青空DAYS   作:Ziz555

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────銃声と共に放たれた弾丸は。センジョウの握る『失黒鉄』を射抜き、弾き飛ばした。

 

 右手を襲ったその衝撃に、センジョウは目を見開き、弾丸が飛んできた方向を確認する。

 

 

 そこには、倒れたまま銃を支えるヒナと、彼女に銃身を任せて引き金を担うアルの姿があった。

 

「ヒナ、アル!!」

 

 そんな彼女達の姿をみて、センジョウは駆け出した。

 

「やれやれ……本当に、世話が焼けるわね」

「本当に……そう、ね」

「大丈夫なのか、二人とも……!?」

 

 意識を取り戻した二人に、センジョウは安堵の表情で、その瞳に涙を浮かべる。

 

「俺は……俺は……!」

「いつもの、センジョウに……戻ったのね」

「いつ、もの……?」

 

 ヒナの言葉に、センジョウは自らの行動を、言葉を思い返す。

 

「────俺は」

「いいの、いいのよ、センジョウ……あなたは、必死に戦った。それだけ」

 

 ヒナは、残る力を振り絞って、センジョウの手に触れる。

 思考の沼に、落ちそうになる、彼の手をそっと、触った。

 

「一緒に……戦ってくれて、ありがとう」

「そんな……俺は、ただ」

「それでも。よ。……あなたがいなければ、私達全員やられていたのよ」

 

 アルも、センジョウの言葉を否定する。

 

 どんな理由はあれ、確かに。彼女達は、センジョウに命を救われたのだ。

 

 その戦いに。意味はそれで十分だと。ただ、そう伝えるために。

 

「『ありがとう』、センジョウ」

 

 感謝の言葉を、述べる。

 

 

 そんな二人の姿に、センジョウは絶望と、衝撃と、安堵の混ざった、歪んだ表情を浮かべる。

 彼は、今────

 

 

 

「クククク……ハハハハハ!!!」

 

 

 

 オウカの笑いが。聖堂に響く。

 

「オウカ!」

 

 その声にセンジョウが振り替えると、オウカはいつの間にか祭壇の前へと立ち尽くしていた。

 

 全身の傷を庇うようにして、祭壇を支え代わりに何とかそこに立つ姿は、彼女がもう戦えないことを示していた。

 

 だが、それでも。『宍戸オウカ』はブレることを知らない。

 

「とんだ三流悲劇だ。地獄に落ちるわけでもなく、誰が救われる訳でもなく、ただ、そこにある『地獄』を描いただけの、毒にも薬にもならねぇ悲劇だ」

「何が言いたい」

「いいや」

 

 オウカは、悪辣な笑みを浮かべて、センジョウを見る。

 

「テメェは、その『地獄』と『歪み』を抱えて。……その『先生』という『呪い』を背負って。一体何処まで行けるのか。楽しみなだけさ」

「…………」

 

 オウカの言葉に、センジョウは、ただ、血に濡れた手で、握りこぶしを作ることしかできない。

 

 その、『地獄』を。見せつけられてしまった。

 

「どれだけ言葉を並べても、負け惜しみにしかならないわ。気にすることないのよ、センジョウ。……全部終わって、みんな生きてるのだから、……あなたの勝ちよ」

 

 アルの言う通り。結果だけをみれば、敵であるはずのオウカ含めて、誰一人として死人は出ていない。

 守るべき『生徒』は皆、生きている。

 

「終わらねぇよ。まだ」

 

 だが、その言葉を『宍戸オウカ』は否定する。

 

「まだ戦うつもり……!?」

「いいや?」

 

 オウカは、笑顔のままに、顔を歪め、右手を高く掲げる。

 

 

「オレの『力』は、オレだけのモノだ。その在り方は、その使い道は、オレが決める」

 

 

 パチン。と彼女が指を鳴らす。

 

 

 瞬間、凄まじい轟音と振動が、カタコンベ全体を揺らした。

 

「爆発!?……まさか!道連れにするつもり!?」

 

 断続的に続くその爆発に、アルは顔を青くする。

 

「そんなみみっちい真似するかよ。アホ。……言ったろう。『所詮この世は弱肉強食。強ければ生き』───」

 

