青空DAYS   作:Ziz555

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 忘れないでね。始まりは、優しい願いだったこと。




『"親子の絆"』

「……若いっていいねぇ」

 

 センジョウとユウカのやり取りを、彼は後方で腕を組みながら、静かに頷きながら見守っていた。

 周囲を見れば、あまりに情熱的な愛の告白に、生徒達がつられて顔を赤く染めている。見てて恥ずかしくなってしまったらしい。

 

 ただし、一人を除いて。

 

「ふふ、やっぱり二人はこうあってこそ。ですね」

 

 生徒達の内、ノアだけは二人のやり取りを、彼と同じように暖かな瞳で見守っていた。

 

「ノアは二人の仲が良いのは肯定派なのか?」

「ええ。……すこし、回り道が過ぎましたけど、今日の二人がみられたなら、私は満足です」

「……ノアがユウカの相手として許す程の事って。中々じゃないか……?」

「あら、2人の間に何があったか。お聞きしますか?その為にはすこし……一夜では事足りないかも知れませんが」

「帰ったら今度聞かせて貰おうかな。……俺が寝てる間、センジョウがどんな風に頑張ってたのかも含めて、な」

「私の記憶していることの全てであれば、いつでもお話ししますよ」

 

 なんて、そんな話をしながら、二人はセンジョウとユウカの映るモニターを見上げていた。

 

「……さ、て。次が最後の区画だな」

 

 画面の向こうの二人も、『この先』への決意を固めた表情を浮かべている。

 

──アトラ・ハシース、第4区画。

 

 中央部に位置するこの区画のエンジンを制圧することが出来れば、アトラ・ハシースの制御をウトナピシュティム側に引き込むことが出来る。

 そうなれば、自爆シークエンスを用いて、アトラ・ハシースを破壊。修理の完了したウトナピシュティムで離脱をすれば、彼らは『色彩の嚮導者(プレナパテス)』に完全勝利することが出来る。

 なにやらリオとヒマリが『奥の手』を確保してくれている様子だった事も含め。勝利まで、あともう少しだという確信があった。

 

 しかし、敵もそれを理解しているだろうし、油断するつもりもない。

 

「先生、スッゴい数の敵がこっちに来てるよ。……向こうも必死みたい」

「だろうな。…………防衛は任せて良いかな?俺は──」

「息子の事が気になる、のでしょう?」

 

 リンが、彼の言葉の先を読む。

 

「構いません。行ってください……ウトナピシュティムの防衛は、私たちに任せてください」

「リンちゃん……」

「………………そうでしたね。今の貴方は、『先生』であるより以前に、『父親』。でしたね」

 

 一向に呼び方を変える気配の無い彼に、リンは呆れたようにため息をつき、ついに根負けをした。

 

「なぜ生徒会長が『貴方』を呼んだのか。なぜ、貴方が『彼』を呼んだのか。……その答えは、私には全く解りません」

 

「ですが、その『選択』の先に、今の私たちがいることも事実です。……ですから、私達は貴方の『選択』を、貴方を信じます」

「……すまん!ありがとう!!」

 

 リンの言葉に、男は大きく頭を下げて、謝罪と感謝を告げると、タブレットを片手にブリッジを飛び出していった。

 

 

 

「『先生』。……どうか、ご無事で」

 

 

 

 

 そうして、ついに戦況は最終局面へと突入した。

 

 

 


 

 

 

 

 ウトナピシュティムの防衛を船に残った生徒達に任せ、センジョウは合流した父と共に、ユウカの元へと急いでいた。

 

 立ちはだかる障害をものともせず、その壁を時に乗り越え、時にぶち抜き、困難という困難を蹴っ飛ばし。

 

 瞬く間に、センジョウ達は『第4区画』の制圧を完了する。

 

 そうして、ついに。

 

 

「ユウカ!!」

 

 

 彼女が待つ、その扉をこじ開けた。

 

 

「センジョウ……!」

 

 扉の先にいた少女が、自分の名を呼ぶ。聞き慣れていた筈のその声が、今はこれ以上無い程に嬉しかった。

 

「ユウカ、俺────」

 

 言いたいことが、沢山あった。伝えたい想いが、溢れて止まらない。

 

 

 しかし。

 

 

『──ゆ、ユウカさんがこちらにも……!?』

 

 

 事態は。それを許さない。

 

 

 

 ウトナピシュティムのブリッジに、孔が開き──『早瀬ユウカ』が、現れた。

 

