青空DAYS   作:Ziz555

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『早瀬ユウカ』

 

 闇夜を照らす太陽が。天へと登り始めていた。

 

 

 天に翼を広げ、新たな姿を示す『Nuill-Vana』……いや、『Naill-Vana(ナイル・ヴァーナ)』と共に、センジョウはその有り様を世界へと示す。

 

 

「ナイル……ヴァーナ!?」

 

 ユウカは、自身の計算を上回る『進化』と『変化』をみせたセンジョウに驚愕する。

 

「あり得ない……!『Nuill-Vana』の進化は、『神化』とイコールの筈!それが、『意思』を持ち……まして、転生することなんて……私の計算には──!」

「人の『心』は無限大……。計算して、分解して、全てを理の元に晒す事なんてできないんだ」

『そして、『Naill-Vana(私の身体)』には、人の心を形にする力がある……だから!』

 

 

 

「『人の可能性に、『終わり』なんて……無いッ!!』」

 

 

 

 センジョウとナルの宣言に、ユウカは歯を食い縛る。

 

「そんな戯れ言……!『Period』の前には全てが無駄なのよ!」

 

 再び、『Period』に蒼い輝きが灯り、ユウカはライフルをセンジョウへ向けて放つ。

 

 

 だが。

 

 

「その手は……食わない!!」

 

 センジョウは『Naill-Vana』の翼を盾のように構え、その光条を振り払うように羽を広げた。

 

 すると、赤と紫のエネルギーは弾け飛ぶようにして霧散し、『Naill-Vana』には、傷ひとつつかない。

 

「マグナムの弾丸を弾いた……!?」

 

 驚愕に染まるユウカの姿を、センジョウは静かに見下ろす。

 

「……お前にひとつ。聞くべき事がある」

 

 センジョウは、先程までとは打って変わったような冷静さで、彼女へと言葉をかける。

 

 

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

 

 

 

「……………」

 

 その言葉に、ユウカは構えていたライフルをおろし、口を閉ざしたままセンジョウを見上げた。

 

「お前の言葉には、行動には。どうにも違和感があった。……最初は、色彩の影響があるのかとも考えた。……だけど、どうにも辻褄が合わない」

 

 言葉の節々から感じる『違和感』。

 それは、センジョウの知る『ユウカ』なら知っている筈の『ナル』の存在への動揺や、『Nuill-Vana』を使いこなしている素振り。

 

 そして、なにより。

 

 

 どこかへ飛び去ってしまった(・・・・・・・・・・・・・)センジョウを、知っているような口振り。

 

 

 『Nuill-Vana』と同化し、『Pease6(神の領域)』へと至ったセンジョウが何処かへ飛び去るよりも前に、彼を引き留めたのは。他の誰でもない、『早瀬ユウカ』の筈だ。

 

 

「…………私は、『早瀬ユウカ』よ。嘘だと思うなら、生体反応でも分析してみれば良いじゃない」

「いいや、違う。少なくとも、お前は……『俺』の知るユウカじゃない」

 

 確かに、目の前の少女が何者かと問われれば、『早瀬ユウカ』であると、そう答えるだろう。

 だが、それでも。それは彼と共に道を歩んできた『早瀬ユウカ』ではないと。センジョウは確信していた。

 

「もう一度だけ聞く」

 

 そうして、センジョウは右手の人差し指で、『彼女』を指した。

 

 

「『お前』は。誰だ?」

 

 

 そして、その問いに。

 彼女は、小さく溜め息をつき、バイザーを外す。

 

「ええ。そうね。貴方の推測通り…………私は、『貴方のよく知る早瀬ユウカ』では。より正確に言うなら、『この時間軸の早瀬ユウカ』ではない」

 

 その眼は、黒く、深く濁り。虚ろばかりを映していた。

 

「……本当に、人の気も知らないで。独りよがりな人」

 

 彼女は、その瞳で。センジョウに懐かしむような、疎むような、羨むような視線を向ける

 

「それで。それを知って、貴方はどうするの?私が『早瀬ユウカ』ではないと知って。だから何?助けるべき相手ではないから、倒すべき相手だから。加減をしなくていいとでも言いたいの?」

 

 『ユウカ』は、静かに首を振る。

 

「そんなことありえないわよね。だって。『蒼井センジョウ』はそんな人間じゃない。そんなの、私だって知ってる」

 

 彼女の知る『蒼井センジョウ』という男が、果たしてどんな存在だったのか。センジョウには見当もつかない。……だが、きっと。彼も、無謀で、粗野で、未熟な一人の子供だったのだろう。

 

「貴方は、私の事も救おうとするでしょう。それは、貴方が『蒼井センジョウ』である限り、きっと変わらない」

 

