青空DAYS   作:Ziz555

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 胸の振り子が。再び動き出す。


Re:イントゥ・ザ・スカイ<try again>

 

「ありがとな。ミカ」

 

 センジョウはまっすぐな瞳で、空の先を見つめる。

 

「俺は────────」

 

 少年は胸の内に燃える炎を、決意に変えて。力に変えて。

 

 自分の中に見つけた『光』を。

 

 本当に、『望んだ世界』をその手に掴むために。

 

 

 『彼女』の元へ。

 

 

 

「────ユウカに。会いに行くよ」

 

 

 

 

 

 

『青空DAYS』

第6部

─あまねく奇跡の始発点─

 

 

 

 

 

 

 センジョウはミカへと振り返る。

 

 その顔には、その瞳には。もう、迷いは一欠片もなかった。

 

「諦めたくない。俺は、『先生』になれなくったっていいんだ。それでも。大事な人に……ユウカに、俺の隣で笑っていてほしい」

 

 それは、センジョウの心の奥底の『情熱』の形。本心の発露。

 

 

────道理も、都合も、現実も関係ない。ただの、『我が儘』だ。

 

 

「……なら、頑張らなくっちゃね」

 

 そんな彼を見て、ミカは再び優しい笑顔を向ける。

 

 もう、彼は自分自身を見つけ出した。自分の『心』を、確かに捉えた。

 

 

──だから、『聖園ミカ(繋ぎ止めるもの)』は。もう、必要ない。

 

 

 少女は拳をつきだし親指を突き立てる。

 

 

「頑張ってね、センジョウくん!ちゃんとユウカちゃんの事、連れて帰ってくるんだよ☆」

 

 その激励にセンジョウは笑顔で答える。

 

「────ああ、行ってくる!!」

 

 

 言葉を背に受け、センジョウは走り出した。

 

 決して、振り返らずに──前だけを向いて。

 

 

 そうして屋上に1人、少女は残された。

 

 

 彼の背中がビルの中へと消えていくのを見送ると、少女は握りしめていた拳をほどき、後ろ手にくんで空を見上げる。

 

「……あーあ。フラれちゃった」

 

 そんなこと、わかりきっていたのに。こんな結末を知っていたのに。……いや。

 

「でも、やっぱりこの方が私らしくて。……君らしくて。私は、好きだな」

 

 『聖園ミカ』は我が儘だ。……我が儘だから、自分を救ってくれた『英雄(センジョウ)』の事を、どうしても諦められなかった。

 

 だから、この道を選んだ。

 

 彼のために。……彼女(ユウカ)のために。

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい。頑張れ、英雄(ヒーロー)

 

 

 

 

 

「…………随分、らしくないことをしましたね。ミカさん」

 

 ミカにそんな声がかかる。

 

「盗み聞き?趣味が悪いよ────ナギちゃん」

 

 物陰から現れた少女はナギサだった。

 

 彼女はミカへと歩み寄ると、その隣で彼女と同じように空を見上げた。

 

「いつになっても帰ってこない、自分勝手な幼馴染みを心配して迎えに来ただけですよ」

「…………そっか」

 

 2人は並んだまま、静かに孤独な月を見上げる。

 

「私は」

 

 ナギサが、独り言のように口を開く。

 

「ミカさんがセンジョウさんと付き合った。と言い出した時。本当に驚きました」

 

 それは、ナギサがミカの幼馴染みであるからこその困惑。

 

「ミカさん。別にセンジョウさんの事、好きではないんでしょう?」

 

 ナギサの見立てでは、センジョウはミカの好みには合致していないからだ。

 

「えー。そんな訳無くない?だって、あんなに二人で出掛けてんだよ?」

「解った上で焦点をずらすのは良くない癖ですね」

 

 ナギサの言葉に、ミカは小さく溜め息をつく。

 幼馴染みはなんでもお見通しらしい。

 

「そうだね、しょーじき。センジョウくんは全然タイプじゃないかなぁ」

「彼は『王子様』というタイプではないですからね」

「そうそう。ガサツだし、適当だし、意地っ張りだし、ひねくれ者だし、子供っぽいし」

「ミカさん……」

 

 さすがに言いすぎだ。そう咎めようとミカの横顔を見て。ナギサはの言葉を失った。

 

 

 

「だけどね」

 

 

 

「センジョウくんは……私が、これ以上無い程に。どうしようもない程に追い詰められた時」

 

 

「嘘でも。方便でも」

 

 

「『自分の人生を捧げる』って言って。本当に、そこまでしてくれたんだよ?」

 

 

 ミカは恥ずかしそうに笑いながら、ナギサの方を向く。

 

 

「そんな男の子の為になら。自分の人生ぐらい、捧げてあげても良いかなって。思わない?」

 

 

 ナギサは、ミカのそんな顔を───初めて見た気がした。

 

 

「…………ミカさん、もしかして。『今の』あなたは────」

 

