青空DAYS   作:Ziz555

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総員!例のBGM用意ッ!


先生と息子(ゲヘナの場合)

 

 爆音、怒号、悲鳴。

 

 ゲヘナの日常、と言えばそこまでだが。それがすべての人にとっての日常ではない。

 例えば……シャーレとか。

 

"センジョウ!返事を!"

 

 轟音の中、先生は声を上げるが、当然というか、そんな中で声を上げたところで、騒音に掻き消される。

 

"どこに行っちゃったんだ……!"

 

 戦場と化した渦中の中、彼を探す先生は、その身に迫る危機に気づかない。

 

"……!しまっ……"

 

 頭上から降り注ぐ瓦礫に、先生は自らの危機をしり、見上げれば、ひときわ大きい瓦礫が自らの上に落ちてきているのを認識し……次の瞬間、鳴り響く銃声と、弾丸の嵐によって瓦礫が消し飛ぶ。

 

「先生、大丈夫?」

 

 先生が顔を上げるとそこには、ゲヘナ最強……空崎ヒナがたっていた。

 

"ヒナ!助けてくれてありがとう!"

「どういたしまして……というか、なんでこんな危険なところにいるの」

"それが──"

 

 

 事の流れは、こうだ。

 

 ゲヘナへの外回りの仕事がある日、センジョウが「自分も同行する」と言い出す。

 当然、先生は危険を理由に同行を断るが、キヴォトスの生徒達の姿を自分の目でちゃんと見たい。というセンジョウの強い願いに、仕方なく同行を許可する。……風紀委員に合流さえしてしまえば、護衛に不安はないと考えたからだ。どのみち、風紀には用事もあったし、センジョウの学習意欲が高いに越したことはない。その腰を折るのは、親としても教師としても不本意だった。

 

 そうして、ゲヘナへと向かった先生とセンジョウたが。乗っていた列車の運行中に、温泉開発部の温泉開発に遭遇。

 列車ごと線路が爆破され、それを制圧するために急行してきた風紀委員の戦力と、列車を破壊され憤るハイランダーの生徒達の3勢力が入り乱れる混戦状況へ発展。

 

 その渦中において、先生とセンジョウがはぐれてしまった。

 

「……それで、先生は無防備にここを歩き回ってたのね」

"センジョウは武器とか持ってないから……!早く探さないと!"

 

 いつも以上に取り乱す先生に、ヒナは少し目を細める。

 

「……このまま先生まで見失うと、それこそ何が起こるかわからない。先生の息子は風紀委員が必ず保護するから、先生は早く安全なところに」

"ありがとう、ヒナ、でも。私も一緒に"

「アコ。先生を保護した。後方に下がらせるために、護衛にイオリをこっちに寄越して」

"ヒナ!?"

『どうして先生がここに……?』

「アコ。時間が惜しい、疑問は後で」

『……わかりました、すぐに対処します』

"ヒナ、私は残って……"

 

 ふう。と、すこしため息をついたヒナは、先生を正面から、すこしキツイ視線で見つめる。

 

「急いで探さないといけないなかで、先生を守りながら動くのは非効率。必ず保護するから、先生はまってて」

 

 『足手まといだ』。と、そう告げられていた。

 

"……そう、だね。ごめん"

 

 落ち込んだように肩を落とす先生。……瓦礫の向こうから、イオリのこちらを探す声が聞こえてきた。

 

「大丈夫。必ずみつけてすぐ戻るから。……先生を悲しませたりしない」

 

 部下に後を任せ、新たに増えた仕事をこなすために、ヒナは再び戦場を駆ける。

 

 

 制圧と保護、そのどちらもこなさなくてはならない。

 

 寝不足と過労で、どことなくぼんやりする頭のまま、ヒナは足と手を動かす。

 

 

────そうしていれば、なにも考えずにすむから。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

────結論から言うと、センジョウは見つからなかった。

 

 戦いが終わり、ハイランダーとの和解をすませ、温泉開発部の鎮圧が済んだ後、現場の全てを風紀委員の総力を上げて探し回ったが、センジョウの痕跡一つ見つからなかった。

 

 