 彼女の言葉は、当たっていた。

 

「でも。貴方はそれ以外の事にはまるで気が回らない。その行動の結果、何が起こるのか、そして。『救われる側』や、『残された側』の気持ちも、貴方はわからない」

 

 

「『私は、貴方に救われることなんて望んでいない』」

 

 

 彼女は、再びバイザーを装着する。

 

「理由は違えど、きっとこの世界の『私』も同じことを考えているわ。だから、分かったところで無駄」

 

 そうして、彼女はセンジョウを拒絶した。

 瞳を閉ざし、心を閉ざし、世界を拒む。

 

「私は、『私達』の使命を果たすだけ────」

 

 

 

「苦しむだけの『物語(せかい)』なら。生まれてこなければよかったのに」

 

 

 

 その『嘆き』に呼応するように、『Nuill-Vana Period』が蒼く鳴動する。

 

「……お前がどうして、その絶望に心をとらわれたのかは、分からない」

 

 センジョウは、彼女の話を聞いて。しかし、その心は、もう、揺らがない。

 

「悪いが、俺はあんたを倒して、ユウカを救い出す。……お前を救うのはその次だ」

「戯言を。……機体と同化し、『Phase5(神域)』へ至ったわけでもない貴方に、『Period』は止められない────!」

 

 直後、彼女は『Period』の力を引き出し、自分の存在にかかわる情報へ干渉し、速度を引き上げた。

 世界にすら捕らえられぬ速度で、彼女はセンジョウの眼前へと潜り込み、パルスブレードを振りかぶる

 

「もう一度……墜とす!!」

 

 人間には反応はおろか、認識できない速度での攻撃。たとえ、正面からの一撃であっても、問題なく撃墜できると、彼女はその結果を計算していた。

 

 しかし、その一撃は『Naill-Vana』には届かない。

 

『させません!!』

 

 ナルの声と共に、途端に彼女の体が重くなる。

 

 いや、違う。

 

 『情報への干渉』が、強制的に遮断された。

 

「何を────!?」

「これなら……見えるッ!!」

 

 『Period』によって与えられていた、人智を越えた、力を引きはがされ、『人間の領域』へと強制的に引き戻された彼女の攻撃を、センジョウはパルスブレードで受け止めた。

 

「『Phase5』と同等の力……!その姿が、貴方の『同化』だというの……!?」

「今の俺は、マシーンに魂をささげるような真似は、してないッ!!」

 

 『Naill-Vana』の背後に浮かぶ、山吹色の円環が光り輝き、その出力が上昇してゆく。

 

『そうです!一つになる必要なんてありません。私は私。お父さんはお父さんなんです!』

「たとえ異なる心でも、互いの事を思いやり、掲げる願いに共鳴し、心を重ねれば……!」

 

 

「『その意志を!形にすることができるッ!!!!』」

 

 

 『Naill-Vana』が、輝きを放ち、強力な出力でもって『Period』の刃を押し返した。

 馬力で押し負けた『Period』は大きく弾き飛ばされ、後退する。

 

「くっ……!!」

『今です!お父さん!!』

 

 姿勢を崩した『Period』に対し、センジョウは大きく、力強く羽ばたいた。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 高速で接近し、すれ違いざまに、『Period』が持つライフルを一刀両断する。

 

「くっ……!」

 

 爆発するライフルを手放した『ユウカ』は、苦悶の声を上げて即座にその場からの離脱を図る。

 

『お父さん!』

 

 こちらに背を向け、高速で戦闘空域から離脱していく『ユウカ』を、センジョウは静かに見送る。追撃をかけるそぶりは、ない。

 

『追わなくていいんですか……?』

「ああ。……あいつが、何を抱えているのか。何を見てきたのか。その想像がつかない以上、今の俺たちが手を差し伸べたところで、きっとその手を取ってくれることはない」

『……それは、そうかもしれませんが』

「わかってるよ、ナル。何も、諦めるつもりはない」

 

 あっという間に、肉眼では見えなくなるほどの距離となった『ユウカ』を、センジョウは苦い顔で見送っていた。

 

「……今は、ユウカに会いに行こう。まずは、そこからだ」

『そう、ですね』

 

 まだ、何も終わってはいない。……それどころか、始まってすらいないんだ。

 

「────行こう。ナル」

『はい、急ぎましょう……ユウカの元へ!』

 

 二人は、決意を新たに、その翼を羽ばたかせて空を行く。

 まばゆい朝日が、二人を明るく照らしていた。

 

 

 

 

『アトラ・ハシースの周囲には、多次元解釈によるバリアが展開されています。なんの備えもないまま、この空間へ飛び込めば、空間が持つ情報量に、私たちの肉体の情報がすり潰され、消滅する可能性があります』

