これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね? 作:あるふぁせんとーり
「……着きました!多分ここにいると思うんですが……」
「おお、ここが……」
しばらく行って到着した正義実現委員会の部室。治安維持組織としか聞かされていなかったらしいキャストリアは「意外と綺麗だね!」なんてことを言いながらズカズカと奥の方へ踏み込んでいく。俺は部室の入り口に立ち、「まさかまた来ることになるなんて……」と小さく呟きながら中を眺めていた。
忙しなく動く正実モブちゃん、パトロールから戻って来た正実モブちゃん、書類と格闘する正実モブちゃん、分身する正実モブちゃん、何か輪郭が揺らいでいる正実モブちゃん……。
「……うぷ」
「だ、大丈夫ですか?!」
ごめんなさい、大丈夫じゃなかったです。やっぱりまだ強がってました。正義実現委員会正直まだトラウマです。青褪めて口を抑え、倒れかける俺の肩をヒフミが支える。何度か瞬きするが、視界はグラグラと震えるまま。これはマズいと情けなく彼女の手に体重を預けようとしたその時、向こうで何度も聞いた癖になる高音が聞こえた。
「……何?」
「あ、コハルちゃんだ」
トラウマを容易に払拭するその声に身体を起こす。「もう大丈夫なんですか?」というヒフミの問いかけに俺が頷くと同時に、「は?何であんたが私のこと知ってるのよ!」とコハルは泣きわめく子猫のような声を出した。警戒心MAXでこちらに鋭い目線を向ける彼女は如何にもエデン条約編序盤といった感じだ。
彼女は下江コハル。エデン条約編のマスコットキャラクター的なあれ。バカだしむっつりスケベだが、負けず嫌いで芯の通った正義感を持つ、それはそれはカッコよくて愛おしいむっつりスケベだ。
「えっと……そんなに警戒しなくても……」
「あ、もしかして人見知──」
「は、はぁ?!そんな訳無いでしょ!知らない相手だから警戒してるだけなんだけど!」
入り口の方に引き返してきたキャストリアがコハルとの会話に割り込んだが、コハルは慌ててそれを否定する。しかし、彼女の並べた言い訳をもう一度聞き直した後にキャストリアは「それ、人見知りじゃない?」と一刀両断、コハルは言葉一つも出せずに顔を真っ赤にする。そして彼女はブンブンと首を振り、流れを立て直した。
「……そ、それで正義実現委員会に何か用?」
「はい、実は人を探していて──」
「は?!正義実現委員会に人探しでも頼みに来たの?!この正義実現委員会に?!」
「いや、ここにいるって聞いたんだけど……だよね、ヒフミちゃん?」
そう言って隣のヒフミに尋ねるキャストリア。彼女は「はい、確かにそのように……」と首を縦に振る。全力で同意したいところだったが本来であれば俺はそれを知らない立場のはずなので、俺は大人しくその後ろで固有武器を眺めていた。いや片手打ちブローニングは魔猪の氏族用過ぎるだろ……。
そして彼女達の話を聞いている内にコハルの表情は「あー……なんかそれ心当たりあるかも……」と言わんばかりのものに変わっていく。
「……待って、それってもしかして──」
「私をお探しですか?皆さん」
「えっ?!」
「はい?!」
姿を現したスタイル抜群の水着美少女にキャストリアもヒフミも素っ頓狂な声を上げる。この目で実際見てみてもなんと馬鹿らしい格好をしているのだろうか。いや本当にヤバいな絵面?
