これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね? 作:あるふぁせんとーり
「……え?」
「だから、ナギちゃんが先生に頼んできた、「トリニティの裏切り者」、先生にだけ教えてあげるよ。どうかな?」
「え?え?待って、それってナギサちゃんにも伝えたほうが良いんじゃ……?」
頭の中を混乱でいっぱいにしながらそう言うと、ミカちゃんは「誰にだって隠したいことの一つや二つあるでしょ?」と表情を変えずに私に問いかけました。なんにも言えなくて、私は口をつぐむことしかできませんでした。
「そんな顔しないでよ、先生。私、けっこう先生のことは信用してるんだからさ?」
何とか頭を落ち着かせて、私はもう一度彼女の目を見ました。嘘は吐いてない、でも全てを話しているわけではない、そんな感じ。ちょうど、ナギサちゃんと同じような感じです。いえ、トリニティ総合学園という場所そのものが、そういうものなのかもしれません。ハナコちゃんも、アズサちゃんも何かを隠してる。優雅さと、高貴さと、欺瞞に満ちた学園。ある意味では、一番人間らしい学園に思えました。
「だって、先生をトリニティに呼んだの私だもん」
「え、そうなの?」
「そうだよ。だってさぁ、敵でも味方でもない、第三の新興勢力、みたいのってどっかで活躍するじゃん?」
「いやぁ、そんなに期待されても……」
いえ、照れている場合ではありません。私は頬を叩いて気を取り直し意を決して口を開きました。
「……それで、誰が「トリニティの裏切り者」なの?」
「うーん、そうだなぁ……。あ、まず一つ目のヒント!先生よりもちっちゃいよ!」
ハナコちゃん、じゃない。
「二つ目!先生にはあんまり似てないよ!」
モルガンちゃん、じゃない。
「三つ目!羽が生えてるよ!」
ヒフミちゃん、じゃない。
「じゃあ、最後!結構白いよ!」
コハルちゃん、じゃない。
「……アズサ、ちゃん?」
「お、当ったりー!」
そう言って、彼女はパチパチと手を叩きました。少しからかわれているような気もしましたが、そんなことはさておき。彼女の本気スイッチがちょっとだけ入ったような気がしました。
「もう少しだけ聞いても良い?」
「もちろん!……少し、長くなるんだけどね」
そんな書き出しと共に、つらつらと語られるミカちゃんの言葉。ナギサちゃんから聞いたようなトリニティの成り立ちについてもう少し詳しい話だったり、それに関連した色々。そして、彼女が明かしたのはアズサちゃんが数百年前のトリニティ総合学園成立時に追放、迫害された「アリウス」の生徒、要は生き残りだということでした。いえ、ミカちゃんいわく「何かを学ぶことのない子供を「生徒」と呼ぶのか」とのことでしたが……。
「……それで、ミカちゃんはアズサちゃんをどうしたいの?」
「……鋭いね、先生。そうだなぁ……分かりやすく言えば、「アズサちゃんを守ってほしい」ってところかな?」
「「裏切り者」なのに?」
首を傾げた私に、ミカちゃんは「そう」と首を縦に振りました。そして彼女は続けてエデン条約の話に移りました。ナギサちゃんが推し進めているエデン条約はトリニティが成立した「公会議」の再現であり、トリニティとゲヘナが手を組むことは取り返しのつかないことになりかねない、と。正直良く分かりませんし、どこでアズサちゃんと繋がってくるのかも分かりません。そんなとき、私の頭に或る疑問が浮かびました。
「……そういえば、トリニティってもう一人ティーパーティーいるよね?」
「……」
「何処で聞いたの?」と私を覗く彼女の目が図星であることを物語っていました。その疑問には答えず、「誰?」ともう一度問いかけるとミカちゃんは「はあ」と小さくため息を吐きました。
「……引き返せないよ?」
「安心してよ。最初からそんなつもりはないから」
「……そっかぁ……」
そしてもう数秒の沈黙を挟んでミカちゃんは覚悟を決めたように口を開きました。
「……サンクトゥス分派首長、百合園セイア。それが、三人目のティーパーティーだった子」
「「だった」……なんだ」
「……うん。数ヶ月前にヘイローを破壊されたの。誰かに襲撃されてさ。……誰にも言わないでね、トリニティの最高機密だから」
その言葉に、私は唖然としました。この世界に来てから何度か耳にした「ヘイローの破壊」、つまりは「死」。いえ、後悔はしていません。こういうのは隠されている方が苦手です。けれど、些か軽率だったな、と少し反省しました。
「……そういえば、セイアちゃんにはすっごく反対されたんだ。アズサちゃんを転校させるの」
「転校……」
「あ、言ってなかったね。アズサちゃん、私が転校させてきたんだ」
「そうなんだ。でもなんで?」
「うーん、なんでだろうなぁ……アズサちゃんにはアリウスとの「和解の象徴」になってほしかったんだけど……それも駄目だったしなぁ……」
「……ううん、まだ分かんないよ!だってまだ何も終わってないし!」
ああ、なんて青臭い言葉なんでしょう。広がる空よりも、湛えられた水よりも青い。だけど、ミカちゃんはその言葉に満足したみたいで。
「……そっか!それもそうだよね!」
いくらか声のトーンを上げて立ち上がった彼女。ぐぐぐっと背伸びすると、私の方に振り返りました。
「おかげさまでスッキリしたよ、先生。邪魔しちゃってごめんね?」
「ううん、ぜーんぜん!ミカが良かったなら何よりだよ!」
そうして、彼女は手を振りながらプールサイドを去っていきました。私も、手を振り返しました。