これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね?   作:あるふぁせんとーり

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童貞理大生の俺でも水着JKとしてはしゃげる世界線

「あー……あっつーい……」

「あっついね……」

 

 日の高い中思わず漏れ出た俺の呟きにキャストリアは相槌を打つ。冷静に考えれば画面の奥にしかいなかったはずのキャラクターとこのように言葉を交わせるというのはゲーマーとして、オタクとして最上の幸せであるはずなのだがそんな実感は全然なくて、俺はこうしてトリニティ指定の体操服を纏って彼女の隣で草むしりに励んでいた。

 あの後は大体原作通りの流れで、ハナコの提案により合宿棟の大掃除に望むことになった補習授業部。俺も用意していた……というか部屋に置いてあった体操服をちゃんと持ってきていたため無問題。キャストリアもどこかしらで手に入れていたらしい体操服に袖を通して「お揃いだね!」とはしゃいでいる。その子供らしい無邪気さが抜けていないことが俺は少し嬉しかった。相変わらずハナコが水着を着てきてコハルが顔を真っ赤にする下りも原作通りで、やはり実際に見てみると「頭おかしい」という感想が勝ったりもしたが、特に大したイベントもなくごくごく普通に草むしりは始まった。

 そんなことはさておき、今日は中々の快晴日和。どれくらい暑いかと聞かれたら、水着ホシノの「動いてないのに暑いよ〜」という台詞に笑いよりも先に同意が来るくらい。とはいえヒフミもハナコもコハルもアズサも黙々と頑張っているのだから、「救世主トネリコ」が負けてらんないぞ、と俺はもう一度気合を入れ直した。

 


 

「皆さんお疲れ様でした!」

 

 いつの間にか経過していた一時間弱。抜いた雑草でパンパンになったゴミ袋や不法投棄と思わしきガラクタが幾つも積み上がる中、俺は今までの人生で一二を争うくらい美味い水道水をごくごくと喉を鳴らして飲んでいた。

 

「ふふっ、アルトリア先生の大活躍でしたね♡」

「まあ、こういう雑用的なのは慣れてるし……」

 

 ハナコに褒められたキャストリアは照れ臭そうに顔を赤らめ、頭を掻いて笑う。褒められ慣れていないのは相変わらずのようだ。そして俺は水分補給を終えるとゴミを運ぼうとしていたヒフミの手伝いに向かった。

 

「次はどこを掃除しましょうか、ヒフミちゃん?」

「うーん……でしたら次は廊下を!」

「了解です。アルトリア先生達にも伝えておきますね」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 ゴミ捨て場に向かう途中。時々挟まるモモフレンズファンクラブへの勧誘を躱しながらも、割かし弾む他愛のない話。片道五分程度の道のりであったが退屈はしなかった。

 それともう一つ、俺はトネリコが魔猪の氏族……要は聖園ミカの同族、即ちゴリラであることを再確認した。……何故かって?なんかこの身体縦に冷蔵庫二つと電子レンジとバイク重ねても余裕で持てるんだよ畜生。もはやヒフミも心配どころか「もうちょっといけませんかね……?」とか申し訳無さそうに追加してくんだよサーカス感覚じゃねえか。しかもそれでタイヤ二つ追加できちゃったし。……救世主怖い……楽園の妖精怖い……。

 


 

 というわけで俺達は時間は掛けながらではあるが確実に合宿棟を綺麗にしていった。廊下、シャワールーム、食堂、ロビー、寝室、体育館etc……。特に一階の体育館なんてのは後々重要イベントが発生するから念入りに……。

 

「みんなお疲れ様!いやあ、頑張った頑張った!」

 

 かくして全ての掃除が終わったのはお昼をそこそこ過ぎた一時手前。額のサラサラとした心地よい汗を拭い、俺は控えた重要イベントも忘れて労働の喜びを享受していた。キャストリアを含めた補習授業部もすっかり肩の力の抜けたお疲れ様ムードであったがただ一人、ハナコは「まだ残っていますよ」と口を開いた。そうだった、と俺はリラックスモードに陥っていた身体を引き戻し、カマトトぶって相槌を打つ。

 

「あ、もしかして……」

「……なんかハナコちゃんとモルガンちゃんはこう言ってるけど……ヒフミちゃん心当たりある?」

「いえ、特には……」

 

 「答え合わせといきましょうか♡」という彼女からの目配せに「了解です」と小さく相槌を打ち、俺達は声を揃えた。

 

「「プールですよね!!」」

 


 

 そして訪れた合宿棟備え付けのプール。濁った水が溜まっていたりと汚れもそれなりに多いが、折角この荒んだエデン条約編の中で補習授業部に入り込んでしまったのだ。それならキャラクターの満面の笑顔くらい間近で見たいに決まってる。何より、こうして大っぴらにはしゃげる身分なのだ。精一杯に楽しむのが乙というものだろう。

