「ユウカァァァァァァ!!」
「…………結局。来るのね」
白と、黒。対の色を持つ、2機の『Nuill-Vana』が、正面からぶつかり合った。
「ユウカ!早くその白いNuill-Vanaから降りるんだ!それは危険なマシーンなんだ!」
「それがわかっているなら、過去の貴方はなぜそのマシーンから降りなかったの」
センジョウの問いに、ユウカはそんな言葉と共に、センジョウの胴へ蹴りを入れて距離を放す。
蹴りあげられたセンジョウは、彼を受け止めるために飛来した飛行形態のナルへと着地し、姿勢を整えた。
「俺が一人で無茶したことを言っているなら、何度だって謝る!だから!」
「そんな話をしてるんじゃない」
ユウカは、左腕に備えられたガトリングガンを構え、センジョウへと掃射する。
「……ッ!」
回避のために距離を離せば、またあの強力なビーム攻撃を思うように使われてしまう。
銃口を振り切るために、センジョウは大きく右向きに、距離を離されぬように回避を取る。
「ユウカ!!」
「うるさい……。うるさいのよ、その声が!」
センジョウの声に、ユウカは苛立ちを隠そうともせず、声をあらげた。
「どうして今さら!私の前に立ちはだかるの!一度全てを捨てた貴方が!」
ガトリングガンを構えたまま、ユウカはスラスターを吹かし、センジョウへと距離を詰める。
「貴方はいつもいつも、自分勝手で!独り善がりで!周りの気持ちも考えずに手を伸ばして!!」
距離を詰めると、そのままユウカはパルスブレードを振りかぶり、センジョウへと切りかかった。
「私も!『先生』も置き去りにした貴方が……どうして!」
迫り来る刃を、センジョウはパルスブレードで受け止める。
「俺は……確かに間違えたかもしれない、逃げたかもしれない。その弱さが、お前を傷つけたかもしれない。だけど、俺は!」
「なにも、何もわかってない。貴方は結局、『みんなの中へは帰れない』のよ!」
力任せに、互いの刃と言葉をぶつけ合う。
「俺はもう、諦めない!利口な選択なんてくそ食らえだ!俺は、何があっても、ユウカを連れて帰る!!」
「この……わからず屋ァ!!」
瞬間、ユウカの纏う『白いNuill-Vana』のジェネレータが唸りをあげる。
全身を纏うエネルギーラインは赤熱し、赤く光り輝き始める。
「最大稼働……!?」
出力の引き上げられたユウカの機体に、センジョウはパワーで押され始める。
──お父さん!
「くっ、そおッ!!」
そのまま力比べに入ることを嫌ったセンジョウは、鍔競る刃を受け流し、姿勢を崩したユウカへ蹴りを叩き込んだ。
センジョウの蹴りを受けて、大きく後退するユウカ。そして、彼女はそのままピタリと動きを止める。
そんな彼女の姿に、センジョウはパルスブレードを構えたまま、警戒を強める。
「……どれだけ足掻こうと。抗おうと。貴方の運命は、終わりを迎える」
ユウカは、静かに言葉を並べる。
「貴方が、『
「何を、言って」
センジョウは、ユウカの言葉の意味を一つも理解できない。
だって。それは……いや。『そこ』から、連れ戻してくれたのは。他でもない、『ユウカ自身』の筈だ。
「なら。せめて」
しかし、センジョウの困惑を他所に、ユウカは、『炉に心をくべる』。
「私の手で、貴方の運命に、『終止符』を打つ」
ジェネレータが輝きを放ち、赤く色づいていたエネルギーラインの色が、次第に変化していく。
赤から。『蒼』へ。
「これが、『私達』の『
────『Nuill-Vana Period』
「『
機体と完全に同調したユウカは、青い円環を背負い、ユウカはバックパックにマウントしていたライフルを再び装備する。
「貴方の『物語』は────」
「────私が終わらせるッ!!」
その宣言と共に、『Nuill-Vana Period』の姿がセンジョウの視界から消えた。
「速──」
瞬間、『Nuill-Vana』の左腕部が切り飛ばされていた。
──左腕損傷……!?速すぎます!!
