「SOF、状況を報告せよ!SOF!!」
シャーレロビーにて、現場の指揮を執る『ジェネラル』は、その戦況に焦りを覚えていた。
アビドス対策委員会の介入により、捕縛していたはずの『蒼井センジョウ』は脱走。担当部隊を指揮していた社員は、連絡も取れず雲隠れ。
制圧していたはずのD.U.シャーレ近辺の警備戦力は、トリニティの『聖園ミカ』単独により壊滅。
そして、彼らが合流したことで戦線はシャーレビル内部まで押し込められ、最後の手段ともいえる『
「これが『クラフトチェンバー』かな?」
「ぐっ……なぜだ、PMCの精鋭部隊である、私たちが──」
「ん。まだ意識があった」
「ぐあっ!!」
アビドス対策委員会の面々の連携の前に、なすすべもなく『クラフトチェンバー』を奪還され。
「ねえ、そろそろわかったでしょ?諦めてくれちゃったり、しない?」
「バカな……戦術も、戦略も、なぜ通用しない!?こんなことが!こんなことがあって」
「やめてよ、もー。まるで私が悪者みたいじゃん、ね?……女の子にそんな失礼なことするのは、ダメだよ☆」
「ひっ……!?や、やめ……うぎゃぁぁっ!?」
ゴキリ。という音とともに部屋を守っていた最後の兵士が気絶する。
「本当に助けに来たのですね」
「……会議を飛び出したことは謝るからさ、その信じられないものを見るような視線、やめてくれない……?」
ミカの圧倒的な力に、『先生』とリンを救出され。
「応答せよ!SOF!!」
「もう誰も来ねぇよ」
応答のない無線を繰り返すジェネラルの前に、『Nuill-Vana』を纏ったセンジョウが立ちはだかる。
彼を守るための兵士たちも、すべて打破され……ジェネラルは完全に戦力を失っていた。
「チェックメイトだ。諦めて投降して、洗いざらい全部吐くなら、少しは加減してやる」
センジョウは、ジェネラルに銃口を向け、警告を告げる。
しかし、彼もそれで諦めるような『大人』ではない。
「笑わせるなよ、小僧」
ジェネラルは、懐から小型のスイッチを取り出す。
「これを押したらどうなると思う?……この建物は一巻の終わりだ。下がれ!」
「この期に及んで自爆か?ずいぶん汚いやり口だな」
「私は『大人』なのでね。目的の為ならば、手段を選ばない。……今の『君』の様に」
ジェネラルの言葉に、センジョウの銃口がわずかにブレる。
「……俺は。お前たちとは違う」
「何が違うというのかな?力で敵を制圧し、思い通りに事を運ぶために仮面を被り、手段を選ばない」
「『調整剤』」
「……知っているぞ。小僧。貴様は、シャーレでありながら、敵対する『大人』の力を借りて、その『兵器』を運用している」
ジェネラルの言葉に、センジョウの視界が揺らぐ。
「言葉巧みに翻弄し」
「……だまれ」
「有利になるように会話を誘導し」
「だまれ」
「外部に向けては、都合の悪い真実を秘匿し続ける」
「だまれっつてんだろ!!!!」
「『先生』を語るな。と私に吠えたがね」
「君の様な人間は。間違いなく『私たち』側だよ」
「ふ ざ け る なァーーーーーッッッッ!!!」
センジョウは激昂し、銃ではなく、『パルスブレード』を振り上げ、ブースターに火を入れる。
だが。
────リンク率0%。接続の切断を確認。強制排出します。
機械的な通知音と共に、無慈悲な現実が通告され。
センジョウは、『Nuill-Vana』から、放り出された。
「────は?」
勢いだけを残したまま、センジョウはシャーレの床へとたたきつけられる。
「……なんで、だって、『調整剤』は、確かに────」
理解の及ばない混乱の中、タイルに叩きつけられた痛みが、この状況が現実であることを突き付けてくる。
センジョウは、ジェネラルの目の前で、床に這いつくばりながら、震える手で上半身を持ち上げる。
「クククク……ハハハハハハハハ!!まさか!己の武器すらまともに扱えない小僧が!大人ぶっていたとはな!これほどまでに滑稽な事はそうはない!!」
そんな彼の無様な姿に、ジェネラルは勝ち誇った笑いを上げ、起爆装置を懐へしまい、代わりに拳銃を取り出した。
「せめての情けだ。その無様な姿は誰にも言わないでおいてやろう」
混乱と絶望の中、センジョウに銃口が突き付けられる。
「おれ、は────」
瞬間。シャーレの扉が爆ぜた。
「何が────」
「私の王子様に────なにをしてるのッ!!」
扉を粉砕し、その勢いのままミカがジェネラルへととびかかり、拳を振り抜いた。
