青空DAYS   作:Ziz555

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宇宙(そら)(そら)の狭間で

 

──見えました!あれが、『アトラ・ハシースの方舟』です!

 

 雲を突き抜け、遮るもの一つない空の彼方。

 

 センジョウの視界の中心に、ポツリと浮かぶ黒い球が映った。

 ユウカを追って。『孔』を通る時に見たイメージとその光景は合致していた。

 

 自分が立ち直ることも、ここまで来ることも。破滅への道で定められた未来の一欠片なのだろうか。

 

 そんな考えがセンジョウの頭をよぎる。

 

────いや。そんなことは関係ない。どんな運命だろうと、未来だろうと。自分の求める『世界』の前に、立ちはだかるのなら、討ち果たすまでだ。

 

 

「ナル!迎撃に備えるぞ!FAモード!」

──はい!

 

 長期航行形態からすぐさま戦闘用のFA形態へと換装し、センジョウとナルらそのままターゲットへと直進して行く。

 その行く手を阻むように、小さな機影が彼らへと接近を試みた。

 

──正面、熱源察知!敵航空戦力……戦闘ドローンです!

「随分舐められたモンだな……。雑魚に俺達の相手が務まるかよ!」

 

 プログラムされた迎撃行動程度しかできない戦闘ドローンなど、万全の『Nuill-Vana』を纏うセンジョウとナルの前には、敵ではない。

 

「肩慣らしだ!」

 

 センジョウはブースターの出力を引き上げ、自らドローンへと高速で接近して行く。

 

 当然、敵を捉えようとドローンの照準は彼を追う。

 

 しかし、みすみす的をくれてやる程、センジョウは優しくはない。

 

 ブースターの加速はそのままに、センジョウは脚部のパルスフィールドを展開し、それを蹴り飛ばした。

 

 ダンッ!と、なにもない空間を蹴り飛ばし、強引に起動を変化させドローンの追従を振り切る。

 

「そらそらそら!!」

 

 ダンッ!ダンッ!ダンッ!!

 

 センジョウは上下左右、空間全てを足場に変え、連続でパルスフィールドを蹴り飛ばし、カクカクと不規則な方向転換を繰り返し縦横無尽に空を駆る。

 曲線的な動きではなく、その全てが直線的な方向転換であるが故にプログラムされたドローンの照準では彼を捉えることができず、ターゲットにロックされた次の瞬間にはその予想軌道から彼は消えている。

 一定の距離まで接近されたことでドローンは後方へと距離をとりつつ、牽制の弾丸をばら撒く行動へと指針をシフトした。

 

 下手に狙いをつけられるより、複数機のドローンが無作為乱射する弾丸の方が空間そのもに対する攻撃である以上、回避は困難となる。

 

 だが、それは引き換えに『攻撃の密度』が失われる事でもあった。

 

「ナル!パルスフィールド、最大出力!」

──前方へ展開!

 

 高密度、小範囲のパルスフィールドを前方へ突き出した左手を中心に展開し、同時に両脚部裏にパルスフィールドを展開する。

 

──行きます!!

 

 センジョウのキックスタートと共に脚部パルスフィールドへスラスターの出力を引き上げ、瞬間的に直線加速力の限界を越える。

 

 前方からの弾丸は左手のパルスフィールドが全てを弾き飛ばし、センジョウはドローンの降らせる横殴りの弾幕の雨を超高速で突き抜けた。

 

「制動!!」

 

 ドローンの背後へと突き抜けたセンジョウはぐるりと身体を縦に回転させ、脚部スラスターを進行方向へと逆噴射する。

 

 当然、相応のGがセンジョウを襲うが、センジョウは笑みを浮かべてその負荷に耐える。

 

「掃射!!」

 

 そして、そのまま体勢を整えて即座に両腕部のマシンガンを展開し、転換の間に合わないドローン達へ向けて弾丸を叩き込む。

 

 飛行機能にあわせて軽量化された装甲では、『Nuill-Vana』の弾丸を防ぐことも弾くこともかなわず、機体を貫通し、動力部が誘爆を起こした。

 

──敵反応、消滅!

「一丁あがり!」

 

 被弾もなく、瞬く間にドローンを全機撃墜したセンジョウは、反応の沈黙を確認して再び方舟へと進撃を開始する。

 

 

「ナイスアシストだ、ナル」

──今のお父さんと私なら簡単な証明です!

