青空DAYS   作:Ziz555

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沈みゆく物語

 

「SOF、状況を報告せよ!SOF!!」

 

 シャーレロビーにて、現場の指揮を執る『ジェネラル』は、その戦況に焦りを覚えていた。

 

 アビドス対策委員会の介入により、捕縛していたはずの『蒼井センジョウ』は脱走。担当部隊を指揮していた社員は、連絡も取れず雲隠れ。

 制圧していたはずのD.U.シャーレ近辺の警備戦力は、トリニティの『聖園ミカ』単独により壊滅。

 そして、彼らが合流したことで戦線はシャーレビル内部まで押し込められ、最後の手段ともいえる『特殊部隊員(Special Operation Forces)』を投入したものの────

 

 

「これが『クラフトチェンバー』かな?」

「ぐっ……なぜだ、PMCの精鋭部隊である、私たちが──」

「ん。まだ意識があった」

「ぐあっ!!」

 

 

 アビドス対策委員会の面々の連携の前に、なすすべもなく『クラフトチェンバー』を奪還され。

 

 

 

「ねえ、そろそろわかったでしょ?諦めてくれちゃったり、しない?」

「バカな……戦術も、戦略も、なぜ通用しない!?こんなことが!こんなことがあって」

「やめてよ、もー。まるで私が悪者みたいじゃん、ね?……女の子にそんな失礼なことするのは、ダメだよ☆」

「ひっ……!?や、やめ……うぎゃぁぁっ!?」

 

 ゴキリ。という音とともに部屋を守っていた最後の兵士が気絶する。

 

「本当に助けに来たのですね」

「……会議を飛び出したことは謝るからさ、その信じられないものを見るような視線、やめてくれない……?」

 

 

 ミカの圧倒的な力に、『先生』とリンを救出され。

 

 

「応答せよ!SOF!!」

 

 

「もう誰も来ねぇよ」

 

 

 応答のない無線を繰り返すジェネラルの前に、『Nuill-Vana』を纏ったセンジョウが立ちはだかる。

 彼を守るための兵士たちも、すべて打破され……ジェネラルは完全に戦力を失っていた。

 

「チェックメイトだ。諦めて投降して、洗いざらい全部吐くなら、少しは加減してやる」

 

 センジョウは、ジェネラルに銃口を向け、警告を告げる。

 しかし、彼もそれで諦めるような『大人』ではない。

 

「笑わせるなよ、小僧」

 

 ジェネラルは、懐から小型のスイッチを取り出す。

 

「これを押したらどうなると思う?……この建物は一巻の終わりだ。下がれ!」

「この期に及んで自爆か?ずいぶん汚いやり口だな」

「私は『大人』なのでね。目的の為ならば、手段を選ばない。……今の『君』の様に」

 

 ジェネラルの言葉に、センジョウの銃口がわずかにブレる。

 

「……俺は。お前たちとは違う」

「何が違うというのかな?力で敵を制圧し、思い通りに事を運ぶために仮面を被り、手段を選ばない」

 

 

 

「『調整剤』」

 

 

 

「……知っているぞ。小僧。貴様は、シャーレでありながら、敵対する『大人』の力を借りて、その『兵器』を運用している」

 

 ジェネラルの言葉に、センジョウの視界が揺らぐ。

 

 

「言葉巧みに翻弄し」

 

「……だまれ」

 

「有利になるように会話を誘導し」

 

「だまれ」

 

「外部に向けては、都合の悪い真実を秘匿し続ける」

 

「だまれっつてんだろ!!!!」

 

「『先生』を語るな。と私に吠えたがね」

 

 

 

「君の様な人間は。間違いなく『私たち』側だよ」

 

 

 

 

「ふ ざ け る なァーーーーーッッッッ!!!」

 

 

 

 

 センジョウは激昂し、銃ではなく、『パルスブレード』を振り上げ、ブースターに火を入れる。

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

────リンク率0%。接続の切断を確認。強制排出します。

 

 

 

 

 機械的な通知音と共に、無慈悲な現実が通告され。

 

 センジョウは、『Nuill-Vana』から、放り出された。

 

「────は?」

 

 勢いだけを残したまま、センジョウはシャーレの床へとたたきつけられる。

 

「……なんで、だって、『調整剤』は、確かに────」

 

 理解の及ばない混乱の中、タイルに叩きつけられた痛みが、この状況が現実であることを突き付けてくる。

 センジョウは、ジェネラルの目の前で、床に這いつくばりながら、震える手で上半身を持ち上げる。

 

 

「クククク……ハハハハハハハハ!!まさか!己の武器すらまともに扱えない小僧が!大人ぶっていたとはな!これほどまでに滑稽な事はそうはない!!」

 

 そんな彼の無様な姿に、ジェネラルは勝ち誇った笑いを上げ、起爆装置を懐へしまい、代わりに拳銃を取り出した。

 

 

「せめての情けだ。その無様な姿は誰にも言わないでおいてやろう」

 

 

 混乱と絶望の中、センジョウに銃口が突き付けられる。

 

 

 

 

「おれ、は────」

 

 

 

 

 

 

 瞬間。シャーレの扉が爆ぜた。

 

 

「何が────」

「私の王子様に────なにをしてるのッ!!」

 

 

 扉を粉砕し、その勢いのままミカがジェネラルへととびかかり、拳を振り抜いた。

 

 

「がぶらぁッ!?」

 

 珍妙な獣の鳴き声の様な悲鳴を上げ、吹き飛んだジェネラルは、そのままシャーレの窓のガラスを突き破る。

 