 

 

 言葉の続きを言いかけたナギサの口元に、ミカの人差し指がつき出され、ナギサは思わず口を閉じた。

 

「ナギちゃん。それはちょっと不粋だよ」

 

 そんなことを言いながら、ミカは妖しい笑みを浮かべる。──そこには、ナギサですらドキッとしてしまうような艶やかさがあった。

 

 

 いつの間に、自分の幼馴染みはこんなに色っぽくなったのだろうか。なんて、ナギサは間抜けな考えに思考を奪われ、言いかけていた言葉を頭の中から取り落とした。

 

 

 

 


 

 

 

 センジョウが目指したのは、ユウカに会いに行くために絶対に必要なものがある場所だった。

 

 息を切らせながらビルの中を走り、その場所へ向かうと──その入り口に1人の影があった。

 

 

「廊下は走るものじゃないぞ。センジョウ」

 

 

 彼の父がそこに立っていた。

 

 

 センジョウは父の姿に小走りだった速度を少しずつ落としながら、道を進む。

 父はそんなセンジョウの表情を見て驚いたような顔をすると。……すぐに、満足そうに笑った。

 

 センジョウが彼の前に止まり、彼は感慨深そうにセンジョウを見た。

 

「────お前。少し見ないうちに、本当に大きくなったな」

 

 嬉しそうに、父は言う。

 

「なんだよ。背が伸びるほどの期間は経ってないだろ?」

 

 そんな父に、苦笑をこぼして子は返す。

 

「男の『大きさ』は、なにも身長だけじゃないさ」

「屁理屈だろ、そんなの」

 

 本心から互いの言葉を交わすのは──なんだかとても久しぶりな気がした。

 

「……俺が倒れてから、どのぐらいだったかな」

「さあ。俺も必死だったから、あんまり覚えてない。……半年以上前だったような気もするし、昨日のような感覚だってある」

「それだけ、いろんな『経験』をしてきたんだな」

 

 父は腕を伸ばして我が子の頭に掌を被せる。

 

 そして、少しだけ強めに力を込め、押さえつけながらおもいっきりぐしゃぐしゃと撫でた。

 

「なんだよ……!いてぇって」

「黙って撫でられとけって、頑張った子供を誉めるのも親の役目だってことだよ!」

 

 センジョウも口では拒絶するが、決してその手を振り払おうとはしない。

 グリグリと、わしゃわしゃと、父はこれまでの分を取り返すかのように我が子の頭をなで続ける。

 

 そうしてひとしきり撫で終えると、その手をどかした。

 

「答え。出たんだな?」

 

 乱れた髪を軽く整える我が子に、彼は問う。

 

「ああ。……見つけたよ。俺の、答えを」

 

 そんなの我が子の言葉の力強さに、父は頷く。

 

「キヴォトスは、好きか?」

「ああ。好きだ」

「生徒の皆は?」

「当然、好きだ」

「…………今の『世界』は、好きか?」

 

 

 

「────大好きだ」

 

 

 

 言葉に、視線に、声に、姿に。

 

 父は……我が子の成長を、確信する。

 

 

 

────妻の残した涙の種が。今、確かに。芽を出し始めていた。

 

 

 

「…………ったく。忙しい中にわざわざ時間つくって、腹割って話そうってしてやったのに。一人で立ち直りやがって……。本当に勝手な息子だ」

「息子の再起に文句言うあんたも大概勝手な親じゃねぇか」

 

 彼らは、笑いながら憎まれ口を叩き合う。

 

 いつかの、あの日のように。

 

 

 けれど。

 

 

「…………行くんだろ?センジョウ」

「ああ。止めても無駄だぜ、オヤジ」

 

 

 センジョウはもう。それでは満足できない。納得できない。

 

 

「一人で行くのが危険だとか。今の俺には無理だとか言われても。俺は、あんたをぶん殴ってでも、この先に進む」

 

 自分勝手で、道理に合わなくて、無茶で無謀と笑われるような事でも。

 

 今のセンジョウは。押し通るべき道だった。

 

「ガキの癖にでかい口叩きやがって」

 

 そんなセンジョウに男は笑う。

 

「大人が本気でダメだって言ったら、ダメなもんはダメなんだよ」

 

 そう言って、男は自分が首から下げる『シャーレの職員証』を見せる。

 

────確かに、それがなければ、センジョウがこれから入ろうとする扉のロックを解除することはできない。

 

 『全て』をシャーレへと返した、1人の子供でしかないセンジョウはそんなもの持ち合わせていない。

 

 

「そんなの──」

 

 

 

 

「だがな」

 

 

 

 

「無茶とかバカやる子供の責任もって。やりたい事をやらせるのが、『親』の役目なんだよ」

 

 男は、歯をむき出しにして笑う。

 

「『好きなように』やってこい。センジョウ。責任は全部俺が持っててやるよ」

 