 

 完全に感覚を取り戻した2人はこれまで通り……いや。これまで以上の連携を見せ、最高のコンディションと言って間違いがなかった。

 

 心が通い、信頼し合う。

 

 互いに信を置く、最良とも呼べるパートナー関係がそこには構築されていた。

 

──このまま一気に行きましょう!

「ああ。……と、言いたいが」

 

 センジョウはナルの言葉を受け取りつつも、自身の懸念……いや、最大の障壁に思いを馳せる。

 

「……俺達がこれぐらいで止まらないことは、相手にも予測はできる筈た。……だとすれば、相手が打ってくる手立ての内、最も警戒すべき存在は────」

 

 瞬間。『Nuill-Vana』のアラートがけたたましく鳴り響く。

 

──お父さん!回避を!!

「……ッ!!」

 

 センジョウはナルの言葉を聞くより先に機体を大きく傾け、進路を大きくずらした。

 

 直後。赤と紫色の光条がセンジョウの居た空間を通過した。

 凄まじいエネルギーと破壊力を秘めた攻撃は、通過した付近の空間にすら影響を及ぼし、ビリビリと空気を揺らす。

 

「今のは──!」

──アリスさんの『光の剣』クラスの砲撃です!戦艦級……一体どこから……!

「……決まってるだろ」

 

 センジョウは砲撃の放たれた方向に視線を向ける。

 

 

 そこにはセンジョウの予想通り、『白いNuill-Vana』を纏った少女……早瀬ユウカが銃口をこちらに向けていた。

 

「やっぱりお前か……ユウカ!!」

 

 センジョウは彼女の姿を視界に捉えると共に方向を転換し、彼女へと向かう。

 

「…………どうしても、来るのね」

 

 ユウカはそんなセンジョウをバイザーの向こうから見つめ、静かにため息をつく。

 

「────来るなら、容赦はしない」

 

 ユウカは『白いNuill-Vana』の右マニピュレーターに握られた、機体にあわせて作られたであろう巨大なライフルを構えた。

 左腕でライフルの側面に備えられた追加グリップを握り、その反動を受け止める姿勢を作る。

 

 

「加減はできないわよ」

 

 

 ユウカは『Nuill-Vana』をターゲットに捉え、その引き金を引いた。

 

 

 バギュゥーーン!!

 

 

 空間が揺れたと錯覚するほどの発射音と共に、再び赤と紫の光条がセンジョウを襲う。

 

 

「こっ、のぉ!!」

 

 

 掠めることも許されぬ絶大な破壊力を持つ一撃に、センジョウは全力で側面へ加速し、その弾丸を避ける。

 

 しかし。

 

──まだです!お父さん!! 

 

 立て続けに2発。センジョウの回避先と、その上とを塞ぐように光条が放たれていた。

 

 

「あの威力で連射できるのか……!?」

 

 その事実に驚愕しつつも攻撃を受けるわけには行かない。

 

 センジョウはとっさにパルスフィールドを展開し、そこへ向けて拳を振りかぶった。

 

 左腕へつよい衝撃が走ると共に機体が真下へと落下する。

 

 打撃による反動を用いた無理やりな緊急回避だったが、なんとかそれにより弾丸の包囲を突破する。

 

────しかし。

 

 

「うっそだろ……!?」

 

 その先へもう1撃。光条が放たれていた。

 

 

 

────やられる!?

 

 

 

──パルスフィールド!最大展開!!!!

 

 父の身の危険を察知したナルは、自分の『心』を『Nuill-Vana』の炉へと接続しエネルギーへと変換する。

 

 くべられた心に呼応するように『Nuill-Vana』のエネルギーラインは金色の輝きを放ち、高密度の防御壁を展開した。

 

「ナル!?」

──く、うぅっっっ!!

 

 激しい衝撃が機体を襲う。

 

 だが、ナルの展開したパルスフィールドは見事に砲撃を打ち消し、霧散させた。

 

 

──ッはあっ!!はぁ……っ!

「大丈夫か!ナル!」

──問題、ありません……!