 

 

「『弱ければ、死ぬ』」

 

 

 

「敗れた弱者が死ぬ。ただそれだけのことさ」

 

 オウカは、笑顔を浮かべたまま、センジョウ達をみた。

 

「そら。『先生』。急げば『生徒』ぐらいは助かるかもしれねぇぞ?」

「……くそっ!!」

 

 オウカの煽るような言葉に、センジョウは悪態をついて、左腕の端末を操作する。

 

「ナル!!動けるか!」

『……システム!復旧しました!動けます!』

「フライトユニットでアルとヒナを!俺はハルカとカヨコを助けにいく!!」

「センジョウ……!!」

 

 センジョウの指示に、ヒナを目を見開く。

 

 

 彼の口からは、『オウカ』の名前が、出なかった。

 

「この距離じゃ間に合わない!手も足りない!なら、俺は……『生徒』を優先する!!」

 

 

 必死な叫びは。まるで自分を言い聞かせるための言い訳のようで。

 

 

 ハルカ達の元へ駆け出したセンジョウの背中を、ヒナはただ、見ていることしかできなかった。

 

 

「そうだ。それで良い。『蒼井センジョウ』。…………オレ達は、『生徒』じゃないからな」

 

 

 そんな彼の選択を、心底満足そうに眺めて、オウカは嗤う。

 

 

「ククク…………」

 

 

 『生徒』を担ぎ上げ。こちらを一瞥することもなく、逃げるように走り去る、『センジョウ』の姿を。

 

 

「ハハハハハ…………!!」

 

 

 オウカは、ただ。

 

 

「ハーッハッハッハッハッハッ!!!!」

 

 

 崩れ行く洞の底で。ただ、ただ。嗤いながら、見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────後に、『ゲヘナ動乱』と呼ばれるこの事件は、首謀者である『宍戸オウカ』の行方不明と共に、多数の陰謀が暴かれ、その事件を終息させることとなる。

 

 オウカによって操られていた『懲戒委員会』は、しかし、その非を認め、『空崎ヒナ』の停学処分を撤回。また、政権を万魔殿へと返すと共に、『岩動キヨミ』は、長の席を退くこととなった。

 

 ヒナが帰還した『風紀委員会』は、以前までの体制を復活させると共に、ヒナ不在の間に成長した他委員会の面々の存在により、その連携は事件の前より強固な物となっていた。

 

 政権を取り戻した『万魔殿』は、動乱の残り火である混乱を収めるために、『風紀委員会』、『懲戒委員会』と連名での共同政策を宣言。

 犬猿の仲である『風紀委員会』と、操られていたとはいえ、クーデターを起こした『懲戒委員会』との共同宣言の信を取るため、第三者である『シャーレの先生』を調停者とする運びとなった。

 

 

 こうして、ゲヘナは、争いの果てに互いに手を取り合い、無法者達なりの『秩序』を取り戻していくこととなる。

 

 

 戦いは。終わりを告げた。

 

 

 

 

────そんな、ある日の夜。

 

 

 早瀬ユウカは、仕事も落ち着き、ゲヘナから帰ってきたセンジョウを労うために、シャーレへと訪れていた。

 

 しかし、彼女の訪れたシャーレは、不自然なまでに静かで、人の気配ひとつ感じられなかった。

 

 玄関口だけではなく、各フロアの扉まで、丁寧に全て施錠がされており、……それはまるで、踏み込まれるのを恐れられているようにも、ユウカは感じた。

 

 ユウカがセンジョウから受け取った権限なら、その全てを問題なく解錠し、進むことができる。

 故に、彼女はこの状況に疑問と、違和を感じつつも、センジョウを探してシャーレを進んだ。

 

「センジョウ?いるの?」

 

 呼び掛けに返答はない。

 

 静かな、夜の帳が下ろされ、太陽の暖かさが失われ。物静かで無機質な空間は、空気がどこかひんやりと冷たくなっていた。

 

 

 何度か声をかけながら、思い当たる扉をいくつか開けて、ユウカはセンジョウを探すと。ようやくその姿を見つける。

 

 

────月明かりに照らされた事務所で。彼は一人。椅子に座って。項垂れていた。

 

