これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね?   作:あるふぁせんとーり

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このトネリコは闇落ちする直前くらい


inキヴォトス
だから「推しになりたい」は「推しになりたい」って意味じゃねえんだよ


 何となく朝が来たのを感じ取って、頭から被っていた毛布を剥ぐ。頭の方に上げた指が長い髪に……長い髪?え、待ってついこの前髪切りに行ったばっかなんだが?

 俺は焦りに焦ってそれはもう凄まじい勢いで身体を起こす。なんだか頭が重い。比喩的なものじゃなくて、物理的に頭が重い。ペットボトル一本分くらい。ベッドに目をやると、一面に広がる白っぽい金髪。名前は……えっと……ホワイトブロンドだったっけ?まあそんなことを気にしていられる場合ではなさそうだ。

 

(少なくとも、俺ではない……よな?)

 

 悪い夢かと思いもしたが、それにしては随分とリアリティの高い景色。というか、寝起きに視界がぼやけるのとか夢じゃありえないだろう。いやでも夢であってほしいな……。

 息を呑みながら恐る恐る胸元に目をやると……シンプルなリボンの付いたブラの下、発展途上と思わしき薄い胸。……嘘だよな?なら下半身は……駄目だ、掛かった毛布を捲る勇気は陰キャ大学生の俺には存在していない。それでも、朝起きてお決まりの()()は容赦無く襲いかかってくる。

 

(っやっべぇ……)

 

 こういうのは気がつくとどんどん大きくなっていく。何がって?尿意に決まってるだろ。便意がないだけマシだ。背に腹は代えられぬと歯を食いしばり、俺は覚悟を決めてベッドを飛び降りた。しかし、ここで発生するのが第二の問題点である。

 

(……何処だここ?)

 

 ここが何処か全く分からないのだ。部屋そのものは至って一般的。家具や家電からはむしろ俺の家よりもハイテクな感じすら漂ってくる。けれども世界そのものが根っこから全く違うような拒否感を覚えてしまう。まさか異世界転生か?と碌でもない妄想すらする暇も無く、俺は上下の下着のみを纏って部屋のドアを片っ端から開けまくる。

 これも違う、これも違う、これも違う……。無駄に豪華な部屋に苦心する内に目が潤み始める。マジで膀胱の限界が迫ってきているのが分かった。

 

(マズいマズいマズい……!!)

 

 最早祈りに近い感情を覚えながら俺は扉を開ける。そしてその祈りが通じたのか、最初から数えて五つ目、五つ目でようやく念願の白い便器が姿を現した。

 

(間に合った!!)

 

 それはもう凄まじい安堵感。さっきまでの恥じらい、或いは遠慮感をボクサースタイルのパンツとともに投げ捨てたが、一瞬冷静になって気がつく。「あ、立ちション出来ないじゃん」と。というわけでさらば立ちション、と名残惜しさを拭って便器に腰を下ろす俺。その放出音は今までのどんな音よりも心地良い。

 そして股を拭おうとトイレットペーパーに手を伸ばしたのも束の間、壁に掛かっていた鏡に気がついた。そして、そこに映っていた今の俺と目が合う。

 

「……う……う、う、嘘ーーーーー?!!!!!

 

 この忌まわしい夢、或いは混沌とした現実での俺の第一声は困惑であった。

 


 

「どういうことなんですか……」

 

 軽やかに道を行きながら大きくため息を吐く。道行く道に覚えがありすぎて嫌になる。駄目だ、逆に何も分からない。……もう一度、自己の再確認といこう。

 

 俺は原永(はるなが) 幸人(ゆきと)、19才。中の上くらいの大学に通い始めたばかりの男子大学生。眼鏡、ツーブロック、ヒョロガリと三点セットの揃った容姿、趣味はスマホゲームとか音楽鑑賞とかあと色々……。まあ多くは語らずとも分かってもらえるだろうが、星の数ほどいるオタクの一人に過ぎぬ凡人だ。……凡人だったはずなのだが。

 

「おかしいでしょ……」

 

 呟いた口から飛び出す、聞き慣れた石川由依ボイス。自分の声で耳が幸せになる永久機関の中、俺はさっき鏡を見ていた時のことを思い出していた。

 幼なさの残る顔立ちに、宝石のような綺麗な青、いや水色の瞳、標準よりも少し白目の肌、そして全体として同じような顔のキャラが量産されていそうな雰囲気。見覚えがある、というよりかは見覚えがあり過ぎる。マイルームでいっつも俺に勇気、やる気をくれた画面の奥の憧れの君。間違いない、何でかは知らないが、間違いない。「え、冗談……ですよね?」と真っ青になりながら呟くその言葉は明らかに身体の方に口調が引っ張られていた。

 

救世主トネリコ

 

 俺は、俺の最推しになっていた。動かす指先も、地についた足も、視界の端に靡く髪も全てがFGOで目に焼き付いた彼女のもの。

 

「……いや何でですか?!おかしいですよね?!」

 

 道端で頭を抱えて発狂する俺の最推し。「推しになりてぇ^〜」と考えたことは無論あるよそりゃオタクだし。でも実際になりたいわけじゃないんだよ。ああいうの言葉は「絶対になれない」っていう前提あってのものでして……。と、どれだけ言い訳を重ねても目の前の景色は驚くほどのスピードで現実性を増していく。最早天に浮くヘイローにすら違和感を覚えない。……そう、天に浮く()()()()に。

 

 実は、先程の話には続きがある。俺は真っ青になってトイレで崩れ落ちた後、もう一度鏡を見直したのだ。「どうか、幻覚であってくれ」と。まあ、結論から言えば幻覚では無かったのだが。

