視界に鞭を打ち、鉛のように重い腕で、身体を起こす。

 

「セン、ジョウ……」

 

 ヒナには。そんな彼が。泣いているように見えていた。

 

 

 一人で、孤独に怯え、恐怖に震える。幼い、小さい子供のようで。

 

 

「……いま、たす、ける。から…………」

 

 どうしても。手を伸ばさずには、いられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───『恐怖』と『破壊』を体現する怪物へと成り果てたセンジョウの力は、文字通り『人智』を越えていた。

 

 破壊のために振るわれた刃に触れたものは、抵抗すら許されずに崩壊し、その『役割』を失う。

 

 その特性にオウカが気づいたのは、振るわれた刃を『無煉獄』で流さんとし、触れた瞬間に刃が弾けとんだ瞬間だった。

 

「チッ!!」

 

 持ち前の異常とすら言える反応速度で、『無煉獄』が両断された瞬間に、防御ではなく回避に意識を切り替え、オウカはその攻撃から身を守る。

 

 身を翻すと共に、反撃のために『失黒鉄』を構えるが……『怪物』は止まらない。

 

 一瞬の打ちに距離を詰め、その拳をオウカの顔面へと叩きつける。

 

 凄まじい惰力で振り抜かれたその拳を、回避も防御も叶わずに受けたオウカの身体は、紙切れのごとく吹き飛んだ。

 

「がはっ……!!」

 

 壁が砕ける程の速度で叩きつけられたオウカは、肺からすべての空気が押し出され、激痛と衝撃に視界が揺れる。

 

 しかし、理性も、情も持たぬ怪物に、容赦などあるわけがない。

 

「……………」

「……ハッ。とんだバケモノを起こしちまったみたいだな」

 

 オウカは、首を掴まれながら、自嘲気味に笑う。

 考えるまでもない。

 

 『次元が違う』のだ。……勝てる訳など、ありはしない。

 

 ソレは、彼女を宙へと放ると、壁をけって回り込み、更に上から下へ叩きつけた。

 

 凄まじい破壊音と共に、砕け散った床の上に、オウカは倒れ伏す。

 

 倒れ伏すオウカに、センジョウは、『Nuill-Vana』の装甲を解除し、生身で歩み寄る。

 

 

「…………」

 

 

 感情の抜け落ちたその顔で、センジョウはオウカを見下ろす。

 

「所詮、この世は弱肉強食。…………テメェが強くて、オレが弱かった。それだけだろ」

「ああ、そうだな。俺の勝ちで、お前の負けだ」

 

 それまでの怒りがどこかに消え失せたかのように、センジョウは淡々と答える。

 

 そんな彼をみて、オウカは目を閉じる。

 

「やれよ。……テメェには、その『権利』がある」

「……それがお前の『地獄』か」

「さあな。テメェで考えろ」

「どうでもいい。……だけど、まあそれがお前の答えなら」

 

 センジョウは、倒れ伏したままのオウカの左手に握られた『失黒鉄』を、手に取った。

 

「お望み通り。やってやるよ」

 

 そうして、センジョウは引き金に指をかける。

 

 

「じゃあな」

 

 

 

 

 

 

 パァン。

 

 

 

 

 

 

 

 一発の銃声が。響いた。





次回。『ゲヘナ動乱編』、エピローグ。
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