「こればっかりは気合じゃどうにもならないんだよな」

 

 アトラ・ハシースへと向かう最中、センジョウとナルは自分たちの状況を確認していた。

 

『お父さんは何か考えがあったんですか?』

「……えっと」

『ないんですね。……はぁ』

「わ、悪かったって」

 

 ナルのため息に、どことなくユウカの面影を感じ、センジョウは肝を冷やす。

 

「ユウカに会いに行くって考えで頭がいっぱいだったんだよ……」

『わかってますよ。だから別に怒ってはいません。呆れましたが』

「そっかぁ……」

『大丈夫です。ちゃんと私がフォローしますから』

 

 娘にしりぬぐいをさせる情けない父親の図である。

 

『この多次元解釈によるバリアーを突破する方法は、簡単に言えば2つ。相手の多次元解釈に同調し、相違を合わせるような手段をとることと、相手の解釈を強引に上書きする事です』

「解釈の上書き……さっきの『ユウカ』が使ってたアレか」

『はい。大体はその認識で結構です。……ですから、『Phase5』に到達した『Nuill-Vana』であれば、あのバリアーの解釈を上から塗りつぶし、問題なく突破できたでしょう』

 

 つまり、考えなしに突撃していたセンジョウだったが、『Nuill-Vana』存在があれば結果的に問題なく突破できる。と考えて、センジョウはふと気づく。

 

「あれ。でも今の俺達って……」

『はい。もう私は『Nuill-Vana』ではありませんので、『Phase5』になることは不可能ですね』

「……Oh」

 

 ナルの返答に、センジョウは衝撃を隠せなかった。

 

『で、す、が』

 

 しかし、ナルはどこか自慢げに、弾んだ声色で続ける。

 

『今の私は『Naill-Vana(このカラダ)』と完全に同調しています。ですので、『Nuill-Vana』だったころの力のほぼすべてを、自由に引き出すことができるようになっています』

 

 ふんす。と、鼻息荒く、自慢げに語るナルに、センジョウは思わず笑みを零す。

 

『その力の出力には、お父さんの協力は不可欠ですが、今の私達であれば、諦めない限り必ず『結果』へたどり着けるでしょう。『Naill-Vana』には、それだけの力があります!』

「つまり、今の俺達は『無敵』。ってことでいいんだな?」

『はい!私の計算に間違いはありません!完璧です!!この進化はすっごいプラスになるやつなんです!』

「よかったな、ナル」

『もっと喜んでくださいお父さん!これは私だけじゃなくて、お父さんの力でもあるんですよ!!』

 

 ナルに、人間と同じような体があれば、その喜びを全身で表現していたのではないだろうか。なんてことを考えながら、センジョウは温かい気持ちになっていた。

 

 そして、だからこそ。……いま、この場にその気持ちを分け合える『ユウカ』がいないことを、寂しく感じていた。

 

 

「よし、それじゃあ……突入するぞ、ナル」

 

 

 いつの間にか眼前へと迫った、黒いバリアを前に、センジョウはナルへ言葉をかける。

 

 

『はい!準備は万全です!バリア突破後の外壁の破壊はお任せします!』

「任せろ。……行くぞッ!!」

 

 

 

 その言葉と共に、センジョウは『Naill-Vana』の翼を大きく、力強く羽ばたかせる。

 同時に、背に浮かぶ円環から放たれる山吹色の粒子が、センジョウ達を大きく包み込んだ。

 

 

 最高速度のまま、センジョウとナルは『多次元解釈バリア』へと突撃し────

 

 

 

 

────その壁を、突き抜けた。

 

 

 

『バリア、突破しました!』

「パルスブレード……ランサーモード!!」

 

 

 空へ浮かぶ要塞の壁を突き抜けるべく、センジョウは槍を構える。

 

 

「出力、全開ッ!!」

 

 

 その気合に呼応するように、山吹色の円環が光を放ち、翼が震え、その力と大きさを増す。

 

「ぶ、ち、ぬ、けぇぇぇぇええッ!!」

 

 

 全身の力を込めて、センジョウはその槍を外壁へ突き立て……その壁を突破し、内部へと侵入した。

 

 

 鳴り響くアラートが、招かれざる彼を歓迎していた。

 

 

 

「必ず行く……だから、待ってろ!ユウカ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は1人。膝を抱えてうずくまっていた。

 

 誰もいない、機械的な壁に囲まれた、がらんとした一室で。

 

「……ごめん。……ごめんなさい、ナル…………」

 

 

 ただ、謝罪の言葉と、名前を呼んで。

 

 

 

 

「────────ごめんなさい……センジョウ」

 

 

 

 

 

 少女は、静かに、その頬を濡らしていた。

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