 

「────センジョウ?」

 

 扉が開く音は聞こえていた筈だ。しかし、彼は身動ぎひとつしない。

 疲れて寝ている、というよりも、ユウカにはその姿が。

 

 物言わぬ死人のように、見えてしまった。

 

「セン……ジョウ?」

 

 恐る恐る、ユウカはセンジョウに歩み寄る。

 

 そうして、近づいて、ようやく気づく。

 

 

 センジョウは、静かに、涙を流していた。

 

「…………おれは、おれには。なにも救えない」

 

 掠れた声で、力なく、彼は語る。

 

「やれるだけのことをやってきたつもりだった。できることで、みんなを助けたいと思ってた。ずっと、ずっと、戦ってきた」

 

「でも、違ったんだ。違うんだ……」

 

「おれは、戦うことしか、できない。誰かに手を指し伸ばすことも。誰かの背中を支えることも。できないだけだった」

 

「戦って戦って戦って。……それで、全部。全部、誰かを、なにかを傷つけて壊して。壊して、壊れて」

 

「勘違いだったんだ。おれなんかいなくても。皆は前に進めてた。……いや、俺がいなければ。きっと、もっと」

 

 

「間違いだったんだ……ずっと、全部。何もかも」

 

 

 

「あの日。あの時。……オヤジじゃなく、おれが撃たれるべきだった」

 

「『先生(ここ)』にいるべき人は……おれじゃ、ないんだよ」

 

 

「なあ、ユウカ…………」

 

 

 

「おれは、どうしてここにいるんだ……?」

 

 

 

 そう問いかける、センジョウの顔は。涙で濡れ、壊れたように歪み……わらって。いた。

 

 

 そんな彼を、ユウカは、どうしても見ていられなくて。

 

 そっと、優しく抱き止める。

 

 何を言うでもなく、ただ、そっと。優しく。

 

 

「あ……あぁ…………!」

 

 その暖かさに、甘い、香りに。センジョウは嗚咽を漏らす。

 

「う゛ぅあぁぁぁ……!!」

 

 声になら無い声が。呻き声のように、暗闇の中にこだまする。

 

 

「ぁぁぁぁあぁぁぁぁああ!!!!!」

 

 

 涙が溢れて、止まらない。

 

 

「俺は!俺は……!俺はぁぁぁ!!」

 

 

 罪悪感か、悔しさか、寂しさか。それとも。

 

 

 

「『先生』には…………なれ、ない…………!!」

 

 

 

 絶望し、慟哭するセンジョウを、ユウカは、彼が泣きつかれて眠るまで。

 

 なにも言わず、ただ。静かに抱き締めていた。





 と言うわけで、ゲヘナ動乱編、これにて完結です。

 はい。途中一度プロット崩壊はしましたが、『ゲヘナ動乱』が決まった段階で、センジョウの嘆きでこの章が終るのは決まっていました。

 この章はコレが書きたかった……!


 原作要素がキャラのみの『オリジナル展開』、な上、ラスボスがオリキャラで、しかもこの後味という感じで、たぶんかなり好みが別れる話を書いていると思います。

 自覚はありますが、私はあくまでも私の読みたい作品を書いているので……そこは申し訳ない。

 ちなみに『青空DAYS』はちゃんとハッピーエンドで終ります。『ゲヘナ動乱』はそのための章です。



 さて。残すところあと『カルバノグ』と『最終編』のみな訳ですが。

 ここで、皆さんに謝罪せねばならないことがあります。

 それは、『更新休止』です。

 ……というのも、『最終編』は、『青空DAYS』に置いて重要な意味を持ちます。
 故に、概要プロットとは別に、詳細を詰める時間が必要となるので、資料確認と、設定の精査のために時間が必要になります。

 この為、2~3週間(2024年3月初週ぐらいまで)ほど、本編ストーリーの更新を停止させていただく形となります。

 とはいえ、止まるのはあくまでも『本編ストーリー』。カルバノグに突入する前のちょっとした日常回は何回か差し込む予定なので、御安心下さい。
 そうじゃないと私も書き方忘れますしね。


 と言うわけで、しばらくお別れです。
 またお会いしましょう。では!


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