 そして痛みがないと思い込みながら赤くなるまで頬を抓っていると、俺はあるものに気がついた。頭の上に浮かぶ魔法陣のような何か。FGO二部六章のクライマックスで厄災に放たれた聖槍、その紋章に酷似した何かがふわふわと。「天使の輪っかみたい」と現実逃避しようとしたところで俺は最悪の事実を悟ってしまったのだ。

 

「……あ……」

 

 一見は謎のオブジェクト。けれど、俺は頭に浮かぶそれについて心当たりがあった。「ヘイロー」、とあるソーシャルゲームのキャラクター達に個別に設定された正体不明の物体……物体?物体かアレ?……何かである。となればこの世界は……。

 

「ブルアカ……ですよねぇ……」

 

 ……いや「ブルアカ……ですよねぇ……」じゃないどっちかに統一しろ世界線を。欲張りセットなんてロクなもんじゃないんだから。要するに、現実世界の人間である俺はFGOに登場するサーヴァントである救世主トネリコの身体で、ブルーアーカイブというゲームの世界に転生してしまったということになる。……いや、余りにゴチャついてるな言語化しても。

 それでも道を行くロボットや獣人を見て、俺は少し奇妙な、答え合わせのような感覚を覚えていた。信じたくは無いが、恐らくこれが正解なのだろう。丁度真っ昼間で人通りは多く、それ即ち判断材料は多い。そして生徒達の着ている制服、あの部屋のクローゼットに入っていた制服から判断するに、ここはトリニティ自治区だろうか。もう一周回って冷静になってきた。

 


 

 さて、改めて今の俺の状況を説明しよう。俺は自らがトネリコになってしまったこと、そしてそのままブルアカ世界にやってきてしまったことを嘆きに嘆いた後、取り敢えず部屋を出た。ついこの前のイベントで「武器を持っていかないとヤバい」ということは描かれていたので、部屋においてあった自らの固有武器も忘れずに……と文章にすれば簡単だが、実際にはそこでも一つ特筆事項が存在した。

 

「……正気……ですか?」

 

 ラックに掛けられていたそれを見て俺は息を呑んだ。1.5mギリギリないくらいのシールドとアメリカの誇る超兵器、ブローニングM2重機関銃。一人で要塞にでもなるつもりかと突っ込みたくなるようなそのラインナップに思わず苦笑いを浮かべる。というかブローニングM2なんて持ち運べる訳──。

 

「いけるんだ……」

 

 この身体はそれを軽々と背負ってみせた。ショルダーバッグのように二つとも纏めて、襷でも掛けるかのように簡単に。にしてもこの膂力、流石は元祖魔猪の氏族とでも言ったところだろうか。この細い身体は一体何で出来てるんだと少し疑問を浮かべながらも俺はその重機関銃にリスペクトを込めて「選定の銃」と名を付けた。そしてそれらとともに改めて、この世界での一歩を踏み出したのだ。

 飛び出したのは一軒家。少なくとも、俺よりもずっといい家に住んでいる。やはり空に見えるのはこのブルーアーカイブの舞台「キヴォトス」、その首都のようなものである連邦自治区「D.U.」に位置するサンクトゥムタワーを中心として広がる超巨大なヘイロー。実際この目で見てみると、思ったよりも綺麗だった。そしてしばらく歩いている内に現在へ戻る……訳なのだが……。

 


 

バァンッ!!

 

「へっ?!」

 

 思考を一発の銃声が掻き消した。俺は思わずその音の鳴った方へ振り返る。一体誰が……。頭の中で抱えていた警戒心は彼女達を見て消え去った。

 

「モブスケバンだ!!ホントにバッテンマスク着けてる!!」

「……は?誰だあんた?」

 

 向けられる冷たい視線に俺は「あ、ヤッベ」と思わず表情を固める。そうだ、もう彼女達は画面の奥の存在じゃない。目の前でこんな反応したらキモがられるに決まってるだろ童貞。

 チャキっという冷たい音とともにその銃口が向けられ、これはマズい、と俺はとっさに背中に背負ったシールドを正面に構える。カンカンッと軽い音を立てて弾を弾くそれに俺はちょっとした安心感を覚えた。しかし、そこから先が問題だ。このままじゃ防戦一方、というか多勢に無勢。何でこんな相手に喧嘩を売った?俺まで頭魔猪の氏族に感染したか?

 

「ああもうこうなったら……!」

「……は?」

 

 意識するよりも先にこの身体は動いていた。自らを守っていたシールドを地面に刳り込ませ、その上に背負っていたブローニングM2を思いっ切りセットする。そしてその光景に唖然とするスケバン達に超強烈な12.7mm弾の掃射が炸裂した。分1200発を誇る弾幕に彼女達はバタバタと崩れていく。これだけの威力なら腕にかかる反動もかなりヤバいはずだが、魔猪の氏族パワーはそれを優に抑え込んでいた。

 

「……か、勝っちゃった……」

 

 最後の一人が音を立てて倒れてから、俺は改めて辺りを見回した。戦場となっていた商店街の一角、それを囲むように集まっていた通行人。その内の一人、スーツを着たネズミが戦闘を終えた俺に話しかけてくる。

 

ありがとう、おかげさまで助かったよ!(これで遅刻の言い訳になる……!)

「……え?」

 

 明らかに聞こえた声と違う、本音っぽい文章が見えた。どういうことだ?幻覚か?そんなことを考えている内に辿り着いた一つの結論。それはもうバカみたいなスピードで血の気が引いていくのが分かる。

 

「トリニティで妖精眼(それ)はないでしょ流石に!!!」

 

 俺はその場で膝を突いた。




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