これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね?   作:あるふぁせんとーり

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流石に一つ屋根の下は心臓保ちませんって

「こんばんは、先生。補習授業部の方、お疲れ様です」

「いやあ、私にはさっぱりだったなぁ。今の子達あんな難しいことやってるんだ……」

 

 第一次特別試験が終わったその夜。私はティーパーティーのナギサちゃんに呼び出されていました。場所は星がチラチラと見え始めるティーパーティーのテラス。あの時とおんなじくらいにテーブルに並んだお茶菓子の数々。あれは私をもてなすための特別仕様だと思っていましたが、どうやらあの豪華さで平常運転のようでした。何処かぐぬぬとなるような、改めてティーパーティーの凄さを認識したような……まあ、取り敢えず今回も美味しそうなお菓子が沢山並んでいます。私は少し心を躍らせながら席に着きました。

 

「試験の結果については伺っています。後二回残っているとはいえ、あまり芳しくなかったと」

 

 その言葉に私は苦笑いを浮かべるしかありませんでした。彼女もそれを察したようで、黙ってコトンと何かの駒を動かします。私は少し身を乗り出して彼女の手元を覗き込みました。

 

「……あ、それ……」

「ああ、これですか?趣味の一つでして」

 

 チェスでした。そう、インテリとかブルジョワの趣味として御用達のあのチェスです。「人を見た目で判断してはいけない」という教訓話もそれなりにありますが、人は見た目に違わないこともまたそれなりにあるのだと実感しました。

 

「一人でやってるの?」

「はい、今はうるさいミカさんもいませんし」

 

 ナギサちゃんが口に出すと共に私の脳裏にミカちゃんの色々が過ります。頭に浮かぶ天真爛漫な笑顔や彼女の声。確かに向いてなさそうだな、と思わず考えてしまいました。あ、自分のことを棚に上げていたのは内緒です。

 それにしても、変なチェスです。白ばっか強くて、黒は兵士ばかり。「面白いの?」と聞くと、「まあ、それなりには」という答えがあまり楽しくなさそうな顔とともに返ってきました。それと同時に、私はナギサちゃんに聞こうと思っていた事を思い出しました。

 

「そういえば、試験に三回落ちたらどうなるの?」

 

 ついさっき、試験終わりに項垂れたヒフミちゃんが「もし三回落ちたら……」なんてことを溢していたのを聞いてしまったのです。そして聞いてしまったからには気になってしまう性分なのが私。

 ナギサちゃんは少し考えた後、「ヒフミさんですか?」と質問に質問で返しました。首を縦に振ると、「やはりそうでしたか」と彼女は笑い、そして少し神妙な面持ちになりました。

 

「そうですね、簡単に言いましょうか。……三回不合格であれば退学となります」

「た、退学?!嘘?!」

「いえ、残念ですが」

 

 そう言って、ナギサちゃんはトリニティの校則とか、「トリニティの裏切り者」とか、「エデン条約」なんかについて話し出しましたが、正直頭に入ってきません。代わりに頭に浮かんでいたのは補習授業部のみんなの顔。

 少し弱気だけどかわいくて優しいヒフミちゃん。少し不器用なんだろうけど一生懸命なアズサちゃん。ちょっとだけプライドが高くて人見知りだけど根は良い子なコハルちゃん。色々抱えてるように思うけど、面倒見が良くて頭のいいハナコちゃん。どこか変わってるけど真面目な、そしてこの世界の陛下であろうモルガンちゃん。

 妖精眼なんて無くたって、誰が良い人で悪い人かなんて流石に分かります。そんなあの子達が退学になるなんて納得が行きません。私は僅かな憤りを抱えながらナギサちゃんの顔を見ました。

 

「……そっか」

「どうかされましたか?アルトリア先生」

 

 私はもう一度彼女の顔を見て、少し気が付きました。彼女も被害者なのです。その「トリニティの裏切り者」なんてのも疑いたくて疑ってるんじゃないと思います。けれど、疑わざるを得ない状況に追い込まれてしまってるのです。

 「エデン条約」。なんでも、数百年以上に渡る「トリニティ総合学園」と「ゲヘナ学園」の確執に決着を付けるものなんだとか。まあ、つまりは大仕事です。それも学園の命運を懸けた大仕事。きっと掛かるプレッシャーはとてつもないものなんでしょう。それがどれだけ苦しいかを十分に私は知ってます。そして、彼女は私に一つ頼んできました。

 

「補習授業部にいる「裏切り者」を探していただけませんか?」

「……」

 

 少し考える私に、ナギサちゃんは説得を試みていました。キヴォトスがどうとか、テロリストがどうとか。確かに「救世主」なら大切なことかもしれませんが、今の私は「先生」です。それよりも、自分の生徒の方が大事です。けれど、生徒であるナギサちゃんを突き放すことも出来ません。私はだいぶ頑張って考えて、何とか角の立たない言葉を思いつきました。

 

「じゃあ、私は私のやり方で頑張ってみるから」

「……」

 

 私の回答に、彼女は少し残念そうな顔をしました。そしてゴミがどうたらこうたらという例え話を始めましたが、正直良く分かりません。取り敢えず「分別は大事だよ」と伝えると、少し苛立ったような顔をしました。確かに分別は面倒だけど、一人暮らしの必須スキルであることに違いありません。これは私からの一人の大人としてのアドバイスです。

 

「……それと最後にもう一つ。私達、即ちティーパーティーの方から補習授業部に干渉する、不利益を与えることはない、とお約束したいのですが……」

「……出来ないってこと、だよね?」

「はい、簡単には。……ですが、私個人としては皆さんの健闘を祈っております」

 

 そう言って微笑むナギサちゃん。多分作り笑顔でしょう。ですが、これ以上は不毛になることも何となく理解しています。私はマドレーヌの最後の一つを口に放り込んでからティーパーティーを後にしました。

 


 

「結構離れてましたね……」

 

 ストーリーパートの背景でしか知らなかった合宿棟、そのベッドに荷物を下ろして俺達は一息ついた。

 

「はい、ですが意外と綺麗というか……」

「設備は整ってますね。これなら十分夜も楽しめそうです♡」

「よ、夜?!エッチなのは禁止だから!!」

 

 どこか楽しげなヒフミ達の声。しかし、俺は内心とてつもなく頭を抱えていた。

 そうだ、何気ない日常パートとして流していたが、エデン条約編には合宿がある。それ即ち、一つ屋根の下で寝泊まりするということだ。あちらで一切女性経験のない俺が唐突に女の子達のキャッキャウフフに投げ込まれてどうしろと言うのだろうか。とはいえもう引き返せるタイミングはとっくのとうに過ぎてしまった、というかどこにもない。俺は今一度エデン条約編を織り成す一人のキャラクターとしての覚悟を決め、隣のベッドのアズサと共に荷崩しを始めた。

 

「モルガン、私は少し偵察に行ってくる」

「あ、はい。分かりました」

 

 そう言ってそれはもう手際よく荷崩しを終えたアズサが部屋の外に飛び出していく。俺はその中に混ざっていたトランシーバーを見て、今は思い出さない方が良さそうなことを思い出した。

 

(……あと一週間でアレかぁ……)

 

 そしてもう一度頭を抱えた。




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