ナルのセンサーですら捉えることの出来ない高速機動は、もはや物理法則を超越していた。
パルスフィールドによる摩擦の低減だとか、スラスターの出力による加速等という領域の話ではない。
「これが……『phase5』!!」
『Nuill-Vana』の元来備えられた、最高到達点。
古き民が、神へと至る為に産み出した技術の結晶。それはまさに、『神』へと迫る力をもつ。
──自身の速度に関する『情報』を上書きしている……!?
「なんでもあり、ってことかよ!!」
センジョウの目に映る残像は、ナルのセンサーが速度を捉え損ねて誤作動を起こしている証拠でもある。
だが、機体の計測する数値は、現実の範囲内だ。
つまり、ユウカは、『Nuill-Vana Period』は。
『自身が観測される現実』すら超越した『何か』で、動いている。
「ナル!こっちも最大稼働だ!」
──それは……!!
このままでは、勝負どころではない。そう判断したセンジョウはナルへ『Nuill-Vana』の力の更なる解放を求める。
「──させると思う?」
ユウカの声に、センジョウは背後へ振り向く。
「くっ!?」
いつの間にかぴったりと背後へとりつかれていたことに気づいたセンジョウは、咄嗟にパルスフィールドの防護壁を展開する。
だが。
「無駄」
その防護も、『Nuill-Vana Period』の指先が触れるだけで、脆く崩れ去る。
「言ったでしょう。『Nuill-Vana Period』は、『終止符』。……どれだけ足掻こうと、戦おうと。その物語の『終わり』を定義する。絶対的な『否定』…………」
「これで、終わりよ」
センジョウに、ライフルの銃口が突き付けられる。
──お父さん!!
咄嗟に、ナルが機体の残ったウェポンユニットを分離し、飛行形態となってセンジョウを押し退け、ライフルとの合間へ機体を捩じ込んだ。
バギュゥーーン!!!!
放たれた光条は、ナルの展開したパルスフィールドを容易く突破し、その機体を貫く。
「ナ────」
そして、防ぐことも叶わず、彼が娘の名を叫ぶより早く。その光条がはセンジョウへと直撃した。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」
最低限のパルスフィールドと、その身を守るアーマーを貫通し、そのエネルギーがセンジョウを襲った。
────『Nuill-Vana』が。くだけ散る。
爆発と共に、全身に纏う装甲を失い、センジョウは意識を失ったまま、空から堕ちて行く。
「──さようなら」
空から堕ちる彼を。ユウカは冷たい瞳で見下ろしていた。
────ミカは一人。夜が明けきる前の教会で。一人、膝をつき、手を組んでいた。
彼女が、『蒼井センジョウ』に拘るのは。彼が彼女の瞳に、自分の憧れの、夢の中に思い描いた『物語の英雄』の様に映ったからだ。
どんな困難にも折れず、勇気と、絆を掲げ、その歪んだ運命を、仲間と共に打ち砕いて行く姿に、憧れを見た。
そんな『
その少女は、彼を支え、時には叱咤し、彼が正道を行く為の力として、確かに必要だった。
『
それが、ミカにとっての『早瀬ユウカ』だった。
自分が『お姫様』になることを憧れていたように、ミカは『物語』に強い憧れを抱いていた。
そんな彼女にとって、センジョウとユウカの関係性は、まさに『夢』のような姿だった。
確かに、『
だが、『
故に、ミカはセンジョウからユウカの話を聞くのが大好きだった。
『英雄』とその『伴侶』の紡ぐ未来を、見てみたいと思っていた。
けれど、現実は物語ではない。
ある日、『英雄』はその輝きを失い、道標を失った『伴侶』はその有り様を歪ませた。
ミカには、それが我慢ならなかった。
だから彼女は、どこまでも堕ちて行く『
そこには、自分を救ってくれた『
無い、筈だった。