そして彼女が脱獄していることに焦ったコハルがまた少しやかましい声で騒ぎ始める。
「ま、待ってあんた何で出てきてるの?!ちゃ、ちゃんと鍵閉めたでしょ私?!」
「いえ、それはもう見事に開けっ放しでしたよ?それで……なるほど、この方が先生なのですね。ということは補習授業部の?」
水着の変態と才色兼備の聡明美少女が完全に同居していて頭がおかしくなりそうになる。横の二人も抱えてる感想は似たようなもののようで、コハルはお決まりのネコ目で顔からギリギリ発電が出来そうなくらいの湯気を出しながら彼女に抗議していた。
改めて、彼女の名前は浦和ハナコ。トリニティ総合学園所属の2年生。現在は校内を水着で徘徊した罪により現在正義実現委員会の手によって拘束中の類稀なる頭脳、抜群の美貌、そして男子中学生のような思考回路を併せ持つブルアカ屈指の人気キャラである。しかしただエッチな女の子と思うなかれ、その裏には深い深い事情が……といった感じのエデン条約編のキーパーソンだ。
「取り敢えず駄目!その格好は駄目だから!」
「何か問題でもありましたか、下江さん?」
「問題も何も校内で水着なんて駄目に決まってるじゃん!何でそんなことするのよ!」
「何でと言われてもこれには深い訳が……それはそれとして、皆さん校内のプールでは水着を着られますよね?あ、もしかして下江さんは水着を着られないタイプで?」
(マジで深い訳があるのがなぁ……)
そんな事を考えながらも俺は目の前で繰り広げられる、キヴォトス最高峰の頭脳を以て成される露出の正当化を黙って眺めていた。ヒフミは何となくついていけない様子でそれを唖然としながらも眺めていて、対するキャストリアは同じようについていけない様子だったが、何となくそれが恥ずかしいことであることは理解しているようで俯きながら顔を赤くしている。
そして僅か数分でレスバには惨敗、悔しそうに呼吸が乱れているコハルにヒフミは声を掛けた。
「はぁ、はぁ……」
「え、えっと……ハナコさんはこの後どうなるんでしょうか?」
「そんなの死刑に決まってるでしょ!エッチなのは駄目!死刑!!」
「そ、それは流石に重すぎるような……」
とはいえ、今はかなり立て込んでいる様子。ヒフミは少し疲れたようにため息を吐くと「では次の方へ行きましょうか」と部室の外へ歩き始める。「色々散らばってるのかな?」と首を傾げるキャストリアに「みたいですね」と俺はカマトトぶって相槌を打った。……が、次の瞬間。
「ただいま戻りました」
「正義実現委員会、ただいま白洲アズサさんを確保しました!」
部屋に入ってきた二人の正義実現委員会。羽川ハスミという背も羽も胸も何もかもが特大サイズの生徒と静山マシロという正義信者の生徒。そしてその後ろで拘束されている一人の生徒にヒフミは目を見開いた。シューッ、シューッというガスマスクの呼吸音と共に「もう少し上手くできたな……」と何らかの自己反省をする彼女にヒフミは近づいていく。
「えっと……アズサさん、ですよね?」
「……何も話すつもりはない。拷問してもいいけど時間の無駄」
「そういうことじゃなくて……」と少し困り顔になるヒフミ。相変わらずシューッ、シューッという独特なガスマスクの音だけが響いていた。
彼女の名は白洲アズサ。簡単に言えばネタバレの塊である。世にも珍しいトリニティ総合学園への転校生。転校前は……まだ明かすには早いかもしれない。ゲリラ戦の達人であり、今回も単独での正義実現委員会との三時間に渡る交戦の結果正義実現委員会に多大な被害を出した果てに捕まってしまった文字通りに罪深き生徒である。
そしてヒフミから彼女が補習授業部のメンバーであるという話を聞かされたキャストリアは少し背伸びしてハスミの肩を叩くと、彼女に大体の事情を説明した。記憶が正しければ、彼女達はチュートリアルで面識があるはずだ。
「……なるほど、つまり先生が補習授業部を受け持ってくれると。お手伝いできないのは残念ですが……確かに、それなら安心ですね」
「そう!だから二人共引き取ってもいいかな?」
「そ、そんなの駄目に決まってるでしょ!凶悪犯じゃない!」
キャストリアとハスミの会話に割って入るコハル。なんて初期コハルらしいのだろうか。しかしハスミは至極冷静に彼女を諭した。「アルトリア先生はティーパーティーの頼みで補習授業部の顧問を引き受けたのだから、彼女に引き渡すことは何の問題もない」と。それを聞いたコハルは少し悔しそうにしながらも威勢よく捨て台詞を吐き始めた。
「ふ、ふん!まあ清々したわ!それに凶悪犯共が補習授業部なんて良いザマじゃない!悪党で変態でさらにバカなんて救いようが無くて泣けてきちゃう!」
「……あ、先生……」
「……あー……なるほどこれは……」
そしてその捨て台詞を聞き流しながらも名簿を捲り、そして顔を見合わせたヒフミとキャストリア。まあ、そうなるよなぁ、と俺も思わず苦笑い。そしてコハルの余裕の表情はすぐに崩れることとなった。ああ、可哀想に……。
「その……残酷なお知らせなのですが……」
「は?何?負け惜しみ?」
「最後の一人は……「下江コハル」さん、です……」
「……え?」
そして教室。六人は仲良く……仲良く?机を囲んでいた。
自称平凡の天性のアウトロー、謎多きゲリラの天才、才色兼備の露出狂、正義のむっつりスケベ、ガチで元救世主の先生、そして喋りすぎるとボロが出るせいで自我が出しにくい俺。
かくして夏のある日、補習授業部の数奇な物語は幕を開けたのだった。
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