 風紀委員の執務室で、浮かない顔のまま、先生は椅子に座り込んでいた。

 

「だ、大丈夫だよ先生。痕跡の一つも見つかってないってことは、きっと一人で抜け出せたってことだって!」

「そうですよ。先生の息子さんです、きっと機転を利かせて……」

"…………そう、かな"

 

 ひどく落ち込んだ様子の先生を何とか元気付けようと、イオリとチナツが声をかけるが、先生の表情は落ち込んだまま。

 

「……その……ごめんなさい、先生」

"ううん。ヒナは悪くないよ、頑張ってくれてありがとう"

 

 そして当然というかなんと言うか、約束を守れず、成果も上げられず、手ぶらで帰ってきたヒナもあり得ないぐらい落ち込んでいた。

 

 ずももももーん……というか、なんかもうどんよりでは済まない、お通夜のような空気感の執務室で、無言の時間が過ぎていく。

 

「(どーするのアコちゃん!この空気!さすがに重すぎるよ!)」

「(知りませんよ!私だって今必死に息子さんの情報探しているんですから!)」

「(ヒナ委員長もあの事件以降様子がおかしかったですが……これは、どうしましょう……)」

 

 ヒナの側近とも呼べる三人……アコ、イオリ、チナツは、この状況の打開策を必死に頭を捻って考える。

 先生が落ち込んでいる姿など、ガチャでほしいキャラがでなかった時や、フィギュアを壊した時、限定販売のロボを逃した時ぐら…………いや結構あるな。

 

 しかし、事が事である以上、それらとは比にならない事情が、事態が、空間を支配していた。

 

 

 

 

 先生は、そんな中、ワカモに言われてい言葉を思い出す。

 

────センジョウも、生徒の一人。

 

 であるなら、自分のせいで他の生徒達が落ち込んでいたり、困っているこの現状は。本当に『先生』としてふさわしいのか?

 センジョウに入れ込みすぎて、目の前の生徒達の事を見逃すことは、正しいことではないのではないだろうか。

 

 ……それは、自分の望んだ『先生』の姿では、無いはずだ。

 

 

"……ありがとう、ヒナ"

「……?」

 

 先生の突然の感謝の言葉に、ヒナは困惑の表情を浮かべる。

 

"あの時、無理にでも止めてくれなかったら、もっと大変な事になってたと思うから"

「……ああ、でも、先生だって、自分の子供の事で、心配だったでしょう?」

"それでも、あの時の私は冷静とは言えなかったから。……ヒナがちゃんと止めてくれたことは、感謝してるんだよ"

「先生……」

 

 本心だ。嘘ではない。それでも、今の自分の笑顔が歪な自覚は先生自身にもある。

 

 そんな笑顔を見て、ヒナは、こんな状況でも自分を気遣おうとする先生の姿を見て、どうしようもなく、自分が情けなくなる。

 

 

 

──先生の既婚報告を受けて。ひどくショックを受けていた。

 

 どうしてショックを受けているのか、ヒナはヒナ自身でも理解はできていなかった。

 先生は歳が自分とは大きくはなれていて、恋人とか、恋愛とか、そういう関係には無縁だと自分でもわかっていた筈なのに、確かに、ヒナはショックを受けたのだ。

 

 先生は生徒として自分を信頼してくれている。誉めてくれている、優しくしてくれている。だから、自分も、生徒として先生の事を慕っていた。そう思っていた。

 

 自分のショックは、だから、先生への裏切りのように感じていた。

 

 そこからは、もう。なにも考えたくなかった。

 

 だから、なにも考えなくて良いように。仕事に打ち込んでいた。

 身を削り、思考を削り、自分の事を考えなくて良いように。

 

 みんなが心配していることに気づいていたのに、自分の都合で。気づかないふりをして。

 

 

 だから、今、ヒナは、そんな自分の情けなさに、弱さに、どうしようもなく、泣きたくなって───

 

 

「はぁ!?センジョウさんがみつかったぁ!?」

 

 

 アコの怒号で涙が引っ込んだ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「なぁ、あまりにも行き当たりばったり過ぎないか?」