 そうして、男は────我が子へ、固く閉ざされた扉の『鍵』を差し出す。

 この先の未来を掴もうと、戦い、もがき、足掻き、苦しむ子供に。道を示すように。

 

「行ってこい、センジョウ」

 

 

 その言葉に、センジョウは、胸の高鳴りを感じる。

 

「オヤジ………俺は────」

 

 そうして再び、少年は父へと誓う。

 

 

 

「行くよ」

 

 

 

 

 センジョウは、父の手から『鍵』を受けとり、扉の前へと立つ。

 受け取った鍵をかざせば、固く閉ざされた『シャーレの格納庫』の扉が開く。

 

 

 

 

「────悪い。待たせたな」

 

 

 センジョウは扉をくぐり、ゆっくりとその中央へ鎮座する『ソレ』へと近づいて行く。

 

 それは、武骨な鉄の塊のようで、鎧のようで、武器のようで。

 

 

「『Nuill-Vana』…………いや」

 

 

 その……どれでもない。

 

 

 

「ナル」

 

 

──ポジティブ。お待ちしていました、マスター。

 

 

 いつの間にか、彼女の声が聞こえるようになっていた。

 

 今までよりも、ずっと鮮明に、ハッキリと。その声色から、ナルが喜んでいることが、解るぐらいに。

 

 

「色々、無茶させたな」

──構いません。その為の私です。

「色々、助けてくれたな」

──無論です。その為の私です。

「…………ずっと、支えてくれてたんだな」

──…………。

 

 センジョウの言葉にナルは沈黙する。

 

──当然。です。

 

 

 そうして彼女は、その思いの丈を言葉にする。

 

 

──私は…………あなたの。『蒼井センジョウ』の、娘なんですから

 

 

 

 

 

「………………ん?????」

 

 突然訳のわからないことを言い出したナルに、センジョウはすっとんきょうな声を出した。

 

──お父さん!?私結構今大事な決断して言葉にしたんですよ!?!?ここはなんかこう、もっと良い雰囲気で受け止めてくれたりしないんですか!?

「できねーよ!出来るわけねぇだろ!?いきなり『娘』自称されたらそりゃ誰だって頭バグるわ!!」

 

 ナルは自分の一度限りの告白を台無しにされた衝撃的に、なんとも言えない怒りと悲しみを覚え。

 センジョウはセンジョウで、大切な『相棒』だと思っていた存在がいきなり『娘』を自称してきた事に大きく混乱していた。

 

「お前に感情とか、自我とか、自己認識があるって言うのはなんとなく解ってたが……言うに事欠いていきなり『娘』ってお前な……」

──し、仕方ないじゃないですか……。……その。だって。

 

 ナルは言いにくそうにモゴモゴと喋りながら、けれど、言葉は止めない。

 

──ユウカに、『あなたはセンジョウの娘だ』って言われて……。納得してしまったんですもん……。

 

 その言葉に、センジョウは大きく溜め息をついた。

 

「……ったく。本当に、アイツは」

──お父さん?

 

 そんなことを言いながら、けれど。

 センジョウは笑っていた。

 

「……じゃあ、二人で文句言いに行かないとな。……お前は、『余計なこと教わったせいで、和解に苦労しました』って」

 

「んで。俺は『うちの娘に、なに余計な事を教えてるんだ』って」

──えっと……、ソレって。

 

 センジョウはナルの戸惑いに、優しく笑顔を返す。

 

 

 

「こんな情けない男でも良いなら、……お前の父親。頑張ってみるさ」

 

 

 

──…………ッ!!はい!!よろしくお願いします!お父さん!!

 

 

 ナルの嬉しそうな声に、センジョウは心の中が暖かくなるのを感じる。

 正直。いきなり『父親になった』と言われても、実感も沸かなければ、何をすれば良いのか、これっぽっちもわからない。

 けれど、『(ナル)』が笑顔でいてくれるなら、それで良いとも思った。

 

 

「……さて。そろそろ行くか」

──ええ、そうですね。

 

 センジョウが『Nuill-Vana』に手を触れると、その情報が頭に流れ込んでくる。

 

 

 

 今なら、どこまでも飛んでいけそうだ。

 

 

 

 目を開けば、『Nuill-Vana』の展開と装着は完了している。

 

 まだ少しその感覚に違和感はあるが、そんなことは気にならないぐらいの心強い味方が、ここにはいる。

 

 

──シャーレ格納庫、ハッチ開きます。

 

 

──カタパルト接続、システム、オールグリーン。

 

 

──いつでも行けます。お父さん!

 

 

 シャーレ格納庫から直接ヘリを発着させるために備えられたカタパルトが開いて行く。

 

 

 

 空を果てを見れば、いつの間にか──夜が開けようとしていた。

 

 

 

「よし、じゃあ、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「俺に力を貸してくれ!!ナル!!!」

 

 

 

──ポジティブです!お父さん!!





 復活の時
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