「あ、あ!?ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ビルの下へと、落ちていった。

 

「センジョウ君!!大丈夫!?」

 

 自分の吹き飛ばした大人には目もくれず、ミカは床へ這いつくばるセンジョウに寄り添う。

 

「……なんで。おれは、また……?おまえ、まで……おれを……?」

 

 彼は、うわごとのようにそれだけを呟いており、ミカが傍に近寄ったことにすら気づいていない様子だった。

 

「センジョウ君……」

 

 そんな彼をねぎらうように、心配するように、ミカは彼の背中をさする。

 しかし、これで確かにシャーレは奪還された。傷ついた彼の望みは、確かに叶えられた。

 

 

────だが。希望は、打ち砕かれる

 

 

 刹那。世界が反転し、狂気が満ちる。

 

 空が赤く染まり、不穏な気配が『物語(世界)』を覆う。

 

 

 

 

 いつの間にか。1枚の絵画を掲げた、無貌の男が。そこに立っていた。

 

 

 

「ようやく理解に至った」

 

 絵画は、とうとうと語る。

 

「少年。君の力は、これ以上作用しない」

 

 誰に向けたものなのか。

 

「この『物語』は、『原典』を掲げていたが故に、『紛い物』が『先生』である事ができた」

 

 その語りに意味はあるのか。

 

「『二次創作』であったから、君は無敵だった」

 

 それは、この場にいる、誰にも分らない。

 

 

 

「──これは、そういう(・・・・)創作だった」

 

 

 

「しかし。今となっては────」

 

 

 

 

 

 

 

────この『創作』は、覆された。

 

 脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈……すべてが破壊され────

 

 

 その意味は絡み合い、混ざり、撹拌され────

 統制できないほどに褪せてしまった。

 

 

 

 『先生』よ────

 

 

 これまでの『青空DAYS(物語)』はすべて忘れるが良い。

 

 これからお前の身に起こることは、もはやそのような『創作(モノ)』ですらないのだから────

 

 

 主人公も、英雄も、事件も、葛藤も無く────

 

 全てが分解され、(もつ)れあい────

 

 

 脈絡も、構成も、必然性もなくなってしまった……作為的に作られた世界。

 

 

 そうして────果ては意味を失い、力が暴れまわるだけの────理解不能で不条理な世界へと。

 

 

 

 嗚呼、そうだ────元はといえば、『この世界(ブルーアーカイブ)』はそのように存在していた。

 

 

 

 

 

 

 『我々』は皆、それを忘れていた……いや。見ないようにしていただけ。

 

 

 

 

 

 

「これが──もう『二次創作』でなくなったとするならば、お前はもう何者でもない」

 

 男は、無慈悲に作品を語る。

 

「『大人』と『子供』の物語は、幕を下ろした」

 

 『蒼井センジョウ』を、語る。

 

「覆され、解体されてしまったジャンルで、お前の価値は揺らぎ、地に落ち、無に等しいものとなる!!」

 

 

 そうして、男は宣言をする。

 

 

「しかして、始めるのだ。物語ではない────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"それでも"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"『物語』と呼ぶのに相応しくない、(いびつ)な二次創作だとしても"」

 

 

 彼は、抗う。

 

 

「"そんなことは、どうでもいいんだ"」

 

 

 彼は、夢を語る。

 

 

「"ジャンルの解体なんて、好きにすればいい。大人でも、子供でもない存在が登場したってかまわないんだよ"」

 

 

 彼は、希望を掲げる。

 

 

「"そんな未来であろうと、私たちは乗り越えていくのだから"」

 

 

 そこには。

 

 

「……せん……せい……?」

 

 

「であれば、それを見守るとしよう。せんせ────」

 

 

 

 

 

「悪いけど。それは違うんだよなぁ」

 

 

 

 

 男が、1人、挑戦的に笑う。

 

 

 

「今の俺は。『先生』でも、ましてや『主人公』でもない」

 

 

 そうして。『物語(世界)』へ、宣言する。

 

 

 

「────俺は、1人の子供(蒼井センジョウ)の、父親だ」

 

 

 

 

「……おや、じ……?」

 

 

 

 男は。我が子の問いかけに、笑顔を返す。

 

 

「ああ。待たせて悪かったな」

 

 そうして、彼はしゃがみ込むと、地に伏せて、目に涙をたたえる少年の頭を撫でる。

 

「よく頑張ったな。センジョウ。……お前が頑張ってくれたおかげで。俺は今ここにいる。また、ここに立てる」

「あ……、ああ……」

 

 

 そうして、その手の温かさに、少年は涙をこぼす。

 

 

「今は少し、休んでてくれ」

 

 

 そうして、男は、守るべきものの為、立ち上がる。

 

 

「────ここから先は、『大人』の出番だ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「……なるほど」

 

 ゲマトリア会議室。全身を傷つけられ、銃口を突き付けられた黒服は、歪んだ笑みを浮かべる。

 

「『色彩』は、すでに『古き無名の神』と接触した後でしたが……これは完全に私の不手際です」

 

 

「嗚呼、『輪廻を外れし者』の裏側は──そういう事だったのですね」

 

 

「『物語』のすべてを破滅へと導く、『終着点』……」

 

 

 

 

「それがあなたの奇跡の裏側、『禁忌(terror)』であった、と」

 

 

 

 

 一際大きな銃声が、一室に響き渡った。






 叛逆の時間は、ここから。
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