「し、仕方ないでしょう!裏社会では舐められたらおしまいなのよ!」

「でもぉ、そもそもはアルちゃんが詐欺依頼なんかに引っ掛からなければ良かったんじゃなーい?」

「うっ……」

「だからあんなに怪しい話に飛び付くなって言ったのに」

「でも、でも!あんなに払いの良い仕事が来たら受けないなんて勿体無いじゃない!」

「わ、私はアル様が決めたことなら……着いていきます!」

 

 全身がボロボロになった風貌の、4人……便利屋68を名乗る彼女達と1人……蒼井センジョウが、吹き飛んだビルの屋上で座り込みながらそんな間の抜けた話をしていた。

 

 辺りには、ブラックマーケットで幅を利かせている違法組織の人々が気絶したまま転がっており、激しい戦闘があった事を示していた。

 

 

──話は、数時間前にさかのぼる。

 

 

 

 匿名の依頼を受けた便利屋68は、依頼人へ会うために指定された列車へ乗り込み。どこかの誰か達と同じように、温泉開発部の爆発へ巻き込まれた。

 

 それらは全て、便利屋68に恨みを持つ違法組織が仕組んだ、彼女らを始末するための罠だった。

 

 爆破の後、混乱に乗じて便利屋68を始末しようと、背後より忍び寄るエージェントを、先生とはぐれて、偶然居合わせたセンジョウが彼女達に伝達。

 返り討ちにし、捕獲に成功する。

 

 その後、エージェントの通信機を使い、襲撃成功の虚偽の連絡を行い、そのまま帰投するようにして本部を特定。

 

 報復として、カウンターアタックをかました。という流れである。

 

 

……そして、この流れに、何故かセンジョウは巻き込まれていた。

 

「いやぁ、しかしこんなに上手く決まるなんてねぇ」

「センジョウがエージェントのふりをしてくれたのは大きかったね」

「まあそりゃ、相手視点俺が協力者にいることはわからんだろうからな」

「少ない状況証拠と私達の証言からここまでの作戦を組み立てて実行へ移すなんて……やっぱり貴方、ウチの戦略マネージャーに……」

「ならない」

「べ、便利屋68は良いところですよ……?」

「ほらほら!ハルカちゃんもこう言ってるよー?やっぱ入っちゃおうよ、センジョウくん♪」

 

 わいわいと明るい雰囲気で話す4人に、センジョウは溜め息を漏らすが。その口元は笑っていた。

 

 悪友とバカなことをやる感覚というか。『悪いこと』をしているような気がして、彼にとってもこの空間は、意外と心地よかった。

 

 しかしまあ、彼はシャーレの教育実習生。いつまでここに居座るわけにはいかないし、きっとオヤジも心配してるだろう。……携帯端末は列車の爆発の時に壊れてしまって、連絡の手段は無いのだが。

 

「さてじゃあ、ここまでやったんだ。約束通りオヤジに連絡着けてくれよな」

「えぇ~~!もうおしまい~~~??もっと遊ぼうよぉ」

「ええい!服をつかんで揺らすな!伸びる!服が伸びるから!」

 

 ぐいぐいとセンジョウを揺らすムツキに、カヨコが苦笑する。

 

 

「ずいぶん気に入られたね。やっぱり、そのままウチにきたりしない?」

「カヨコまでそんな冗談を……」

「わ、私も歓迎します……よ?」

 

 おどおどとしつつ、歓迎ムードを崩さないハルカ。

 それほどまでに、彼らにとってこの短い作戦同行時間が濃密で、楽しかったのだ。

 

 そんな中、アルは1枚の名刺をセンジョウへ投げ渡す。

 

「気が変わったら、いつでも連絡しなさい。……席は開けておくわ」

 

 髪を風になびかせながら、ニヒルな笑みを浮かべるアル。

 様にはなっているが、内心は(き、きまったわ~~~!!)とかなっているのだが……

 

 

 

 これで締まらないのが、陸八魔アルなのだ。

 

 

 

 

「そこの便利屋ぁ!大人しくしてろぉ!」

 

 

 拡声器で響く声に、振り替えれば、そこには……

 

 