 

 自分が『センジョウの娘』であることを確立させた今のナルの『心』は、『Nuill-Vana』の出力を引き上げるのに十分な大きさと形をしていた。

 故に、力を使い果たして意識を失うようなことはない。

 

 だが、まだ幼いナルにとって『心』を炉にくべる行為は、自己を削り取るような苦痛が伴っていた。

 

 苦悶の声をあげるナルを心配しつつ、センジョウは追撃に備えて回避の姿勢を固める。

 

 だが。

 

「……撃って、こない?」

 

 ユウカは銃口を下ろしてライフルについたマガジンのような装置を取り外し、腰にマウントされていたものと交換していた。

 

「リロードが必要なのか」

 

 ユウカが纏う武装が『Nuill-Vana』だとするのであれば、彼女の手に持つ高出力砲を実現することも不可能ではないだろうが、しかし、『Nuill-Vana』の出力も無限ではない。

 

 おそらく、炉のエネルギーをマガジンへ蓄積し、集約したエネルギーを効率的に破壊力へ変換、放出するための装備があのライフルとマガジンなのだろう。

 

「1マガジンは4……いや、最初の1発をあわせて5発と見るべきか」

 

 センジョウは冷静に相手の戦力を分析し、策を練る。

 確かに、あのライフルによる砲撃は驚異だ。しかし、トリガーを引いてから弾丸が射出されるまで一瞬のタメがあり、近接戦に持ち込んでしまえば武器のサイズもあわせて万全な取り回しはできなくなる。

 

 つまり。5発の弾幕を掻い潜り、彼女の懐へ潜り込む事が……最適解。

 

「ナル」

──伝わってます。お父さん。

 

 センジョウの思考を読み取ったナルが肯定の返事を返す。

 

──安心してください。大丈夫です。……私は、貴方の娘なんですから。

「…………わかった」

 

 不安なナルの気持ちはセンジョウにも伝わっていた。だが、それ以上に彼女の『力になりたい』という思いが、強く伝わってくる。

 

 共に戦いたいと。ナルは思っていた。

 

 そんな彼らを見て、ユウカは。

 

「本当に。自分勝手な人」

 

 苛立ちを吐き捨てるように、どこか寂しそうに、羨むように、そう呟いた。

 彼女は再び、武器を構える。

 

「来るぞ!ナル!」

 

 自分へ向けられた銃口を確認すると同時に、センジョウは距離を詰めるべく前方へと加速した。

 

 得意のパルスフィールドを足場にした不規則軌道も、範囲ごと薙ぎ払われてしまう攻撃の前には意味を成さない。

 ならばいっそ、少しでも前に詰めるべく、加速に全てを振り切る。

 

 再び、ライフルから光条が放たれる。

 

「一ぉつ!!」

 

 放たれた初撃を、センジョウは大きく上昇するようにして上へと回避する。

 

 続けて、2発。逃げ場を塞ぐ布石の射撃。

 

「二つ………三つ!!」

 

 センジョウはこれを敢えて誘いに乗り、残された空間へと回避を敢行する。

 

「……計算通り」

 

 そんな彼の回避にユウカは詰めの1射を放つ。

 

 

 だが。

 

 

「ナル!」

──緊急分離!!

 

 

 センジョウはその射撃に対し、『Nuill-Vana』のFA形態を強制解除することで軌道を変化させ、攻撃を回避する。

 

 

「……!?」

 

 

 予想外の行動に、ユウカの思考が止まる。

 

 だが、自らの頭上を取ったセンジョウは飛行能力を失っており、こちらへ向けて落下してくるのみだ。

 

「変数を増やしたところで……再計算すれば良いだけの話……!」

 

 自由落下で迫り来るセンジョウへ向けて、ユウカは最後のトリガーを引く。

 

 

──させません!!

 

 

 瞬間。センジョウとユウカの射線上に飛行形態のナルが割り込む。

 

 

──パルスフィールド!最大……展開ッ!!

 

 

 コアパーツを搭載したウェポンユニットのエネルギーラインが再び金色の輝きを放つ。

 

 

 形成された力場が障壁となり、放たれた光条のエネルギーを相殺し、霧散させる。

 

 

──お父さん!!今です!!

 

 

 

 それで──5発目。

 

 

 

「ユウカァァァァァァ!!!」

 

 

 

 センジョウはウェポンユニットから唯一残した右腕のパルスブレードを展開し、ユウカへと切り込んで行く。

 

 

 

「…………結局。来るのね」

 

 

 

 ユウカはそれに答えるようにライフルをバックパックへマウントすると、同じようにパルスブレードをマニピュレーターへ握り、センジョウへとスラスターを吹かして接近する。

 

 

 

 バヂィィィッ!!

 

 

 

 2本のパルスブレードが互いに交差し、干渉し。

 

 雷鳴のような輝きが。辺りを照らした。






白い装甲の機体が赤と紫の強力なエネルギーライフルを撃って、金色の光を放つ黒い機体と戦ってるってよ
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