これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね? 作:あるふぁせんとーり
「違うんです違うんです悪気があった訳じゃ……」
「はい、それは分かってますから今は取り敢えず質問に……」
正義実現委員会の取調室。目の前にはイチカ実装によって更に人気が爆発した正義実現委員会のモブちゃん。至近距離で見てもなんて可愛いのだろう。……けれど、俺は幼い子どものように涙を浮かべながらも必死に言い訳していた。
「ごめんなさいごめんなさいわざとじゃないんです許してください……」
「だからその……」
ひたすらに頭を下げ続ける俺と、それをどうにか止めようとするモブちゃん。俺がこんなになってしまった理由は少し前に遡る。
「トリニティで
勝利したにも関わらずその場で酷く項垂れた俺を通行人が困惑や好奇の目線で見る中、そこに黒い制服を纏った集団が現れた。トリニティの治安維持組織としてお馴染みの正義実現委員会。どうやら、通行人の一人が「スケバンが暴れてる」と通報したらしい。本来であれば頼もしい救援であることは俺がこの場の誰よりも知っている。しかし、今回ばかりはそれが裏目に出た。
「キシャアアアアアッッッ!!」
現場に響いたのは正義実現委員会委員長、「歩く戦略兵器」とさえ称される剣先ツルギの叫び声。トリニティの絶対的正義の象徴のお出ましならこれで一安心、と高をくくっていた俺が馬鹿だった。
「残りは何処へ逃げたぁ……?」*1
「……えっと、全員倒した……んですけど……」
「ああ?!」*2
「ひっ……」
剣先ツルギはブルーアーカイブの残念美少女枠である。無論、時折見せる乙女の面は非常に可愛らしく、人気の高いキャラクターではあるのだが……。彼女、めちゃくちゃ怖いのだ。それはもう死ぬほど怖い。ヘイローからは血が滴ってるし、なんか口は裂けてて長い舌がだらんと垂れ下がってるし、その三白眼は大体血走っているし、奇声はたくさん上げる。無論、俺はそれを知っていたし、それ含めて彼女のキャラクターは好きだった。好きだったのだが……。
(いやいやいやいや無理無理無理無理!!!死ぬ!!!俺死ぬ!!!殺される!!!)
そのギョロリとした三白眼とリアルで目が合った瞬間、もう俺の精神は保たなかった。救助された側の人間がPTSDを発症してしまうなんて話もあったが、それも割と妥当な話だろう。そのノコギリのように鋭い歯の隙間から覗くヘビのような舌。ああ、もう駄目だ。俺の身体の隅から隅に至るまで、一切の力がスッと抜けていった。
「許してください殺さないでください助けてください……」
「えっと、だから……どうしますかハスミ先輩?」
「そうですね……では私が代わりましょう」
涙目になりながらもただただ頭を下げ続ける俺に対してモブちゃんはお手上げになってしまったようで、次に姿を現したのは正義実現委員会副委員長、羽川ハスミだった。デカい、何もかもが正しく超巨大LLサイズの彼女は目の前で見るとゲームの画面越しよりも迫力が二十割マシだった。というか、現実では一応175以上あった俺がトネリコの身体、即ち160cmちょいまで縮んでいるのだからその分相対的に大きく見えるのかもしれない。そしてその迫力は俺に掛かっていたトラウマの帳を僅かに剥がしてくれた。
「……少しだけ、お話を聞かせてもらえませんか?」
「……はい、少しだけ、なら多分……」
俺は拭いきれないトラウマの幻影と戦いながらも何とか小さく頷いた。そして彼女からの簡単な質問を何問か……大体十問行かない程度答えた辺りで取調べは終わったようだった。
「……ありがとうございました。最後に学籍だけ確認してもよろしいですか?」
「あ……」
そうだ、俺学籍あるのか?いや無いよな。俺はついさっきこの世界に来たばかりで、そもそも救世主トネリコがトリニティの学籍なんて持ってる訳……。そこまで心の中で呟いたところで俺は自らの胸元を見た。結ばれた黒いリボンの下に慣れないながらも何とか袖を通した制服は濃藍を基調とした、ハナコが着ていたタイプのものの色違い。……そう、つまりトリニティ総合学園の制服を着ていながら学籍が無いなんてことになればそれはもう致命的な問題だろう。最悪俺のキヴォトスライフの大半を牢屋の中で過ごす事になりかねない。そしたら晴れて八人目の七囚人の誕生になってしまう。
「……その……学生証などで大丈夫なのですが……」
「わ、分かりました……」
ヤバい、どうしよう。そんな感情を抱えて唖然とする俺にハスミは困惑しながら声を掛けた。もう、一か八かたまたま制服のポケットに学生証が入っているという可能性に賭けるしか無い。決死の覚悟を持ってポケットを弄ると、奇跡的に指先にカード状の硬いものが触れた。俺は心の中でめちゃくちゃ大きなガッツポーズをしながら飛び上がり、現実……現実?まあ現実か。ではそれを徐ろに取り出す。
見えたのは背面だが、そこに刻まれていたのはトリニティの校章である十字架と3つの輪、そして一つの三角形。そして表に捲ると、そこには俺が知る救世主トネリコの証明写真と「
「これで大丈夫……ですかね?」
「……はい、確認できました。ここまでの御協力、ありがとうございます」
そう言って頭を下げる彼女に俺も頭を下げ返す。そして「念のために」と言って、俺の家まで正義実現委員会のモブちゃんを護衛に付けてくれるという。さっき頑張ってトラウマを乗り越えて良かったと心底思った。
「じゃあ……失礼します」
「はい、お気をつけて。……どうかモルガンさんをお願いしますよ」
「は、はい!」
モブちゃんはハスミから直接頼まれた仕事に張り切っているようで、軽い足取りで俺の横を歩いている。俺はシールドとブローニングを背負い直し、何とかあの家までの道を思い出していた。
「その……やっぱりツルギ先輩が……」
「まあ、そんな感じというか……怖かったなぁ……」
「ですよね……」
さっきの事件現場も過ぎて、ここらへんまで来ると俺もはっきりと道のりを思い出せるようになってきた。だが、そろそろお別れかと考えると少し寂しいような気もする。
通り魔のような声が響いたのは、そんな一瞬だった。
「
「
「……え……」
「……どうかしましたか?」
最早彼女達の友情に亀裂が入りそうなことなんてお構いなしにその声が耳に擦りついた。……え、「今日の期末」?トリニティ総合学園、期末テスト、そして街頭のモニターが示す「六月」の文字。俺が知っている知識と目の前の現実が結びつき、何を言うわけでもないのに俺は小さく口を開いて立ち止まる。突然動きを止めた俺にモブちゃんは首を傾げるが、そんなの正直気にも留まらなかった。
そしてもう一度目を瞑り、目の前の現実を纏め、そして原作の時系列を思い出す。何より重要なのは、俺は期末テストを受けていない。つまりは「0点」だということ。そして以上の事実から偏差値60前後の頭脳が弾き出した結論に俺は大きくため息を吐いた。
「エデン条約、始まってないじゃん……」
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