「…………私も間抜けだよねぇ。どーしてユウカちゃんがセンジョウくんに惹かれたのか。少し考えればわかったろうに」
彼と日々を過ごす内に、だんだんと『蒼井センジョウ』に惹かれていく自分を自覚していた。
彼のふとした時に見せる優しさに、気遣いに、……弱さに、目を奪われていた。
『蒼井センジョウ』は、劇的な人間ではない。
カリスマ性があるわけでも、目を見張る魅力があるわけでもない。
けれど、一生懸命に日々を過ごす、彼の姿に、ひたむきさに。好感を持たない人はいないだろうと。ミカは断言できた。
例え、どれだけ歪んでいても、間違っていても、堕ちていても。『蒼井センジョウ』の優しさは、変わらなかった。
それでも。
ミカが欲したのは。『
諦めて、欲しくなかった。諦められなかった。
だから、自分と、ユウカとを提示した時に、ユウカを取ってくれたセンジョウの姿に、ミカは安堵した。
もし。あそこで自分を選んでいたなら。と、考えると。悪い感情が込み上げてくる。
けれど、センジョウはユウカを選んだ。
選んで、くれた。
────だから、ミカのこの『想い』は。ただ、彼に注がれる物でしかない。
「……私はさ。貴方の物語で、貴方の隣にいるべきお姫様でも、貴方を惑わす魔女でもないからさ」
ミカは一人。静かに、彼に届かぬ言葉を紡ぐ。
「だけど。私は確かに、貴方のことを『想って』いるよ」
ミカは、静かに目を閉じる。
「だから─────」
私は、貴方の為に。
「祈るね」
私の『想い』が。貴方をきっと守るから。
──お父さん!!目を覚まして下さい!お父さん!!
ナルの悲痛な叫びは、誰にも届かない。
──誰か……!誰か!お父さんを!!
その時。
センジョウの首から下げた、『首飾り』が。輝きを放った。
──これは……!?
優しい光が、一枚の白い羽から広がって行き、センジョウとナルを包み込む。
その、温かくも柔らかい光が、『Nuill-Vana』へと流れ込む。
──ミカさんの、想い……?
それは。優しい『祈り』。ただ、彼の幸せを、未来を願う。純粋な『想い』の形。
その『暖かさ』に。ナルは。
──そうか。
この、『想い』が。『暖かさ』が。
『愛』なのだ。
誰かを純粋に想う気持ち。自分ではない、誰かへ向けられる、その優しい願いこそ、『愛』の形。
「……わかり、ました!」
「私が、お父さんへ向ける想いも!お父さんがユウカへ向ける想いも!ユウカがお父さんへ向ける想いも!形が、言葉が違っても!それを、『愛』と呼ぶんです……!」
ナルは。答えを得る。
「ならば、私は。私のこの感情を『愛』と定義し……証明して見せます!!」
そうして、彼女は、『
「もう、貴方を『
その想いを。力を。形に変える。
「貴方の中には、『
「『
そうして。『Nuill-Vana』を、愛が満たす。
光が。生まれた。
「…………なに?」
センジョウを撃墜し、アトラ・ハシースへと帰還するために飛行していたユウカが、その輝きに振り返る。
光輝く『ソレ』は。はるか下より、急速に天へと舞い上がった。
太陽の如き、暖かい輝きを放つその姿に、ユウカはバイザーの下で目を細める。
「────『俺達』は!諦めない!」
その声に、目を見開く。
『そうです……!私達の心は!まだ折れてなんていません!』
聞き覚えの無い少女の声に、ユウカは動揺し、その影を捉えた。
「願いと想いの流れを束ね!」
黒かった筈の装甲は。透き通る空の『蒼』に染まり。
『心の大河が奇跡を描く!!』
所々にあしらわれる白い装備は、『雲』を思わせる。
「『掲げる想いは!曇りを知らず!天の果てまで突き抜ける!!』」
背に浮かぶ、山吹色の円環は、『太陽』を背負う姿に見えた。
「『────
背中から、まばゆいほどに輝く、『白い翼』を生やしたセンジョウが、そこに君臨していた。
「俺は……」
「必ずユウカを救いだすッ!!」