「ふ、風紀委員!?」

「あっちゃー。派手にやりすぎちゃったかも?」

「……」

 

 銀髪のツインテールを風になびかせる少女……イオリが、すこし離れた隣のビルから彼女達を補足していた。

 

「に、逃げるわよセンジョウ!」

「いや、俺別に便利屋じゃないし……」

 

 咄嗟に撤退姿勢を取る便利屋68に対し、センジョウはその場腰を落ち着けたまま答える。

 

「多分、アッチなら学校から通じてオヤジと合流できるだろうし、そのまま保護されるよ」

「……まあ、確かに」

「……それもそうね」

 

 そっかぁ。そうだねぇー。何て言う空気感の中。

 

 

「あ、そうです。あそこには……」

 

 

 ハルカは、懐のスイッチを取り出し、そのまま起動する。

 

 

──するとどうなる?

 

 知らんのか?

 

「は?」

 

 イオリの足元が爆発する。

 

 爆破により、足元の床が崩壊し、イオリは下の階へと落ちていった。

 

 

「おいいいいいい!!!」

「や、やりましたセンジョウ様!センジョウ様が言っていた通りの成果です!」

「いやあれ風紀委員足止めの罠じゃないけどぉ!?」

「……?そうなんですか?」

 

 あれ?という表情をするハルカと、焦った表情のセンジョウに、ムツキが満面の笑みを浮かべる。

 

「やるじゃぁ~ん!さっすがウチの自慢の指揮官、蒼井センジョウ!」

「は?へ?」

「なんだかんだ言いつつ、私達のために風紀委員をやっつけちゃった!」

「ムツキさん?声大きくないですか??」

 

 

 

 

「ふぅん……そう言うことなんだ」

 

 

 

 

 そんなやり取りを聞いていたヒナが、いつの間にかそこに立っていた。

 ……見下ろせば、落とし穴にハマったイオリは、瓦礫のの布団に包まれ、目を回して気絶している。

 

 

「……ひ、ヒナ委員長ぉ!?」

「これは、まずいね」

「……カヨコさん、もしかしてこれって」

「センジョウくんもぉ~私達の共、犯、者、だね♪」

 

 ラスボスの出現に顔を青くするアル、センジョウ。そして、カヨコに聞いたのに何故か答えるムツキ。

 

 

「て、撤退ー!!」

 

 

 センジョウを含めた5人は、一目散にビルからビルへ飛び移り、撤退を開始する。

 

 

 

 そんな姿を見届けながら、ヒナは溜め息をついた。……安堵と、呆れの溜め息を。

 

 

 便利屋が保護していたから、見つからなかったのか。という納得。

 

 

「アコ」

『はい。どうしましたか?』

「イオリが先生の息子にやられたから、回収よろしく。私は追撃するから」

『……はぁ!?』

 

 アコの金切り声の抗議も半分に通信を切り、武器を手に構える。

 

 

────ヒナの中には、私怨だが。すこし、先生の息子に意地悪したい気持ちが、無いわけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 ビルの間を全速力で駆け抜けながら、センジョウと便利屋は目的もない逃走を続けていた。

 

「どーすんだよこれ!こんなのいつか追い付かれるぞ!」

「私に良い考えがあるよぉ?」

「一応聞こう!」

「二手にわかれて逃げるの」

「定番だな?」

「私達と、センジョウ君に別れれば、先生の子供なセンジョウくんの保護を最優先にしてくれるでしょう?私達は無事逃げきれる♪」

「ただの生け贄じゃねぇか!!」

 

 センジョウの突っ込みに、楽しそうな笑い声をあげるムツキ。

 

「わ、私の爆弾で……」

「全部吹き飛ばすのはナシ!後が怖い!」

 

 しゅん、とするハルカ。それを見てわたわたとフォローを考えるセンジョウだが、上手く言葉が浮かぶほどの余裕はない。

 

「こ、こうなったら、リーダーである私が殿を」

「それはナシ」

「なんで!?」

 

 アルの誘いを即答で断るセンジョウには、ニィ。と攻撃的な笑みを浮かべる。

 

「逃げきりが勝利のチーム戦。……なら全員揃ってこそだろ、リーダー」

「り、リーダー……!」

 