 

 

「正直、ここまで来るのは計算違いだった。貴方達の力を、『絆』を舐めていた事。認めるわ」

 

 蒼く輝く『Nuill-Vana Period』を纏ったユウカは、虚ろな眼で生徒達を一瞥する。

 

「──けれど。どれだけ足掻こうと、結果は変わらない。貴方達の『物語』は、必ず終わる」

 

 パチン。とユウカが指を鳴らす。

 

 瞬間、世界にノイズが走った。

 

 ウトナピシュティムのモニターが、全て赤く染まる。

 

「これは……!?」

「……!!ウトナピシュティムのシステムが、ハッキングされた……!?一体、いつの間に────」

 

 ヒマリを初めとしたオペレーター達は、事態の変化に動揺し、その手が止まる。

 

「何をしたんですか。ユウカちゃん」

 

 ノアは、『早瀬ユウカ』を力強い視線で見つめたまま、そう問いかける。

 

「……今の『ノイズ』が走った瞬間、ウトナピシュティムの計器の数値が、変動を伴わずにその情報だけが書き変わりました。そんなこと、普通はあり得ません」

「さすがはノアね。良くみてるわ」

「ええ。私の役割は……記録すること、ですから」

 

 この状況であっても、『間違えた道を歩む友』を咎めるように自分を見つめるノアの視線に、『早瀬ユウカ』は、小さくため息をつく。

 

「……『Period』の力で、ウトナピシュティムの情報を、多次元解釈の内の一つと入れ換えた。今のウトナピシュティムは……『色彩の嚮導者(プレナパテス)』の演算装置よ」

「情報を……入れ換え……?」

「そんなことが出来るなら、最初から私たちに勝ち目はなかった……?」

 

 衝撃的な事実に、動揺と不安が広がって行く。

 

「言ったでしょう?『結果は変わらない』と」

「…………どうして、こんなことをするんですか。ユウカちゃん」

「ノア。私は、貴方のよく知る『早瀬ユウカ』ではないのよ」

 

 『早瀬ユウカ』の言葉に、ノアは小さく首を横に振った。

 

「いいえ、その言い方も、その声も。私のよく知る『ユウカちゃん』です。例え、過ごしてきた時間が違おうとも、貴方は『ユウカちゃん』です。……でも、だからこそ、どうしてユウカちゃんがこんなことをするのか……それが解りません」

 

 きゅっと、胸元で小さく掌を握りしめる。

 

「ユウカちゃんは、優しいのに。どうして」

「…………」

 

 『早瀬ユウカ』は、ノアの言葉に、視線に、その表情を暗くする。

 後悔と、無念のこもった。そんな顔で。

 

「────苦しむだけの『物語』が続くなら。すこしでも早く、それを終わらせる。ただ、それだけよ」

「ユウカちゃん──!!」

 

 

 『早瀬ユウカ』は、そんな言葉だけを残して、再び『孔』の中へと消えていった。

 

「────不味い!ウトナピシュティムの自爆シークエンスが起動してる!!」

 

 静寂を挟む間もなく、カヨコの警告がブリッジに

響いた。

 

「みんな、伏せて──!!」

 

 船が、大きく揺れた。

 

 

 


 

 

 

「みんな!!」

 

 通信越しに、ブリッジの混乱を聞いていた男は、生徒達の安否を心配し、声をあらげた。

 

『──此方はなんとか、無事です。『先生』』

「リンちゃん……!」

 

 背後から聞こえる騒音の中から、リンの声が聞こえ、男は表情を明るくする。

 

 だが、事態は深刻だった。

 

 

『申し訳ありません……。ウトナピシュティムの演算装置が、アトラ・ハシースの多次元解釈の手助けをする形になってしまいました……』

「脱出は!?今すぐ安全の確保を……」

『それも出来ません。ハッキングを遮断するため、アトラ・ハシースとの接続解除を試みていますが……システムを掌握されているため、要請が拒否されてしまいます』

「くそっ……!!」

『……加えて、アトラ・ハシースの多次元解釈演算が復活したことで、『虚妄のサンクトゥム』が、再びキヴォトスに出現しようとしています……!!』

「そんな……!」

 

 

 『絶望的』

 

 

 そんな言葉が、男の頭をよぎる。

 どうして。なんで。もし、たら、れば。

 

 後悔と反省が、頭の中をグルグルと回る。

 

 