「がぶらぁッ!?」
珍妙な獣の鳴き声の様な悲鳴を上げ、吹き飛んだジェネラルは、そのままシャーレの窓のガラスを突き破る。
「あ、あ!?ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ビルの下へと、落ちていった。
「センジョウ君!!大丈夫!?」
自分の吹き飛ばした大人には目もくれず、ミカは床へ這いつくばるセンジョウに寄り添う。
「……なんで。おれは、また……?おまえ、まで……おれを……?」
彼は、うわごとのようにそれだけを呟いており、ミカが傍に近寄ったことにすら気づいていない様子だった。
「センジョウ君……」
そんな彼をねぎらうように、心配するように、ミカは彼の背中をさする。
しかし、これで確かにシャーレは奪還された。傷ついた彼の望みは、確かに叶えられた。
────だが。希望は、打ち砕かれる
刹那。世界が反転し、狂気が満ちる。
空が赤く染まり、不穏な気配が『
いつの間にか。1枚の絵画を掲げた、無貌の男が。そこに立っていた。
「ようやく理解に至った」
絵画は、とうとうと語る。
「少年。君の力は、これ以上作用しない」
誰に向けたものなのか。
「この『物語』は、『原典』を掲げていたが故に、『紛い物』が『先生』である事ができた」
その語りに意味はあるのか。
「『二次創作』であったから、君は無敵だった」
それは、この場にいる、誰にも分らない。
「──これは、
「しかし。今となっては────」
────この『創作』は、覆された。
脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈……すべてが破壊され────
その意味は絡み合い、混ざり、撹拌され────
統制できないほどに褪せてしまった。
『先生』よ────
これまでの『
これからお前の身に起こることは、もはやそのような『
主人公も、英雄も、事件も、葛藤も無く────
全てが分解され、
脈絡も、構成も、必然性もなくなってしまった……作為的に作られた世界。
そうして────果ては意味を失い、力が暴れまわるだけの────理解不能で不条理な世界へと。
嗚呼、そうだ────元はといえば、『
『我々』は皆、それを忘れていた……いや。見ないようにしていただけ。
「これが──もう『二次創作』でなくなったとするならば、お前はもう何者でもない」
男は、無慈悲に作品を語る。
「『大人』と『子供』の物語は、幕を下ろした」
『蒼井センジョウ』を、語る。
「覆され、解体されてしまったジャンルで、お前の価値は揺らぎ、地に落ち、無に等しいものとなる!!」
そうして、男は宣言をする。
「しかして、始めるのだ。物語ではない────────」
「"それでも"」
「"『物語』と呼ぶのに相応しくない、
彼は、抗う。
「"そんなことは、どうでもいいんだ"」
彼は、夢を語る。
「"ジャンルの解体なんて、好きにすればいい。大人でも、子供でもない存在が登場したってかまわないんだよ"」
彼は、希望を掲げる。
「"そんな未来であろうと、私たちは乗り越えていくのだから"」
そこには。
「……せん……せい……?」
「であれば、それを見守るとしよう。せんせ────」
「悪いけど。それは違うんだよなぁ」
男が、1人、挑戦的に笑う。
「今の俺は。『先生』でも、ましてや『主人公』でもない」
そうして。『
「────俺は、
「……おや、じ……?」
男は。我が子の問いかけに、笑顔を返す。
「ああ。待たせて悪かったな」
そうして、彼はしゃがみ込むと、地に伏せて、目に涙をたたえる少年の頭を撫でる。
「よく頑張ったな。センジョウ。……お前が頑張ってくれたおかげで。俺は今ここにいる。また、ここに立てる」
「あ……、ああ……」
そうして、その手の温かさに、少年は涙をこぼす。
「今は少し、休んでてくれ」
そうして、男は、守るべきものの為、立ち上がる。
「────ここから先は、『大人』の出番だ」
「……なるほど」
ゲマトリア会議室。全身を傷つけられ、銃口を突き付けられた黒服は、歪んだ笑みを浮かべる。
「『色彩』は、すでに『古き無名の神』と接触した後でしたが……これは完全に私の不手際です」
「嗚呼、『輪廻を外れし者』の裏側は──そういう事だったのですね」
「『物語』のすべてを破滅へと導く、『終着点』……」
「それがあなたの奇跡の裏側、『
一際大きな銃声が、一室に響き渡った。
叛逆の時間は、ここから。