 煽るような、挑戦的な物言いに、アルのアウトローレーダーがビンビンと反応する。

 

「……そうなったら、5人で地獄の果てまで逃げきるわよ!」

「おー!」

「どこまでも着いていきます!」

「逃げた先が地獄の果てじゃ意味ないんじゃ……まあ、いいか」

 

 センジョウは、この5人なら。やれるような気がしていた。

 

「……で、作戦はあるのかしら、指揮官?」

 

 煽ったからには、実力を見せてみろと言わんばかりに言い返すアルに、センジョウは当然のように頷く。

 

「ムツキの案で行く」

「……は?」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「ずいぶん手間な事をしてくれたわね」

「…………」

 

 

 センジョウは今、ビルの屋上でヒナと対峙していた。

 センジョウにもう逃げ場はなく、後ろは断崖絶壁。まさに絶体絶命といった様子だ。

 

「まさか、便利屋にあそこまで馴染んでるとは思わなかったけど……逃がすために囮になったの?」

「さあ、どうだろうな」

 

 なぜ彼は自分をこんなにも敵対視しているのだろうか。と、ヒナは疑問符を浮かべる。

 

「……イオリの事なら気にしなくて良いの。実行犯は便利屋だし、貴方は巻き込まれただけの民間人でしょ」

「俺の意思で関わっていた、としたら?」

 

 ピクリ、とヒナの眉が動く。

 

「……目的が読めないのだけれど。貴方は、先生の元に帰りたくないの?」

「そうだな、そうしたいが」

 

 

──どうせやるなら、自分の力でやってみたくなった。

 

 

 タンっ。と床を蹴って、センジョウはビルの外へと身を投げる。

 

 

「なっ!?」

 

 なぜそんなことを。と、考える間もなく、ヒナは彼を救うために、追ってビルの外へ踏み出す。

 

 

 落下し、加速していくセンジョウに追い付く為に、落ちながらビルの壁を蹴って加速するヒナに、センジョウは手を伸ばす。

 

 

 伸ばされた手をつかむ為に、ヒナも手を伸ばした時。

 

 

「あばよ委員長。便利屋(おれたち)の勝ちだ」

 

 

 

 

────それぐらいできるだろ?ですって?

 

 

────当然よ。部下の信頼に答えてこそ、一流のリーダーよ。

 

 

 

 

 

 

 ダァン!という音の直後、センジョウがヒナの視界から消える。

 

 何が起きたかを確認するためにヒナが姿勢を捻ると、ビルの壁にセンジョウが張り付いていた。

 

 目を凝らせば、手の辺りにトリモチのような物が見える。

 

 

(……やられた)

 

 

 おそらく、ヒナを振り切るために、センジョウと便利屋のリーダー……陸八魔アルが手をくんで一芝居打ったのだろう。

 

 見上げれば、近くの窓を割って便利屋のメンバーが壁に張り付くセンジョウの回収を始めていた。

 

 

「……あーあ。私の負けね」

 

 

 落下しながら、ヒナはそんなことを考える。

 

 この程度の衝撃なら、なんとか体勢を立て直せば、気絶程度で済むだろう。……寝不足だし、寝る理由にはちょうど良いか。

 

 そんなことを考えながら、ヒナは思考を手放した。

 

 

 

────病院で目を覚ましたヒナが最初に見たのは、申し訳なさそうな顔の先生だった。

 その顔には、不安や心配といった影はなく、ただただ、バツが悪そうにしている気配だけが写っていた。

 

 

────蒼井センジョウ。

 

 

 先生の息子の名前を、自分の中に刻み込む。先生とは違う、けれど、先生のように生徒を信じて戦いに挑む、一人の男の子の名前を。

 

 

 怪我をさせてくれた責任として、その名前を、先生に甘える理由に使わせてもらおうか。なんて、そんなことを考えながら。ヒナは穏やかに笑っていた。

 

 




後日、カヨコの付き添いでシャーレに送り届けられたセンジョウは、事の次第を聞いたユウカに死ぬほど怒られたとかなんとか。




あ、次回から本編()進みます。
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