 

「使うにはかなり大変そうですね……」

「ああ……というか、補習には水泳の授業は無かったはずじゃないか?」

「じゃあ別によくない?どうせ使わないんだし」

 

 これまた原作通りに投げられる反対意見。しかしそんなのは想定通りだとハナコは素早く切り返す。

 

「いえ、それは大きな間違いですよコハルちゃん。だって今は夏なんですから」

「はい、ハナコちゃんの言う通りです。夏といえば水遊び、でしょう?」

「水遊び……!」

 

 俺とハナコの言葉にキャストリアは目を輝かせた。これで第一関門は突破。青春とか学生っぽいイベントに飢えているであろうキャストリアにこういうのはよく効くだろうという算段だったが、これは想像以上の効き目かもしれない。そしてそれを更に煽るようにハナコは言葉を続ける。

 

「キラキラとお日様を反射して煌めく水面、日に照らされて熱くなったプールサイドをつま先立ちで駆け回って、透き通るような柔らかい水に満たされたプールに勢いよく飛び込んで、顔に掛かった冷たい水しぶきに思わず声を出してしまうような、そんな素敵な時間も……ふふっ、きっと楽しいですよ?」

「折角こんなプールがあるのに使わないのも勿体ないですし……どうですか、アルトリア先生?」

「うん、やろうやろう!どうせ明日から勉強頑張るんだし!」

 

 提案者のハナコと俺を差し置いて、それはもう露骨にはしゃぎ始めたキャストリア。そしてそれに流されるようにヒフミやアズサも「なんか悪くなさそうかも……」といった感じになっていく。

 

「……そうだな。「vanitas vanitatum」……それが世界の真実だけど……」

「えっと……アズサちゃん?」

「古代の言葉ですね。「全ては虚しいものである」……」

 

 その言葉にハナコは少し目を瞑って考えた。ヒフミもコハルもキャストリアも「何の話だろう?」とピンときていない様子で首を傾げる。そしてしばらくの沈黙を挟んでからハナコは口を開いた。

 

「……はい、今からみんなで遊びましょう!水着に着替えて、パパパッとプールも綺麗にして!良いですよね、先生?」

「もちろん!そうと決まれば……!」

 

 プールサイドを離れて真っ先に走り出したのはキャストリア。そしてそれを追うように俺やヒフミ、アズサがその後に続く。

 

「ちょ、ちょっと!待ってよ!」

 

 一人雰囲気に乗り遅れたコハルがその後を追いかけてきた。

 


 

「さ、これで準備完了、みんなびしょびしょ濡れ濡れでお構いなしということですね♡」

 

 提案者のお前が何で制服なんだというツッコミをぐっと堪え、その出番をコハルに譲る。彼女達はしばらく問答していたが、彼女が渋々と捲った制服の下にビキニを着ているのを見てその論争は一時の決着を見た。にしてもハナコのでっかぁ……。

 俺は「もう少しトネリコの成長が早ければ……」と考えながら凹凸のない胸に手を当てた。キャストリアは「くっそぉ……同じ楽園の妖精なのに何で陛下だけ……」なんてことを考えながら俯いていた。もしかしたら知らぬ間に俺の思考に楽園の妖精成分が入り込んでいるのかもしれない。ちなみにキャストリアは体操服を入手したところと同じ、合宿棟の備品室的な場所から水着も手に入れてきたらしい。

 

「では始めましょうか!」

 

 ハナコの合図と共に、俺達はホースやらモップやらを手にプールの中へ飛び込んだ。

 

「おりゃー!!まっけないぞー!!」

「私だって……!」

 

 50mプールの端から端までモップを掛けながら競争するキャストリアとアズサ。俺はヒフミと丁寧にモップ掛けしながらも、ハナコの手にしているホースを踏んだり、或いは借りて虹みたいなのを作ったり、静かにモップを掛けていたコハルにぶつけたりして遊んでいた。

 周りに誰もいないからこそ出来る、笑い声の絶えない六人だけの贅沢な空間だった。あっという間に時間は過ぎていった。

 


 

「綺麗だね!」

「はい、プールに入って遊ぶことは出来ませんでしたが……」

「……ですね」

 

 そして知っていても忘れてしまう水を張る時間。やっぱり溜まったのは夜、お月様が高く上がった頃。月明かりと街灯が水面をふわりと幻想的に照らす。

 

「まあ、またどこかでみんなで遊びに行けるよ!っていうか遊びに行こう!」

 

 更けていく夜の中、キャストリアの笑顔に俺達は笑って頷いた。




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