 それでも。

 

「行くぞ、オヤジ」

 

────『息子(センジョウ)』は。『父親(センセイ)』を繋ぎ止める。

 

「行くぞって……まさか」

「決まっているでしょう、先生。……ハッキングされているなら、その元を叩けば解決する。簡単な証明よ」

 

 ユウカは、ロジック&リーズンの動作を確認しながら、そう返す。

 

「俺の憧れた『先生』は────」

 

 

 少年は。大人の背中に『夢』を見る。

 

 

「────そんな簡単に、諦めないだろ?」

 

 

 

 そんな言葉に。そんな姿に。そんな想いに。

 恥じない自分であろうと思ったのは。

 

 

 ずっと、昔から。

 

 

「────」

 

 

 

 だから、俺は。

 大人として。

 

 

 

 

「"そうだったね。センジョウ"」

 

 

 

 子供の夢のためにも。『格好つけ』無きゃならない。

 

 

 

「"リンちゃん。聞いての通りだよ。私達はこれから、アトラ・ハシースの管制室にむかって、攻撃を仕掛ける。それまで、なんとかみんなで耐えて欲しい"」

『……先生』

「"大丈夫。……みんなとなら、必ず乗り越えられるから"」

『…………』

 

 先生の言葉に、リンは。

 

『解りました。引き続き、船の方はお任せください』

 

 彼を、信じ続けることにした。

 

「"ありがとう。……よし、行こう!!"」

 

 

 そうして、三人は決戦の場へと向かう。

 

 

 

 

 長いようで、短いような。そんな通路を駆け抜け、彼らはアトラ・ハシース際深部の管制室へとたどり着く。

 

 

 

 センジョウは。その景色に見覚えがあった。

 

 

 いつか、『早瀬ユウカ』を追って、孔の先でみた、閑散とした空間。

 そこには、一人の『大人』が立っていた。

 

「標的を確認、距離至近!」

 

 ユウカが武器を構え、『大人』へと距離を詰める。

 

「無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しなさい。さもなければ、撃つわ。……もう、おしまいよ。ここには、先生も、センジョウもいる。万に一つも貴方に勝ち目はない」

 

 『大人』は、ユウカの警告を無視し、懐へと手を伸ばす。

 

「……手を上げなさい!それ以上は抵抗の意思と見なして、撃つわ!!」

 

 しかし、『大人』は、その行動をやめない。

 

「警告を無視したなら──!!」

「ユウカ!待て!」

 

 異変を感じ取ったセンジョウが、制止の声をかける。

 

 

 

 

 『色彩の嚮導者(プレナパテス)』は。止まらない。

 

 

 

 

「"……我々は望む、ジェリコの嘆きを。"」

 

 

 『彼女』は、唱える。

 

 

「"……我々は覚えている、七つの古則を。"」

 

 

 

 

 その言葉に、声に。

 

 子と父は。目を見開いた。

 

 

「くっ……!!」

 

 ユウカがトリガーを引くと。弾丸が放たれる。

 

 

 しかし、その全てが、歪にねじ曲げられたかのように、プレナパテスから逸れていった。

 

 

「弾丸が……当たらない?この、距離で?」

「そんな……今の、声は。いや、だって…………」

「なんで…………なんで、その言葉を、君が……」

 

 

 その場にいる3人が、それぞれの驚きを示す。

 

 

 

 

 

「────『キョウカ先生』の生体認証、完了」

 

 

 

 

 いつの間にか、黒いセーラー服の少女が、そこに立っていた。

 

 

「この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS。A.R.O.N.A、命令待機中」

 

 

「アロナ……?アロナが、なぜ、いや、それ以前に──だって、その名前は……」

 

 

 淡々と状況を確認し、アトラ・ハシースのシステムを復旧していく、『黒いアロナ』と、そして。『いる筈の無い人』の名前に、父は動揺していた。

 

 

 

「だから、言ったでしょう」

 

 

 

 そんな最中、上からゆっくりと、ぼろぼろになるほど痛み、裾は朽ち、袖はボロボロとなった『血濡れたシャーレのコート』を纏い、その上から『白いNuill-Vana』を装備した、『早瀬ユウカ』が降りてくる。

 

 

 

「この物語は、ここで終演を迎える」

 

 

 

 

 

「私達の…………『キョウカ先生』」

 

 

 

 失われた筈の、その名前と共に。






 その『絆』が、呼び寄せた運命。

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